続11回目
結果から言うと、今回は極めて有意義だった。
覇道に身を寄せてから、私は保管されている魔道書を読み漁った。
とは言え、まだまだ下位のものばかりで、生かし切れていなかったのは言うまでも無い。
その中で比較的マシだったのが、ネクロノミコン英語訳だ。
ミスカトニックのラテン語訳や機械言語訳に比べれば遥かに格下だが、それでも今の私には十二分に役に立つ。
何時かラテン語訳を入手するためにも、こいつで練習しておくとしよう。
…でもしょっちゅう制御ミスってボヤ騒ぎ起こすのは許して下さい。
それ以上に有意義と言えたのは鬼械神デモンベイン、その雛型に触れる事が出来た事だ。
アイオーンを基礎として、それを現実に存在する物質へと置き換え、組み立てていく。
とは言え、原作の最後のループですら武装面の術式が整理されていない事からも、デモンベインが完成を見るのは幾星霜と先の事だろう。
しかし、その基礎理論に触れる事が出来たのは嬉しい。
それと覇道二世こと兼定とオーガスタ・エイダ・ダーレス女史と接触が持てた事も大きい。
特にエイダ女史はデモンベイン作成において大きな役割を果たす他、蒸気機関を用いた動力スーツやアーム付きの機関車等、数々の発明とその特許を持っている。
しかし、自分の事を学園の子供達と同様に思いっきり構ってきた上に、半ば以上助手扱いされたのは何故だろうか?
娘の瑠璃共々可愛がられるのはこう、何と言うか、こそばゆい。
いやさ、一応21世紀で暮らしてたから、基礎的な科学知識はあるし、青写真をかける程度に雑学的知識もあるけどね?
そこ、兼定、笑ってないで助けろ。
瑠璃ちゃんや、おねいさんは遊んでる訳ではありませんからね?
こんな感じで、何れ自分が鬼械神を扱えるようになった時に手助けとなりそうな知識を多く吸収した訳だ。
その後は2人の娘たる瑠璃の姐気分として覇道の秘密施設で研究し、たまにエイダと兼定夫妻の護衛として過ごしてたのだが…
護衛任務中、ティベリウスに襲撃されました。
いや、何とかティベリウスは未熟ながらもクトゥグアの召喚呪文(自爆)で吹き飛ばしたんだが、後は知らん。
とりま、あの二人が生き延びれば、デモンベインの完成は確実に早まるので良しとしよう。
12回目
今回は何故か広大な地下空間で目覚めた。
そして、暗がりに慣れた目が見つけたのはアルビノで両目の退化した白いペンギン。
いやーな予感がして魔術の行使の要領で「触手」の先に「目」を生やして自身の姿を確認した。
ショゴスだった。
アイエエエエエエエエ!?ショゴス!?ショゴスナンデ!?
取り敢えず、此処が南極の古の者の遺跡である事が判明した訳だ。
取り敢えず、各種の遺産を徹底的に研究する事で暇を潰す。
…ふむ、分子撹乱器は他の生物にもある程度は有効か。
まぁ普通に攻撃した方が効率は良さそうだが…。
そうこう過ごしていた頃、古の者の生き残りが現れ、攻撃してきたので反撃、後に殲滅。
はて?こいつら全滅した筈なんだが…。
「ほぅ、ショゴスか。珍しいな。」
「どうするの、ダディ?」
「襲ってくる気配は無い様だな…うむ、話してみるとしよう。」
久しぶりっすね、シュベルズべリィ先生。
「テケリ・リ。」(こんにちは。何か御用ですか?)
「おお、これはご丁寧に。私はラバン・シュリュズべリィと言う。君はショゴスで間違いないかね?」
「テケリ・リ。」(そうだよ、魔術師殿。此処にはどの様な御用で?)
「我々ミスカトニック探険隊はこの地に探索のために赴いたのだよ。まぁ古の者と出会ったのは想定外だったがね。」
「テケリ・リ。」(そう言う事でしたか。探険は別に構いませんが、あちこち老朽化で崩れやすくなっているので注意してくださいね。)
「ありがとう、助かるよ。所で、君はどうして此処に?他のショゴス達はいないのかね?」
「テケリ・リ。」(他の生き残り達は眠っているよ。起きているのは私みたいな物好きだけだよ。)
「そうなのか…君は今後の予定等はあるかね?」
「テケリ・リ。」(特に無いね。このまま此処で研究する位しか無いよ。)
話はスラスラと進んでいく。
後ろにいる学生達がSAN値を削られているのに対し、目の前のマッチョな老人は小揺るぎもしない。
流石はセラエノ断章の著者と言うべきか、恐るべき胆力だ。
「良ければ、我々と同行しないかね?ガイドがいてくれれば、それだけ我々も安心できる。」
「テケリ・リ。」(良いよ。その代わり、外の話も聞かせてね。)
あ、後方で生徒達が悲鳴を上げた。
こんな経緯でオレは南極探検隊がミスカトニック大学帰還後もシュリュズべリィ教授と葉月と行動を共にした。
役割は2人のサポートで、主に生活面を支えている。
特に葉月ちゃんはクールな言動からは思いつかない位に好奇心が旺盛なので、料理や家事を教える事を強請られた。
シュリュズべリィ教授も高齢の上、何時も蜂蜜酒を呑んでいるので、深酒を控え、油ものを少なめにする様に気を付けている。
とまぁ、割と平和な日々を過ごしていたのだが、ある日、クラウディウスから襲撃を受けた。
丁度他の事件を解決して疲弊していた所もあり、尚且つ同じハスターの魔風を操るため、互いに有効打が出難くく、長期戦になってしまった。
自身もまた、戦闘補助として参加したのだが蹴散らされ、遂には教授は死亡、葉月ちゃんは捕えられた。
オレは消し飛ばされる寸前にその情報を持たせた分体をミスカトニック大学へと離脱させ、敢え無くその生涯を閉じた。
実は今までで一番期間が短い回だった。
なお、クラウディウスが使っていたのは「黄衣の王」の第一章。
どう考えてもあのガキの技量では扱えない筈だが…?
13~14回
この二つの回は特に代わり映えの無い人間(男)で日本生まれだったため、説明は省略。
普通に下位の魔道書を探し出し、研鑽を積んだだけ。
13回目は破壊ロボに無双するも力尽きて倒れた。
14回目は破壊ロボを全滅させるも、カリグラに殺された。
うーむ、水神クタアトが欲しい。
15回目
今回はアーカムの一般人だったのが、紆余曲折を経て、ブラックロッジの構成員に就職していた。
な、何を言っているのか(ry
いや、単に山師だった親父がこさえた借金のせいで、身売りされたというだけなんですけどねー。
なお、配属先は一応希望通りのドクター・ウェストの所だった。
一応成績優秀だったオレの下に20人程の構成員がついている。
と言うか、此処以外がブラック過ぎるので行き場が無いというまだ正常な判断力を有している連中が集まっていると言える。
「げーーーひゃはははははははははッ!!遂に、遂に完成したのである!我輩のスーパーウェスト無敵ロボ28號~今宵の私は血に飢えている~!!これであのにっくきアイオーンをズダボロのスプラックに…!」
「ドクター、頼まれていた資材を搬入しにきました。」
「おおう!?漸くであるか!?待ちくたびれたのであ~る!」
「んで、今回の無敵ロボはどうなんです?」
「うむ!今回は近接高機動戦闘を主眼として…」
此処でオレはドクターの助手兼構成員のまとめ役として働いている。
とは言え、その主な役割はドクターが目的を達成し易くするために他の構成員達に命令を出す事だ。
だってこの人の言ってる事、奇天烈過ぎて理解し辛いし(汗。
いやさ、その技術に関しては間違いなく天才だけど、コミュ能力に関してはその…ね?
原作のエルザ女史はよくドクター・ウェストと共同研究なんてやってたもんだと関心する。
今回はドクターの所で最新と言うか異端の科学技術を学べたのが最大の収穫だろう。
ドクターが逆十字と袂を分かった後は部下達と共に覇道財閥に亡命、その後の対破壊ロボ戦で死亡した。
いや、今回まともな魔道書が手に入らなかったんだもん。
後、何気にデモンベインが基礎骨格(まだまだ初期段階だが)だけ出来ていて、戦闘時はアイオーン召喚でそれに肉付けする形で、術者への負担を減らしていた。
他にも、アイオーン用のマシンガン等の後付け武装とか作っていた。
流石ドクター、訳解らん程の技術力だ。
16回目
久々のインスマウスである。
何故か今回は女だったりする。
それも普通の深き者共ではなく、ウス異本に出てくる様なエロイ半漁人で。
…lvアップしてるのが解るのは嬉しいのだが、このエロゲ―仕様のデザインはどうにかならんのかと。
って此処はエロゲ―時空だったな、うん。
言い寄ってくる深き者共(♂)が本当にうざい。
密かにルルイエ異本イタリア語訳を入手。
以前の英語訳よりも格が上なのか、非常にためになった。
その後、魔術の腕を買われてか、ダゴン秘密教団の司祭に助手として雇われた。
日々これ魔術の研鑽or儀式と言う感じだったが、水属性との親和性がぐんぐん上がったため、正式に巫女となった。
なお、拉致されて乱交パーティー入りしてしまった哀れな女性陣に関しては冥福を祈るしかなかった。
いや、下手に何かすると司祭がね…。
こいつ、何か私を見る目が危険なんだもん。
まだ水関係の魔術は未熟だし、これと言った魔道書も無かったし、相手のテリトリーで無双出来る程の実力じゃないしね。
それにここで下手打つとウェスパシアヌス辺りに目を付けられそうで…。
結局、今回はアイオーンの焦熱呪文で蒸発した。
17回目
今回はイギリスで普通の男として生まれたのだが、なんと早々に妖蛆の秘密をゲットしてしまった。
こりゃアカンと今までの出来事から人里離れた洞窟に身を隠していたのだが…そこで大地の妖蛆に出会った。
蛇人間、をより蛇に近づけた様な、そんな外見をした者達。
気性は穏やかとは言えないが、戦闘力が低いのか、それとも魔術師であるこちらを警戒してか、特に手出ししてくる様子は無かった。
取り敢えず、蛇使役の術を通じて対話を試みた結果、何とか争わずに済んだ。
…のだが、彼らは大分悪戯好きでもあるので、ちょっと目を放していると荷物を隠そうとしたり、眠っていると巻き付かれたりで存外賑やかな生活だった。
流石は悪戯妖精の伝承の元となった連中と言える。
その後、洞窟の直ぐ傍に掘立小屋を作って魔術の研鑽に努めたが、彼らは変わらず自分の所に来ていた。
何度も遊びも食事も共にしていたので、殆ど友人感覚だったのだが、彼らが発情期の時は結界を作って立て籠もる。
いやさ、だって彼らの交尾って相手に巻き付いてきつく締め上げるんだよ?
普通に死ねるからね?
結果、今回は何と老衰で死亡。
初めての経験だった。
そして祝(二重の意味で)童貞卒業☆
なんだかんだで誘惑に負けてたくさんの子供作って、四六時中乱交状態だったのが遠因かもしれないが、大往生であるとも言える。
享年78歳。
18回目
今回は初めて中国に転生したのだが…うん、流石四六時中内戦してたり他国から侵略されてる所は違うわ。
混沌ぶりがもう凄いのなんの。
しかも民間の呪術師とかがいるから、普通に呪殺合戦が起こったりする。
正直、早く余所に転生したい。
ただ、魔道書は入手出来ずとも、漢文等で記された狂人の原稿や地方特有の怪異等の情報はバンバン集まったので、予想よりも色々と捗る結果となった。
最後は破壊ロボから逃走中に、他の魔術師(暗殺専門)に殺された。
原稿とか集めるのに恨み結構買ったからなぁ…。
19回目
今回は何とイギリスで蛇人間に転生した。
あれか、前々回の乱交三昧が影響したのか?
ともあれ、今回も魔道書を探しつつ、修行三昧の日々。
しかし、地上に出ようにも周辺は村落すら無く、どう考えても魔道書の入手は絶望的だった。
そのため、専ら自身の技量を上げるための修行を続けた…のだが、同族及び親戚筋に当たる大地の妖蛆からのアプローチが凄まじい。
いや、そのね?アプローチかけられても今は修行中だからね?
頼むから1人にして、ね?
…結局その後、欲望に負けてまーたたくさん子供作りました。
えぇえぇ、3桁歳でも未だに肉欲に負けましたよ。
だってしょうがないじゃん!昔からそっち方面のウス異本が大好きなんだからさ!
なお、魔術に関してはショブ=ニグラスの信者達が以前利用していた小神殿を探索した時、何とツァトゥグアに関する「ヨス写本」を入手した。
このツァトゥグア、来歴は不明だが、地属性の旧支配者であり、割と温厚かつ律儀な神として知られる。
そのため、どうせだからとヨス写本で学びつつ、小神殿の修復及び清掃を行っていたのだが……唐突に神託が下りた。
いきなり体験した事の無い神気が周囲に満ち溢れ、同時に魂に直接語りかけてくる超存在の声。
そして脳裏に映るコウモリの耳と柔毛の肌を持った、太ったヒキガエルに似た姿。
正直、その時は死んだかと思った程だ。
その内容と言うのが以下の通り。
(…■■■■■?)訳:誰であるか?
あばばばばばb…!?も、申し訳ございません、起こしてしまったでしょうか!?
(■■、■■■■■■■。■■、■■■■■■■■■■。)訳:まぁ、構わんのである。何せ、久しぶりであるからな。
確かに、残念な事にこの惑星上で御身を奉る者はもう殆どいないでしょうね。
大半はショブ=ニグラスに流れたそうですし。
(■■■■。■■■■。)訳:仕方なし。ダルいし。
そ、そうですか。
(■■、■■■■■■■■■■。)訳:さて、お前に加護を与えよう。
よ、宜しいのですか?勿論嬉しくはありますが…。
(■■、■■■■■■■■■■■。■■、■■■。)訳:うむ、折角起きたのだしな。じゃ、ほ~れ。
え、ちょ、待、のわあああああああ……ッ!?
こうした紆余曲折を経て、オレは蛇人間及び大地の妖蛆達の信仰するツァトゥグアの神官になったのだった。
しかも、地属性の魔術全般に対する加護を得た。
お陰で地下生活の快適ぶりが跳ね上がった。
その後は順調に子作りし、才能のある蛇人間や大地の妖蛆に儀式の方法等を伝授してから大勢の子供や孫に囲まれて大往生した。
享年278歳。
あれ?オレって異種族の時の方が幸せに暮らしてる?
…考えないでおこう、うん。
20回目
今回は久しぶりにアーカムで男に生まれた。
しかも大十次九郎と同学年で。
ミスカトニック大学に入学後はやはり陰秘学科へ所属、大量の魔道書を読み耽り、魔術の研鑽に励んだ。
九郎とは幾つか授業が重なっていたので、同じアジア系と言う事で割と簡単に友人となれた。
よく陰秘学のレポートを見せ合ったり、金が無い時に飯を集られたりした。
九郎のトラウマとなるウィルバー・ウェイトリィの事件だが、こちらには介入しなかった。
アレは彼が邪悪の存在を知る為に必要なものだし、探偵業を始める切っ掛けでもある。
下手に介入して流れを変えるより(その程度は誤差だとしても)、放っておいた方が良いだろう。
なお、中退後も連絡は取り合い、割とヤバめな物品の捜索依頼なんかを陰秘学科の名で出している。
そのお陰で、原作よりも多少はマシな状態だった。
しかし、この回で蔵書も殆ど読んでしまった。
ネクロノミコン:ラテン語訳は今の自分には格が高過ぎる。
ここいらで研究主体ではなく、実践主体へ切り替えるべきころ合いだろう。
なお、今回の最後は破壊ロボの群れから避難する住民を護衛し、殿役を買った後にウェスパシアヌスのサイクラノーシュに蹴散らされた。
やっぱり鬼械神が欲しい…。
11回目 裏側
Side 覇道・オーガスタ・エイダ・ダーレス
私とあの子が出会ったのは3年程前の事です。
デモンベインの建造と学園の運営を行う傍ら、夫である兼定と結婚して瑠璃が生まれ、あの子がジュニアスクールに通い出す前の事でした。
何と、あのMr.覇道がヨーロッパへの出張から帰ってきた時、銀髪の小さな女の子を連れてきたのです。
ついうっかり、私ったら「Mr.覇道がいたいけな女の子を連れてきましたーッ!?」と叫んでしまったもので大混乱。
即効で家族会議(と言う名の尋問)に発展しかけましたが、その女の子を放っておく訳にも行かず、色々とお話しました。
直ぐ近くでは「父さん!あんな小さな子に手を出すとか何を考えてるんだ!?母さんに対して恥ずかしくないのか!」「ちょっと待てぃ!今更あんな子供に欲情する訳が無かろう!?」「まさか、もっと疾しい目的が!?ならボクは息子として貴方を止める!!」「人の話を聞かんか馬鹿息子がぁッ!」とかお二人が熱くなっていましたが、アレもまた殿方同士のコミュニケーションの一つですし、止めるのも無粋でしょうから放っておきます。
そして話を聞けば、リーアちゃんは銀髪と碧眼、白い肌が綺麗な、でもあんまり顔が動かないとっても可愛い女の子で、Mr.覇道に魔術師として雇われたとの事でした。
んー、Mr.がこんな子供を積極的に前に出すとは考えにくいですし、多分保護のために連れ帰ってきたのでしょうね。
才能があっても、こんな小さな子ですし、何処かで踏み外さない様に誰かが見ておかなければならないでしょうし。
「Mr.覇道、あなたー!リーアちゃんは今日から家の子ですよ!!」
「「「え?」」」
あ、綺麗なクロスカウンター。
お二人とも、やっぱり親子ですね。
リーアちゃん、取り敢えず食事にしましょうか、今日は食後にチョコアイスが付きますよ。
あ、リーアちゃんったらびっくりして固まっています。
ふふふ、こんな所は年相応なんですね。
瑠璃ととっても仲良くなってくれそうです。
こんな感じで私はリーアちゃんと出会ったのです。
けど…
「ダメ!貴方も逃げて!」
「断る。さようなら、Mrs.エイダ。」
「行くんだ、エイダッ!」
「放して!まだリーアちゃんがいるんですよ!?」
どうしてこんな事になってしまったのでしょうか。
私達は只、久しぶりの休暇を満喫していただけでしたのに…。
……………
事の始まりは私達夫婦の結婚記念日とリーアちゃんの休みの日が重なった事でした。
これ幸いに小旅行と言う事で、一か月前にインスマウスに建設された覇道出資のホテル「ギルマンハウス」へ行く事になりました。
それを聞いたリーアちゃんは少し慌てた様子で一緒に行こうと言ってくれました。
私は初めてこの子が言った我儘らしい我儘に嬉しくなって、兼定さんを説得して、3人で仲良く旅行に行く事にしました。
なお、娘の瑠璃ちゃんはMr.覇道と一緒に別の予定があったので、今回は別行動です。
ちょっと涙目だったから、お土産は奮発してあげましょう。
鉄道に揺られ、私達3人はその日の内にギルマンハウスに到着、荷物をメイド達に任せ、3人で夏の浜辺を満喫しました。
リーアちゃんが何か海面に向かって睨みつけていましたが、お魚でもいたのでしょうか?
その日は三人で美味しい海鮮料理を食べて、3人で川の字になって眠りました。
次の日は午前は昨日とは違うやや岩場の多い浜辺でカニや小魚を取って過ごし、午後にはホテル内で過ごそうと思っていた所、奴が現れました。
「は~い☆アンチクロスのティベリウスちゃんどぇ~す☆ 早速だけど、アンタ達のお命を頂戴しにきたわん☆」
ピエロの様な衣装を纏い、オカマ口調でしたが、その全身から感じる邪な気配はしっかりと伝わってきます。
不味い、電動服は持ってきていませんし、Mr.覇道もミスカトニックの方々も此処にはいません。
最低でも、リーアちゃんは逃さないと…!
自身を囮にしてでも、大切な「娘」を逃がす。
「召喚、アフーム=ザー。」
そんな私の覚悟は、あっさりと散らされました。
リーアちゃんが召喚した青白く光る灰色の炎から、凄まじい冷気が放出されます。
その冷気はティベリウスと名乗った魔術師の使役する蠅を悉く払い、床一面に蠅の死骸が積み上がりました。
「あらぁん☆ 若いのに優秀ね☆ んじゃこれはどうしかしら!」
ピエロの服が内側から盛り上がった瞬間、ボバッ!と濁流の如く無数の触手が飛び出しました。
目を凝らせば、それらは一本一本が人間の内蔵を寄り合わせた代物である事が解り、吐き気を催させました。
「チッ!」
今度は解り易く、一見普通の炎が幾つも召喚され、まるで蛍か何かの様に触手を狙って飛翔しました。
炎は触手を焼き、ほんの数秒程度で焼き切っていきます。
でも、それよりも触手の再生速度が速く、炎はドンドン蹴散らされていきます。
「兼定!」
「ッ、すまない!」
リーアちゃんの叫びの直後、夫が私を抱えて、その場から離脱しようとします。
待って、リーアちゃんはどうするんですか!?
「ダメ!貴方も逃げて!」
「断る。さようなら、Mrs.エイダ。」
「行くんだ、エイダッ!」
「放して!まだリーアちゃんがいるんですよ!?」
何としてもこの場に踏み止まらなければならないと思いました。
リーアちゃんの後ろ姿が私が初めて見た魔術に、邪悪に触れたあの事件で出会ったアズラットの背中にそっくりで、ここで別れたらもう二度と会えない気がしたんです。
「兼定ッ!!」
「すまない!」
そして夫は私を強引に抱え上げるとこの場を強引に離脱しました。
背後に敵の魔術師を止めるため、殿役のリーアちゃんを残して。
「Mrs.エイダッ!」
「リーアちゃんッ!」
こんな事のために、こんな事のために、貴方を連れてきたんじゃない。
こんな目に合わせるために、貴方を家族に迎えたんじゃない。
言葉にしたい事が、伝えたい事がたくさんあっても、それを伝えるための時間はもう既に無くて…。
最後にリーアちゃんは遠くなっていくこちらに、何処か男の子染みた笑みを浮かべて
「 、 。」
もう聞こえない筈のその言葉は、確かに私に伝わった。
直後、リーアちゃんと魔術師の姿が結界に覆われ、見えなくなった。
「リーアちゃん!」
「行くんだ!あの子の行為を無駄にする気か!?」
私達は緊急用の地下駐車場へと急ぎました。
車にはもしもの時の通信機も搭載してあり、一刻も早くアーカムの覇道邸へと連絡する必要があります。
「エイダは通信機を!僕は直ぐに車を出す!」
「解ったわ!」
この辺りの動きは既に慣れたもので、私達は己の出し得る最速で成すべき事を成します。
『はい、こちら覇道邸。奥方様、如何なさいましたか?』
「こちらエイダです!現在ブラックロッジによる襲撃を受けています!至急救援を!」
『な!?解りました!直ぐに大旦那様に連絡します!ですが、大旦那様も先程瑠璃様と外出なされましたし、インスマウスに行くまでは時間がかかります。その間、可能な限り戦闘を避けてくださいませ。』
「そんな!?今、リーアちゃんが戦っているんですよ!?」
通信の内容に悲鳴染みた叫びが上がります。
ここぞと言う時にMr.覇道と連絡が取れない、否、恐らくはこの間隙を狙っていたのでしょう。
「ホテルを出るぞ!」
兼定の声と共に、車が地下駐車場から飛び出しました。
同時、リーアとティベリウスが未だ戦闘中であろうフロアから、光が溢れ出ます。
「伏せてッ!!」
それが自分の声だったのか、夫のものだったのかはもう覚えていません。
次の瞬間、ギルマンハウスが吹き飛ぶ程の大爆発が起き、私の意識は光の中に消えました。
次に私の意識が戻ったのは三日後、アーカムシティの病院の一室でした。
直ぐにお医者様が駈けつけてきて、慌ただしくなりましたが、私には全てがどうでもよく感じられました。
でも、自分も頭に包帯を巻いた夫や険しい顔をした義父、涙目になった娘の姿を見て、私はまだ自分が頑張れる事に気付きました。
その数日後、リーアちゃんの葬儀が行われました。
中身の無い棺を埋葬し、葬列に参加した覇道の人達と共に冥福を祈ります。
私は、まだここで折れる訳にはいきません。
アズラットも、リーアちゃんも、最後の最後まで諦めずに叩き続けました。
どんなに怖かったでしょう、どんなに辛かったでしょう、どんなに苦しかったでしょう。
それを思うと、私は止まる事は出来ません。
そして、最後にあの子が遺してくれた言葉が耳を離れないのです。
『さよなら、母さん。』
滅多に見せない笑顔と共に言ってくれた、最後の言葉。
初めて私達を家族として認めてくれた、最初の言葉。
追い詰められ、今にも命を落とそうと言う状況で、あの子は私達にそんな嬉しい事を言ってくれた。
だからこそ、私はあの子に恥じぬ母で在り続けたい。
例え今際の際でもあの子に誇れる人間でありたい。
最後まで戦い抜く、遍く闇を科学の光が照らすまで。
それを改めてあの子の墓前に誓いました。
でも、今だけで良いですから……ちょっと、泣かせてくださいね、私のもう一人の娘。
エイダの口調が今一つ。
一応軍神強襲も機神胎動も読みなおしたのになぁ…。