咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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本当にありがとうございます(≧∇≦)
出来心で始めた拙作がまさかのこれです

でも、これフェードアウトしにくくなったんじゃ……



記念ということで、今回は三本連続投稿デース
まぁ合宿編を小分けにしただけですか

それではどうぞ


3-2

「おぉ、ここですか?」

「そうよー、結構綺麗でしょ?」

「はい。驚きました」

 

 長野某所。

 咲たち清澄麻雀部一行は、県予選へ向けての最後の調整ということで合宿を行うことになった。

 和は先日、プロ(笑)相手に手厳しい結果を残した。いくら相手がプロ(笑)だからと言っても、本来ならもう少し善戦出来たであろう。

 優希も一年生にしては光るものがあるが、それでもまだ力不足は否めない。

 この二人が県予選で戦えるまでに成長しなければ、全国など夢のまた夢。どんなスポーツなどでもそうだが、高校生の全国大会とはそこまで容易い道のりではないのだ。

 

 今回の合宿の主な目的はこの二人の実力の底上げにあった。

 

 

 

 …………咲は?

 

 

 

 ──いらないでしょっ。

 久の結論は早かった。

 

 現在いるのはその合宿所の前である。

 学校の設備の合宿所にしては広さは十分異常、清潔感もあり、その他設備も完備とそこらの旅館と比較しても見劣りしないものであった。

 加えて周りは自然に囲まれており、一般人と会うこともないフリーダムな空間。旅館として営業していたら儲かるのでは? と思えるくらいに良い場所であった。

 

(学校の合宿所って聞いたから、もっとボロいのかと思ってた)

 

 さらに聞いた話しだと、ここには温泉まで備えられているらしい。無駄に凄い。

 

「さて、みんな。今日からここで二泊三日特打よ!」

「「「「「おー!」」」」」

 

 常よりハイテンションな部長の掛け声に、部員全員で気合いを入れていた。

 

 咲は悲しいことに、今まで碌に友達がいなかったので、このような友達や部活のみんなでわいわいするという体験がなかった。そのため、結構楽しんでいるようだ。

 和も大体咲と似たような感じで、優希は言わずもがな超ハイテンション。

 まこと京太郎はいつも通りといった感じだった。ただ京太郎は恐ろしく重そうな荷物を持っているため、すぐにでも倒れそうである。誰も助けようとしないのが清澄クオリティであった。

 

 各人合宿所にいざ入ろうとしたときに、咲は一つあることを思い出した。

 

「そう思えば、部長?」

「ん? 何かしら?」

 

 笑顔で尋ねてきた久だったが、この後の咲の言葉に固まることになる。

 

「メイド服にされた恨み、忘れてませんからね?」

「……………………………」

 

 詳しい事情知っているまこと和は、それを聞いた途端にそそくさとその場を立ち去り、逃げるように合宿所へと駆け込んでいった。まこはハヤテの如き速さで走り去り、和に至っては胸に備え付けられている巨大な果実をバインバインに揺らしながらの全力疾走であった。

 そんな普段と違い過ぎる二人を見て唖然とする優希と京太郎であったが、和とまこの奇異な行動、咲が纏う異様な雰囲気を感じ取ったのか、あとを追うように中へと進んでいった。

 

 一方、一人魔王と一緒に残された久は、発せられる殺気の所為で身動きが取れずにいた。

 さっきまでのハイテンションは何処へやら。

 久の口は引き攣り、顔色は見る見る内に青くなっていく。

 久はその時初めて知ったのだ。

 自身が触れてはいけない逆鱗に触れていたことに。

 そして、その末路がどのようになるかを、その時、初めて知ったのだった。

 

「──部長。後でたくさんたくさん、麻雀しましょうね?」

 

 死刑宣告であった。

 

 

****

 

 

 一時間後。

 

「──やぁ〜、スッキリしたぁ〜。和ちゃんに優希ちゃん、この後温泉行かない?」

「……そうですね。私も丁度、気分転換がしたいと思っていたところです」

「……わ、私も賛成だじぇー」

 

 一波乱終えた後、咲のその提案で一年生女子は温泉へ行くことになった。

 一人清々しい笑顔を浮かべ、ルンルン気分で浴衣を取りに行く咲を見送った和は、麻雀卓に突っ伏している久に話しかける。

 

「部長。これに懲りたら、もう二度と咲さんは怒らせてはダメですよ。それに巻き込まれる私たちの身にもなって下さい。分かりました? 約束ですよ?」

「……………………………………………」

 

 返事がない。ただの屍のようだ。

 

「……仕方ありません。染谷先輩、それにゆーき。まだお昼を過ぎたばかりで大分早いですが、一つ布団を敷いてそこに部長を安置しときましょう。この様子では、数時間は使い物になりません」

「……そうじゃの」

「……それにも賛成だじぇー」

 

 物言わぬ物体と成り果てた久を三人は運び出す。両手を和、両脚をまこが持ち、宙ぶらりんの状態で動かない久を、優希が敷き終えた布団に「せーのっ」っと横たえさせる。最後に虚で光の映さない、俗にいうレイプ目で見開いている目をそっと閉じた。南無三。

 メンタルが比較的強い久でも、魔王には対抗出来なかったらしい。だが自業自得な面もあるので、和とまこはかわいそうとは思わなかった。

 

 やったらやり返される。

 世界の歴史を紐解いていけば自ずと分かる、この世の真理だった。

 

「それではゆーき、私たちも温泉に行きましょう。染谷先輩はどうしますか?」

「わしは部長を見とくけぇ、気にせず行ってくれて構わんのぉ」

「分かりました」

「では、行ってくるじぇー」

 

 後始末はまこに任せて和に優希、それと咲は温泉へと向かうのだった。

 

 

 

 

 二時間後。

 

「──はっ⁉」

「おっ。起きたかのぉ部長?」

「……なんか、悪夢を見てた気がするわ」

 

 長い間(うな)されていた久がやっと起きあがった。

 瞳の光彩も元に戻り、やっと本来の調子を取り戻せたようだ。

 それと、自分がどうしてこのようになっていたのかも思い出せたらしい。

 

 対局は全部で三回だった。

 全ての局でピンポイントに禍々しいオーラをぶつけられたのはもちろんだったが、それ以上に内容が恐ろしかった。

 

 一回目の対局はまるで小手調べかのようにプラマイゼロ。

 二回目の対局が最もきつく、東場で咲の親が回ってきた途端、怒涛の久狙い撃ち。しかも点数が高くても3900くらいで、低い点数でジワジワと削り取っていくという、常軌を逸した復讐心MAXスタイル。

 その時、咲以外の面々は思った。十本場なんて初めて見た、と。そして、これ何の拷問? とも。

 そして最後の対局。久の捨て牌を大明槓からの嶺上開花で一撃必殺。

 それと同時に久は気力が尽きて気絶したのだろう。それ以降の記憶がなかった。

 

 他人にやられて嫌なことはしてはいけないのと同じで、自分でもやりたくないことを他人に勧めてはいけない、というのを身を以て体験できた。

 和に言われずとも久は心に誓っていた。

 二度と咲を怒らせないようにしようと。

 扱い一つ間違えるだけで、このように大惨事である。

 

「咲は核兵器か何かかしら?」

「……否定はせんのぉ」

 

 持っているだけでも相手を威圧でき、いざ使用すると絶大な効果を生む、ただし扱い一つ間違えただけで敵味方関係ない点などそっくりだ。

 実際の核兵器も、例え素人でもボタン一つでドカンなのだから。こっちは冗談では済まないが。

 

 咲と核兵器の最大の違いは心があるかどうか。

 咲の場合は扱いを間違えた時もそうだが、人間であり、心があるので不機嫌になっただけでも周りに被害が及ぶ。

 しかもそれは、本人が気に入るか気に入らないかを判断するため、周りの人間には何が良くて何がダメなのか正しくは理解出来ない。この点は核兵器よりも恐ろしい。

 核兵器がいきなり「ムカついたから爆発しまーす」などと言ったら、これはもう悲劇ではなく喜劇だろう。代償に地球が滅びるが。

 

 でも心がある分味方となれば、これ以上に頼り甲斐があるものはない。

 

「……天使と悪魔、と言ったところかしら?」

 

 味方なら守護天使。敵なら魔王。

 久たち清澄高校の面々は、その点では本当に幸せだろう。

 何故なら彼女たちにとって咲は味方であり、咲にとっても彼女たちは味方なのだから。咲の実力を知っているが故に、敵になった彼女は想像すらしたくない。

 

「頼もしい限りじゃけぇ」

「そうね。ところで一年生組は?」

「温泉行った後に一度戻ったんじゃが、お前さんがまだ寝とるから散歩に行ったけぇ」

「そう。それじゃあまこ? 私たちも温泉に行きましょう? 汗が酷くて気持ち悪いわ」

「それもそうじゃな。わしも入りたいと思っとったところじゃ」

 

 二人も浴衣を携え温泉へと向かう。

 合宿はまだ、始まったばかりである。

 

 

****

 

 

「ちょっとしたアクシデントはあったけど、ここから夕食まではみんなで特打よ! ドンドン打つのよ!」

「「「はい!」」」

 

 やっと合宿らしいことが始まった。

 

 今日、それと明日はひたすらに打つ。打って打ってうちまくるのだ。

 麻雀において近道など存在しない。咲や照のようなイレギュラーも存在するにはするが、基本的には数多く打った者が強くなるのがこの世界。

 

 咲も全力である。照を倒すという大きな目標が出来たから、手を抜くなどということはしない。

 まぁ咲は強すぎるため、自然と三対一の形になっているのはご愛嬌。それでも止められずに誰かが飛ぶことも少なくなかったのだが。

 

 何回か対局を経て、咲は少し違和感を感じていた。

 

(あれ? いつもより調子が良い、……なんでだろう? お姉ちゃんと対局したときよりも力が出せる気がする……もしかして私、力制限されてた?)

 

 “鏡”で見た照は知っていたが、咲は自身にリミッターがかかっていることを知らなかったのだ。当然その解除条件も知らない。

 

(だけど、それが分かれば……)

 

 自然と口角が吊り上がる。

 それさえ分かれば、照に勝つ可能性がグンと現実的になるだろう。

 当初は如何に小細工を凝らして勝つかを考えていたが、対照に関してだけはその手段は性に合わない。照同様に麻雀戦闘民族の咲としては、全力を尽くせるのなら正面からのぶつかり合いの方が面白いと感じられるのだ。

 なので今日一日は、そのリミッター解除条件を見極めることに専念すること決めた。

 

 だが、この時の咲はそれを探すことに夢中で周りへの配慮が足りなかったのだろう。少し考えれば分かったことなのに。

 

 咲が今までの全力以上を出し続けたらどうなるのか。

 彼女はまだ、理解しきれていなかったのだ。

 

 

****

 

 

「──フフッ、なるほど。これが条件だね」

 

 咲は高笑いでもしそうな気持ちを抑えて、ほくそ笑むだけに留める。それほどまでに手に入れた情報と力は絶大なものだった。

 

 自身でも半信半疑だったが、咲のリミッター解除条件は『素足になる』こと。

 家族で麻雀をしてた初期の頃、咲は心の底から麻雀を楽しんでいた。その際は靴下など履いておらず素足で打っていた。きっとこれはそういう理由からなのであろう。

 

 “麻雀を楽しむ”。それが咲を含めた麻雀を嗜む人みんなの行動原理なのだから。所謂、初心に帰るというやつである。

 

 だが、手に入れた力に比して代償も大きかったようだ。但し咲ではなく、周りの、だが。

 少なくない回数の対局を経て、遂に咲がリミッター解除条件を探し当てたときには、周りは死屍累々となっていた。

 先ほどは一つだった物体が、今は五つ出来上がっている。当然咲以外のメンバー全員である。

 一人、また一人とバッタバタ倒れていき、最後の対局で三人同時にくたばっていた。もれなく全員レイプ目であった。

 

(さて、私としてはこれで大満足かな。とりあえずみんなはどうしよう?)

 

 もうすぐしたら夕食の時間である。なのでこのまま放置するわけにもいかなかった。

 ただ、久ですら回復するのに二時間要したのに、この短時間での全員復活は不可能だろう。

 寝ていて夕食を食べられませんでした、などとあっては作ってくれた方々にも失礼にあたってしまう。

 

(死体が一匹、死体が二匹、死体が……)

 

 などと、羊と同じ感覚で目の前の光景をアハハと笑っている咲は恐ろし過ぎた。完璧に恐怖映像だった。

 もちろん咲はそんなことを本気で思っているわけではない。これは魔王様のちょっとしたお遊びである。

 

(しょうがない。奥の手使いますか)

 

 咲はオーラの使い方が自由自在になっていて、この時初めて良かったと思っていたのだった。

 




続けていっきまーす

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