咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら 作:サイレン
照の和了りによって、怜の朦朧としていた意識が覚醒した。
(今、……振り込んだん、か?)
(まるで、永水の神代、みたいやな……なんて、言うてる場合、ちゃうか……)
とりあえず点棒を照に渡す。これまで毎日手にしたことがあるはずなのに、今は鉛でも持っているかのように感じた。続けて牌にも触れるが、これも重くて重くて仕方がない。
(牌って、こんなに……重かったかな……?)
まるで自分の身体じゃないかのようだ。ここまで動くのが怠いと思ったのは、人生初めての経験かもしれない。
(生きるって、辛いなぁ……)
欲望を言うなら、もう横になって休みたい。親友の竜華の膝枕で寝たい。八つ当たりに照を物理的に殴りたい。もちろん大阪人的ノリのツッコミで済ますが。
しかしそれらは全部後。あと二局を乗り越えたらである。
(南三局か。さっきのが……跳満やったから、次は倍満か。とりあえず、この局は振り込まへん)
一巡先を見てみる。相変わらず視界が霞んでいるが、今までのように見ることが出来た。結果的に二局捨てたことが休息に繋がったのだろう。
跳満直撃の損害は少なくなかったが、照の親番を止められなければもっと酷いことになるのだ。未来が見えなくなったら、文字通り終わりである。
「………ふぅ」
一息つく。自身に気合を入れることもそうだが、一番の目的は別にある。
(二人に、かなり心配……かけたっぽいなぁ。まだ大丈夫……やで)
そう、玄と煌に無事を知らせるのが第一だったのだ。
一巡先が見える怜が誰かに振り込むことは普通あり得ない。なのに、そのあり得ないことが起きてしまったのだ。動揺しないわけが無い。
現に二人は先程まで目を見開いて此方を見ていた。
(大丈夫、大丈夫……。大丈夫)
自己暗示をかけながら精神を奮い立たせ、再び瞳に強い意志を乗せて対局に臨む。
そんな怜を見て、玄と煌も一先ず安心した。
(……よかったぁ)
(とは言え、状況が好転したわけではありませんが……)
「リーチ」
照のリーチ棒を立てての立直宣言。
怜は一巡先を見るが、見えた未来は予想通りではあったが残酷なものだった。
「ツモ。4000、8000」
〜南四局〜
白糸台 220000 東
新道寺 59700 南
千里山 65200 西
阿知賀 55100 北
(大丈夫……)
『若くして真理に到達したな』
(大丈夫……)
『けど、うちらがやりたいことなんで』
(大丈夫……)
『一緒におることで、何かしらええ効果があるかもしれませんし』
(大丈夫……)
『けど、そうなるんがインハイなんちゃうんか?』
(…………大丈夫、大丈夫)
怜が思い出しているのはチームメイトのみんなだった。
身体の弱い自分のためにいつもいつも尽くしてくれた。負担になり過ぎないように対局のシフトを優遇してもらったり、病院から禁止されていた合宿参加への許可をもらったり。
(……ずっと夢見てたんや、竜華とセーラと、この舞台での対局を)
元々は三軍だった。いや、今でも本質的な実力は変わってないだろう。
きっかけは約一年前だ。生死の境を彷徨ったあの経験のお陰で目覚めた、一巡先を、未来を見る力。
怜にはこれしかない。この力で不可能だと思っていたレギュラーになれたんだ。
だから、最後まで信じる。
(照を止めるには、もっと先を)
二巡でも駄目。
三巡でも駄目。
なら、この先のさらなる未来に。
(行け、行け、行け……!)
これ以上は本当に危ないかもしれない。また、同じように倒れるかもしれない。それでも。
──それでも進む!
(──行け……っ!!!)
──それは、今まで見たことがない未来だった。
瞳に映る光景が加速するのではなく。
これからの可能性という全ての未来。
一つ一つの選択により分岐する様々な未来。
(……なんや、これ?)
三巡どころではない。
和了りまでの最速の未来が見える。
勝つための最善の未来が見える。
もちろん戸惑いはあった。
自身の望みが幻覚となって見えただけかもしれない。
無理をし過ぎて、未来を見るこの力自体が壊れてしまったのかもしれない。
だけど怜は、それらの可能性を全て消し去る。
ここまで一緒に歩んできたこの力を、見える未来を、信じているから。
「ポン!」
怜は笑みを浮かべる。
(知ってたで、煌が…動いて……くれるのを!)
「……チー」
続けて怜が鳴く。
見えた通りの未来なら、ここで自摸番をずらすことにより玄の捨て牌が変わる。変わった牌は、
「ポン!」
煌が鳴く。
(……凄い、これなら……!)
「リーチ」
「……ポン」
(……いける!)
照の立直すらも防げた。これで一発自摸は阻止。更に照は捨て牌を選べない。
「……ポン」
(改変……)
「またまたポン!」
(完了っ!)
こうなったら一巡先が見えていようと関係ない。例え見えていても、照はもう、運命を変えられない。
散々な目にあった。一体どれだけ毟り取れば気がすむんだと思うほど、点棒を減らされた。
だから、お返しだ。せめて一矢報いてやる。
煌の想いを乗せて。
玄の想いを乗せて。
自分を待つチームメイトの想い乗せて。
みんなの想いを乗せて。
(──喰らえッ!)
「……ロン」
巻き起こる嵐は止み。
「8000!」
──対局が終わった。
それと同時に気力が失われていく。意地だけで支えていた身体が傾き始める。もう、倒れてもいいいいんだと思った。
何もかもを出し尽くした怜が、最後によぎったのは、親友の笑顔だった。
(………ごめんな、……竜華)
〜先鋒戦終了〜
白糸台 212000
千里山 73200
新道寺 59700
阿知賀 55100
これにて先鋒戦は終了です。照さんが何を思っていたのかとかの解説は次々話になるかと。次の話はやることは決まってますので。
竜華に託すことが出来るなら、怜だって怜ちゃんモード出来てもおかしくはないですよね……? 大分強化されていますが……
あとがきらしく、今回は次回予告をやってみよう!
予告(遊戯王風)
「アカンやめて! 怜ッ!」
竜華の必死の想いも届かず、怜は能力を酷使し過ぎてしまった!
薄れゆく意識! 倒れてゆく身体!
お願い! 無事でいて、怜ッ! 折角チャンピオン相手に一矢報いたんだから!
そして、息を切らして辿り着いた対局室で、竜華が見たものとは……!
次回『怜、死す』
まぁ、ウソですけどね(笑)
もう一回!
予告(デジモンアドベンチャー風)
能力を酷使し、倒れる怜
駆け寄る対局者たち、親友の竜華
一向に良くなる気配がなく、募っていく焦りと不安
このまま、何もしないのは嫌だ!
照の想いが形となった時、全国を震撼させる、重大な謎が解き明かされる!
次回 咲-Saki-『新たな世界』
今、
これは意外と本予告ですよー(笑)
デジモン超楽しみーーー!!!
ヒカリちゃんが可愛ければ最早それだけでいいけど、未だに空とヤマトがくっ付いたのが謎……デジモンssも書いてみたい今日この頃、、、時間ないなぁ……。