東方魔闇伝   作:zeeeeez

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第1話

幻想郷。そこはありとあらゆるものを受け入れ、個性豊かな存在が溢れている。数々の怪奇現象が起きようとも、楽園の素敵な巫女がその異変を解決し、果てには怪奇現象を楽しむことさえある。

何が起きても不思議ではないこの幻想郷だが、ある時また一つの異変が発生した。

 

「人の記憶が失われていく」

 

始めは、誰かがまた異変を起こし、自分にとって都合の良い幻想郷にでもしようとしているーーーその程度に考える者たちが多かった。巫女が数々の異変を解決してきた故に、またそのうち治るだろうと甘く見てしまったのだ。

そう、記憶を失った者たちが人を襲うまでは。

 

この異変は記憶の欠落だけに留まらず、人の営みに危害を与えていった。村の広場で暴れる、人に悪意のない妖怪を襲う。中には記憶が無くなるのを恐れ、自らを縛り付ける物もいた。

当然、そのような異変を巫女が見過ごすわけもなく、異変解決に向けて各地に飛び回ったのだが、どこにも手掛かりはなかった。わかったことといえば、記憶を無くしている者たちには共通して体に謎の「輪」があること。

その間にも異変は広がり続け、ある村では記憶障害を持つ者が村の大半というところまで進展してしまった。

 

かけらさえ見せない異変の手掛かりに、苛立ちを感じる巫女であったが、空間を行き来する妖怪により二つの情報を手に入れることができた。

一つ目が、謎の空間が幻想郷にあること。これは、大賢者と呼ばれる妖怪ですら見たことのないものであり、幻想郷にあまりにも馴染み過ぎていたため、何人で探しても発見が遅れたという。

 

そして二つ目は。

 

巫女の知人に、「輪」が浮かび上がったこと。

 

その者は、魔法を使う程度の能力を持つ少女である。彼女もまたこの異変を解決しようと奔走していたが、ついに自分が異変に飲み込まれてしまった。巫女の前でこそ気丈に振舞っていたが、内心はとても不安で、いつか大切な友人たちを忘れてしまうことが彼女の心に傷を負わせていた。

 

そして、解決の目処が立たない状況に、妖怪の大賢者と巫女は一つの決断を下した。

幻想郷に現れた謎の空間に入るというものだ。霧がかかった闇のようなものであり、得体の知れない場所はとにかく恐怖を煽るものでしかなかった。だが、現状この場所しか手掛かりはなく、異変は一刻も早く解決しなければならない。

巫女が意を決して赴こうとした瞬間、その魔法使いの少女が立ち塞がった。彼女は、「輪」が浮かび上がった自分にこそその使命があること、また巫女に何かあればさらに幻想郷は混乱することを述べ、巫女と大賢者を退けた。

少女を引き止める二人の声を惜しみながらも、幻想郷を陥れる恐怖へ立ち向かうべく少女は闇へと足を運んだのだった。

 


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