咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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照にゃあ

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9-8

 

 ──白水哩と鶴田姫子。

 新道寺のダブルエースと称される二人。その強さの根源である能力──リザベーションは、語るまでもなく麻雀の常識から逸脱した力だ。麻雀の歴史を紐解いていっても、このような力を持った打ち手は恐らく一人もいないだろう。

 麻雀は四人で行うものだが、個人競技の面が強い。対局中に一時的に手を組むことはあっても、最終的に目指すのは自身の勝利。コンビ打ちのようなルールが設けられていないのならば、麻雀は一対一対一対一、一人きりの戦いである。

 仮にコンビ打ちの条件があったとしても、こと運の要素が大部分を占める麻雀において完璧な連携など不可能に等しい。

 あり得るとしたら能力の相性が絶妙に噛み合っている場合だろうか。具体例を挙げるなら咲と玄が最も分かりやすい。あの二人が組んだら玄が最恐と化す。

 

 大会で扱われている団体戦は確かにチーム戦ではあるが、やはり一局一局は個人戦なのだ。あくまで点数というバトンを繋げてチームの勝利を目指すだけ。ここに仲間との信頼はあっても連携は存在しない。

 例外として怜の力が考えられるが、あれも連携とはニュアンスが異なる。言ってしまえば、あれは怜が一方的に力を与えているだけで、そこに竜華の能力的な力の増幅はないのだ。

 つまるところ麻雀においては、()()()()()()()()(・、)()()()()、連携という概念は議論の余地なくありえない。これは絶対──。

 

 その筈だった。

 

 雅枝が感心したように、常識では測れない摩訶不思議な打ち手がそれなりにいる。

 その筆頭は《牌に愛された子》と呼ばれ、彼女たちは圧倒的な闘牌を見せ付けている。

 今大会でも数人の化物たちが、木々を根刮ぎ抉り飛ばす大嵐の如き猛威を振るっている

 

 しかし、そんな彼女達でも、仲間との直接的な連携は成し得なかった。

 

 その絶対なる掟として天に佇む不可能を地に堕としたのが新道寺の二人なのだ。

 

 「心はみんなと繋がっているから」などという崇高だが所詮はただの精神論とは一線を画す、絶対を超越する絆の力。

 団体戦のみ機能する麻雀における異能の極み。

 例えプロであろうとも打ち破ること敵わない、時の積み重ねと強固な繋がり。

 

 これまで一度も破られたことはないその力を。

 

 ──淡は壊してみたかった。

 

 

****

 

 

 〜南三局〜

 東 白糸台 111600 親

 南 千里山 115500

 西 阿知賀  99800

 北 新道寺  73100

 

 新道寺から見てトップとの点差はこの段階で38500点。最後の親が残っているとはいえ、普通に考えれば逆転は至難である。

 それでも姫子は、この局で一気に形勢を覆す必勝の構えで対局に臨む。

 

(……部長、行きます!)

 

 赤く暗い大地と空が広がる心象風景に没入し、姫子は天に手を捧げる。

 呼応するように空がキラリと煌めき、雲を貫いて真紅に輝く光線が姫子の手の元に降臨した。

 握りしめるは金色に彩られた人間大の鍵。南三局を示すS-3の上に記載された翻数を意味する数字は14。

 数え役満を可能にするリザベーションの恩恵である。

 

(これでっ!)

 

 銃を撃つかの如く鍵を空に構え、姫子はその能力を解き放つ。

 打ち上げられた絆の閃光は天を穿ち、牌の流星となって姫子の手牌へと降り落ちる──ことはなかった。

 

(……えっ?)

 

 本来であれば真っ直ぐに姫子の元に辿り着くはずの牌が、このときだけは歪な軌道を描いてきたのだ。

 まるで、見えない力によって空間を歪曲されたように。

 

 姫子は揃った手牌を目にし、双眸を驚愕一色に染めた。

 

(五向聴……⁉︎ そんな、なんでっ⁉︎)

 

 能力(リザベーション)発動時とは信じられない配牌の悪さ。筒子が多く集まっていることから清一色を目指す数え役満だとは理解できるが、それでも不要な牌の混在量が異常である。

 なぜ、どうして? という思いが姫子の頭を過ぎる。此れまでの対局で、淡の力にも自分たちの能力(リザベーション)なら十二分にも戦えると判明してはずなのに。

 此処に来てその判断が脆くも儚く崩れひっくり返されるのを感じた。

 

(──まさか大星はっ!)

 

 先程の対局で思わず気圧された淡の圧倒的な気迫。其れまでがまるで余興だとでも言わんばかりの闘牌。

 姫子は勝手にそれを攻撃だけだと勘違いしていた。

 白糸台のチーム“虎姫”は全員が超攻撃型の選手(プレイヤー)。だからこそ彼女たちの真髄は攻めにこそ光るのだと。

 実際に対局するのが初めてであったからか、姫子の心に刻み込まれていなかったのだ。

 《牌に愛された子》は姫子等只人の範疇には収まらないことを。

 

 自身の配牌が最悪なのが淡だと決まっているわけではない。

 もしかしたら他の要因が複雑に絡んだ結果なのかもしれない。

 だとしても、現況が不測の事態であり、窮地に陥っている事実は覆らない。

 

「……っ!」

 

 祈る気持ちで山に手を伸ばす姫子。

 掴んだ牌は一巡目から不要牌。

 麻雀において最初が不要牌など何も珍しくない。むしろ有効牌を引く方が確率的には圧倒的に低い。

 冷静な心持ちであれば焦燥を感じることなどなかっただろう。部長との絆の積み重ねを信じて意地でも和了りを掴み取ったことだろう。

 だけれど、姫子の心は負の感情に占められていた。不安、焦り、恐怖が悪循環を起こし、大将である者にしか分からない責任に苛まれる。

 見えない力で身動きを縛られ、徐々に、それでいて確実に地の底へと引きずり込まれるかのような感覚。

 

 そして、そういうときは得てして厄難が重なるものである。

 

(……なんや、これ? 何かに引きずり込まれるような力に加えて、山の深うになるにつれ部長が感じられんくなる……ッ)

 

 只でさえ鉛みたいに重い身体を引き摺っているのに、その上霧深い険しい山路をたった一人進まされているよう。

 自分が今何処に向かっているのか。いくら目を凝らしても、いくら歩いても、目的地が見えてこない。

 姫子の心理状態は限界に達していた。

 

 ──部長、どこっ!

 

 溢れそうな涙を必死に堪えて、姫子は心の中で叫ぶ。

 今は対局中だ。当然、周囲に自分を助けてくれる他人は存在しない。姫子も含めて、全員が自分の勝利だけを信じて試合に臨んでいるのだ。

 心の中が曝け出されていたのならば、姫子に不快感を抱く者がいたかもしれない。神経擦り減らして挑む真剣勝負に臨むその姿勢が無様だと、同じ雀士として醜態を晒すなと。

 

 姫子は勝負師としては失格だ。何事にも動じない自分を持たない者では、孤独な戦いは生き残れないのは必然なのだから。

 自分を信じられなくなったら麻雀で勝つことなど不可能だ。確固たる信念を持つ雀士に牌は応えてくれるのだから。

 信念を失ったら牌はそっぽを向いてしまう。

 牌に見向きもされないのならば、和了りを勝ち取ることなど不可能。

 

 それでも、助けを求める後輩がいれば、逸早く駆け付けてしまうのが先輩というものだ。

 

 ──……姫子

 

 声が聞こえた気がして、姫子はハッと顔を上げる。

 視線の先には霧に霞む山の深く立つ部長がいた。此方に優しく微笑み、手を差し伸べてくれている。

 

 あの人の元へ。

 弱気になった自分を、挫けそうな自分を、一人蹲っていた自分をいつも助けに来てくれた、大好きなあの人の元へ。

 急がなければ、早く行かなければ。

 

 姫子は駆ける。

 腕を振って、途中で縺れそうになる脚を懸命に動かして只管に走る。

 

 ──部長っ!

 

 思いっきり伸ばした手の先には、部長の手のひらがある。

 もうすぐで届く。

 あと少しで掴める。

 最後の一歩で辿り着ける。

 そして、必死に必死に伸ばしたその手は。

 

 

 

 霞と消えた部長の手をすり抜けて空を切った。

 

 

 

「ツモ! 3000、6000!」

 

 和了りを宣言したのは姫子……ではなく穏乃であった。

 

 この結果が意識の外側にあった竜華は驚きで瞠目し、咄嗟に姫子を見る。

 

(…………これは、もう……)

 

 観察するまでもなく彼女は理解する。この展開は本来であればあり得なかったであろうことを。

 また、この段階で新道寺が『終わった』であろうことも。

 

 点数はトップは千里山、逆転した阿知賀が二位となり白糸台は三位に沈んだ。新道寺はラス親とは言え、打ち手が死んでしまえばもう逆転の芽はないだろう。

 クズ手であろうと和了れば千里山と阿知賀は決勝進出である。白糸台は自摸和了りならば最低6400が必要なこの場面。

 さて、どう出る……と、竜華は視線を横にズラし淡を見る。

 

 淡は口許を盛大に歪ませ、くつくつと身体を震わせて感情を爆発させた。

 

 

****

 

 

 南三局が開始されて早々に、衣は憐憫を滲ませた声で呟いた。

 

「……新道寺は終わりだな。この局は絶対に和了れまい」

「……ふーん。私には淡ちゃんが何かしてるのは分かるけど……。衣ちゃん、まだ始まったばかりなのにそんなの分かるの?」

「衣には分かる」

 

 不確かな予想ではなく、絶対の確信を秘めたその言葉は重い。

 何故そう思うのかと咲が小首を傾げると、衣はやや苦い表情をして胸の内を明かした。

 

「新道寺のあの眼、あれは勝利を半ば諦めた絶望の眼だ。何年もその眼を見続けた衣の経験だと、あの状態から一人で復活した者は存在しない」

 

 衣も含めてな、と最後に付け足す。

 咲はそれで合点がいったのか、なるほどと大仰に手を打った。また、衣が苦い表情を浮かべていた理由も理解できた。

 新道寺の大将が浮かべているあの表情、あの眼は、県予選決勝で咲が追い詰めた衣にそっくりなのだ。

 

「衣としては、むしろ咲が分かってなかったことが違和感があるぞ。咲は三校同時飛ばしもやっていたではないか」

「いやー、あれは衣ちゃんへの挑発だったし。あんま見てなかったというか……」

 

 テレテレと恥ずかしそうに頭を掻いて笑う咲ははたから見れば可愛いものだが、会話の内容には一切の可愛げがない。

 見る価値すらない対局相手、不憫過ぎた。

 

「それに、私はもっと上手くやるもん」

「上手く?」

「衣ちゃんがあの眼を見る機会が多かったのはきっと、衣ちゃん一人で相手を蹂躙したからでしょ?」

「……衣には、それしかできなかったから…………」

 

 落ち込む衣を見て、あっ、やば、変なトラウマスイッチ入れちゃった、と後悔しても後の祭り。衣なりに過去の行いを悔いていたのだと咲はこのタイミングで初めて知った。

 さてどうしようと咲は一考する。

 慰めるのはあまり上手でないので除外。

 スルーしても良いが後味が悪いので却下。

 ここは冗談めいた発言で誤魔化すしかないなと、咲は大真面目に馬鹿げた結論を導き出した。

 

「ふふっ、それは二流だよ衣ちゃん。私は違う。私は相手に悟らせないように互いに削り合わせて、でも徐々に私に点数を重ね、最後の最後に全員を一網打尽にするからね!」

「咲…………」

 

 ──さぁ、感動に打ち震えるといい!

 期待を込めた眼差しで衣を見遣った咲が見たものは。

 ……心底ドン引きして引き攣った笑みを浮かべる衣だった。

 

「知ってはいたが、やはり咲は悪魔だな!」

「ありがとう、衣ちゃん! まぁ邪気が無ければ何でも言っていいとは限らないけどね! 淡ちゃんだったら全力で張っ倒してたよ!」

 

「「…………あははははははははははは!!」」

 

『ツモ! 3000、6000!』

 

 こめかみに浮かびそうな青筋を抑えながら衣と一緒に大笑していたら、和了りを宣言する声が響き渡った。

 即座に二人は笑うのをやめて画面を見る。

 

「阿知賀が和了ったね」

「あぁ、……成る程、これが淡の奥の手の一つか」

 

 衣は顎に手を添え考える素振りを見せ、一つ頷いて思考を纏める。

 対局中の三人は当然分からなかっただろうが、外から見ていた咲と衣には淡が何をしたのか、どういう意図の能力かを理解できていた。

 

「自身の配牌を贄に特定の一人の配牌、もしかしたら自摸までを極端に悪くさせる、そんな感じがしたけど、咲はどう思う?」

「うん、私にもそう見えたかな」

 

 絶対安全圏のように配牌に干渉可能な淡だからこその妨害能力。加えて自摸すら縛っているかもしれないとなると、淡の地力の向上は相当だと伺えるだろう。

 だが、咲が最も驚嘆したのは別の側面であった。

 

「……あの淡ちゃんが攻撃を捨てるなんてね」

「プライドを捨ててでも手にしたい力、か……。流石だな、淡は」

 

 感嘆の双眸でもって衣は淡に敬意を払う。咲の勧めで対局したあの頃も強かった淡は、この短期間でさらなる飛躍を遂げていたのだ。

 自然と咲の口にも笑みが浮かぶ。今から淡との対局が楽しみで、身体が疼いて仕方がない。

 

「あぁー、早く麻雀したいなぁー。今日色々あったからパァーッと発散したいよ」

「衣も咲が凄いことしてくれるのを楽しみにしてるぞ! ……だが、咲。一つ聞いてもよいか?」

「ん? なに衣ちゃん?」

 

 神妙な眼差しで咲を見詰める衣。

 真剣な様子から只事ではないと察した咲はいつになく真面目に衣と向き合った。

 

「咲、阿知賀の大将、穏乃をどう見る?」

「そうだね、凄い支配だと思うよ。淡ちゃんの場の支配すら上回る強さだし、それに今回の新道寺のコンボ破りも阿知賀がいなかったら厳しかっただろうしね」

「その点は衣も同意見だ。咲の言う通り、穏乃の『山の支配』は強力なんだ。それこそ、衣や淡のような《牌に愛された子》の場の支配すら上回るほどに」

 

 衣の海底(ハイテイ)を封じ。

 淡の絶対安全圏すらも無効化する。

 

 だからこそ、衣は疑問に思った。

 

「咲、問おう。現実の修行の山路も、有為の奥山も超えその先にいる深山幽谷の化身──その穏乃を相手にして、嶺の上で花は咲くのか?」

 

 ──穏乃の『山の支配』と咲の嶺上(リンシャン)が刃を交えたら、どちらが勝つのだろう?

 

 衣の問いに咲は少し驚いたように目を見開いた。

 麻雀に関することでは滅多に表情を変化させない咲が、僅かだが瞠目した。これが何を意味するのか、衣には分からない。

 問いを投げてから数秒、咲の口から言葉は出なかった。

 だが、咲の全身が微かに震え始めたのを衣は見逃さなかった。

 

「…………咲?」

 

 明らかに普通ではない咲の様子に衣は焦燥を隠せない。

 こんな咲は稀だ、珍し過ぎて不安が募るほどに。

 しかし同時に、好奇心が湧き出て衣は気持ちを抑えられない。

 次に発せられる咲の言葉が。

 衣の問いに対する答えが。

 

 

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

「『……くっ、ふふふ、あははははははは!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──咲と淡が盛大な哄笑を上げた。

 

 

****

 

 

「……くっ、ふふふ、あははははははは!」

 

 突如として、淡が狂ったよう笑い出した。

 あまりにも突然だったために、他の三人はギョッとしながら淡に視線を移す。

 

「あはははははははは! あははははは! ………………ふぅー」

 

 存分に哄笑を上げ気が済んだ淡は一息吐いた後、声を潜め静かになる。

 不気味なほどに静まった淡は一度顔を俯かせ、身体の震えを抑えるように全身をかき抱き。

 十分な時間を掛けた後、顔をゆっくりと上げ口許を獰猛に歪ませた。

 

「……面白い、面白いよ! いいよいいよ、認めてあげる!!」

 

 淡の顔は、決して負けを認めたものではない。

 力尽くで勝利を奪い取る者の表情だ。

 

 淡はこの対局が楽しくて面白くて嬉しくて仕方がなかった。まさか前座だと思っていた対局相手が、こうまで自身を追い詰めるなど予想だにしていなかったからだ。

 確かに数々の異常事態(イレギュラー)には手を焼かされたし、言い様のない怒りが身を包んだのも事実である。

 ただ、実力が拮抗した対局というのは、本当に久しぶりであった。

 勝つか負けるかの瀬戸際。

 手に汗握るギリギリの大接戦(クロスゲーム)

 淡はこういう麻雀を長年待ち望んでいた。

 

 淡は未だ頂点に達した者の気持ちは悟っていない。

 照や咲が胸に燻らせている気持ちを十全には理解できていない。

 それでも、自身と対等に渡り合える相手が少ないことも分かっていた。

 だからこそ嬉しかったのだ。

 本気を出せる相手に巡り会えたことが。

 全力全開を振り絞ってなお応えてくれたことが。

 

 淡はその想いを形として返すことに決めた。

 

「それと千里山」

「……なんや?」

「順序は逆になっちゃったけど、約束は守るから」

「約束……?」

 

 淡のその言葉に竜華は首を傾げる。

 約束……? そんなものをこの少女とした覚えなんて……、と。

 言われた竜華は淡と出会った時からの記憶を巡る。出会ったのは今日が初で、それより過去に会ったことはないのだから思い返すのは今日のことだけで事足りる。

 

 邂逅は先鋒戦終了後だ。

 真面に会話を交わしたのは、宮永姉妹と一緒に千里山の控え室から出る直前。

 覚えているのは、初見でも生意気な態度のそれと、会話の内容──

 

(……あっ。ま、まさか──)

 

 そうだ、淡は言っていたではないか。

 自分たちは、こんな会話をしてたではないか。

 

『今日の大将戦、楽しみにしてるよ。関西最強だか部長だか何だか知らないけど、私たち白糸台に歯向かうなら容赦しないから』

『うちも楽しみにしてるで。一年生で大将を任されるその実力、拍子抜けにならんことを祈るわ』

『言ってくれるね……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『……その生意気な態度、絶対改めさせたるわ』

 

(まさか、まだ本気じゃ──⁉︎)

 

 竜華が記憶を辿り、導いた答え。

 それを証明するかのように──

 

 

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 ──淡から莫大なオーラと、万象を引き摺り込む引力が顕現した。

 

 

 

 〜南四局〜

 東 新道寺  70100 親

 南 白糸台 105600

 西 千里山 112500

 北 阿知賀 111800

 

 対局への影響は即座に現れた。

 

(六向聴……さっきまで普通に戻っどったのに)

 

 此処に来てこの配牌の悪さに竜華は身の毛もよだつ想いであった。淡の力であることは明らかであり、最後までそれを隠し通していたという事実に戦慄する。

 

(これが《牌に愛された子》か、正に怪物やな……せやけど、そう簡単に負けてはやれへんよ!)

 

 竜華は大きく息を吸い込み、途中で乱れてしまった集中を取り戻すために瞳を閉じて意識を深く深く鎮めていく。

 本来であれば、一度切れた集中を復活させるのにはそれ相応の時間が必要なのだが、今の竜華にそんな悠長なことを言うつもりはない。

 

 ──無理やりにでも引き出す!

 

 暗闇の心象世界に沈み込んだ竜華は、視線の先で淡く光る手を伸ばす。

 応えるように光は形を変えながら竜華に近付き、手と手が合わさる時にははっきりとした姿をもって怜が現れた。

 

(『竜華……』)

 

 繋いだ手を強く握りしめ、励ますように怜がにこりと微笑む。

 

 ──頑張ってな……。

 

 振り絞るように囁かれたその声を最後に、怜は光の粒子となって竜華の中に溶けてゆく。

 

 竜華にはそれだけで十分以上であった。

 一つの壁を越えた感覚。超人的なまでに冴え渡る知覚領域。

 想いは進化を遂げて実り、次に瞳を開いたとき、そこには菫色に輝く大輪の華が浮かび上がっていた。

 

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 常のゾーンより更に研ぎ澄まされた五感でもって竜華は場を俯瞰し、対局相手を観察する。

 今の竜華は聴牌気配や危険牌はおろか、対局相手の向聴数すら直感で把握できていた。

 

(大星淡も含めて六向聴……?)

 

 配牌時点で全員が六向聴。

 これが普通の麻雀であれば全員どんだけ運がないんだと空笑いを漏らす場面である。いくら天運に身を任せる麻雀であろうとこれは酷い、と。

 

 偶然であってほしかった。

 笑い話で終わってほしかった。

 

 だが、やはりと言うべきか、偶然で終わる程、目の前の怪物は甘くなかった。

 

 一巡、淡が有効牌を自摸り五向聴。

 二巡、淡が有効牌を自摸り四向聴。

 三巡、淡が有効牌を自摸り三向聴。

 四巡、淡が有効牌を自摸り二向聴。

 

 ──ゾワリと、肌を撫で回されるような悪寒が全身を駆け巡った。

 

(冗談やないぞっ⁉︎)

 

「ポン!」

 

 竜華は鳴きを挟んで淡の自摸を飛ばし、危険な流れを断ち切ろうと試みる。

 乗っている相手を無理矢理にでも失速させるには、和了って流れを打ち切るか、鳴いてリズムを崩すかが常套手段だ。

 但し、後者は例えできたとしても成功する確率は高くはない。全国屈指の選手では通用しないことの方が多いであろう。

 

 況してや、《牌に愛された子》相手では無駄な抵抗に等しい。

 

「リーチ!」

「チー」

 

 迷い無く立直を宣言した淡を、されど竜華は押し留めようと牽制する。

 これで一発は消せる。

 流れも変わるかもしれない。

 見出した最後の希望を胸に、鳴いて牌を捨てた直後。

 去来する想いは歴然とした諦念であった。

 

 

 

 背負うのは一寸先も見通せない極黒の宇宙。

 綺羅りと輝く星屑が唯一の道標として佇む人類未到達の空間。

 その中心に座す淡は、圧倒的な引力でもって宇宙を支配していた。

 

(公式戦ではこれが初めてだけど……ふふっ、負ける気がしない)

 

 淡の手牌には『星』が集結していた。

 穏乃が司る支配形態が山ならば、さしずめ、淡が司る支配形態は星。

 星の引力で牌を引き込み、導き、集わせる。

 

「リーチ!」

「チー」

 

 淡の立直に即座に対応してみせる竜華のその意地と粘りに淡は感嘆する。

 竜華は察しているのだろう。このまま放っておけば取り返しがつかないことを。

 

(流石千里山の部長だね。怜の恩恵(未来視)だけじゃないのは当たり前か……で・も、ざ〜んねん)

 

 最後の抵抗を、必死な足掻きを、淡は意にも介さなかった。

 

 ──これで終わりだね。

 

 闇夜を凝縮したかの如き漆黒のオーラを手から撒き散らし、山から掴み取るのは最後の星。

 引力によって集束されたのは、燦然と煌めく七つの星々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「衣ちゃん、さっきの問いに答えるよ」

「確かに、阿知賀の大将の『山の支配』は凄いよ。それに、私にとって相性が最悪だと思うかもしれない」

「でも、それだけはあり得ない」

「例えどれだけ険しい山でも、遥か高みに頂上があろうと、森林限界を越えたその更に上で咲く花、それが私の嶺上(リンシャン)

「対局しなくても分かる。阿知賀の大将じゃ私を止められない。だからぶつかれば私が勝つよ」

「それに──」

 

 

 

 ──阿知賀には、決勝に上がる資格すらないみたいだしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ツモ。

 ──立直、自摸、七対子、ドラ2。

 ──12000。

 

 最終結果

 白糸台  117600

 千里山 109500

 阿知賀 108800

 新道寺  64100

 

 準決勝第一試合──決着!!

 

 

 

 

 

 

 

 





なお、竜華のスーパーゾーンは万華鏡無極天という(真顔)。
開眼条件:最も親しい友と、融合すること(意味深)

以下長文とオマケ

いやー!長かった白糸台編!
えーと、始まったのが2015年1月13日……今が2016年12月……約2年とかホント更新速度酷くてごめんなさい。

気が付いたら実写ドラマ始まってしまいましたよ!
もうやばいっす!色んな意味でやばいっす!!
色々あるけどとりあえず一言、咲さんの人可愛すぎるっ!!!

ただ、懸念していた事項が。
やっぱりと言うべきか、おもちが足りない!
和の人は十分おもちなのになにか違う。やはり二次元マジックを三次元もってきたらこうなりますよね。

ということでおもち成分を補うための以下オマケ。



オマケ:たわわチャレンジ

和「たわわチャレンジですか?えーと、こうでしょうか?」

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姫さま「はい!私もやってみたいです!……えいっ!」

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霞さん「あらあら小牧ちゃんたら」
姫さま「霞ちゃんもやりましょう!」
霞さん「えっ……、ふふっ、少し恥ずかしいわ」

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淡ちゃん「それじゃあ私もー!こんなんちょー余裕じゃん!できない人とか女としてあれすぎるよね(笑)」

【挿絵表示】

牌には愛されている三人「………………」

【挿絵表示】

淡ちゃん「…………さってとー、私はこれで」

ガシッ!
咲さん「どこ行くの、淡ちゃん?」
ガシッ!
衣ちゃん「そうだぞ、淡。お別れはまだ早いだろう?」
ガシッ!
照「そうだね、これからが楽しいから」

淡ちゃん「いや、ホント、お願い離して!謝るから!ごめんなさいするから!!胸が大きくてごめんなさいってちゃんと言うから!!」

三人「殺す」
淡ちゃん「いやあああああああ!!」







次回更新は淡ちゃんの誕生日だったらいいな(願望)
最後はドラマの大人っぽい咲さんでお別れです。

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