邪悪な龍は転生後を楽しむ   作:すいそ

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状況

転生したことに気づいた時から数ヶ月経ち、いよいよ人間としての人生を歩み始めることとなった。

確か人間の子供は、産まれた時に泣いて産まれるのだったか。ならば泣き真似でもしておかないと変に見られる可能性がある。

これまでこの体を守ってくれた空間に別れを告げ、外の世界へと出て行くと、2人の人間がそこにいた。

 

「産まれたぞヘザー!」

重い目蓋を無理やりこじ開けて、外の世界を見渡せば、俺を抱きかかえている男が最初に視界に入った。この男が恐らく俺の父親となるのだろう。

正確には本来の父親ではないが、『魔界の頂点に立つ邪神(笑)』なんかよりも愛情を注いでくれているのがわかる。

その愛情が母からもたくさんが感じとれた時に、嬉しすぎて自然と涙がでていた。

 

「あまり泣かない子だな。」

 

「お兄ちゃんのように夜泣きで悩まされる事もないわね。嬉しいわ...あ、名前はどうするの?」

 

「もう考えている。『アノン』というのはどうだ?」

 

「『アノン』...魂という意味ね..アノン。あなたの名前はこれからアノンよ。」

 

中から話し声を聞いていて、その名前が俺のために何ヶ月も考えてくれたことを知っているので、また涙を流しそうになった

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どうやら村をみる限り、俺が産まれた家は周りの家に比べてかなり大きいらしい。かなり位の高い地位にいるのだろう。

だが今それを考えている時ではない。

今驚いているのは母の腕の中に抱かれた時、何故かはわからないが、光と闇の魔力が融合したことだった。

打ち消し合うのではなく、逆に魔力は何十倍にも増えていた。それのせいで魔力のコントロールが出来なくなり、微量だが漏れた魔力はどこかの山の一つを消し飛ばしてしまった。後で直しておかねば。

 

これで死ぬ心配もなくなり、そんな感じで俺の産まれた家は、かなり裕福で幸せに包まれていた。母の腕のなかに抱かれた時はとても暖かいものだった。これから始まっていく人生が楽しみで仕方がなかった。

 

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そして時は経ち、俺はもうすぐ成人を迎えることとなった。時の流れは速く、人での16年は、龍での1ヶ月程だといえばわかりやすいか。それなりに充実していた16年だった。

「さあもう眠りましょうね、アノン。」

 

「...母さん、明日は俺16になるんだよ?成人するんだよ?だからもう子供扱いしないでよ...」

 

母はいつまでも俺をいつまでも子供扱いする。一応実年齢は3016歳で、もっともっと年上で、魂はもはや崇拝されるレベルの龍なのだから、やめてほしいというのと、してくれて嬉しいという気持ちが半々だ。

 

「なーに言ってるの。私が死ぬまで、あなたはずっと子供よ。大人ぶらないの。」

 

だがやはり、母には勝てないだろう。物理的には圧勝できるがそれをすることは、人としても龍としても余程の屑しかしないだろう。親にはあまり逆らわないのが一番だ。

 

「はいはい。」

「『はい』は一回!」

「はーい。」

 

やれやれと思いつつも素直に就寝の準備をする。

明日、成人になるための大切な儀式があるために、早めに寝なければいけないのだ。

このムトラダの村には16歳になるための試練と儀式があり、明日に備えるために7時程には眠らなければならないしきたりがあるのだ。

試練を成功させれば晴れて村から旅立つ権利が与えられるようになっている。まあ簡単に成功すると思う。前に見た試練はその辺の森の角兎と銀色蜥蜴の討伐のみだったから、俺なら小指一本でも勝てるだろう。

色々と考えていると瞼が重くなってきた。このまま眠ってしまうか。

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「....ん...これは..夢...かな..?」

ただ真っ白な空間にぽつんと一人で立っていた。

夢の中で意識がはっきりしているのは珍しい。

することも無いので、しばらくぶらぶらと歩いていると人の気配がした。

 

「こんにちは。」

 

と、突然後ろから囁かれたため、驚いて龍の姿に戻り、臨戦態勢を一瞬で整えて後ろを振り向き、相手の首に手をあてた。

 

「キャッ!?ちょ、ちょっと!私はそんな気持ちで来たのではありません!お願いだから手を離して下さい。」

 

手を離してみるとそこにいたのは、ゆったりとしたローブを身にまとい、金色と銀色で作られ梟をかたどった杖を持ち、穏やかな笑顔を携えた母なる女神。

大地神ガイアだった。

 

「もう。驚かせようとしていたのは謝りますが、だからといっていきなり滅ぼそうとしなくても良いでしょう、アノン。」

 

「すいませんね。ならばこちらも。

もう。滅ぼそうとしたことは謝りますが、だからといっていきなり俺の夢の中に入って来ずとも良いのではありませんか?」

前半真似をしながら、後半ニヤニヤと笑って言ってみると顔を真っ赤にさせて恥ずかしさと怒りを込めた瞳でこちらを見ていた。

 

「.....あなたにいい情報を伝えるために来ましたがもういいです。さようなら。」

 

「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません戻ってきてくださいお願いします。(土下座)」

 

「ふん!」

 

そういい残し、完璧な形の土下座の努力もむなしく去っていった。なにをしに気たんだろう。

少しからかい過ぎたことを反省しているところで目が覚めた。

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「....本当に何だったんだろう、あの夢。」

 

「ほら、アノン。もうそろそろ家を出ないと儀式に間に合いませんよ。」

 

母はそういうが、あと30分もあるので充分間に合うだろう。心配性なところはなおしてほしいと思う。

だが早めにいくのにこしたことは無いのでもう出ることにした。

 

「大丈夫だよ、もう出るからさ。じゃあ試練頑張ってくるよ。」

 

行ってきます。と言い、家から出た。

家から儀式と試練が行われる広場まではそう遠くは無いので、10分とかからなかった。

広場に着くとまず目に入ったのは紫と緑色をした大きな祭壇がみえた。そして祭壇の一番上に長老のオババ様がいるのがみえた。

とりあえず、この儀式と試練の司会進行役の長老に挨拶をするのが礼儀だろう。

 

「おはようございますオババ様。」

 

「おはようアノン。かなり早くないかい?今日の儀式はおまえも出るのだね。あの時の赤ん坊がこんなにも大きくなって、もう『成人の儀』か。時がたつのは速いねえ。今回の試練はかなり難しいよ...なんとあのヨロイカブトさ。頑張って倒しておくれよ。ほっほっほ。」

 

なるほど、今回の試練は他の人にとっては絶望的だな。本来、ヨロイカブトは熟練の戦士2人で戦うような強力な魔物で、この村の大人が武器を持って10人でようやく倒せる。今回の挑戦者は8人なので、運が良ければ勝てるだろう。

祭壇から降りて、その辺にいた娘に片っ端から声をかけては頬をはたかれている一人の男に声をかけられた。

 

「お、アノンじゃねえか。今日の試練頑張ろうぜ!」

 

「なんだモヴィーか。収穫はあったか?」

 

相変わらずの誘い魔だ。だが、聞いたところで成功したことなど、一回もないが。

 

「なんだとはなんだ。へっ、この辺の女は俺の魅力に気づかないからな。」

 

その台詞はこの前も聞いたことがある。

ちなみに儀式は近辺の村ではどこでもやっており、

儀式の季節になると必ずこいつに強引に連れられては、モヴィーが失敗して帰っていくの繰り返しだ。

そしてこいつも顔は悪く無いのにいつも女を誘うのが失敗するのは、俺が少し細工をしているからだ。

 

「なあ、お前も誘ってくれよ~。お前すごいイケメンだから、絶対に寄ってくるって。」

 

俺は人にしてみると、かなりのイケメンらしい。

これも産んでくれた両親には感謝仕切れない。

醜い顔よりかは整った顔の方が有利だもの。

ありがたや。ありがたや。

 

またモヴィーが声をかけようとした時、祭壇につけられた、始まる合図の太鼓の音が鳴り響いた。

 

「よし、行こうぜ。」「あ、ああ。」

試練を前に少し緊張しているモヴィーと祭壇の方へと向かっていった。


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