咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら 作:サイレン
今回のお話しは
『シリアスなようでシリアスでない』
が、コンセプトになっております。
あとご都合主義な描写もあるのであしからず。
「みんな、朗報だよ。準決勝進出校は私たち、宮守女子に決定したわ」
宿泊先の部屋に集まっていた部員たちに向かって、大会本部から帰って来た監督のトシは開口一番にそう告げた。
テレビで準決勝第一試合の実況を見ていた面々は、何を言われたか理解出来ていない様子で惚けた顔を見せている。そんな彼女らを見て微笑ましい気持ちになるトシであったが、いつまでもフリーズされていては困るというもの。もう一度だけ、同じ内容の言葉を口にする。
「私たちの準決勝進出が決まったのよ? 何か言うことはないのかい?」
再度言われたことで、やっと思考が追い付いてきたのだろう。全員の表情は見る見るうちに喜色に染まっていき次の瞬間には、
「「「「「やったぁーッ!!」」」」」
っと、堪え切れずに歓声を上げていた。
「ホント⁉︎ ホントなの先生⁉︎」
「えぇ、本当よ。さっき正式にそう言い渡されたわ」
「良かったよー。これでまだ、みんなと一緒に麻雀が出来るよー」
「トヨネッ!」
「エイちゃ〜ん!」
「ほらシロ! あんたももっと喜びなさいよ!」
「そうだそうだ!」
「……いや、私にしては結構喜んでる」
各々にはしゃぎ、喜びを分かち合う五人。待ち侘びた返答が自分たちの勝利を告げるものだったのだ。嬉しくないはずがない。
トシも目の前の教え子たちと一緒に歓談に勤しみたいところではあったが、気を引き締めるためにも真剣な眼差しに切り替える。
「あんた達。喜ぶのはいいけど、進出が決まったからには次のことを考えなさい」
トシの雰囲気が一変したことで、彼女たちも冷静に状況を見極め始めた。
「ってことは、準決勝は私たち宮守と」
「臨海、有珠山」
「……そして清澄だねー……」
豊音の元気が途端に薄れていく。きっと、準々決勝での対局を思い出しているのだろう。あのような体験は、早々忘れられるようなものではない。
「宮永咲、かぁ〜。あれはホント化け物だったねぇ」
部長であり、副将を任されている臼沢塞は染み染みそう呟いた。彼女も彼女で咲の恐ろしさを思い出したのか、思わず身体を抱き抱く。それほどまでに、あの試合結果は鳥肌ものなのだ。
他のメンバーも納得を示すように頷く。中でも豊音は苦笑いを通り越して、笑みが引きつっていた。
「あれは凄すぎだしー、未だに信じられないよー。三校の点数を調整するって、出来るものなのかなー?」
「普通は出来ないだろうね。だからこそ彼女は普通じゃない。あれが、龍門渕の天江衣をいとも簡単に封殺した、宮永咲の力だよ」
トシの重い言葉に、場の空気が悪くなっていく。
しかしはっきり言って、どう対策したらいいのかが分からない。
咲には主に三つの武器があるのが分かっている。点数調整に加えて、咲の象徴ともされている嶺上開花。そして何より、敵対する上で恐ろしいのが、相手の能力を即座に自身のものにする常軌を逸した異能。
実を言うと咲にはそんなこと出来ないのだが、周りからはそう思われてはいない。咲の持つ最も恐ろしい能力として認識されている。
それもそのはず。手の内を明かせば明かすほどに、不利になるその理不尽さ。勝てる未来への展望が、全くもって広がらない。
なら逆に考えればいい。
「……厳しいことを言うけど、いくら豊音でも、宮永咲に勝つのは難しいわ。だから、……宮永咲とは戦わない」
勝てないのなら、戦わなければいいのだ。
「準決勝は恐らく、大将戦前に如何にどこを飛ばせるか。そういう試合運びになってもおかしくないわ。肝に銘じて置くようにお願いね」
「「「「「ーーはいっ!」」」」」
作戦とも言えない逃げの提案ではあったが、一番現実味を帯びている。
次の準決勝は荒れるだろう。
現に今、荒れに荒れ果てた第一試合が終わったところである。何かハプニングがあったようだが、作戦会議をしていた宮守の耳には入っていなかった。
だがしかし、その後のテンションMax最高潮に達した福与アナウンサーの発言には、耳を疑った。
『ビーーッッックニュースですッ!!! 先ほど入りました情報によりますと! なんと清澄高校大将の宮永咲選手は! 白糸台高校先鋒の宮永照選手の実の妹だそうですーーッ!!!!』
ですーですーですー…………。
「「「「「エェェェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーッッッ!!??!!?」」」」」
宮守女子の宿泊先で今度は、堪え切れずに絶叫が響き渡るであった。
****
「ーーーー〜〜♪……。どうですか怜さん?」
「信じられんほど楽になったわぁ〜。ホンマおおきになぁ」
「いえいえ、これくらいなら」
所変わってここは千里山女子控え室。
あの混乱を起こした後。とりあえず押し掛けて来そうなマスコミからの避難と、怜の体調を万全に戻すことを目的としてここまで逃げてきたのだ。
つい先ほど、竜華の膝枕で寝転がっている怜に対する『癒』のオーラでの治療が終わり、束の間のリラックスタイムと相成った。
「ホンマありがとうなぁ咲ちゃん! 怜がこうしてここにいられるのも、咲ちゃんのお陰やわぁ」
「竜華さんもそんなお気になさらずに。悪いのは全部、ここにいる姉ですから」
「うっ……」
容赦の無い咲のキラーパスを、顔面で受け止める照。チャンピオンとしての威厳は何処へやら、今では完璧にしょぼくれていた。
そんな照を堂々としかとする咲。どうやら肝っ玉の太さは、妹に軍配が上がっているようである。
「他校の生徒やからあんまとやかく言えんが、礼は言っとくで。うちの生徒が世話になった」
「あなたは……」
「千里山女子麻雀部監督の愛宕や。よろしゅうな」
「清澄高校の宮永咲です。この度は押し掛けてしまい申し訳ありません」
「えぇえぇ。この程度は気にすることやあらへん」
……それよりも、と愛宕監督は表情を曇らせる。
「問題なんは白糸台と清澄や。そこらへん理解しとるか?」
「はい。その辺りは白糸台の監督さんが、今からなんとかしてくれるはずです」
「まぁ確かにあいつは器用やからなぁ……。今からっていうのはどういう意味や?」
「見てもらう方が早いでしょう。淡ちゃん?」
「オッケー。リモコン借りるよー」
同じくここまで付いて来ていた淡は、そそくさのリモコンをぶん取る。他校の控え室だというのに、一切の遠慮がないのは実に淡らしい。
抗議の声が上げる暇も与えず、リモコンを操作して目当てのものを探し出す。
「あったあったー」
映し出されたのは急遽用意された会見場。真ん中には、件の白糸台高校監督が座っていた。
『えぇ、本日はお集まり頂き誠にありがとうございます。事前の連絡もなしにこのような会見を開いたこと、深くお詫び申し上げます』
大量のフラッシュがたかれる。相当な数のマスコミが、あの場に押しかけているのが分かるだろう。
挨拶に始まり、他校の選手である咲を控え室に招き入れるなどの、監督としての無責任な行動の件などを謝罪していく。当然の流れではあったが、責任追及には逃れられない。これでは監督の立場も危ういだろう。
どんな風に話しを捏造するのかまでは相談していなかったが、監督への助け舟を出す上でもあの場に行かなければならないであろう咲は、気が重くなっていくのを感じていた。
(エスケープしたいなぁ〜……)
『本日このような会見を開いたのは他でもありません。宮永照さんと、宮永咲さんについてです。後ほど二人もこの場に来るでしょうが……』
(あっ、逃げ道がなくなったよ……)
こうなったら徹底的に猫かぶってやる。公の場では姉と同じキャラで進もう。
そう決心した咲であった。
『本当は二人が話すべきなのでしょうが、第三者が話す方がいいと許可を得ているので、私から二人についての今までを語りたいと思います』
トントン拍子で会見は進んでいった。ここからが本番である。
咲もこの後の展開は知らない。もちろん、照も知っているわけがない。むしろ照は何も理解していない。今はいつものように毅然とした態度を保ってはいるが、保っているだけだ。内心困惑してるだろう。本当、麻雀以外では殆ど頼りにならないダメ姉である。
監督の語りは、厳かな空気を伴って始まった。
****
幼い頃の宮永姉妹は、近所でも評判の仲良し姉妹だった。
温厚篤実。年齢にしては大人びた雰囲気を持ち、優しい微笑で妹を見つめる照。
天真爛漫。太陽のように輝いた笑顔を浮かべ、いつも姉の後ろをついて回っていた咲。
比較的田舎に住んでいたこともあり、毎日野を駆け山を駆け、健やかな毎日を過ごしていた。ちょっぴり人見知りなところもあったが、それも欠点にならないくらいに明るい少女たちだった。
そんな二人にある『出会い』が訪れた。それが、麻雀との出会いである。
当時から麻雀は世界的に大流行していたので、試しにと父親が自動卓を買ったのが切っ掛けとなったのだ。……これが後に、悲しい別れを引き起こすなど、誰も思っていなかっただろう。
買った当初、咲はまだ幼すぎてルールを理解出来なかった。そのため咲と遊ぶ傍ら、暇を見つけた照だけが麻雀を学んでいた。照も前から興味を惹かれていたらしく、真剣な眼差しでルールブックと睨めっこしていたらしい。咲がそれを見つけて駄々をこねることも多かったそうだ。
照がルールを覚えた頃、これまた試しにと、父親は照を麻雀が打てる喫茶店へと連れて行った。普段は冷静沈着である照も、この時ばかりは落ち着かない様子でワクワクしていたようだ。麻雀を打つ照は、心底楽しそうにしていたらしい。
初めての対局。その時から既に、照は才能を発揮させていた。
圧倒的な場の支配。
異常に高い和了率。
照の真骨頂ともされる連続和了。
照はまさしく奇才であった。
世の天才をも上回るその才能に、両親は驚くと共に喜んだ。もしかしたら、自身の娘が日本を代表する選手になるかもしれないと。照も照で麻雀が大好きになっていたため、そんな未来を夢想するのは自然なことだった。
そんな姉を見て、咲も麻雀を覚え始めた。……これが、悲劇の幕開けだったのかもしれない。
「これで、家族四人で麻雀が出来るね!」
咲の多大なる努力のおかげで、そう間を置くことなく家族で麻雀を打つようになった。
楽しく和気藹々に打とう。
……父親とのその約束は、結果として果たせなかった。
照は
そして咲は、
その強さは他の凡夫とは一線を画しており、圧倒的な才を持つ照でさえも、咲の前では歯が立たなかった。まるで神に与えられた恩恵かと錯覚させるほどの、類稀なる才を咲は秘めていたのだ。
これには流石に両親も唖然となった。もう一人の娘の実力が、まさか照をも超えるなんて思ってもみなかったのだ。
照は最初こそは咲の才を喜んだ。姉妹二人でプロ雀士になるのも夢じゃないと、心の底からそう思っていたのだ。
しかし時が経つにつれて、照は少しずつ、ほんの少しずつ不機嫌になっていった。
それも仕方のないことだったかもしれない。
姉なのに、自身の方が早く始めたのに、妹である咲に全く勝てない。頭では最低だと理解していても、咲に対する妬みや嫉みなどの悪感情が産まれるのを、照は抑えられなかった。
咲も次第に、照のそのような想いを感じ取っていった。そのような感情を姉からぶつけられるのは初めてで、咲はすごく悲しんだ。
なんとかしないと。
どうすればいいんだろう。
必死に考えついた答え。それは「自分がわざと負ければいいんだ」という、出してはいけない回答だった。
咲を責めることは出来ないだろう。子どもだからこそ、安易な結論に行き着いてしまっただけなのだから。
咲はただ、みんなで楽しく、大好きなお姉ちゃんと一緒に遊びたかっただけなのだ。
ある日を境に、咲が勝つことが目に見えて少なくなっていった。照は当然不思議に思い、そして察してしまった。咲は手加減してるのだと。
第一に照は自身を恥じた。可愛い妹に、こんな風に気を遣わせるなんて、お姉ちゃん失格だと。
第二に照は怒りを感じた。手加減されて勝っても、これっぽっちも嬉しくないんだと。やるのなら、勝つのなら全力で挑まなければ意味なんてないんだと。
この日から、家族麻雀は歪なものへと変化していった。
勝っても負けても、最終手段のプラマイゼロでも、不機嫌になってしまう照。
最初は好きだったのに、麻雀自体が嫌いになっていくのを止められない咲。
崩壊するのも、呆気なかった。
崩壊したその日は、最後の家族麻雀が行われた日だった。
****
「の、のどちゃん! なんか大変なことになってるじぇ⁉︎」
「もう! 咲さんは何してくれてるんですか⁉︎」
清澄高校の選手という、咲とバッチリ関係者である和と優希は、準決勝の観戦を放ったらかしにしてスマホの映像にかじり付いていた。
わざわざ旧友の試合を見ようとこうして会場にまで駆け付けたのにも関わらず、待っていたのは山程の観客で埋もれている中継会場と、訳の分からぬ間に開かれている咲に関する会見だった。特に後者が酷い。意味が分からない。どうしてこうなった。
会場で聞いたアナウンスのような何かには心底驚いた。何せ親友が今まで隠し通してきた秘密が、物の見事に暴露されているのだから。
面倒ごとの気配を感じた二人は直ぐさまそこから退散し、落ち着ける場所にて会見を聞くことにしたのだ。だから今二人は、会場の外の木蔭にいる。
『その日は、最後の家族麻雀が行われた日だったそうです』
聞き覚えのあるシチュエーションに和は胸が痛む。和は咲から直接何があったのか聞いた身である。この後に起きたことも、当然知っていた。
『その日、我慢しきれずに照さんは咲さんに怒鳴ってしまったようです。「どうして本気で打ってくれないの!」と。そんな照さんに対して、両親は落ち着くように取りなしたようですが……』
(……おや?)
和は首を傾げた。
咲から聞いた話しと、似ているようで細部が異なっている。
確かに照がそんなことを言ったとは聞いた。でも記憶通りなら、母親もそんな感じだったような……。
『その間俯いていた咲さんから、鼻をすするような音を聞いたときに、照さんはやっと冷静になったようです。……でもそれは、全てが終わってしまった後のことでした』
…………あれ?
なんですかそれは……?
そんな話しは知りませんよ……?
和は絶賛大混乱していた。
細部どころではない。これでは聞いた話しと完璧に違う。咲はここでブチ切れないとおかしいのだ。でなければ、あんな性格の悪い女の子は完成しない。
『咲さんは泣きながら照さんに訴えたようです。「もう嫌だ、もう麻雀なんてしたくない。もうそんなお姉ちゃんは見たくない」と』
「咲さんはそんな純真な人じゃありません!」
「ど、どうしたんだじぇのどちゃん!!?」
突然の叫びと、そのあまりにもあんまりな内容の発言に飛び退く優希。
自称親友、言ってることが最悪だった。
『「お姉ちゃんなんてだいっきらい!」。これが、別れる前に照さんと交わした、咲さんの最後の言葉だったそうです』
和はこの時になってやっと察した。
……これ、捏造だ。そうに違いない。
訳知り顏で語っているこの人は、このような公の場面で、堂々とウソ八百を並び立てているのだ。並の度胸ではないのだろう。
なぜそのような必要があるのか分からないが、ここまで大々的に報道してしまったのだ。もう取り返しはつくまい。
(私は知らない、私は知らない、私は知らない、私は知らない、私は知らない……)
……和はそっと、胸の奥の奥に真実を収めることに決めたのだった。
****
その後すぐ、二人に別れの時が来た。
母親が都合で、長い間東京に移り住むことになったのだ。
父親は仕事の関係上引っ越すことが不可能で、本来なら単身赴任という形になるそうだったのだが、あまりにも咲との仲が悪くなってしまった照は母親について行くことに決めたのだ。
このまま同じ空間にいては、関係の修復は見込めない。一度、距離をとってみようと。
喧嘩別れになってしまった二人。そんな二人を再び結び付けたのは、やっぱり麻雀だった。
別れの後、照は麻雀を極めようと努力した。方向性がおかしいかもしれないが、照にはそれくらいしか出来なかった。
今度咲と麻雀するときは、咲が心から楽しめるくらい強くなろう。咲の全力にも、応えてあげられるくらい強くなろう。
その想いが実り、照は高校二年生の時にインターハイ、春季大会で個人戦一位を獲得。名実共に高校生最強の名を手に入れ、『高校生一万人の頂点』と呼ばれるまでに成長した。
一方咲は、麻雀とは極力関わらない生活を送っていた。無意識に垂れ流される圧倒的な強者としてのオーラが、咲をそうさせていたのだ。
「自分と麻雀を打つ人は、麻雀を楽しめなくなるんだ」と、大好きだったはずの姉との別れは、咲にそんな自己暗示を刻み込んでいた。
長い間そのような生活を送って、咲は高校生になった。
そのとき咲は出会ったのだ。
全中覇者である原村和と。
きっとこれは、出会うべくして出会った、運命的なものだったのかもしれない。
偶々友人がその頃になって麻雀に興味を持ち、偶々その日に限って面子が足りなくて、偶々その日暇していた咲を友人が無理やり麻雀部に誘い、導かれるようにして原村和と出会ったのだ。
そして、咲にとっては本当に久しぶりの麻雀が行われた。咲にとって久しぶりの麻雀は、姉との悲しい別れの原因である麻雀は、楽しかった。楽しかったのだ。
でも、咲が楽しくても、周りはそうじゃない。そう思っていた咲は、家族麻雀でやっていたようにプラマイゼロで和了ることにした。
みんなが楽しく麻雀できるように。
嫌われないように。
波風立てないように。
そんな無意味な心配は、簡単に打ち砕かれた。和が、打ち砕いてくれた。
「全力で打ってない人と打っても楽しくありません! 私にも、楽しませて下さい!」
そんな意味不明な理論でしつこくアタックされたため、咲は一度だけ本気で打つことにした。どうせこんな自分を見たら、あのようなことは言えなくなってしまうんだろうと。諦観に似た気持ちで、全中覇者である和を手心加えることなく封殺した。
咲にとって予想外だったのはその後。
「もう一度! もう一度だけお願いします!」
負けたことが悔しい、でもそれ以上に楽しそうな和は、咲にとっては新鮮だった。だからこそ、咲は思わず聞いてしまっていた。
「私と麻雀打つの、楽しい?」
その問いには、満面の笑みと共に答えが帰ってきた。
「はいっ! とっても楽しいですっ!」
咲はこのとき、ようやく思い出したのだ。自分は、麻雀が大好きなんだと。麻雀がしたくてしたくて堪らないんだと。
「……お姉ちゃんとまた、麻雀したいな」
大嫌いなんて言ってしまった。本当は大好きなお姉ちゃんなのに、そんな心にも無いことを言ってしまった。
「それでも、お姉ちゃんと麻雀がしたい。今はもう何をしているか全然知らないし、もしかしたら嫌われてるかもしれないけど、出来ることならもう一度、お姉ちゃんと麻雀がしたい!」
家に帰り、父にそう告げた咲。その時の父はとても嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「咲がそう言うのを、ずっと待ってたよ」
取り出されたのは、照の記事が特集されている記事。あるアナウンサーとの対談形式の会話が載ってあり、照の本心が語られていた。
『仲直りしたい人がいる』
『麻雀が大好きだったその子と、仲直りしたい』
『私のせいで喧嘩別れみたいになったその子と』
『でも、不器用な自分では、面と向かって謝れないから』
『だから、その子が大好きだった麻雀を通して、仲直りがしたい』
……すれ違っていただけだったんだ。
……気持ちはずっと繋がっていたんだ。
咲は照に、無性に会いたくなった。
「お父さん、明日お姉ちゃんのところに行こう!」
****
『そして四月半ば頃に、咲さんは白糸台高校に訪れました。照さんとは、それはもう感動的な再会を果たしたのです……』
(うわぁ〜、大分盛ったなぁ。引くわぁ……)
両親に迷惑掛けない程度に話しを捏造して良いという、咲の出した条件をギリギリにまで活かしたその話術に咲は感動を覚える。何より語りが上手い。特に評価したいのが、咲の心情をこれまた不自然なく感動的な
しかしこれで、聴衆を味方に付けたことが出来ただろう。
その代償として咲のキャラは、良い言い方だと『健気な妹』で、悪い言い方だと『シスコン』というところだろうか。どちらも全力でお断りしたい。
実際は、ストレスマッハでブチ切れた女の子です。
「グスン……えぇ話しやぁ〜。うち感動したで!」
「ホンマに、苦労したんやなぁ」
此処に見事に騙された観客が二人いた。これはもう、嘘だと言えない。
「(咲、何これ? 私聞いてない)」
「(私も聞いてないよお姉ちゃん。でも、“こうだった”ってことにしよう)」
「(分かった)」
小声での打ち合わせが終了する。
『そして照さんと咲さんは約束しました。全国大会の舞台でまた会おうと。その約束は果たされ、今二人はこの場にいます。……ですが、トーナメント表を見ての通り、清澄と白糸台は決勝にならないとあたりません。そんな折に今日の朝、照さんの応援に訪れた咲さんを見て、……親心が働いてしまったのです』
(なるほど、そう持っていくのかー。監督さん中々上手いなぁ)
聴衆を味方に付けた状態で、このように言われれば心情的に責めにくい。これなら罰は罰でも、厳罰は免れるかもしれない。
(あとは私とお姉ちゃんがあの場に行って、監督さんを庇えばいい感じになるかな?)
悪巧みは止まらなかった。
『先ほど宮永咲選手が披露した、あの現象は何なのでしょう?』
『あれは、幼い頃照さんが咲さんを寝かし付けるために歌っていたそうです。それが切っ掛けで、あのようなことが出来るようになったと聞きました』
「(サキ、今のホント?)」
「(全ッ然。偶々テレビで流れたのを鼻唄で歌ってたら、お父さんに効果があっただけだよ?)」
「(ロマンのカケラもないね……。真実は残酷だ〜)」
「(とりあえずお姉ちゃんは、あの歌今すぐ歌えるようにして)」
「(……うぃ)」
「それじゃお姉ちゃん、行こっか?」
「そうだね。大丈夫、咲は私がフォローする」
「お願いね、お姉ちゃん。淡ちゃんはどうする?」
「へ? そりゃ控え室にもどるよ? まさか巻き込まないよね⁉︎」
「さすがに今回は無理かな、……残念」
「ホント止めてよ⁉︎」
二人の次の舞台は会見会場に決まった。
やるべき任務は二つ。仲良し姉妹を世に見せ付け、監督を救うこと。
(まぁ、なんとかなるでしょ)
「絶対淡ちゃん巻き込んでやる」
「だから止めてって言ってるじゃん!」
一つお知らせです。
1話から加筆&修正しました。
まだ全ての話が終わってませんが、時間を見つけて修正したいと思います。興味があって時間のある方は是非チェックしてみて下さい。
いやー、最初のほうはホントあれだったんで……。
……咲-Saki- の原作で一つ、目を疑うものが飛び込んできました。
まだ見てない方もいると思いますが(自分も内容を読んだわけではない)、カラーページが衝撃だったんです。
以下にそのネタバレを一言で書くので、ネタバレダメゼッタイ! の人はここでbackしてください。
淡の胸デカすぎィッ!!?