邪悪な龍は転生後を楽しむ   作:すいそ

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襲来

「..いたか?」

 

「ああ、あそこの木の根本に休みにきたみたいだな。攻撃を仕掛けるなら、疲労している今だな。」

 

今回の試練の対象であるヨロイカブトを発見した。

現在、二手に別れてヨロイカブトを探すこととなり、こちらの班は、雌のヨロイカブトを見つけた。

ヨロイカブトは名前の通り、鋼よりも堅く、鎧にも使える甲殻がついており、生半可な攻撃では弾かれてしまう。

そして雌でも雄よりかは小さいが、一本の角があるのが特徴で、これがかなり凶悪なので気をつけなければならない。

 

「おいアノン、この4人でいけると思うか?」

 

「まあいけるんじゃあないか?罠の一つは欲しいところだが、この際仕方無いだろう。お前が魔法を使えることを踏まえても可能性としては70..いや、60%だな。それでもいくか?」

 

「上等じゃねえか、3つ数えたら行くぞ。3..2..1!」

 

その言葉を合図にして、後ろから忍び寄って、ヨロイカブトの背後から甲殻の隙間に槍を突き刺した。

ヨロイカブトの弱点は、甲殻の隙間が脆いことだ。

甲殻の隙間に槍や剣などを突き刺せば、馬ほどの大きさの体も、簡単に沈む。

何度も槍を突き刺したおかげで、力尽きたヨロイカブトをみて、ほっ。と一息ついた。

とりあえず奇襲が成功して助かった。ヨロイカブトは警戒心が強く、今の用に疲労していないと奇襲が成功しにくい。疲れていたのは幸運だったと思う。

皆、倒せたことに安堵し、喜色満面の笑みを浮かべている。

 

 

その後村から出た時に、最初に何をするか、何をしてどこで暮らすかを皆で話し合った。

大工の親方に弟子入りする奴もいれば、貴族のお嬢様と運命的な出会いをして、玉の輿にのっかろうという後先を考えない将来図を描いている馬鹿もいた。

そんな他愛もない会話を聞きながら、自分はこれからどうするか悩む。

この村で農作業をしてもいいが、人に転生したからには、人の魔術を学んだり、地上世界の探索などもしてみたい。そしてこの地上世界に母親の手がかりがあるのかが知りたい。

この村で生きることとなると、母のことを知る機会も無く人での一生を終えるだろう。思えばこの村には色んなことをしてきた。

この村近辺の、酷く弱かった『地脈』を修復&強化して作物をずっと豊作にしていたし、封印から目覚めた、秘めたる力を解放すれば国一つ滅びるレベルの魔物を一瞬で消し飛ばしたり、竜巻や冷害、地震などもかなり弱めていたりした。もう恩返しはこれぐらいで良いと思うのだが....

色々考えた結果、とりあえず誰かの案に乗っかろうという後先考えない答えに終わった。

 

「モヴィーはどうするんだ?」

とりあえず隣にいたモヴィーに話を振ってみると、何故だかは知らないがこれ以上無いぐらいのキラキラの瞳&どや顔でこちらに喋りだした。

 

「俺はな、魔術を学びにいくんだ!叔父さんが教師をしている大きな魔術学校的なものが王都にあるんだ。俺はそこで魔法を学び、王宮魔導師になる!」

 

なるほど、確かにこの王国はかなり魔術が発達していて、魔術を教えることが周りの国々に比べて一歩抜きん出ているという話をよく聞かされた。そこでなら地上世界の魔術を学んだりできるな。その魔術学校とやらに進路を決めるか。

 

「...そこの学校は歴史は古いのか?」

学校の歴史が浅いと、色々な情報を手に入れにくいからなるべく古い方が良い。そして古ければそれだけ学ぶことが多いだろうしな。

 

「ん、この国最初の魔術学校らしいな。」

 

「ふ~ん、じゃあお前の叔父さんかなり出世街道まっしぐらじゃねえか。てかお前そんなところに入れるのか?」

 

「お前俺を馬鹿って思っているだろ...」

 

「うん。」

極めて真顔で、しかも即刻に答える。

 

「言い切ってんじゃねえよ!」

 

ごめん。と謝って笑いあっていると、かすかに耳に何かの羽音がした。その時ヨロイカブトの習性で忘れていたことを思い出した。浮かれすぎていた。ヨロイカブトと戦うときは、絶対に忘れてはいけない一つの習性だ。それは、『ヨロイカブトは必ず、雄と雌の二匹でペアをつくり、片方が危険に陥るともう片方がすぐにやってくる。』

ということだった。しかも必ず普通の個体よりも強くなってやってくる。それが熟練の戦士でも2人はいないと倒せない理由だった。

 

「おい、皆!ヨロイカブトを置いて速く逃げるぞ!」

 

「あ?なんでだ?」

 

「雄がこちらに向かってきている!」

そう言うだけで皆の顔が青ざめた。何故忘れていたのだろうか。俺だけならば力を解放すれば簡単に倒せるが、皆がいるとなれば話が別になる。とりあえずここは逃げることが最優先だろう。

こんな事をしている間にも羽音は徐々に徐々にこちらへとやってくる。槍を持ち、来た道を全力で走ってもどる。だが間に合わなかった。

そこには、海神の槍を思い浮かばせる鋭利な三本の角に、鈍く輝く黒色の甲殻は敵対するものを圧倒するのには、充分すぎるほどの物だった。

 

「...これがヨロイカブトの雄か..さすがにでかいな。雌よりも一回り大きな体だ..さて、どうするんだ?」

 

「どうするもこうするもねえよ。やっぱり.....」

 

「逃げるしかないだろう!!!」

 

「「「ですよねー!!!」」」

 

出せる限りのスピードで必死に走った。だがこのままでは追いつかれてしまう。誰かが囮となって皆を逃がすしかないだろう。そんな事を考えている内にも、黒き三又の矛はこちらを狙って来るだろう。

だったら俺が囮となろう。

 

「皆、先に逃げろ!俺が囮になる!」

 

「馬鹿か!?お前だけで、はあはあ、勝てるわけがないだろ!」

 

「絶対に助かるから!お願いだ!速くいけ!」

モヴィーは俺の必死な訴えを目から感じとったようで、そうか、と頷いた。

だが、返って来た返事は思いもしないことだった。

 

「なら俺も囮になる!」

 

「なんでだよ!お前らには生き残ってほしいんだ!」

「だったら!俺も同じ気持ちなんだよ!皆同じ気持ちなんだよ!お前だけがそう思っているわけじゃねえんだよ!」

 

「ああ!」

 

「俺達もその気持ちだぜ!」

 

こいつらも俺と同じ最高の馬鹿らしい。仕方ないか。

 

「そうか...なら、モヴィーと俺はここに残る!だからトージョとカルトは村へ行ってこのことを伝えに行ってくれ!必ず戻るから!」

 

コクリと頷き、二手に分かれた。あっちに行かないように飲み水を入れていた瓶を投げ、ヨロイカブトの注意をこちらに引かせた。頑張って逃げてくれよ...

 

しばらく走ると大きな空き地に出た。だがその先は行き止まりだった。もう逃げ道はない。

 

「もう戦うしかないか...」

 

ヨロイカブトも解っているのか、空中で停止している。

だがヨロイカブトがとった行動は奇妙だった。そのままどこかへ飛び去ってしまった。

間が空き、静寂が訪れ、呆気にとられた。

 

「...助かっ...た?..」

 

少し安堵した。だがそれは間違いだったことに気づいた。消えたと思った羽音はこちらに向かってきていた。

 

「モヴィー!伏せろ!」

 

と、モヴィーを押し倒した。頭上を黒い大きな物体が通っていく。後1秒遅かったら死んでいた。

 

また遠ざかっていく。おそらくこれがヨロイカブトの攻撃なのだろう。そしてまた近づいて来る。

 

「モヴィー!そこの岩盤を背に立つぞ!」

 

「わかった!」

 

どんどん近づいて来る羽音にモヴィーは恐怖におびえていた。だが唯一無二の親友の声で意識を取り戻した。アノンは何かを狙っていることは、これまで16年間見てきたおかげですぐにわかった。だからこそ反論せずにすぐ従った。

 

ヨロイカブトが見えた。こちらへ真っ直ぐに来ている。予想通りのコースだ。

もう少しで10mというところで俺達は横に避ける。

すると急停止出来ないヨロイカブトは勢いよく岩盤に突き刺さる。長い角のせいで足も届かず、長い間岩盤に突き刺さったままという訳だ。

 

「やったな!!これを狙ったたんだな!」

 

「ああ!この隙に逃げるぞ!」

 

意気揚々と二人で村へ帰った。

________________________

 

「...てなことがあったんだ。」

 

「なるほどね..でも倒した証拠が無いのなら村からは出られないね。」

 

「オババ~そこをなんとか~。」

 

「うるさいよモヴィー。駄目なものは駄目なんだ、掟だからね。」

 

長老がすがり付くモヴィーをうっとおしそうにはねのける。

 

「あ、そういやこんなの拾った。」

 

雌のヨロイカブトを倒した時に落ちてたのを綺麗だから拾ってきたのだ。堅くて黒くてまるでヨロイカブトの甲殻のような...

 

「...そ...それはヨロイカブトが極稀に落とす[鎧甲虫の宝玉]ではないか!!」

 

魔物には通常の物とは違い、極稀にレアドロップアイテムがあると聞いたことはあるが...

これそんなにレア素材なんだ...

 

「ということは、倒した証拠になるのでは!?」

 

「むう...ならば、[アノン]、[モヴィー]、[トージョ]、[カルト]、以上の4名を成人の試練、合格とする。」

 

「よっしゃあ!!!」

 

「よし!お祝いパーティーだ!」

 

...なんかしっくりこない。なんだこの急展開。仕方ないのかもしれないが。

 

「おーい、なにやってんだ?アノンも早くこいよー!」

 

...まあ楽しいからいいか。この毎日を飽きない内に味わいつくしてやろう。

 

「わかった今そっちにいく。」

 

俺はそう言って駆け出していった。


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