咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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 21世紀。

 世界の麻雀競技人口は数億人を超え、プロの麻雀プレイヤーは人々の注目を集めていた。

 日本の高校でも大規模な全国大会が毎年開催され、そこではプロに直結する成績を残すべく、高校生麻雀部員たちが覇を競っていた。

 そして今日、ここ長野でも、全国大会へ出場する県代表を決めるための県予選があった。

 

 

****

 

 

「私は迷子じゃない。私は迷子じゃない。私は迷子じゃない。私は迷子じゃない。私は迷子じゃない。私は迷子じゃない。私は迷子じゃない……」

 

 長野県予選大会会場。

 まるで自己暗示させるように、延々と念仏を唱えて続けている少女が一人いた。

 その少女は白をベースとしたセーラー服に、紺のロングスカートで身を包んでいる。

 外見的な特徴はショートカットの前髪が角のようにとんがっていることくらいで、あとは何処にでもいるような普通の女子高生。

 

 彼女の名前は宮永咲。

 今日この全国高校生麻雀大会長野県予選に初参加する、清澄高校麻雀部の一年生である。

 本来であれば周りに他の部員がいるのだが、今はいない。現在咲は一人だった。

 

 経緯としてはこうだ。

 部員全員で県予選の会場入りしたあと、ふと見かけたトイレに寄り、ふと周りを見渡したら誰もいなかったのだ。

 

 要するに迷子だった。

 酒を呑んで「酔ってなんかいないれすよ〜」というやつほど酔っているのと同じで、「迷子じゃない」などと呟いている時点で迷子なのは確実なのだ。

 

(……しょうがない。みんなを探すついでに、(くだん)の天江衣でも探しますか)

 

 今日は県予選当日。ここはその会場。そのため、ここには多くの高校生雀士がいる。

 咲は自身の実力に驕りを持っている、というわけではないが、ほとんどの有象無象には興味がない。理由は唯一つ、咲が圧倒的強者であるから。

 そんな彼女ではあったが、以前から一人だけ注目している打ち手がいた。

 

 龍門渕高校の天江衣。

 

 龍門渕高校とは昨年の長野県代表校である。

 加えて。エースである天江衣は、超人的な打ち手だという話を聞き及んでいた。

 これがただの世間話程度であったなら、咲も大して気にしなかっただろう。だが、この話を直接聞いた相手が相手だった。

 その相手とは咲の実の姉であり、現高校生チャンピオンでもある宮永照。彼女に警告されれば嫌でも気になるというものだ。

 とは言っても、咲はその天江衣の姿を見たことはないし、特徴すら知らない現状である。

 理由としては、「興味はある、だけど負けるとは思っていない」というのが咲の偽らざる本音だからだ。それに、どうせ近いうちに会えるならと調べる気も起きなかった。

 

 今天江衣を捜そうと思い至ったのも、特にすべきことがないからであり、咲自身も暇を持て余していたからである。

 また、方向オンチを自覚している咲としては、短時間で部員と合流できるとは思っていない、というのも理由の一つだった。

 

(さぁて、手っ取り早く探し当てるなら……)

 

 知っているのは名前だけ。

 顔も知らない相手を探し当てるなど、普通は不可能。

 

(──これが一番かな?)

 

 だから咲は、普通ではない方法をとることにした。

 

 ──喰らえっ。

 

「「「……ッ⁉」」」

 

 咲の周りにいる多くの雀士が一斉に震え上がった。中には口元に手を寄せたり、顔面蒼白になっている者もいる。

 

 咲が取った手段は単純。

 相手を威圧するようなオーラを高め、広範囲に発散させるというもの。それに対する反応度合いで強者と弱者を見極める、という迷惑極まりない方法だったのだ。

 周りのみなさんには、人生初の公式戦の前で気持ちが昂ぶっているということで許してほしい。

 

(どっいつかな〜♪)

 

 まぁ、咲には許しを得るなどといった殊勝な心掛けは、欠片ほども存在していなかったが。

 

 内心は遠足気分で、外見は人を射殺すような目で周りを観察する咲。

 怯えるような反応をする相手には目もくれない。それは女子も男子も関係なく、まるで路傍の石ころ並の扱いでスルーしていく。

 

(……うーん、手応えないなぁ)

 

 十分間程度その作業を継続していたが、生憎すれ違った全員は咲をワクワクさせるような相手ではなかった。おそらくあの中に天江衣はいないだろう。いたら拍子抜けもいいところである。

 

(この辺りで打ち止めかな〜)

 

 長い間オーラをぶち撒けていたので、きっと今頃清澄高校の面々も、咲が何処かで大暴れしていることに気づいている頃合いであろう。ならそろそろ合流できるかもしれない。それに、いい加減この作業にも飽きてきていた。

 

(次でラストにしよーっと)

 

 周りから感じる人の気配も失せてきたので、適当に会場内を散策していた咲はそう決めた。

 自身の豪運を信じて最後の獲物を探し出す。

 

「もう! 衣は一体何をしてますの!」

「寝坊」

「オレ昨日あいつの部屋に目覚まし10個はかけてきたんぜ? 普通寝坊するか?」

「あはは……、まぁ、衣だから仕方ないよ」

 

 暫くの間誰とも遭遇することなく歩き続け、耳が捉えたのは人々の喧騒の声。それは眼前の曲がり角の先から聴こえてくる。どうやらターゲットが近づいているようだ。

 咲は意気揚々と曲がる。すると、前方から現れたのは個性豊かな四人組であった。

 制服という概念がないのか全員が全員違う格好であり、且つ各人のキャラが異様な程に目立っているのだ。

 

 一人は男のようなイケメンの銀髪長身女。

 一人はザ・幸薄みたいな見た目のメガネを掛けた茶髪ロングヘアー。

 一人は手枷のようなものを装着した、頬にタトゥー入りの黒髪ポニーテール。

 一人は雰囲気お嬢様のアンテナ付き金髪ロングヘアー。

 

 一般的な感性の持ち主だったら若干怯んでもおかしくない場面だが、咲には関係ない。むしろ嬉々として立ち向かう。

 

(それじゃあ行ってみよーっ!)

 

 というとこで、咲は一気にオーラを高めた。

 因みに、今回の散策でのオーラの強さは幼少の頃の照程度である。咲の基準はあくまでも照なので、このレベルで怯えている相手など話にならないのだ。

 

「「「「──ッ⁉」」」」

 

(おっ、これは最後にアタリを引いたかな? 流石私っ♪)

 

 四人組は、今まですれ違った者たちとは反応を異にするものだった。

 驚愕に目を見開いている点は他と変わりないが、反応としてはこのようなオーラに“慣れている”という感じだ。それはつまり日常的に強いオーラに触れている、もしくは耐性があるということの証拠に他ならない。

 

 もっと単純に言うなら実力者ということだ。

 

 相手もこちらを捉えたようだ。興味深げに咲のことを見つめている。

 お互い初対面ではあるが、この様子なら声を掛けても不自然にはならないだろう。

 そう判断した咲は四人組の前で足を止めた。それに合わせて四人組も足を止めたので、咲は先ほどまでのオーラを一度消してから笑顔を浮かべて話し掛けた。

 

「はじめまして。私は今年初参加の清澄高校の一年生で、宮永咲と申します。初対面で失礼かと思いますが、良ければあなたたちの高校名を教えてくれませんか?」

 

 直接名前を尋ねてもよかったのだが、ここまできたら天江衣を自分で探し当てたかったので、咲は高校名を尋ねることにした。

 実力者なのだから、もしかしたら久から聞いていた風越という可能性もあり得たが、幸い咲の勘は当たっていたようだ。

 

「私たちは龍門渕高校ですわ」

 

(ビンゴッ♪)

 

 意外と素直に答えてくれた相手に少し疑問を覚えたが、目的を見つけられた咲はその疑問を頭の中から吹き飛ばす。

 

「あなたたちが龍門渕高校ですか。お噂はかねがね。それでは一つ伺いたいことがあるのですが……」

 

 先ほどまでより更に強いオーラを発散した。

 

「──天江衣さんはどなたですか?」

 

 聞いてはいたが、直接答えを貰うつもりはなかった。

 相手側が驚愕で硬直している間に観察することで、咲は自分で判断するのが狙いだったのだ。

 

 銀髪長身。

 

(違う)

 

 幸薄メガネ。

 

(違う)

 

 手枷タトゥー。

 

(違う)

 

 金髪アンテナ。

 

(……コイツかな?)

 

 この中で明らかに何かを持っていると分かるのは、咲の質問に答えてくれた、この高飛車な態度が似合う金髪アンテナただ一人だった。

 

「あなたが天江衣さんですか?」

 

 それでもイマイチピンとこなかった咲は、結局直接尋ねることにした。

 返ってきたのは、ある意味で予想通りのものであった。

 

「いいえ、私は龍門渕透華。あなたが探している天江衣とは従姉妹の関係にありますわ。そして残念だけれど、今この場に衣はいませんわ」

「……そうですか。ありがとうございます。いきなり話し掛けて申し訳ありませんでした。それでは私はこれで」

 

 天江衣がいないのなら特に用はない。

 透華も普通ではない打ち手だと分かるが、あくまで目的は天江衣。なので咲は早々に退散することに決めた。

 

 頭を下げ四人組の脇を通る咲。

 それを龍門渕高校の面々は、未だ興味深げに見送っていた。

 

 

****

 

 

 咲の姿が完璧に見えなくなった後、彼女たちは強張っていた身体を(ほぐ)しながら雑談に興じていた。

 

「……あいつ、一体何者だ?」

「分からない」

「でも、衣に似た空気を感じたよ」

「まさかな……。衣みたいなのが他にいてたまるか」

「それにしても清澄高校……原村和といい要注意人物には違いありませんわね」

 

 優勝候補筆頭の龍門渕高校の面々は咲を見て確信を抱いていた。

 

 今年の県予選は荒れるだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、お前あれ見たか?」

「あれって何?」

「清澄だよ」

「原村和? さっき見たよ」

「ちげーよ。原村の次に出てきた」

「大将?」

「そう、五人目! そいつがメチャクチャやべーんよ! 今日の二試合、あっという間に三校同時に飛ばして終わらせやがった」

「……は? 冗談でしょ?」

「マジなんだよ! マジで三校同時に飛ばしたんだよ!」

「何それ……それじゃまるで去年の……」

「あぁ、去年の全国での天江衣にそっくりだった」

「あれ? それじゃ決勝ではその二人がぶつかるってこと?」

「あぁ、今年も風越か龍門渕だと思ってたけど、清澄の可能性も十分あるぜ」

「それで、その清澄の大将はなんていうの?」

「あぁ、清澄の大将の名前は──」

 

 

 

 

 

 

 ──宮永咲。

 

 長野県予選決勝は翌日に迫っていた。

 





9月末日に長年集めていた漫画が完結しまして、そのENDがもう見事すぎて、しばらく全ての物事に対するやる気が削がれた結果内容が薄いくせに投稿が遅れました

ありませんか?そういうの?
喪失感が大き過ぎるというか

あれですよ、アニメの最終回を迎えた時と同じ感じの喪失感です

分かりますよね?
分かりませんか?


………………以上言い訳タイムでした

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