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UA 37226
どうやらまだ幻覚は続いているらしい。
今回は全体に渡ってシリアス。
シリアルをお求めの方はごめんなさい。
最終回 上 仮面の戦士と少年の目覚め
夜のアーカムシティ。
世界で第4位の魔が跋扈する都市の夜は、極めて物騒である。
その代表的な例は幾つかある。
例えば、破壊ロボ。
大抵は夜に出現するが、稀に昼間にも出現する、秘密結社ブラックロッジの破壊の象徴の一つ。
例えば、アンチクロス。
滅多に表に現れる事はないが、それでも死後の安息すら冒涜する彼らの悪行は響き渡っている。
例えば、マスターテリオン
こちらはブラックロッジの、アンチクロス達の首領と言う事で、半ば都市伝説的存在だが、その実在を知る者からすれば、その存在は絶望の具現である。
そしてもう一つ。
天使の名を持つ、仮面の戦士達である。
夜のアーカムシティの空を、4つの影が飛び交っている。
眼下にビルや街灯の灯りを見下ろしながら、彼らは時に火花や閃光を撒き散らしながら高速で飛翔する。
『メタトロォォォォンッ!』
『ぐぅぅぅぅぅぅッ!?』
黒の仮面を被ったサンダルフォンが、その拳で以て白のメタトロンへと肉迫する。
対するメタトロンは魔力で編んだ剣によって対応する。
しかし、今日の所はサンダルフォンの方が勢いがあり、劣勢を強いられていた。
『ッ、ぬぅ!!』
そこに、2条の閃光が飛来する。
ビル程度なら容易く貫通するその一撃に、咄嗟に白黒の2人は互いを蹴り合って離脱する。
『おのれェェ!!』
『助かる!』
2人の視線の先には、先の一撃を放った者がいた。
深い紺色の仮面の戦士ゼルエル。
先の2人に比べ、3m近い体躯、肩部の巨大な砲口、爬虫類染みた尾など、人外の如き姿であるが、その精神、その行動はそれとは正逆のものだ。
『油断するな! ック!?』
『ボクを無視するのは酷くないかい?』
その紺の戦士に橙の影が襲い掛かった。
ゼルエルによく似た外観を持つが、しかし決して同じものではない。
『アハははハハ!そんなにあっちが気になるんだ!?』
明るい橙色の仮面、3m近い体躯、肩部後方から覗く巨大なスラスター、爬虫類染みた尾。
その名もケルヴィエル。
智天使達の長にしてゼルエルと同一視される天使、その名を持つ最後の仮面の戦士である。
ケルヴィエルは全身に装着した重厚な装甲を鈍器の様に振りかざし、狂笑と共に突撃する。
苦痛も恐怖も一切なく、唯只管に愚直に突進する。
この4人の中で最も堅牢かつ高馬力を持つが故にそれは正しい戦法だが、同時に最も愚かしくもある。
『間抜け。』
それは言ってしまえば力任せのおおぶりの一撃でしかない。
パワーは劣るが、系譜を同じくする者にとって、それは弱点を晒している様なものだ。
事実、その身体を砕かんと振り下ろされた拳はあっさりと往なされ、合気の要領であっさりと投げ飛ばされ、ビルの屋上へ叩き付けられた。
『ガァァッ!』
だが、彼らにとってその程度ではダメージ足り得ない。
そんな事は彼らにとって百も承知。
『魔剣。』
剣状に変形した腕部装甲が光を放ちながら横に一閃。
直後、ケルヴィエルの胸部装甲が切断された。
『ガハァ!?』
『寝ていろ。』
倒れ伏したケルヴィエルを尻目に、ゼルエルがメタトロンへ加勢すべく、背面のスラスターを噴かした。
彼らこそ、アーカムの脅威にして守護者。
平和を守るために戦うメタトロンとゼルエル。
その2人を打倒せんと戦うサンダルフォンとケルヴィエル。
時に破壊ロボも交えながら、季節を問わずに戦うのが最近の彼らの日常だった。
………………………
「朝か……。」
むくっと起き上がる。
うむむ、昨夜の戦闘の疲れがちょっと残ってる感じ。
「おーい、起きたかー?」
「今起きた。アレクは?」
「もう起きてさっき着替えた。ご飯食べる所。」
「んじゃ起きる。」
「あいよ。コーヒーでいい?」
「砂糖とミルクありありで。」
「はーい。」
前回、自らの出自を知り、更に息子まで授かった後、私はミスカトニック大学陰秘学科に保護を願い出た。
幸い、その当時は原作本編開始の10年程前であり、未だシュリュズべリィ先生も存命の頃だった。
私自身はその後、陰秘学科に所属して、彼らの仕事を手伝ったのだが、シュリュズべリィ先生を助ける事は出来なかった。
現在はアーカムを中心にブラックロッジ対策を行っているが、それとて大抵は破壊ロボへの対応であり、他にも奉仕種族の根拠地への攻撃作戦等、出張も多い。
あれからナイア■■■■■■■■からの介入も無いが、日々準備はしている。
あんにゃろうの事だから、絶対にド外道戦術を使ってくるに違いないからだ。
だからこそ、息子の周囲には常に気を付けている。
羽と原初の記憶を封じたのもその一環だ。
少なくとも、最低限制御できるようになるまでは続ける予定だ。
なお、息子にはアレクと名付けた。
某型月の大王の様に、大らか且つ王道を行く人になって欲しいという願いからだ。
まぁ、最低限父親に似ないでくれたらよいと思っている。
「おはよう。」
「おはよー母さん。」
うん、うちの子は天使だ(確信。
銀髪銀眼に白磁の肌、ちょっと眠そうな垂れ目がキューティクル(死語。
学校でもさぞやモテるに違いない。
相方のアーリと私から魔術と体術、仕事で知り合った海兵隊の皆さんから戦術その他の手解きも受けているし、スペック面も申し分ない。
少なくとも私の目の黒い(碧眼だが)内は婿には出さない。
「はいコーヒー。」
「ありがとう。」
しかし、アーリの家事スキルは年々上昇の一途だな。
いやさ、こんな事になる前から家事は好きだったけど。
男なのに専業主夫になりたいとか思ってたけどさ。
「では、いただきます。」
「「いただきます。」」
今日も命に感謝して、目一杯生きましょう。
………………………
僕はアレク。アレク・アシュトン。
リーア母さんの息子で、母さんとアーリ叔母さんとの3人でアーカムに暮らしてる10歳児で、ミスカトニック大学付属のジュニアスクールに通ってる。
週末の勉強会や訓練なんかは難しいけど、母さん達と一緒だから毎日がとても楽しい。
学校も最近は友達もたくさん出来たし、勉強も割と簡単で、特に問題は無いかな。
昔から母さん達は忙しくて滅多に家にいないけど、それでも一杯の愛情を受けてると信じられる。
ちなみに、家にいない間は近所の教会でお世話になってる。
アーリ叔母さんは、僕と同じ様な歳に見えるけど、実はうんと年上なんだそうな。
母さんもそうらしいんだけど、実際の年齢は2人とも知らない。
「数える意味が無い」んだってさ。
だから、歳を聞かれた時は「何歳に見えますか?」って逆に聞くんだって。
よく分かんないや。
「母さん達は今日はお仕事?」
「今日は午前中だけ大学に顔を出すだけだ。午後は空いてるぞ。」
「だってさ。急いで帰って転ばないようになー。」
「はーい!」
今日は家に長くいてくれるみたい。
帰ってきた時が楽しみ!
………………………
「いい加減その口調止めたら?」
「息子の前では良き母、出来る女でありたいんだ。」
「ハハッワロスwwwww」
「オーケー、表に出ろや。」
やれやれ、我が主殿も子煩悩な事で。
あ、私はアーリ。魔道書「泥神礼賛」の精霊な。
つっても、純粋な魔道書の精霊じゃなくて、マスターの魂の一部を入れた分霊みたいなもんだ。
まぁ性能や記述に関しては最高位の魔道書に勝るとも劣らないって自負があるがね。
ちなみに私は元男性としての意識の割合が多いんで、こんなハスッパな口調だったりする。
そのせいで以前マスターがヴィ○タのコスプレさせやがった事もあるが、スタイルに関してはまんま幼女だから結構似合ってた。
「んで、午前はなんだっけ?」
「ミスカトニックで先日の戦闘の報告、及び消耗した装備の申請。」
「あいあい、んじゃ急ぎますか。」
どうにも先日から怪異による被害が増加傾向にある。
しかも、それにブラックロッジ絡みの騒ぎまで重なるもんだから、幾ら私らが邪神の系譜にあると言っても疲れが出てきた。
「午後はどうすんの?」
「偶には私が料理しよう。お前はアレクと一緒に寛いでくれ。」
「おや珍しい。時間ありゃあの子に構い倒すのに。」
「お前も偶にはリフレッシュすれば良いさ。」
今こうして会話している間も主殿はせっせと化粧している。
肉体年齢は20代半ば程度まで成長したとは言え、まともに老化なんざしないんだから化粧なんて必要ない、とは昔のマスターの言。
しかし、アレクが学校に通うようになってからは、あのシスター・ライカから「いけません!そんな勿体ない!第一、貴方が美人とは言えすっぴんのままで人前に出てアレク君が馬鹿にされたらどう思いますか!化粧する金も無いのかって!」と言われて以来、必死に練習して習得した。
流石マスター、親馬鹿に過ぎる。
「…何か失礼な事を考えてないか?」
「そろそろ出ないと遅刻すんぞー。」
何か子持ちになってから妙に勘が冴え渡ってやがる。
母は強しって事かねぇ?
「置いてくぞ。」
「おっとっと。んじゃ行きますか。」
身体を魔道書に戻してっと。
陰秘学科に付くまでは鞄の中。
意外とこうした狭くて暗い場所って落ち着くよなー。
………………………
ミスカトニック構内を1人の女性が歩いていく。
リーア・アシュトン。
未だ20代半ば程度の容姿に反し、未婚の一児の母にして、この学校の名物講師である。
銀髪碧眼に白磁の肌、スレンダーな肢体を持つ、切れ目の美しい女性だ。
その外見に比例してか、能力に関しては正にできる女の見本と言っても良い。
所属は陰秘学科というオカルト紛いのものなのだが、よく出張に出かけるため、滅多に学内で見かける事は無い。
極稀に陰秘学科以外の他の学科(例:経済科)でも授業をする事もあり、その時は聴講者が教室内に入り切れない程集まる。
授業内容も解り易く、質問にも誠実に答えてくれる事もあり、男女問わず絶大な人気を誇る。
ミスカトニックの男性諸氏からは例えコブ付きでも!と熱心にアピールされる事もあるが、未だ誰も成功した事は無い。
実年齢にしても「何歳に見える?」と逆に妖しく微笑みながら訊かれるため、その実態は謎に包まれている。
そんな彼女が、実は1人息子を溺愛しているのを知るのは、この学校では陰秘学科特殊資料室の面々と今は亡きラバン・シュリュズべリィ教授のみである。
「……と、報告は以上です。」
「うむ、今回も御苦労だった。」
秘密図書館付属の事務室にて、リーアはアーミティッジ教授に先日の報告に来ていた。
「やはり怪異は増加傾向か…。」
「星辰の時が近づいていますから。幸い、他の地域ではそこまで目立った動きはありませんが…。」
「何れ大きな事が起こると?」
「既に随分前から予兆はあったかと。」
その度合いに差こそあれ、2人は揃って頭を悩ませる。
この街を、人類の未来を邪悪の魔手から守る事を命題としている抵抗者である故に、彼らの敵の強大さを思うと不安の種は尽きる事はない。
「取り敢えず、臨機応変にいくしかありませんね。」
「じゃのう…。」
だが、彼らの悩みを余所に、事態は深く静かに進行していた。
今日この日から、世界の運命は遂に終わりに向けて動き出す。
…………………………
翌日、アレクは母達が出かけたので、何時も世話になっているシスター・ライカが経営している教会に来ていた。
彼の年下の友人達3人も此処で世話になっており、昔から顔見知りのお騒がせ2人組に内気な妹分とのじゃれ合いは学校でのそれよりもかなり激しい。
更に今日は偶に世話になりに来る元エリート現在探偵の貧乏青年が幼女連れで来たため、普段よりもかなり激しいじゃれ合いだった。
その時までは。
夕暮れの、正に逢魔が刻となる時刻。
唐突に教会の扉が開いた瞬間
――――――――世界が凍りついた。
夕日の黄金色が教会を幻想的に染め上げる。
それと共に甲高い靴音が響く。
黄金色の光の中から、絶望が足音を立てながら顕れた。
金髪金眼、神の寵愛を全身に受けた様な、ゾッとする程の凄絶な美貌の少年が、穏やかな笑みを浮かべながら歩いてきた。
アレクの意識は完全に凍りついていた。
だが、弛まぬ訓練の成果か、はたまたその出自によるものか、彼の身体は無意識の内に年下の子供達を背後へと庇う。
その彼を、更にライカが庇う様に前に出る。
少年がほんの僅かに驚いた様に何事かを漏らしたが、直後に迸った魔力により、ライカは吹き飛ばされ、祭壇に激突した挙句、二転三転した上で床に沈み、子供達が悲鳴を上げる。
「てめぇ…ッ!」
誰もが動けない中で只1人、九郎が前に出た。
「ふむ、奴の仔もいるのか。これはまた楽しみが増えたな。」
黄金の少年が銀の少年たるアレクを見て、愉快そうにその目を細めた。
その黄金の瞳を見て、アレクは何か自分の内側がざわつく様な感覚を得た。
魔術の行使による魔力の流動ではなく、もっと根源的で本質的で原初的な何かが囁くのだ。
目の前のモノと自分はとても近しいモノだ、と。
「僕を、知ってるんですか?」
「如何にも。余と貴公の母は浅からぬ縁がある。無論、父ともな。」
必死に絞り出した疑問への返答にヒュッ、とアレクの呼吸が止まる。
母は絶対に父親の事は話す事はなかった。
幾つかの厳重な約束と共に、それが触れてはならない事だと、少年の短い人生経験なりに悟っていたからだ。
しかし、目の前に突然現れた父への繋がりは、興味本位で近づくのは余りに危険な存在だった。
「まぁ良い。積もる話もあるが、今は貴公よりも優先すべき事がある。」
向けられたその眼には、既にアレクの事は映っていなかった。
「初めまして、になるかな? 大十字九郎。」
こうして、背徳の獣と魔導探偵はこの世「回」における初めての邂逅を遂げた。
その後、教会であった出来事については、概ね正史通りであったため、詳しくは語らない。
だが、1人の少年の中に芽生えた疑念に、闇黒の中で燃える三眼のみが名状し難き笑い声をあげた。
息子アレクは生まれた当初の記憶は背中の羽と共に封印中。
故に能力はあくまで人間基準の才能ある方。
才能ある分野は土、ない分野は炎(特にクトゥグア)。
マステリ「(ゲームの話とか甥っ子の事とか)積もる話もあるが…。」
天上天下唯我独尊フリーダム。これぞ私のマステリ様w
でも役者でもあるので場の空気を読むのは得意。