東方魔闇伝   作:zeeeeez

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第6話

ドス、ぶしゃり。

城下不死教区の篝火前、クロスボウを放つ不死の背中から重い一撃を喰らわせる。

ハンドアクスを豪快にスイングし、不死が斃れたのを確認して篝火へ戻る。

 

「本当にこれでいいんだろうな・・・」

 

現在の正確な時刻はわからない。が、月が昇り星が煌めく空から夜だということは承知だ。

いつ見ても心奪われる篝火にあたり、夕時に言われたことを振り返る魔理沙。

 

 

 

 

 

 

 

夜になる少し前の話、魔理沙は槍を持つ不死たちを相手にしていた。

 

それらを斃し、旅に役立つ物はないか探し回っていたところ、木箱に隠されていた階段を発見した。

 

こういう所にはお宝ってのが相場なんだぜ、と早足で階段を下る。武器か金貨かーーー。妄想を張り巡らしていたものの、そこにあったのは物ではなく者だった。

 

「よう、いらっしゃい」

 

見るからに亡者。警戒を忘れず、語りかけてくるその不死に応答する。

 

「あんた・・・不死、亡者だよな?」

 

失礼な奴め、と不死は漏らす。不死は自分を商人だと言った。ソウルと引き換えに、自慢の品を提供する、と。

 

また知らない単語を耳にし、これはまだまだこの世界を知る必要がありそうだ。そんな感情を形にして質問する。

 

「商人さん、ソウルとはなんだい?」

 

愚者を見るかのような冷めた目。この反応からすると、どうやらこの世界では当たり前の知識らしい。

さっき幾つか拾った黒い石か?いやいやそれともーーー。魔理沙がそれっぽいものを取り出そうとすると、商人が怪訝そうな顔でそれを止める。

 

「あんた、それなりにソウル持ってんじゃねえの」

 

 

 

 

 

ソウルとは、言葉の通り魂を意味する。この世界の生物のほとんどがソウルを持ち、持ち主が斃れた時身体を離れる。

不死の成れの果て、亡者は本能的にソウルを求めているがために、人を襲っている。

 

巨大なデーモンや数十の亡者を斃した魔理沙は、それに見合った量のソウルを持ち合わせていたのだ。

 

「へえ・・・溜めてたつもりはないんだけどねえ」

 

商人の品を眺めながら、自分に必要な装備を考える。

 

武器。刀や槍のような長い武器は重く、扱える自信がない。そもそも武器自体あまり触ったことがないのだから当たり前だ。

そう考えるとハンドアクスが丁度良いのかも知れない。比較的軽い上、取り回しが効く。

 

ならば求める物は身を守る物だ。広げられている商人の品の中には、防具と盾がある。

 

防具ーーー 戦場では、これに自分の命を預けることになる。時には見栄えの良い防具を着込み、その一身に賞賛を浴びるための物になることもあるが、今は違う。

生き延びるために着るのだ、慎重に悩む必要がある。だが、その思考も直ぐに終わった。何故なら、兜や足甲、手甲などは重くてやはり身動きが鈍くなるからだ。

 

身体もそれなりに鍛えておけばと後悔したが、今となってはもう遅い。流石にこのまま布の服だけで進むことは出来ず、鎖帷子ならば服の下に着込めるだろうと見込みそれを買う。

チェインアーマー、あの祭祀場にいた男の装備と同じものだ。

 

実際に着てみると、重量こそ感じるものの魔理沙の動きを阻害せず、慣れれば普段通りの行動が可能になりそうだ。

 

魔理沙はチェインアーマーを購入後、気になっていた3つの品を手に取る。

 

一つ目がヒーターシールド、これは金属でできた小型の盾だ。相手の攻撃をしっかりと受け止め持ち手を守る。これもハンドアクスのように軽めであり、魔理沙でも楽に取り扱えそうだ。

 

二つ目は鍵。商人が言うには民家の鍵らしいが、何故このようなものを売っているのか。そこに宝があるならそれを売った方が儲けられるだろうにーーー。そうしないということはそれなりの理由があるのか、ただ面倒なのか。

 

三つ目はダガー。武器はまだ必要ないと判断したが、隙だらけの亡者を斃すには適切な武器と感じたからだ。

短刀ゆえ非常に軽く、これならば不意を突いた素早い一撃を入れることが可能、と魔理沙は踏んだ。

 

 

 

本来はチェインアーマーのみ買って帰ろうとしたが、結局この三つも購入してしまった。

ソウルはそれなりに消費したが、それだけ価値のある物だと信じ魔理沙はそれらをしまう。盾とハンドアクスを背中に、腰にはダガー。

これまでは腰にハンドアクスを装備していたが、いくら軽いとは言えどうも重さを感じ左右のバランスを崩しそうだったからだ。

 

ダガーならその心配もない。新しい装備に身を包み、少々商人と会話をした後魔理沙はまた篝火を目指した。

その会話で、商人からソウルの使い道はまだあると教えてもらった。それを試すために篝火へ戻り今に至る。

 

 

 

 

 

「ソウルを、自分のものにするーーー」

 

得たソウルを、自分の力に。商人はそう言っていた。

自分が目指すものへ辿り着くには、どのような力が必要か。

力、技量、体力ーーー。どれも今の魔理沙には足りないものだ。ならば、どれを優先するべきか。

 

旅を続けるには、さらなる強者に立ち向かうには。

 

この世界に来てから悩んでばかりだ。こんな有様では長くやっていけない、そう腹を決めた魔理沙は欲する力を思い浮かべた。

 

魔理沙の中で溜まっていたソウルが、彼女の血肉になる。多少しなやかさを憶えた魔理沙の筋肉は、少しの違和感もない。

 

「か弱い乙女に力強い肉体は似合わないぜ」

 

技術で敵を打ち砕く。弾幕はパワーと言っていた幻想郷の頃とは正反対、物量や力任せな行動に頼らず己の経験と技術で戦って征く。

技術があれば巨大な敵にも打ち勝てる。不死院のデーモンを斃したように、力だけが全てではないと悟ったのだ。

 

そう決めた魔理沙は、亡者の気配がしない安全そうな場所で暫しの休息を取るのだった。

この世界でも変わらない、空に並ぶ星を眺めながら。

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

「ちょっと辛いわね、これは・・・」

 

例えるなら負の世界。まともな足場はなく、襲ってくる敵も多い。

これで何匹目になるかはわからない、小さな虫を斃し少女は少しずつ先に進む。

 

「こんな場所だ、あんたがいてくれて助かるよ」

 

その身体より一回り大きい敵に突き刺した剣を引き抜く。動かなくなることを確認して、その女また先に進む。

手に持つ剣は巨大。勢いよく振り下ろされたらただでは済まないだろう。

 

「あんたみたいな小さな子がこんな所に・・・世も末だ」

 

嘆くようなポーズをとる女に対し、少女は顔色一つ変えず落ち着きながら返した。

 

「捜し人がいるだけよ。それと人を見た目で判断しないことね」

 

狭い洞窟を進みながら少女は言う。

あら、これは失礼と心の篭っていない詫びを聞き流し、少女は歩き続ける。

 

恐らくここで間違っていない。だが、いつになればーーー。

 

女がこちらに話しかけている気がするが、そんなことはどうでもいい。今は一杯一杯なのだ、共に進むだけでいい。余計なことはする余裕もない。

 

暫く進むと、その先は行き止まりだった。いや、正確には違う。霧がかかっているのだ。

 

「これはーーー」

 

少女が霧に近づくと、女がそれを止める。

 

「まだ早い、準備を怠らないように」

 

女はこの先に何があるのか知っている。だったら何があるのか教えるべきでは?

不満を抱きながらも、少女は魔法を展開する。少女の周りに浮遊する青い塊が浮かび、待機している。

女は黄色い粉のようなものを武器に振りかける。するとどうだろう、痛んでいた武器が僅かに形を取り戻したではないか。

 

「準備はできたな?」

 

少女に確認する女は、霧に手をかざす。霧に吸い込まれるかのように去って行った女を追うべく、少女も霧に入る。

 

霧の奥から、大きな音が鳴る。交戦していることは明らかだが、程なくしてその音は消え去った。

耳を貫く爆発音と、誰かが倒れる音を最後に。

 


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