邪悪な龍は転生後を楽しむ   作:すいそ

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第6話

1ヶ月たち、とうとう試験の日がやってきた。

今は王都への馬車に乗り、モヴィーと試験の事について話し合いながら揺られているところだ。

 

「で、結局お前の主属性はなんなんだ?」

 

主属性と言うのは魔法を使うときに

全てを焼き払い、全てを混沌に返す『火』、

その激流は、どんな装甲も破りし『水』、

何よりも速く、不可視の斬撃の『風』、

地を動かし、堅守堅攻の『地』、

押しつぶし、空間をも操作する『圧』、

氷結させ、行動を封じ、命を貫く『氷』、

ほとばしる電流は拡散し、殲滅能力が高い『雷』、

相手を弱らせ、確実に仕留める『毒』、

の基本的な8属性の中で、一番使いやすい属性の事だ。これは人それぞれで、俺の場合は全ての属性を合わせ持つ『混沌』だが、そんなことを言ったところで笑われるだけだ。

 

なので

「教えねーよ。」

と、それだけしか言ってない。モヴィーは俺が教えないのでだんだん苛立ってきたようだ。ちなみにこいつの主属性は風属性だ。女から女にふらふらとさまよい続けるこいつらしい属性だと親友だからこそ思える。

そうこうしていると、どうやら目的地の学校にたどり着けたようだった。

 

それは、学校と言うにはあまりにも大きく、下手をすれば王の住む宮殿よりも大きい可能性がある建造物は、見るものを全て圧倒する。さすがは世界有数の魔法国であるこの国の、最大規模の魔術学院と言ったところか。

 

中は中で、驚きで満ち溢れていた。明らかに重力の法則をねじ曲げているであろう、空に浮かぶ教室。

中庭には、奇声植物であるマンドラゴラがさいており、その隣には『就寝中!絶対に触るな!』と、貼り紙が近くに立ててある、凶暴そうな食獣植物がすやすやと寝息をたてていた。

 

もっと散策してみたかったが、係員の声でもうそろそろ募集を締め切るということがわかり、そうもいかなくなった。

 

「よし、いくぞ。」

と、右手を拳にして、モヴィーがこちらにむける。何回もやってきた言わば恒例の儀式のようなものだ。

 

「おう。」

そう答え、こちらも拳にして相手の拳に合わせた。

________________________

 

魔術試験は思いのほか簡単だった。

最初に魔法が使えるかの確認、次に主属性の確認、最後に今やっている実技試験である。

だが今、過去最大の窮地に陥っているのも事実だ。

 

「ど、どうするんだよ...」

魔法道具の仕様が禁じられ、当然のようにストッパーも没収されてしまった。このままでは恐らく目の前の人形に飽きたらず、草原全て消し去ってしまう。しかも主属性と判断されたのは、殲滅能力の高い『雷』属性と言うのも、危機に拍車をかけている。

 

「次、来なさい。」

ついに名前を呼ばれてしまった。

もう俺の番になってしまったのか。今日ばかりはアノンという名前を恨んでしまう。何故こんなに速く順番が回ってくるのだろうか。

後一分でストッパーの転送が成功するというのに。

 

「は、はい」

これから起こるであろう危機を想定して、声が震えてしまった。それをこの係員は緊張していると考えたらしく、

 

「あまり緊張しなくてもいいよ。リラックスだよ。」

 

と、言うが、心の中ではリラックスしたらこの辺一帯吹き飛ぶんですが!?と叫んでいた。

もうこうなったら自棄になり、できるだけ魔法の威力を小さくしたうえで、できるだけ小さく詠唱を始めた。

 

「稲妻よ、眼前の敵を突き抜けよ。サンダー。」

 

指からほとばしった雷は、人形を捕らえ、完膚無きまでに破壊尽くした。左手で弱体化魔法を唱えておいたので、人形だけに被害が及んで良かった。隣を見ると係員は口を開けて驚愕していた。この人形は壊すためにあるのでは無いのだろうか。何はともあれ無事に試験を抜けただろう。明日の発表が楽しみだった。

学校から出るとモヴィーが出て来た。まあ、こいつもなんだかんだで合格しているとは思う。

やることも無く、モヴィーの叔父が部屋を取った宿屋で話し合うことになった。

 

「~~でな、前の方の奴がものすごい魔力だったみたいなんだが、お前見てないのか?」

 

「し、しし知らない。おお、俺の後ろだったんじゃねえか?(棒)」

恐らく俺のことで間違ってはいないだろう。少しどきっとして、はぐらかした。

 

気がつくと夜も遅くなっており、明日の発表に間に合うために早く寝た。

________________________

 

結果を先に言ってしまうと合格しました。

だが、俺とモヴィーは同じ所では無かった。

この学校には魔力の強さによって入る教室が違っていて、俺はぶっちぎりで1級、モヴィーは2級だった。

 

「まあ、部屋は違うが、お互いに頑張ろうぜ。」

また拳を合わせ、学校に入っていった。

 

学校の中は広く、豪華な装飾、美しい花壇、塵や埃などは欠片も無い床、絨毯には高価な毛皮など、この通路だけで家のひとつやふたつ買える値段だろう。

通路を歩いていると、黒髪を結び、眼鏡をかけた可愛らしい女の子が立っていた。

ふむ、魔力は人にしては中の上と言ったところか。

彼女もこちらの存在に気づいたらしく、こちらへ向かってきた。

 

「あら、あなたが転入生?私は級長のイェン.ショーナーよ。よろしくね。」

なかなか真面目で誠実そうな女の子だった。これが前に本で見た『眼鏡委員長』とやらかな?

 

「教室に案内するわ。とはいえ、すぐそこなんだけどね。」

ショーナーの後についていき、大きな扉の前に立った。扉を開けると、談笑していた42の瞳が、一斉にこちらを向いた。む、この者たちが俺のこの学院生活の友人となる可能性があるのか。一応全員と友好な関係を結んでおきたいものだ。

 

「先生、転入生を連れてきました。」

先生と呼ばれた男は、白く長い髭を携えた老人であった。魔力から、人間にしてはかなりの実力者であることが分かる。

 

「おお、君が私の作った人型魔力測定機をバラバラに壊してくれた生徒か。酷いことをしてくれたね。」

笑顔で心に突き刺さる一言を言ってくる。あなたもなかなか酷いことをする人ですね。と言うより、あれって魔力を測る為のものだったのか。そりゃあバラバラに壊されると驚愕するだろうね。

 

「さて、自己紹介を。私はフルング.ピエセ。この1級の教師だ。もっぱら専門は魔法道具だよ。ほら、君も皆に自己紹介するんだ。」

 

「はい。..えっと、アノン.アジットです。アノンって呼んで下さい。これからよろしくお願いします。」

 

「では、アジット君。これから始まる生活をたのしんでください。では席に着いて下さい。」

案内された席は一番後ろの席で、少し板書が見えにくい。勉強しにくいなーなどと考えていると、隣から白色の緩いウェーブのかかった髪で、その髪に負けないほど白い滑らかな肌、大きな藍色の目をした少女が話しかけてきた。

 

「はじめまして。私はフラウ.グランエストっていうの。フラウって呼んでね。」

フラウはぱっと見、普通の女の子かと思ったが、腰のあたりから伸びている一本の白鱗に覆われた尻尾が、彼女を『亜人』であることを示していた。

 

「フラウ、その尻尾...」

俺がそう言うと、出している事に気づいて無かったそうで、フラウは恥ずかしそうに尻尾を隠した。顔を赤らめてうつむき、失敗したというオーラが感じとれる。

 

「...私達グランエスト家は、よく龍と婚儀をあげることで有名なの。私は祖母が白龍で、父が火龍人だから、半分龍ってところかな..ごめんね、変だよね。」

恐らく彼女は龍人であることで嫌なことがあったのだろうか?亜人と聞いただけで未だに毛嫌いする人も少なくはない。少しばかり自分が龍であることを匂わせておこうか?

 

「別に変ではないよ、ただ少し驚いただけだ。まあ、これからの友好な関係の為にも握手をしよう。」

 

「そうね、これからよろしく。アノン。」

 

がっちりと手を握り、フラウの暖かく柔らかい手に、龍種本来の魔力を流す。手から伝わった俺の魔力にフラウの尻尾が一直線に伸び、鱗が逆立つ。

目を見開いてこちらを見ている。

この反応は当前だろう。驚かない方がおかしいと言うものだ。

 

「..あ...あなた何を...」

 

問いには答えず、ただただ唖然としているフラウを見つめ、微笑を浮かべるだけだった。

『俺、本当は昔、世界を滅ぼした一頭一対翼三尾の無敵の邪龍なんだぜ!』なんて事を言えば卒倒するに違いないだろう。

そんなことをしていると鐘がなり、これで朝の集会は終了と言うことになった。まだフラウは信じられないといった顔で口をぽかんと開けている。

 

「アノン、こちらに来てください。」

 

フラウの顔を眺めていると、唐突に名前を呼ばれた。

振り向くと先ほどの眼鏡委員長がこちらに手招きしている。まだ何か用事があったのだろうか。

 

話を聞くと、どうやらこれから俺は授業を選択しにいくらしい。この魔術学院は、魔法と一括りに言っても、召還魔法、精霊魔法、魔法薬学、魔法道具研究、錬金術などと、いくつもの教科に別れた物からと文学、生物学、考古学、経済学、経営学、政治学など、色々な分野から好きなものを選択していくらしい。楽しそうな授業ばかりで、どれにするか迷ってしまう。

やがて暗い部屋に入った、ここで色々な学科の映像を見るらしい。最初は歴史学で、魔法の歴史という題名だった。これは意外な所で好都合で、魔法の歴史を知っておけば色々解ることがあるのかもしれない。

________________________

 

『古代、人は世界で全ての生き物の頂点に立っていたが、ある一匹の邪悪な龍によってそのほとんどが死滅してしまいました。

その龍の名は、アジ.ダハーカと言い、神と7日7晩戦い続けていました。その龍を傷つけると、傷口はすぐにふさがり、それどころか、傷からほとばしった血から魔物を造りだしました。

だから魔物は今も、人を襲うのです。なんとか邪龍を倒した神は、各地にばらまかれた魔物に人間を対抗させるため、人に『力』を与えました。それが、今日の魔法となっていったのです。めでたしめでたし』

          

        E N D

 

________________________

 

さて、ここで一つ問題を。

 

Q 昔の痛い事をしまくった映像を流されると、人はどうなってしまうのでしょうか?

 

Aこうなります。⇩

________________________

 

 

あれ?あれれ?この話の邪龍って.....

 

 

 

....俺のことじゃないですか!/////

は、恥ずかしい。///改めて考えると恥ずかしい///

そういえば、自分の血からすごいなんかの生物作ったなぁ。あれが魔物かぁ....うわぁ.....悪魔信仰あるのになんで俺だけ崇めてくれないのかなと思ったが、これのせいかぁ...自業自得だわ....魔物生み出した奴の信仰なんてしたくないよなぁ....

 

その後の映像が頭に入ってくるはずもなく、その後も数十分間、延々に後悔と羞恥の渦の中に埋もれ続けていった。


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