咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら 作:サイレン
言い訳はあとがきにするのでとりあえずどうぞ
(何故だろう……? この大星さん、さっきから私に対して敵意むき出しなんだけど……)
最初は見知らぬ咲に対して興味津々な態度だったのだが、照が妹だと紹介したら少し顔をしかめ、照と咲が楽しそうに会話をしていくほどにその態度が露骨になっていき、最終的にはまるで仇を見るような目で咲に敵意を向けてきた。
どうやら、私不機嫌ですオーラが可視化されるくらいご機嫌斜めのようだ。
咲としては心当たりが全くない。
淡とは、間違いなく今日が初対面である。幼いころ会った記憶もないし、そもそも東京に来るのが人生初。つまり、淡は現在進行形の咲を見てこうなっているのだ。
(うーーーん……。私、何かしたかな?)
****
淡は虫の居所がかなり悪かった。
それはもう、無意識のうちに周りにオーラを撒き散らすくらいには。
(なんなのよあいつ! テルとあんな仲良さそうにして……)
淡にとって照は憧れの存在だ。
淡は白糸台に入るまでは、麻雀においてろくに負けたことがなかった。同年代では勝負になる相手などいなく、年上やアマチュアレベル相手でも、最初は手こずったとしても数回やれば完勝。
本当の強者と対局してこなかったその環境は、自然と淡を増長させた。
自信過剰で、周りは全て取るに足らない相手として見下すのは当たり前。
今でもそれは抜けていないが、昔はもっとひどかったのだ。
監督に勧誘されたため白糸台に入学したが、最初は全く期待などしていなかった。確かに白糸台は強豪校だが、所詮学生レベル。年上といっても最大で二つしか違わない。そんな相手に負けるなど微塵も思っていなかった。
だが、そこで出会ったのが照だった。
照の強さは圧倒的であった。何度対局してもまともに勝てたことがない。
それ程までの強さを誇るのに、照は淡のように周りを見下すなどの態度はなく、ただただ麻雀に真摯であった。なぜ照は淡のように不貞腐れてないのか分からないが、淡は単純にすごいと思っていた。
この人となら、麻雀を楽しく打てる。
この人は、私を一人にしない。
自由時間が出来た際には常に照の側にいるようになった。そんな淡に対して、照はいつも通りの無表情ではあったが邪険に扱うことはなく、淡はそれだけで十分嬉しかった。
同学年の部員に親しい友人は出来なかったが、淡は全然気にしておらず、むしろ自分より弱い相手と積極的に仲良くなろうなんて気は最初から存在していない。
簡単に言ってしまうと、淡は照がいるから麻雀部にいるようなもの。照と対局するときはもちろん全力だが、他の部員と対局するときは全くやる気がなく、『チーム虎姫』のメンバーとはそれなりに真面目にしていたが本気は出していない状態。それでも勝ててしまうくらい淡は強かった。
照や淡が扱える場の支配というのは、それほどまでに強力なものなのだ。
そして今日、いつも通りに遅刻して来たところにいたのが咲。
照の妹というのはそこまで気にしていなかった。
淡が気に食わなかったのは、それをとても嬉しそうに紹介する照の姿そのものだ。
(私と話すときは、あんな風に笑ったことないのに!)
そこらへんは部員全員が思っていたが、淡は人一倍に気になる。
要は咲に嫉妬していたのだ。
「あの菫さん? 少しいいですか?」
「ん? なんだい咲ちゃん?」
そのとき咲が菫を呼び、照から離れていくのが見えた。
淡としては照と話したかったので、これ幸いと照に話しかける。
「テルー」
「淡、どうしたの?」
再び無表情に戻ってしまった照になぜか無性に悲しくなったが、一々そんなこと気にしていられない。
「テルに妹なんていたんだね。全然知らなかったよ」
「言ってなかったからね。それにずっと離れて暮らしてたから」
「ふーん」
自分から振ったのだが、妹の話しをする照はどこか表情が柔らかい。
(気に入らない、気に入らない、気に入らない!)
それすらも淡の苛立ちを促進させた。
このストレスを解消するのだったら何をしても構わない気分だった。それこそ相手を壊してでも。
淡にとって、そんな方法は一つしかない。
(──潰してやる)
「それでテルー? 私気になったんだけど、やっぱりテルの妹も麻雀強いの?」
きっかけ作りとしてこの話題を切り出した。
圧倒的実力を持って咲を叩き潰す。
今の淡にはこれしか頭になかった。照の妹なのだからそれ相応の強さなのかもしれないが、自分に勝てるなどとは砂粒ほども思っていない。
完膚なきまでに粉砕して、照の前で恥をかかせる。
そんな都合の良い未来しか想像していなかった。
だから表面上は人懐っこい笑顔で、照に対して咲の実力を問いた。
もしかしたら姉バカを発揮して自慢でもするかとも思っていたが、予想に反して照の反応ははっきりとはしない。どうにも、何かを言いあぐねているように見える。
散々迷った様子のあと、淡にとって都合がいいもの応えが返ってきた。
「……実際に対局してみれば分かる」
「そう? じゃあ私対局したいんだけどいいかな?」
「構わないよ」
(……叩き潰してやるんだから)
照は気づかなかったが、その時の淡は不敵な笑みを浮かべていた。
****
「それで咲ちゃん、どうしたんだ? わざわざ照から離れるようにして……」
「はい、その実は……」
なるべく自然を装おったつもりだったが、菫にはバレバレのようだった。咲がそうした理由は簡単で、今から知りたいことは照には聞いても分からないと思ったのと、なんとなく照から離れた方がいいと思ったからである。
「あの大星さん? でしたっけ。あの娘からとんでもない敵意を感じるんですが、何でか分かります?」
「……あー、それか。やっぱり気のせいじゃなかったか」
「はい、私も露骨すぎて驚いています」
菫もどうやら淡の様子に気づいていたようだ。よく周りを見ているとも思うが、近くにいれば自然と分かるものだろう。それほどまでに淡から感じるオーラは刺々しかった。
「これはおそらくなんだが、多分咲ちゃんに嫉妬してるのだと思う」
「嫉妬ですか?」
「……あぁ。淡はかなり照に懐いていてな。でも照は基本無表情で無愛想。なのに今日、私も驚いているのだが、咲ちゃんと話している照はまるで人が変わったように表情豊かなんだ。多分それが気に食わなかったんだろう」
「……言っては何ですが、それ、おもちゃを取り上げられた子供となんら変わりないですよ?」
「咲ちゃんの言う通りだな。私が言っても仕方ないがすまない。不愉快な気持ちにさせてしまって」
「まぁ大丈夫ですが……」
「ねぇーそこの二人ー!」
咲と菫は声の方に振り向くと、淡がこちらを見て呼びかけている。微妙にいい笑顔なのがまた不気味だ。
「もしかしなくても私たちですよね?」
「……あぁ、多分そうだな」
「面倒事になる未来しか見えないんですが?」
「……本当に申し訳ない」
菫が謝るのも無理はない。菫にもそう思えたのだ。
仕方なく淡と照の側まで行き話しを聞く。
内容は咲がどのくらい強いのか興味があるから対局しよう、というものだった。提案自体は案外普通に思えるが、淡からのオーラは益々と黒々しくなっていくのが分かる。余程咲を叩き潰したいのだろう。殺る気がすごい。
(ほら見たことか)
咲は予想通り過ぎる展開にため息をつきたい気分だったが、ここで断る選択肢はない。というより何としてでも対局するつもりなのが分かる。
それに監督も結構乗り気だった。咲の実力を測るのに淡は適任だと判断したのだろう。
逃げ道は用意されていないようだ。
「私は構いませんよ」
「じゃああと二人だね。誰がいいかな〜?」
「それなら誠子と尭深がいいんじゃないか?」
「そうだね、じゃあ今呼んで来るからー」
そう言って淡はどこかへと行ってしまった。
さりげなく自分を逃がした菫を、咲はちょっとジト目になって見る。
「菫さん、見事に押し付けましたね」
「そんな目で見ないでくれ。悪いとは思っているよ。でも正直私も咲ちゃんの実力に興味があるんだ」
「まぁ、いいですけどね」
「それとこれは個人的なお願いになるんだが……」
「なんですか?」
少しの躊躇いとともに発せられた内容は、思わず疑問の声を上げてしまうものだった。
「あぁ、出来るならでいいんだが、一回淡を懲らしめてくれないか?」
「……は?」
思わず素が出てしまった。
それくらいに菫の言っていることがよく理解出来なかった。普通に考えたら、間違ってもチームメイトに対して言う台詞ではなかったからである。
「変なことを言っているのは分かる。だが理由があるんだ」
「それは聞いてもいいんですか?」
「あぁ」
菫が言うには、淡の日々の部活への態度は怠慢極まりないものらしい。
今日のように遅刻するなど当たり前で、対局の際もやる気が感じられないなどなど。
これに不満を持っている部員も多いし、何より規律というものが淡にだけないとなると、特別扱いしてるようで後々問題になる可能性が大きい。なんとかしたいのだが、淡は基本周りを見下しているから照の言うこと以外聞かない。照は照で色々と役に立たない。
そのため、同学年である咲に負けでもしたら効果があるのではないか? ということらしい。
「なるほどです。別に私は問題ないですよ。それより本当に懲らしめていいんですか? あの手のタイプは一度折れると立ち上がれなくなると思うんですが?」
「多分大丈夫だと思うが、その時はその時で考えるさ」
平然と問題ないと答える咲に菫は少し驚く。まだ対局すらしていない相手にも関わらずどうしてそんなことが言えるのかと。
だが、
「分かりました。……要はプライドを傷つければいいんですね?」
「ッ!!?」
咲の威圧感が急激に増した。自己紹介時とは比較にもならないオーラが迸っている。
先ほどまでの可愛げな少女はなりを潜め、今ではもう臨戦態勢に入っている。それは照や淡である程度慣れている菫ですら、鳥肌が立つのを抑えられないものほどであった。
(……これは想像以上だ)
新たに現れた人外に若干恐れ戦く菫。
この魔物は出来れば敵に回したくない。
一方咲は咲で、淡をどう調理してあげようか一考する。
(まだ直接打ってないから詳しくは分からないけど、見た感じ私やお姉ちゃん程ではないはず。返り討ちにしてもいいけど、それよりもやっぱりアレの方がいいかな?)
「お姉ちゃん、アレ使っても怒らない?」
「大丈夫、咲が好きなように打っていいよ」
「分かった。菫さん、今考えている方法だと他の二人にも少なくないダメージを与える可能性がありますが、構いませんか?」
「……仕方ないか。二人には一応対局が始まる前に意図を伝えておく。だから咲ちゃんが出来る方法で頼む」
懸念だった照の許可と菫の許可ももらえた。
これで躊躇う理由は何もない。咲もやるなら本気でやる。
これからやるのは咲の最強の技だ。ある意味で負ける気がしないし、負けるつもりも毛頭ない。
(それにいくら私でも、あそこまで敵意むき出しだと腹立つしね)
「呼んで来たよー」
淡が対局相手である二人を連れて戻ってきた。
一人はボブヘアーで眼鏡をかけた少女で、名前は渋谷尭深。もう一人はボーイッシュな感じの少女で、亦野誠子と言うらしい。二人とも『チーム虎姫』のメンバーで、かなりの実力者のようだ。
「急に呼びだしたと思ったら、今から対局するのか?」
「はい。この四人で」
「あ⁉ 君は……」
「はじめまして、先ほどご挨拶した宮永咲です。今日はよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそよろしく。私は二年の亦野誠子だ」
「同じく二年の渋谷尭深です」
「誠子さんに尭深さんですね。私のことはお姉ちゃんと混ざるので名前で呼んで下さい」
「あっ、私のことは淡でいいよ。私もサキって呼ぶから」
「分かった。よろしくね淡ちゃん」
互いに自己紹介を終え、準備が完了した。
各人やる気十分。一人漢字自体が違うが、いざ始まればあとは力がものをいうセカイ。それは全員が自覚している。
(今日という日がトラウマになるくらい、徹底的に叩き潰してやるんだから!)
(さぁて、全国最強の白糸台。お手並み拝見だね)
若干二名ほどが暗い笑みを浮かべているが、照と菫などが見守る中、咲の白糸台に来てはじめての対局が始まった。
言い訳タイムです
まず、淡の過去はよく分からなかったので適当にでっち上げました。
そして菫がこのように言ったのはまぁ本編に書いてある通りです。いや、アニメ見て思ったんですよ。会見終了後のあのマフィ…、ヤク…、みたいな規律で先輩にタメ口はどうかと。
このあとは淡の扱いがその……まぁ、うん。そんな感じになると思います。淡ファンには大変申し訳ないかもしれません。あくまで予定なので。魔王咲さんが降臨なされるかも。
次回はオーラとか能力とかオーラとか能力とかすごく使うと思いますが、今更ですかね(笑)