咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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忙しい……時間がないよぉ……





9-5

 〜東一局〜

 東 阿知賀  83800 親

 南 千里山 101000

 西 白糸台 113700

 北 新道寺 101500

 

 後半戦の起家は穏乃。

 通常の麻雀であれば不要な牌をただ捨てればいいのだが、この対局は異なる。

 

(これ、多分また大星さんのダブリーが来る。阻止するには……)

 

 その前にチーかポンを入れて鳴くしかない。鳴きさえすればダブリーの役は消えるのだから。

 それでも普通にリーチはしてくるだろうが、ダブリーに比べればまだマシというもの。たかが一翻されど一翻だ。これは竜華と姫子も承知の筈。

 

(……これ)

 

 穏乃は手牌の中で比較的鳴かれやすい牌を選ぶ。

 しかし二人は鳴くことが出来ない。

 穏乃の下家にいる竜華も、鳴かれる可能性が高い牌を選んで捨てるが。

 

(鳴けない……)

(なら大星は……)

 

 三人が見守る中、淡は山から牌を自摸る。

 そして──

 

「リーチ」

 

 自摸った牌をそのまま横向きに捨てた。

 

(ツモ切りダブリー⁉︎ 地和寸前だったてこと⁉︎)

 

 穏乃は改めて目の前にいる雀士の恐ろしさを理解した。

 配牌で聴牌状態、しかもそれを毎局可能となれば非常識にもほどがある。

 

 一方、他三人を戦慄させている淡であるが、本人は本人で不安事項に頭を悩ませていた。

 

(さて、仕掛けるのは決定してたけど、たぶん高鴨穏乃だと思う『場の支配』がよくわかんない。条件はともかくとして、せめて支配領域と効果を知りたいんだよなー)

 

 それさえ分かってしまえば対処の方法も自ずと導ける。

 対局相手に合わせて臨機応変に立ち回れるほど器用ではないと自覚しているが、未知のまま放置するのは下策だと判断していた。

 

(この『場の支配』はそれなりに強力。だって私が和了れないぐらいなんだから、並の強さじゃない)

 

「カン」

 

 最後の山の角に達し、淡は槓をする。

 ここまでは想定通りで、ここからは懸念事項。

 

(前半戦オーラスは和了れなかったからね……さぁ、どうなる……)

 

 ここでもし和了れないとなると、淡としては非常に厄介なことになる。

 今回の対局で菫から許可されている武器はダブリーでの攻撃のみなのだ。

 これを封じられると淡の攻撃力は激減する。というより、真面な攻撃手段がなくなる。

 防御は趣味ではないし、なら淡が取る方針は唯一つ。

 

 ──『場の支配』をどうにかして捻じ伏せる!

 

「ロン」

 

 槓からの一巡後。

 姫子から和了り牌が零れた。

 

「12000」

 

(ふーん、まだ和了れるじゃん……ホント何の支配なんだろ?)

 

 まぁ、とりあえずいいかと淡は笑う。

 どうせ勝つのは私なんだから、と。

 

 

 〜東二局〜

 親:千里山

 

 竜華の親番。

 通常であれば当然攻勢に出る局面なのだが、竜華は一歩踏み込むかを迷っていた。

 

(折角親なんやし、怜を呼びたい。でも、この局は副将戦で白水哩が和了ってた局やから、鶴田姫子が和了るかも……)

 

 怜ちゃんが呼べるのは残り三回。使ってもいいのかもしれないが、わざわざ無駄撃ちするのは勿体無い。

 それに怜ちゃんの力に頼り過ぎというのも良くない。本来であれば一人きりの戦いなのだから。

 

(それやったらいつも通り、ここは自力で全力で!)

 

 竜華の下家は淡。

 淡はその第一打を卓の隅に置き、

 

「リーチ!」

 

 回転させながら横向きに捨てた。

 

 それを見て姫子は瞳を鋭くする。

 

(部長の和了った局でもお構いなしか、大星)

 

 手に持つ金色の鍵に書かれた数字は『4』。満貫キーがあるこの局で、姫子は負けるわけにはいかない。

 

(必ず、満貫に仕上ぐ!)

 

 個の能力と絆の能力の殴り合い。

 意地と意地がぶつかり合い、激しい火花と雷撃が散る。

 

 その末に、

 

「ロン、8000」

 

 勝利の軍配は姫子に上がった。

 

 競り負けたことに淡は内心舌を打つ。

 

(チッ……初めてダブリーぶつけたけど負けるんだ。てか新道寺のコンボ強っ。照がプロでも破れないって言ってたのは偽りなしって感じだなー。……サキだったらどうやって踏み潰すんだろ……)

 

 どうにかして新道寺のコンボをぶっ飛ばしたい淡はそんなことを思う。

 人格・性格・性分・性根から心根に至る総てに於いて捻くれてるあの少女なら、あの手この手を使ってでもこのコンボを出し抜きそうだ。

 

(まぁそれはもし新道寺が決勝に残ったらのお楽しみで。……とりあえずもう一回!)

 

 

 〜東三局〜

 親:白糸台

 

「リーチ!」

 

 淡の三連続ダブリー。

 しかも淡が親のため、鳴いてダブリーを阻止することすら不可能だ。

 この局は前局同様、副将戦で哩が和了っているからコンボが掛かっている可能性があった。

 だが、淡に引くという二文字は存在しない。

 

(今度はコンボごと叩き潰す!)

 

 対して姫子。

 配牌は淡の絶対安全圏の影響下の五向聴。

 

(こん局、部長はリザベ掛けんで和了りよんさった。当然キーばなかばってん。……私だって、自力で頑張らんば!)

 

 これまで姫子が和了ったのはリザベを除けば一局のみ。淡の『場の支配』である絶対安全圏に加え、ダブリー連発という状況で自力で和了りに持っていくのは至難の業なのだ。

 

「カン」

 

 そして、これだ。

 

(また大星のカン……)

 

 大将戦で淡がダブリーをして和了った局は全て槓の後に和了っている。しかも役も同じで、ダブリーとカン裏四枚。

 度々このような和了り方をされれば、どれだけ頭の足りない馬鹿でも何かしらの法則性があることは判るだろう。

 

 だが確実な情報がない、これがネックであった。

 

 淡は白糸台代表に突発的に現れた存在であるため、元々明らかにされているデータが少ない。

 しかも前半戦オーラス。淡はダブリーを掛けて槓までしたにも関わらず和了らなかった。

 これが和了らなかったのか、それとも和了れなかったのかが分からないのだ。

 だからこそ、姫子は判断に迷う。

 無理を押し通す場面なのか、それとも無難に身を引くのが正解なのか。

 

(ばってん、こっちもここまで来て引きとうなか!)

 

 局も進み、姫子も聴牌まで手が出来上がっている。

 

 ──押していく!

 

 一か八かの勝負。

 姫子は力強く牌を捨てる──が。

 

 

 

「ロン!」

 

 

 

 どうやら無謀な挑戦だったようだ。

 

「18000」

 

 再びダブリーにカン裏四枚の跳満、しかも親だからインパチ。手痛い失点である。

 

 前局に競り負けた分のお返しが成功した淡はちょっと嬉しくなった。

 

(おっ、直撃ぶんどったー。コンボは……掛かってなさそうだからあれだけど、まぁいいか。せっかく親だし、阿知賀を見極めよっと)

 

 この局は淡の親番。

 やっと点数を巻き上げるチャンスがやってきた。

 

(ねぇ、知ってる? 私が親を続ける限り、ダブルリーチは止められないし、新道寺のウザいコンボが出ることもない)

 

「一本場!」

 

 

 〜東三局・一本場〜

 親:白糸台

 

「リーチ!」

 

 淡のダブリー、一体これで何度目になるだろうか。数えるのも馬鹿らしくなってきた。

 しかし、思考停止することは許されない。

 竜華は休憩時間に千里山のブレインから得たアドバイスと、これまでの情報を掛け合わせて整理する。

 

(……大星淡のこれは怜の力と同じようなもの。内容はダブリー連発とカン裏もろ乗りやろ、たぶん。さっきの局、カン裏見る直前に点数申告しとったから間違いないはずや……たぶん)

 

 断言出来ないところは安心し切れないが、とにかく合っていると考える。

 淡のダブリーは淡特有の能力だと判断すると、何もしなければこれはずっと続くのだろう。

 そして、止めなければ点数なぞ容易に毟り取られるのは予想が付く。

 ならば逸早く対処することが絶対条件。

 

(これ以上親を続けさせてたまるか!)

 

 怜ちゃんを使えるのは残り三回。

 無駄撃ちは避けるべきだが、手札を切るタイミングを間違うほど竜華は臆病ではない。

 

(「怜っ!」)

 

 暗闇の中、竜華は淡く光る怜ちゃんの手を取る。

 すると、竜華の瞳は本来の色とは異なる輝きを宿し、その向こうに未来の光景を映し出した。

 

(「見えたで!」)

(「リーチして3900。白糸台に一撃や。ほななー」)

 

 見えたのなら必ず和了れる怜ちゃんの力。今更それを疑うことなんてありえない。

 

「リーチ」

 

 竜華の追っかけリーチ。

 それを見て淡は若干目を見開き、悪い予感に苦い表情を浮かべる。

 

(……まさか)

 

 当たって欲しくない淡の予感は、その後見事に的中した。

 

「ロン。3900の一本場は4200」

「……?」

 

 ん? と、淡は疑問に思う。

 今、竜華は淡が捨てた牌にロン和了りをした。それはいい。

 だがそのあと、竜華は裏ドラを確認せずに点数申告をしたのだ。リーチをしているにも関わらず。

 

「……裏ドラ、見なくてもいいの?」

「見るで、変わらへんみたいやけど」

 

 竜華の言う通り、明らかにされた裏ドラは一枚足りとも乗っていなかった。確かにこれなら点数は変わらないだろう。

 だが直接見てもいないのに、まるで最初から結果が分かっていたかのようなその態度は違和感甚だしい。

 

 何の推測も立てていない状態であれば、淡は相応に狼狽えていただろう。

 只でさえ今回の対局の竜華は未知数な存在だったので、淡の動揺に拍車を掛けたはずだ。

 しかし淡は竜華のその態度を見て、自身の推測が正しかったのだと確信した。

 

(コイツ……やっぱり未来が見えてるんだ! ……自分からバラしてくれるなんてね)

 

 やっと謎が解けた。

 超次元的な現象であるし、それを信じろと言われても他人だったら一笑に付すところだが、淡はそれでも納得していた。

 それも仕方がない。淡がこれまで触れ合ってきた雀士には、連続で和了ると点数が上昇し続ける脳筋や、嶺上開花を自由自在に和了る天邪鬼(あまのじゃく)や、月齢と時間帯によって強さの上限が変化する古風ロリなど、訳わからん打ち手が山程いるのだ。

 今更奇特な能力者が一人や二人や三人四人増えたところで──まぁ驚きはするし、場合によってはなんじゃそれはと憤るが──その程度で動揺するほど生温い鍛え方はしていない。

 

 これでようやく喉のつっかえが取れた気分だ。

 同時に、言いようのない憤怒が身を焦がす。

 淡はつい、竜華と姫子を睨み付けてしまった。

 

(こんにゃろうどもー、少しは私と高鴨穏乃を見習え! なんで私たち一年生が自分の力だけで頑張ってるのに、お前たち上級生が二人掛かりなんだよッ‼︎ ふざけんな!)

 

 至極真っ当な怒りだと思うのは淡だけじゃないはずだ、きっと。

 別に、仲間との絆とか友情を否定するつもりは全くない。淡とてチームメイトのことは大切であるし、信頼の置ける仲間だと思っている。そこはいいのだ。

 

 ただ、この現状はないだろう。

 

(なんだそれは、先輩二人掛かりって、イジメか? そんなに一年生という存在がイヤか⁉︎ いや、別にそんなこと思ってないってのは分かるんだけど……んがぁーっ!)

 

 淡は密かに決意した。

 コイツら絶対ぶっ飛ばすと。

 

 淡が明確な敵意を竜華と姫子に向けている中、一人静謐な眼差しで場を俯瞰している者がいた。

 その瞳には、深緑に包まれ濃い霧に覆われる山の数々が映っている。

 輪を描くように明滅する焔を背負う深い山の主が、今覚醒した。

 

 

 





さぁて、ここからがなぁー……
穏乃はスロースターターだから自然とこうなる。

サクサク投稿と言いましたが、今後はちょい厳しいかもです。
なぜなら、私は4月から社畜になるのです。
仕方ないのです。働かなきゃいけないのです。
働かなきゃ……うわぁぁーっ!嫌だよー‼︎

ということなので、投稿スピード落ちたらごめーんね。

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