咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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『決ぃぃまったぁぁッ! 清澄高校中堅、竹井久! 連荘六本場でハネ直炸裂! 副将に回すことなく一回戦突破だぁぁッ!!!』

 

「あら? ホントに終わっちゃった」

「流石部長だじぇ!」

「ホントにな!」

「ホンマに終わらせるとは……」

「そうですね……」

 

 全国大会一回戦。

 咲たち清澄高校は呆気なく突破することが出来た。出番すらなかった和と咲にとっては、控え室で観戦していただけなので苦労の苦の字もない。

 単純に久が強かった、ということなのだが、警戒していた割には特に問題なく進めたことに咲は拍子抜けしていた。

 

(これで全国とは……今思うと長野はレベル高かったんだな〜)

 

 県予選の段階で天江衣擁する龍門渕高校と当たっていた咲からすると、これでは手応えが無さ過ぎる。更に咲には全国連覇を成し遂げている白糸台とも対局経験があったため、そのレベルが普通だと思っていた。

 だが、蓋を開けて見ればこの程度。大将戦どころか副将にまで回らない始末。どうやら全国に対して些か期待し過ぎていたようだ。

 対局前に「あまり大暴れされてもアレだし、出来るなら咲の出番は減らしたいわ。飛ばせたら飛ばしちゃうから」という久の宣言を、最初はそんな簡単にいかないだろうと考えていたが見事期待を裏切られた次第である。

 

『どうですか? 小鍛治プロ?』

『えぇ、去年話題を呼んだ龍門渕高校を倒した実力は本物ですね。それに清澄高校には天江選手を倒した宮永咲選手もいますが、彼女抜きでも十分な強さです』

 

「咲ちゃん! 小鍛治プロに名前覚えられてるじぇ!?」

「その人はどこかで聞いたことあるなー。……そんなに凄い人なの?」

「凄いなんてものじゃありゃせんよ」

 

 聞くところによると、10年前のインターハイで優勝、史上最年少のプロ8冠、国内戦無敗、元世界ランキング2位などと過去の実績は枚挙に暇がない。

 それを聞いて咲は顔に喜色を浮かべた。ここ何ヶ月の中でも一番好戦的な目をしている。

 

「そんな面白そうな人がいるんだ! ぜひ打ってみたいなー」

「そんなこと言えんのはお前さんくらいのものじゃ……」

 

 その声には若干呆れが入っているおり、まこはげっそりしている。きっと想像して気分が悪くなったのだろう。

 

「…………でも、そんな人にまで知られてるとなると、私の知名度が本格的にヤバい気がするよ」

「気がするどころではありませんよ、咲さん。近いうちに必ずバレると思います」

「…………ですよね〜」

 

 咲にも諦めが入ってきていた。

 こうなると問題はどのタイミングでカミングアウトするかだが、今のところ自分からするつもりはない。きっとそのうち起こるであろう淡との再会が年貢の納め時になるだろうと、咲は思っている。

 そんな雑談をしていたが、実況の会話はまだ続いていた。

 

『あぁ、話題のあの宮永選手ですね! 小鍛冶プロから見てどうなんですか?』

『天江選手との対局を見ましたが、彼女は本当に強いです。それに……』

『それに、なんですか?』

『……いえ、何でもありません』

 

「……もしかして、私が本気じゃないことがバレてるのかな?」

「げっ⁉︎ マジか⁉︎」

「そうだとしたら驚きですね……」

 

 言葉を濁した小鍛治プロの様子からそう判断する咲。まさかあの対局だけでバレるとは思っていなかったが、聞いた通りの実力を持っているならそれも頷ける。

 

「ただいまー」

「おかえりなさいだじぇ、部長!」

「おかえりなさいです、部長」

「お疲れさん」

「お疲れ様です」

「お疲れ様です、部長」

「んっ、ありがとね」

 

 久が帰って来た。小鍛治プロについて話していたら思っていたより時間が経っていたようだ。

 

「何話してたの?」

「実は小鍛治プロ、私が本気ではないことに気づいているようなんです」

「ホントに? 流石は小鍛治プロね……」

 

 久もこれには驚いていた。久が意図的に隠すよう命じたわけではないが、まさか見抜ける人がいるとは思っていなかったのだ。

 

『あっ、そうだ私気になってたんですが、宮永選手もあの《牌に愛された子》なんですかね?』

『間違いなくそうだと思いますよ。宮永咲選手は《牌に愛された子》であるあの天江衣選手を倒したのですから』

 

「あっ! 私も気になってたんですが、《牌に愛された子》はお姉ちゃんと衣ちゃん以外にはいないんですか?」

 

 咲の質問に対して、久は、

 

「いるわよ、一人。しかも……」

 

 こう答えるのだった。

 

「次の対戦相手にね」

 

 

****

 

 

 全国高校生麻雀大会の会場のある控え室の一室。

 中には巫女服に身を包んだ少女が四人いた。一見すると参加選手には到底見えないが、列記とした今大会の出場校の選手である。

 

「うーん、清澄ねぇ……」

「あの龍門渕を倒してきたところですよー、こわいですねー」

「天江衣ちゃん」

「あぁ、あのちっこい子。凄かったね去年」

 

 優雅にお茶を飲み、落ち着いた雰囲気を醸し出している──石戸霞。

 日焼けあとが目立つ、快活そうな少女──薄墨初美。

 片手に袋、もう片方の手でその中身である黒糖を口に運んでいる──滝見春。

 眼鏡を掛けた真面目そうな少女──狩宿巴

 彼女たちこそ鹿児島県代表校にして、去年の龍門渕と同じく驚異的な印象と成績を叩き出した高校──永水女子高校である。その影響は去年までは全国大会シードの常連であった南大阪代表・姫松高校がシードから外れるまでに及んだ。

 そんな彼女たちは、今大会で初出場である清澄高校について話していた。

 

「一回戦では二校、二回戦では三校もまとめて飛ばしてたものねぇ」

「清澄はきっとそれ以上ですよ」

「宮永咲ちゃん」

「あぁ、あの噂の。だとしたら、この三校じゃ厳しいかな?」

「何故?」

「学校数が少ない県ばかりですか?」

 

 そのタイミングで、部屋の戸が開かれた。

 現れたのはこれまた巫女服を身に包んだ少女である。

 

「だからといって、侮ってはいけませんよ」

「姫様」

 

 現れた少女に対して随分と仰々しい呼び方であるが、これは彼女たち分家である《六女仙》にとって、本家出身の少女に対する礼儀の一つであった。本人も今更言葉遣いを気にすることはない。

 

「例え、地区大会が二十校の県だとしても、鹿児島の決勝であたった方々と同じくらいは勝ち抜いてきた、ということでしょう」

 

 少女は四人に語り掛けるようにそう言い、テレビ画面へと視線を向ける。その視線は清澄を含めた、全ての高校を見据えているようだ。

 

「県予選決勝の三校の中に、侮っていい相手がいたでしょうか?」

 

 その問いに対し、四人は首を振る。そんな相手はいなかった。これまであたってきた相手の中で、油断していい相手など一つも存在しなかった。そして、それはこれからも言えることだ。

 

「全ての相手に、敬意を持ってあたりましょう」

 

 彼女の名前は神代──神代小蒔。

 彼女こそ、白糸台高校の宮永照、龍門渕高校の天江衣と並び称される《牌に愛された子》の一人である。

 

 

****

 

 

 一回戦から二日後。丸一日オフを挟んで、今日は二回戦がある。

 間のオフの日は白糸台高校の全国初出陣だったにも関わらず、その日の咲は私服姿で帽子を被り、本一冊持って、「散歩兼実験」と言って何処かへ出掛けていた。その際久に、「携帯持って行かなかったらぶっ飛ばすわよ」と笑顔で言われたため、咲は大人しく取りに戻るという一悶着があったのだが、その日は無事に帰ってきた。

 周りからすると咲が対局を見たのかも定かではないが、逆に言えばこのくらいのイレギュラーしかなかったため、特に問題もなく二回戦を迎えることに。

 

 全国二回戦。

 清澄、宮守女子、姫松、永水。

 宮守女子は清澄と同じく今年全国初出場校。福岡の実業団で監督をしていた熊倉トシが率いていることもあり、注目されている。

 姫松は強豪中の強豪校。全国大会にも数多くの回数出場しており、今年の優勝候補校の一つ。

 永水は四校しかないシード校の一つ。昨年存在感を見せつけた神代小蒔をはじめ、こちらも注目株だ。

 そして、清澄。最初は全中覇者である原村和のみが目立っていたが、天江衣を圧倒し、個人戦で異常な稼ぎを見せつけた宮永咲も注目されている。

 咲に関してはその名字から、もしかしたらあの宮永照の親族なのでは? という疑惑も当然出回ったが、真相は未だに不明。この点も含めて清澄自体が要注意高校となっていた。

 

 まもなく対局が始まる。






とか盛り上げてますけど、おそらく大将戦までダイジェスト感覚になると思うので悪しからず(ー ー;)

フラグ建てるだけ建てて回収する気は……

vs神代小蒔ちゃん
vsすこやん
決戦《牌に愛された子》

……………えっ?そんな予定ありませんよ(すっとぼけ)

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