東方魔闇伝   作:zeeeeez

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第7話

魔理沙は、幻想郷にいた。神社付近で友人たちが楽しく弾幕ごっこをしている。不死の呪いなどなかったかのように、少女たちは笑いながら戦いを繰り広げている。

そこに魔理沙の姿はなく、本人は遠い空からその様を眺めていた。

 

正しくは、眺めるしか出来なかったというところか。近付こうとどれだけ進んでも、全く近付く気がしない。それどころか離れてしまっている。

 

何故、何故。私はここにいる。ここにいるのにーーー

 

手を伸ばして、声を上げて、力一杯足掻く。

帰って来たんだ、幻想郷に。なのになんでこれ程まで苦しい思いをしなくちゃいけないんだ。幻想郷では類を見ない巨大な敵に勝ったんだ、その話もしたいんだよ。

 

しかしそんな想いは風に流されるように、魔理沙の身体とともに運ばれていく。遠く遠く、誰の目も届かぬ場所へと。

 

やがて景色は暗い黒に包まれ、木一本すら視界には映らない。闇、その言葉がぴたりと当てはまる。

 

何もない世界、こんな所では良くないことばかりを考えてしまう。

いずれお前も、亡者になるのさーーー。祭祀場で心折れた戦士がそう言っていた。

ああ、私は亡者になってしまったのか。使命を果たせず、ここで朽ち果てるのか。幻想郷に帰ることすら許されず、誰にも知られず一人消えてしまうのか。

 

後悔と無念が魔理沙を押し潰す。結局私もただの不死と変わらず、志半ばで斃れてしまった。

このまま消えてしまうなら、最後にみんなの顔を見たかった。それが叶わないなら、せめて心の中でーーー。

瞼が閉じる。果たして魔理沙は最後に友人を観れたのか。程なくして、魔理沙の身体は闇の中へ溶けていった。深い、底を見せぬ闇へ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

大きな声を上げ飛び起きる魔理沙。どうやら夢を見ていたようだ。額の汗を拭い、自分の身体を確認する。

今いる場所こそ幻想郷ではないが、確かに自分は存在している。誰かに襲われた形跡もなく、人としての姿を保ったままだ。間違いない、私はここにいる。軽く休むつもりが、熟睡してしまったのか。

 

月は地平線の彼方へ消え、代わりに太陽が真上にある。昼時を迎えているのだろう。そんな時間まで眠りに着いた理由は、間違いなくこの世界で体験した緊張と戦いのせいだ。

 

落ち着いて周りを見渡す。今の挙動で亡者がここに来るかもしれない・・・が、その様子はなかった。

 

今の夢は、身に起きる不幸の前兆・・・なのだろうか。

 

「心折れる、か」

 

亡者になってしまっては心を亡くし、ソウルを求め続ける身体になる。幻想郷から来た彼女もそう成るのかはわからないが、理由もなく他人を襲いたくない。

 

一つパシン、と顔をはたく。頬に残る赤い手形は、充分な気合いを入れた証だ。すっと立ち上がり、旅を再開する。

 

「頑張らないとな」

 

まだ旅は始まったばかり。ヒーターシールドとハンドアクスを手に、魔理沙は休息地を後にした。

 

 

 

 

 

「しっかし嫌らしいくらいに固まってるなぁ敵も」

 

槍を扱う亡者を斃し、一息つく。大体の亡者は2〜3人で固まっていて、盾の上から槍を刺してきたり、折れた直剣を持ち飛びかかってきたり、火炎壺を投げてきたりとバリエーションに富んでいる。

 

囲まれないように狭い路地で一体一体相手をする、または一体だけに気付かれるようなことをして誘い出すなど、工夫をしなければなかなか先に進めない。

 

「帰ったら半人半霊に稽古でも申し出てみようかね」

 

いや、ないか。自分が真面目に稽古に励む姿を想像してすぐさま否定する。

 

とある幽霊に仕える庭師。刀を使い切れぬ物などあんまりない、と自負する半人半霊の少女を思い出す。

この世界で刀を見た時にその姿が脳裏に浮かんでいたが、やはり武器は幻想郷に帰ってもいくらか練習しておくべきと再認識した。

 

もちろん、自己流で。あの半霊に教わるのは、なんとなく嫌だから。

 

 

 

 

 

亡者たちを地に伏せ、分岐している道のどこから征こうか悩んでいたところ、その道の一つである下り階段に目が行った。

何かを、感じる。

 

注意しながら下りると、建物の影に黒い騎士が見える。亡者とは違うのか?疑問を抱きながら近づこうとしたが、足が止まった。

 

行くべきではない。

 

直感がそう告げている。あいつはまずい。直ぐに来た道を戻り、黒い騎士に姿を見られていないか確認する。

いた場所から微動だにしない。見つかってはいない・・・はずだ。

 

「なんなんだあいつは・・・」

 

湧き出る汗を感じながら、別の道を辿って行った。

 

 

 

しばらく進むと、小さな塔に入った。正面には扉があったが、鍵がかかっているようで開かない。仕方なく螺旋階段を上がると、不死院で見たような大きな霧があった。

 

「この霧はあいつみたいな強い敵がいるってことなのか・・・?」

 

消費した体力をエスト瓶で回復する。このエスト瓶だが、底を尽きても篝火に触れるといつの間にか補充されている。

不死を癒し続けるそれは、正しく不死の宝である。とんでもないものを貰ったんだな、とあの騎士に感謝する魔理沙。

 

戦闘の準備を終え、霧に触れた。薄く光る霧の先には、狭い一本道があった。

 

「・・・何も、誰もいない?」

 

盾を構えながらじりじりと前へ足を運ぶ。長い塔の階段を昇りここが頂。一本道の横には空があり、はるか下に不死の街がある。

 

何もないはずはない、注意すべきーーー本能がそう語りかけている。奥に見える霧の壁まで、気を抜くな。

 

果たして、それが正解だった。向かいの建物の上から大きな影が飛び出る。恐らく、デーモンだろう。牛を模した頭に、巨大な槌。それを両手に持ち、雄叫びとともに振りかざしてきた。

 

戦闘態勢は万全に整えていたため、魔理沙もそれに対抗すべく身を構えたが、背中に感じる痛みで顔を歪めた。

 

「いっづ・・・!」

 

何があったかはわからない。だが後ろを確認すれば、前方のデーモンに叩かれ死ぬであろう。

痛みを堪え、デーモンの足下をくぐり抜けて攻撃を回避する。急いで立ち上がり、背中を襲ったものの確認をする。

 

「っ、矢!弓兵か!」

 

こんな一本道に隠れられる場所はない。となれば、やはり。魔理沙は自分が入ってきた霧の真上を注視する。そこには2人の亡者が、次のボルトを装填している姿があった。

 

「いやらしい限りだよ、本当に!」

 

魔理沙は入ってきた霧の場所とは別、つまり奥側に向けて走る。一応霧に触れて退出を図ったが、ここから逃れることは出来なかった。

しかしこれがここまで来た目的ではない。魔理沙を追って、デーモンも走ってくる。

二度目の叩きつけも、しっかり引きつけてから躱す。そのまま急いで入口まで走る。

 

弓兵を視界に入れた際、梯子があったのを魔理沙は見逃さなかった。デーモンがここに来る前に、二体の弓兵を先に仕留める。

 

梯子を昇り切り、急いで近くの弓兵に斬りかかる。一体目が崩れ落ち、ソウルが出たのを横目に見ながら、二体目を蹴りで体制を崩し、大振りで斬る。

二体目からもソウルが手に入り、一安心ーーーというわけにもいかない。流れるようにデーモンの位置を確認する。

 

・・・この真下で、待ち構えているようだ。こちらを見上げ、槌は一時も手放さない。がっちりと両の手で掴み、魔理沙を斃すために備えている。

 

「仕方ない、少し休むか」

 

背に刺さったボルトを抜き、傷をエスト瓶で癒す。

 

不死院の時のように、落下攻撃を入れるか?いや、城下不死教区で手に入れた火炎壺を投げつけてみるかーーー

 

デーモンの唸り声が聞こえることから、まだそこで待機しているはずだ。その間に何か良い策を。

梯子から離れて落ちている石に腰かける。円形状でできているこの屋上はあまり広くはなく、激しい動きをすればいつ城下不死教区へ落ちてもおかしくない。

 

牛頭のデーモンが昇ってこないのは何故かわからないが、それはそれで有難い。ゆっくり考えようーーーそう思っていたが、牛頭のデーモンはただ待っていただけではなく、どうやら力を脚に溜めていたようだ。

 

その証に、それなりの高さがある屋上まで、ジャンプのみで上がってきたのだから。

 

「やっぱりそうくるよな・・・!」

 

やるならこれしかない、そう正面突破だ。不死院のデーモンに比べて身体の大きさは小さいが、槌の使い方はこちらの方が上かもしれない。

 

狭い足場でガードをすれば、あの巨大な武器に弾かれることは目に見えている。それは即ち、落下死を意味する。

 

出来る限り軽装にしたおかげで軽快な動きは可能なものの、全てを避けきることは出来ない。恵まれた身体から繰り出される一撃は、魔理沙の肺の中に溜まっている空気を一瞬で押し出した。

 

「あぐッ・・・ハッ・・・!!」

 

あまりの痛さに、呼吸が出来ない。胸を強打され身動きが止まる。膝を突いたまま顔を上げると、牛頭のデーモンは身体を大きく仰け反らせている。

 

止めを刺す動きだろう。身動きが出来ない相手に、渾身の一撃を叩き込むためのもの。

 

相手を粉微塵にすべく、その大槌を振り下ろそうとしたところでデーモンは異様な点に気が付く。

 

今対峙しているこの者は、何故笑っているのか。絶望的な状況で、何を考えているのか。

 

しかしその思考もすぐに終わる。叩きつければそれで済む話だからだ。凄まじい速度で振り下ろされた大槌は、

 

 

 

少女の身体を破壊することはなかった。

 

 

 

いや、少女が目の前から消えたと言うべきだ。何が起こったのか理解出来ない。辺りを見渡しても、少女の姿はどこにもない。

斃し損ねたのか。しかしあのような敵ならば、何度戦いを挑まれても負ける気はしない。

 

牛頭のデーモンはのそのそと歩き、自分が降りてきた場所まで帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったぜ・・・」

 

城下不死教区の篝火に当たっている魔理沙。

彼女がどのように危機的場面から逃れたのか。それは、帰還の骨片と呼ばれるアイテムの力によるものだ。

 

帰還の骨片は、最後に触れた篝火まで使用者を転送するアイテム。それを使い、牛頭のデーモンからの逃亡に成功したのだ。

 

狭い通路で巨大な敵、それを斃すためには。

 

充分に休息を取り、牛頭のデーモンを斃すための準備をする。

リベンジマッチは遠くない、覚悟してろよ。

見せ付けられた力の差を、逆転してみせる。復讐に燃える魔理沙は、準備を終え足早に篝火を去って行った。

 




6:00とは18:00のことも含まれている・・・かもしれない。

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