咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら 作:サイレン
みんな淡ちゃんが大好きですね。
感想全部淡ちゃんについてでした(笑)
突然だが、宮永照の世間一般での認識は、『麻雀が強く、クールだけど愛想が良く、ファンサービスを忘れない完全無欠な高校生』というのが無難である。世間での照はそんなイメージなのだ。……それが例え、実情を知る人からすれば鼻で笑われる評価であろうとも。
もちろん、照の本質に合っているものもある。麻雀が強いなどは当然として、クールというのも偶に凄まじい天然が入ることを除けば間違ってはいないし、ファンサービスに関しても雑誌の取材や会見など頻繁に行われていることから、一切お断りの衣と比較すれば良心的だろう。
ただし異なる部分はとことん違う。
まず愛想なぞ欠片も存在しない。ファンからそう思われているのは、菫ですら引く営業スマイルに騙されているからである。照は日常生活においては笑うこと自体が珍しいのだ。
極め付けとして、『完全無欠な高校生』というのは現実との乖離が甚だしい。親しくしている菫、淡、あと咲などは声を揃えてこう言うだろう、「完全無欠な高校生(笑)」と。
つまり何が言いたいのかというと、照もただ一芸に秀でただけの年頃の女の子なのだ。……この言い方にも色々と誤解を含みそうではあるが、とにかく照は超人でも何でもない長所も短所もそれなりにある高校三年生の少女なのだ。
そんな彼女に──
「それで、その提案とは?」
「今度対局しましょう! 私とお姉ちゃんと小鍛治プロと誰かで!」
──目の前で暴走する悪魔二人を止めることは無理であった。
「え、あの……」
「それはいいですね! 謝礼としても申し分ありません!」
「そうですか! 良かったです、小鍛治プロに満足して頂けて」
「いや、その、咲……?」
「もう、小鍛治プロなんて堅い呼び方はいいですよ。気軽に呼んでください」
「では健夜さんと。私のこともお姉ちゃんと混ざってしまうので名前で呼んでください」
「それでは咲ちゃんでいいかな?」
「はい!」
「宮永さんは照さんとお呼びしますね」
「え? あ、はい」
あ、無理だ止められない……と、照に諦念の想いが芽生えた。これはもう、どう足掻いても対局コース一直線である。
二人は初対面とは思えないくらいに息ぴったりなのだ。恐らく、性格が似ているのであろう。
照も二人と同様、麻雀戦闘民族的な性格をしているが、あくまでそれは純真無垢なものである。
だが咲に関しては、純心などとうの昔に何処かへ捨て去っていた。端的に言えば性格が悪いのである。幼少のときの家族麻雀での経験と家族崩壊、その後の友達の出来ない学校生活は、咲の性格を歪めに歪めていたのだ。もう誰の責任とかの問題ではないが、照はこのときあの頃やらかしたことを本当に後悔した。
そして健夜であるが、咲と瞬く間に意気投合している点から察することが出来た。きっと彼女も彼女で歪んでいるのだろう
「対局はいつがいいですかね?」
「そうですねぇ〜。大会期間中は団体出場選手である私たちの対局は禁止されているので論外です。なので団体、個人と終わった後、数日空けたくらいでどうでしょう? 私たちはまだ夏休みなので、健夜さんの都合が合えばなのですが」
「私は大丈夫かな? うん、それでいきましょうか」
「はい」
……もし、もしあんな悲劇が起こらなければと考えてしまう。そうすれば、今のような事態に巻き込まれることもなかっただろうし、もっと可愛かった咲と一緒にいられただろうに、と。
「じゃあ問題はあと一人だね」
「はい! それについても候補が一人います!」
咲が過去一番に瞳を輝かせて挙手した。絶対に悪いことを考えている顔だった。
照はこの咲を見て確信した。……あ、これいつものパターンだ。
「淡ちゃんが良いと思います!」
オーマイゴット……と、照は額に手を添えた。やっぱりそうなってしまうのか。淡はきっと、そういう星の元に生まれた存在なのだろう。
「淡ちゃん……あぁ、白糸台大将の大星淡選手ですか?」
「はい! その大星淡です! 是非、是非彼女が良いと思います!」
「彼女の実力はまだ拝見してないんですよね。……咲ちゃんが勧めるのです、面白い子、なんですよね?」
健夜の視線が怪しく光る。それは「ここに来てつまらない打ち手では期待外れですよ?」と言わんばかりの目であった。
そんな健夜に対し、咲は自信満々で健夜を見返す。
「はい、その点では問題ないでしょう」
「……ふふ、良いでしょう。個人的には既に実力が判っていて面白そうな天江さんか園城寺さんが候補だったのですが……」
「衣はともかく怜は止めてあげて下さい」
やっとこさ照が口を挟めたのは、先程知り合った少女の身を護ることで必死だったからだろう。自分含めて咲と健夜と対局したら、今度こそ怜は死んでしまう。人命第一である。
ただこれで、淡が巻き込まれることが確実になった。プロが入るという選択もなくはないだろうが、この流れでその可能性は望み薄であろう。
今さらだけどなんで私も巻き込まれたんだろう……と照はちょっと思うが、淡の立場に比べれば普通にマシだなと開き直った。人間、自分より不憫な存在がいると励みになるらしい。哀れ淡。
「大星さんの許可は取れているのですか?」
「いえ、何分急な話ですから。でも、淡ちゃんは断らないと思いますよ」
「そうなのですか?」
「はい! だって淡ちゃんは──」
咲は爽やかな笑顔を浮かべた。
「私のライバルですから。私の挑戦に対して逃げるなんて、プライドが許さないですよ」
「……そうですか、良い友達を持ちましたね」
「……えぇ、そうですね」
咲は清々しい表情で健夜に返答した。
そんな咲を見て、なんだかんだ言っているが、咲も淡のことを認めているだなと照は実感した。妹と自分が可愛がっている後輩が仲良くしているのは、姉として、先輩として嬉しいし微笑ましいし誇らしい。
飛び切りの厄介ごとが飛び込んできたが、最後はなんだか暖かい気持ちになれた。照も自然に笑顔になる。咲も健夜も楽しそうで何よりだ。うん、うん、良かった良かった……──
「──って、良い話風に纏めてるけど、結局私完全にとばっちりでしかないじゃん!!」
ふざけんなぁぁああああっっ!! と淡が再び叫んだ。ごもっともであった。しかし五月蝿いのには変わりないので、照と尭深と誠子と監督は揃って耳をふさいでいた。こいつら失礼過ぎる。
「てかテルもよくそんなので私を懐柔出来ると思ったね!? 自分で私のこと哀れって思ってたじゃん! 不憫な存在って認識してるじゃん! やっぱり私舐められすぎだよね!? 咲にも! みんなにも! ねぇ! ねぇ!?」
「どーどーどー」
「ぶっ飛ばすぞ宮永ッ!!」
遂に照を宮永と呼ぶくらい淡が激怒してしまった。しかも感情的になり過ぎて瞳が涙で滲んでいる。きっとこの何ヶ月間の恨み辛みストレスがここで爆発してしまったのだろう。
流石にやりすぎたと感じた照は、淡を優しく抱き留めた。
「──ちょ、テルッ!?」
「……ごめんね、淡。私の所為で。今回の件は全部私が悪いから」
背中を撫でて、照は落ち着かせるために淡の耳許で囁くように話し掛ける。
「ちょ、くすぐったいし恥ずかしいしッ!? 見てる見てる! みんな見てるからッ!?」
顔を真っ赤にしてあわあわと慌てる淡。様子を見るに、どうやら淡にこの手法は効果覿面であったようだ。
しかし照は天然なので、淡の細かな機微に気付くことなどない。これも一種のスキンシップ程度の認識でしかなかった。
照の天然は留まるところを知らず、
「淡には迷惑掛けちゃったね。それなのに、淡は第一に私を心配してくれたね。凄く嬉しかったよ。ありがとね、淡」
「あわわわわ──ッ」
「淡は私の誇りだよ。自信持って言える。淡は私の一番大切な後輩で、一番一緒にいて楽しくて、それで──」
後光が差すような、照の天然スマイルが炸裂した。
「──一番可愛い後輩だよ」
「──ニャァアアアアアアああああああああああああああッッ!?!???」
結果、淡が恥ずか死んだ。
このままじゃ本当に死んでしまうと思い淡は抱擁から脱しようと試みるが、照は一応憧れの先輩だからそれはそれでなんか勿体無いような……なんて感じてしまう自分がいるために決行も出来ず、最終的にもじもじしながら照に抱きしめられていた。
「ぐふっ!」
「た、尭深!? どうした!?」
「あ、淡ちゃんが、可愛すぎて……」
「お前……」
後ろでは淡をネタにした寸劇が繰り広げられているっぽいが、淡にそれを気にしている余裕はない。
「ななななな何恥ずかしいこと言ってるのテルッ⁉︎」
「……? 私は別に恥ずかしくないよ?」
「話が通じないッ!!」
小首を傾げる照に、今度はムキになっている自分がまた恥ずかしくて淡は顔を紅潮させる。誰がどう見ても恥ずかしい筈なのに、羞恥心が芽生えない方がおかしいのに、照にはその自覚が一切ないのだからタチが悪い。
咲ならこのような行動は確実に悪意を持ってやるので対処出来るが、照は天然で行っているのでもうどうしようもないのだ。
「どうしたの、淡? 顔が紅いよ? 熱?」
ピトッと、照がおでこを淡のおでこに当てた。淡はうわごとのように「あわわわわ……」と声を発するしか出来ない。
「……うん、熱はないね。やっぱり淡は健康だよ」
「──ニャァアアアアアアああああああああああああああッッ!?!???」
色々と耐え切れなくなった淡は遂に照の腕から脱出した。
「も、もういいから! テルのこと責めたりなんかしないから!」
「……本当に?」
「ホントにホント! てか元々咲が全部悪いからね! あいつ絶対今度殴る」
「……ありがと、淡。やっぱり淡は可愛いなぁー」
「やめてぇえええええええ!?」
先程までの恥ずかしさがフラッシュバックして、再び抱き付こうとしてきた照から淡は必死で逃げる。
「てか何でいきなり抱き付こうとするの!?」
「咲から失われた昔の可愛さを淡が持ってるから補給したくて」
「結局サキなのね! テルのバーカッ!」
その後二人の鬼ごっこは菫が戻ってきて説教が始まるまで続いた。その時の菫は諸々の事情により、怒髪天が天に貫く程に阿修羅な状態だったと記述しておこう。
****
「では健夜さん、また今度」
「えぇ、バイバイ咲ちゃん。……あぁ、こーこちゃんに怒られるなぁ」
登場とは打って変わって、帰りは憂鬱気に健夜は去って行った。そのとぼとぼとした足取りは哀愁を感じるが、まぁあれは自己責任だろうと咲は関与しないことに決める。
「さて、それじゃあ私も帰るね。お姉ちゃん、監督さんお世話になりました」
「気を付けてね、咲ちゃん」
「咲、一人で大丈夫?」
恐らく一人では大丈夫なわけないのだが、咲はあらかじめ保険を掛けていたために問題なかった。
「大丈夫だよ、……こほん」
咳払い一つ入れて喉の調子を確認した後、両手を口許に寄せ筒状にセットし、
「ハッギヨッシさぁーーーーん!!!」
大声で名前を呼んだ。
咲の声は廊下に反響し遠くまで響いていく。
「──此方に」
「うわっ」
照が思わず素で身を引くほどの神出鬼没振りであった。
「ハギヨシさん、ありがとうございます」
「いえ、咲様の、そして衣様の頼みとあれば、断ることなんてありえません」
「本当に助かります」
「記者関係者とも誰とも遭遇しないルートを含め、全てご用意出来ております」
「流石です、ハギヨシさん!」
龍門渕家執事ハギヨシ、やはり天才か。
「じゃあお姉ちゃん、バイバーイ」
「うん、バイバイ」
照と監督に手を振り、咲はハギヨシに着いて行く。言ってた通り会場内にいるにも関わらず誰とも遭遇しない。ハギヨシの隠密性が高いのも原因の一つであるだろう。三言でまとめると『ハギヨシ』『マジ』『スゴイ』である。
数分歩いただけで会場の外に出ることが出来た。前もって連絡しておいてやはり正解だったようだ。
「咲ーっ!」
「衣ちゃん!」
此方に大きく手を振っているのは、咲が助けを求めた天江衣である。龍門渕の面々が清澄の応援とのことで東京に来ていたことは、利用しているようで嫌にもなるが咲にとっては僥倖であった。
「ありがとう、衣ちゃん。迎えに来てくれて」
「御礼なんていらないぞ! 咲の頼みなんだからな!」
満面の笑みで衣は応える。そんな衣を見て自分がどうしようもなく捻くれていると理解し、咲の胸はずきずきと痛む。物理的攻撃なんかより遥かに効果が抜群であった。
「それでは行くか!」
「そうだね。あんまりのんびりしてるとまたマスコミに捕まっちゃうかもだからね」
傍に滑るように到着した車に衣が乗り込む。続くように咲も乗ろうとするが、その前に衣が此方に振り返った。
「あっ、そうだ咲。咲と会う前になんだがな……」
「ん?」
「──ん? ではありませんよ宮永」
──咲は固まった。
絶対零度もかくやと言った冷た過ぎるその声には聞き覚えがあった。だというのに、それがその人物から発せられた声とは信じられない。あの天使な彼女がいやまさか……。
壊れかけのロボットの挙動で咲は首を上げて声の主を視界に収める。
そこには、可視化できるんじゃないかと思うほどの怒気を身に纏った悪魔が微笑んでいた。
「……の、和、ちゃん……?」
「少し見ない間に随分と有名になりましたね宮永咲?」
「いや、あの、その……和ちゃん?」
「あー、咲ちゃん、諦めた方がいいと思うじぇ」
和の奥にいた優希は怯えきった苦笑いで、咲に死刑宣告と同意の忠告をする。
(……あぁ、そういうことか…………)
咲は和の大体の事情を理解した。
「一応様式美というものがあるので、本当に一応聞いておきましょう」
──和の微笑みは、今までの誰よりも怖かった。
「何か弁明はありますか?」
「申し訳御座いませんでした」
地べたで咲が土下座した。
当然の報いであった。
****
準決勝第一試合は急遽イレギュラーな波乱が起こったが、試合自体は順調に進んでいった。
次鋒戦。
照と比較することがおかしな話であるが、先鋒戦とは違い堅実な打ち手揃いだったため大きく点を伸ばしたところはなかった。
ただし、点を大きく減らした高校はあった。千里山である。
千里山次鋒は一年の二条泉。他三人は全員三年生ということもあり萎縮してしまった彼女はろくに和了ることも出来なかったのだ。
中堅戦。
ここで大活躍したのは千里山の江口セーラであった。去年もインターハイ参加経験があり、しかも今回は自身が三年生ということで飛ぶ鳥落とす勢いで得点を重ねていった。前半戦だけでも三万点を越す点を取り戻していた。
ただし他校の選手も健闘を見せていた。阿知賀の中堅である新子憧はセーラ以外で唯一のプラス収支で終わらせていたし、白糸台の渋谷尭深は後半戦のオーラスでは役満を和了る離れ業をやってのけたのだ。これは尭深の
ここで点数を大きく落としたのは新道寺で、この時点でトップとの差が約十五万点開くこととなった。
副将戦。
ここでは白糸台が莫大な点数を削り取られた。代わりに点数を大幅に伸ばしたのは新道寺であり、二位三位四位の点差は一万点も開いておらず、僅差にまで持ち込んでいた。トップは依然白糸台ではあったが、最下位とも五万点以内とここにきて勝負の行方が読めなくなってきたのだった。
「さて、遂に私の出番だね」
グッと背を伸ばし立ち上がったのは白糸台大将──大星淡である。
「淡、分かっているだろうな?」
「もちろん、この対局では『咲と出会う前の自分で戦え』でしょ?」
「覚えているならそれでいい」
白糸台の照以外のメンバーはある作戦を実行していた。
それは実力が計られないように手加減をすることであった。手加減と言っても現在の状態から考えてであり、咲と出会う前の本気の自分というのを軸にして対局していたのだ。
数ヶ月前の咲との出会いは白糸台にとって転機であり変革の機会であった。その代表は淡自身であるが、その他多くの部員が自力の向上に繋がっていた。はっきり述べるのなら、以前と以後では確実に後者の方が強い。
菫であれば自分でも認識していなかった癖の把握。尭深であれば
しかし、だからと言って手の内を早々に見せびらかすわけにはいかなかった。この程度の成長は咲にしてみれば手に取るように見透かしていることだろうが、それでも他の高校には隠すことに意味がある。準決勝時点で力を測り損なってもらうと、白糸台としては有難いのだ。
「まぁ、セイコは流石に削られすぎたけどね。五万点越えはちょっとヒドいよ」
「新道寺の副将は紛れもない全国区のエースなんだ。あの頃の誠子ならこれくらいが無難だろう」
「ふーん、そんなものかー」
まぁ、関係ないけどねと、淡は小声で呟いた。
(私が全部叩き潰すんだから)
「それじゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい、淡」
王者の風格を纏って、淡は対局室まで歩を進める。
その瞳には魔物特有の焔が灯っていた。
──大将戦が始まる。
和「咲さん」
咲「何でしょう和様」
和「帰ったら今度は部長に土下座ですね♫」
咲「ですよねー」
魔王を地べたに土下座させた和ちゃんは伝説になるでしょう。
副将戦までに関しては面倒だったのでキンクリで原作通りです。何か期待されていた方がいたら申し訳ありません。ただ、私としても皆様としても早く進めた方が良いかなと思った次第です。
この後の大将戦ですがまだプロットができてないです。というよりどこを上げるかも決めてないです。ちょっと活動報告で心境だけ書こうかなと考えています。