天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

99 / 135

ここでもやっぱり瀬戸様に振り回されております。

阿羅々樹の樹は、ちょっと肝っ玉母さん風味。


さて、次話ではボーイズラブ表現を含みますからお気を付けて。


広がる樹雷5

会話が途切れる。母はティッシュペーパーを取って目頭を拭いている。ちょうどその時、ピンポーンと会話の内容とまったく関係なく、平和な玄関チャイムが鳴った。こんな遅くに?田舎ではまず9時過ぎて人が尋ねてくることはない。それどころか、夕方、日が落ちてから他人宅へ訪問することはないと言って良い。母が立って玄関に行こうとするのを制して、僕が行くことにする。一樹と柚樹を見ると・・・、ニッと笑っている。危険は無いと言うことだろう。

 「はいはい、こんばんは、どなた様です、か・・・・・・、あ?」

そこには、竜木籐吾さん、立木謙吾さん、神木あやめ、茉莉、阿知花の五人が立っていた。う、うちの玄関に樹雷の闘士が立ってるぅ!、とパニックになりそうになる。と言うか田本一樹は完全にパニクっているけど、そんなときに天木日亜の記憶がうまい具合にフラッシュバックする。それでどうにかバランスが取れた。5人とも人の悪い笑顔を浮かべている。いちおう、服装は地球のモノを着ていた。それぞれがとても似合っている。

 「・・・とりあえず、みんなで一樹の家に行こう。」

ゴクリと生唾を飲み込み、ようやくそう言えた。僕の父母、水穂さん、さっきの5人、姿を消した柚樹さんで一樹の邸宅、食堂へ転送してもらう。ある程度見慣れたとは言え、やっぱり自分には似合わないなぁとため息が出る。玄関が開き、間髪入れずに、バイオロイドの執事とメイドが、おかえりなさいませ、と招き入れてくれる。水穂さんが、皆さんに冷たいお飲み物をとスッと気を利かせて指示している。大きめで十人程度が座れる楕円のテーブルがセッティングされていた。もちろん木製で、美しい装飾が嫌みにならない程度に施されている。こんなの地球で買うと高いぞぉ~ってなテーブルだった。それに背もたれが一枚板で、シンプルなデザインのイスが組み合わされていた。一種、中国の家具のような、北欧のそれとも言えるようなデザインだった。優美な曲線が美しい。いちおうやっぱり上座には僕と水穂さん、その両サイドに、父と母、さっきの5人という配置で座った。

 「・・・まさか、わが家に来るとは。むっちゃ、びっくりしたんですけど。」

と言って聞いてみると、瀬戸様に、田本家の方も片が付いたから、警備も兼ねて行ってらっしゃいと、昨日、樹雷に帰還途中で置いて行かれたそうである。そのまま引き返して今に至ると。なるほど、瀬戸様の爬虫類顔が目に浮かぶ。せ、瀬戸様ですか、とへにゃら、と水穂さんと二人で脱力してしまう。い、いかん、5人を紹介しないと。周りをきょろきょろと見渡している父母が居心地悪そうに座っていた。ちょうどタイミング良く、冷たい飲み物が運ばれてくる。お茶の一種だろうが、ウーロン茶をもう少し洋風にしたような香りの琥珀色の飲み物だった。ガラスと木が融合したような不思議なコップで出してくれる。

 「父さん、母さん、この5人を紹介するよ。」

立木謙吾さんは、僕の皇家の船、一樹の艤装をしてくれて、技術担当として僕の艦隊に配属されていること。竜木籐吾さんと神木あやめ、茉莉、阿知花の3人の女の子は、行方不明だった、樹雷草創期の艦隊で樹雷への帰還航路を取っていたが、4人とも重傷で急ぎ、先週日曜日に樹雷に送ったこと。そして、この5人と僕とで艦隊を組むらしいこと・・・。我ながら言っていて、荒唐無稽が百鬼夜行していると思う。5人とも順番に立ち上がり、樹雷の闘士らしい丁寧な礼をしてくれる。竜木籐吾さんは、血色も良くなっていて、それを見てホッとする。籐吾さんを見つめていると、赤くなってうつむいてしまう。ああ、でも良かった元気で。

 「あのぉ、カズキ様、昨日のことは、籐吾殿が軽率な行動だったと悔やんでおりまして、自分も、その・・・、同感で、申し訳ありません!」

立木謙吾さんが立ち上がって次いで竜木籐吾さんが立ち上がる。テーブルに手をついて、頭を下げて、二人が謝ってくれる。

 「僕は、みんなが生きてそう言ってくれるだけで良いんだ。だから生きるために全力で努力して欲しい・・・。・・・あれ、おかしいな、涙が止まらないな。」

昨日の、喪失感と怒りやら悲しみやらがどっと押し寄せる。ああ、でも二人とも生きていると思い直す。水穂さんが手をぎゅっと握ってくれる。涙をぬぐって見ると、父と母が見つめ合ってうなづきあっていた。

 「お前がこんな世界でいたとはな・・・。婆ちゃんが死ぬまで大事に持っていた、じいちゃんの記録だ。よもや、これを見せることになろうとは思わなんだよ・・・。」

それは小さなメモリーチップだった。地球のマイクロSDカードよりも小さな正方形。水穂さんがそれを受け取って、自分の携帯端末にセットする。その記録は、僕の想像を超えたものだった。

 「おじいさまは、竜木西阿殿の艦隊司令だったんですね。」

竜木西阿殿の数々の戦歴とともに竜木西阿殿に付き従い、時には意見し、時には酒を酌み交わし、雄々しく生きている、紛れもない祖父の姿がそこにあった。望めば皇族にという話を蹴り、そして、自ら延命処置を拒み地球に隠れ住んだらしい。ばあちゃんは、そのじいちゃんと正木の村に還ってきたようだ。婆ちゃんは、数年前に病院で静かに亡くなった。最後まで意識はしっかりしていて、綺麗なお婆ちゃんだったことを覚えている。僕が小さな頃は、父母が仕事に行っていたこともあって、いろいろ面倒を見てくれた婆ちゃんだった。じいちゃんの方は、身体を壊すまで結構長い間仕事に行っていた覚えがある。

 じいちゃんもばあちゃんも優しい笑顔しか、記憶に残っていない。まさか、樹雷戦艦や巡洋艦、駆逐艦の大艦隊を指揮していたなんて・・・。と思いながら映像を見ていると、

 「あなたっっっ!、この携帯端末に残っている、着信履歴は神木さんところの奥さんでしょう?しかもこんなにたくさん!、一体何を話していたのっ。」

って言われながら、必死に釈明して、最後には土下座して謝っていたり、誰かさんみたいにべろんべろんに酔っ払って、たぶん竜木西阿様だろう人に送ってもらって家に帰ってきていたり、休みの日にラフなカッコして、ドラマ見て涙ぐんでいたりした。ばあちゃん、じいちゃんのことが大好きだったのだろう。いろんなじいちゃんが映像になっている。そして静かに年を取っていく二人。

 「わたし、あなたと一緒にこんな人生を送りたい・・・。」

そっとつぶやいて、涙ぐんでいる水穂さんがいた。

 「ごめんね、僕も良いなぁと思いました。」

耳が熱い。あははは、と誰彼となく笑い声が出る。

 「こんなお馬鹿な息子だけどさ、水穂さんさえ良かったら、かまってやっておくれ。」

そう言って、父と母は家に帰っていった。う~、そりゃお馬鹿だけどさ・・・。

 「そういえば、いま地球周辺に、皇家の船がたくさんいるような気がするけど・・・。」

立木謙吾さんが、ええっと僕の樹沙羅儀と、阿羅々樹と、緑炎、赤炎、白炎と少なくとも5隻はいますね~、とのほほんと言う。

 「さっき、銀河中を敵に回して勝てる戦力持ってる、役場職員なんて言われたばかりだけどな~・・・。」

 「その気ならできるでしょうね~。まあ、でもそう言う人は、普通、樹に選ばれませんから・・・。」

なるほど、意思を持つ皇家の樹だからなのだろう。

 「ええっと、確か鷲羽様の改良か改造を受けているので、銀河系どころではないモノが消せるとか何とか。」

籐吾さんが、おずおずといった感じで口を開く。そうだった、瀬戸様と鷲羽ちゃん連合で無茶な艦隊になってるんだった。また瀬戸様かぁ、と水穂さんと脱力する。

 「そうだ、阿羅々樹に行ってみても良いかな?あのときの時のお礼も言いたいし。」

 「・・・ええ、歓迎しますよ。」

真っ赤な顔して、籐吾さんが立った。ちなみに、今、僕は隣の水穂さんを見る勇気は無い。ごわあああっと地獄の業火さながらの気配がある。ごめんなさいね~、と手だけ握り返す。何となく謙吾さんと阿知花さんも雰囲気が怖い。

 「柚樹さんも、行ってくれますか。たぶんよく知っている樹だろうし。」

 「ほっほっほ、いいのかの?」

めりっっと言う音がした。み、水穂さん、そのテーブル握りつぶさないように・・・。柚樹さんがにたりと笑っている。さあさあ行こうと竜木籐吾さんの左手で肩を抱く。ビクッと身体が震えていた。右手では柚樹ネコを抱いている。籐吾さんが、剣の束(つか)のようなモノを手に取り念じると、即座に転送フィールドが形成され、輝く緑の壁が見えたとたん、阿羅々樹の中だろう場所に転送された。

 「実は、まだ家の方は間に合わなくて、直っていないところがあるんですよ。」

ロボットが十数機、目の前の豪邸を直している。広々とした気持ちの良い空間が眼前に広がっていた。田や畑がいくつも広がる。自分の一樹は、まだこれほど整っていない。懐かしいという気持ちが広がる。

 「天木日亜さんの記憶が懐かしいと言っています。それにしてもすごいなぁ、やっぱり僕も畑作って何か売ろうっと。」

竜木籐吾さんの、真っ赤になっているけど硬い表情が、ふわりとした笑顔に戻る。

 「超空間航行中の時空振では、天木日亜の船も真砂希様の船も大きな被害を受けたんですが・・・。」

いちおう今回の目的だったりする。

 「ええ、お話しします。その前に、阿羅々樹の間に行きましょう。」

柚樹さんと共に阿羅々樹の間に転送された。あのコアユニット内で銀葉に包まれた柚樹さんとも違って、結構大きな樹だった。

 「こんばんは、阿羅々樹さん。もしかして、1万数千年前に会っているかも知れませんけど、田本一樹と申します。昨日は力を分けて頂きありがとうございました。」

七色の神経光が僕の眉間に当たる。暖かく優しい皇家の樹の光だ。

 「・・・何と懐かしい、柚樹だね、その気配は・・・。そして、お前は・・・・・・。あの一緒に船出した天木日亜に似ているが・・・。マスターキー無しで、直接わたしと話が出来るのかい?不思議な子だね。・・・昨日は、わたしの友達を救ってくれようと言うんだ、力を貸さない樹があろうものかい。」

ぱっと神経光が天井近くまで伸び、そして花火のように周囲に散る。何とも美しい。

 「そうだな、阿羅々樹よ。いまはわしはこの姿だ。そして、このものに今一度生きる力をもらったよ。」

柚樹さんにも神経光が当たっている。ちょっとくすぐったそうに顔を洗う仕草をする柚樹ネコさん。

 「ああ、そちらの話は樹のネットワークで教えてもらったよ。こちらは、そうさねえ・・・。」

やはり超空間航行中の時空振で、かなり手ひどいダメージを食らったようだった。天木日亜と真砂希姫の船からはぐれ、4隻は未知の空間とも言うべき宙域に放り出されたようだ。比較的放り出された場所が近かったため、樹のネットワークで位置を特定、通信しあいながら集結して、樹雷に向かったらしい。ただし、ダメージが大きかったため、超空間航行は使えず、また通常の通信機器も大破してしまい、ほとんど外への通信は不可能な状態だったようだ。

 「わたしのマスターのこの籐吾殿はもちろん、他のみんなも大怪我でほとんど死にかかっていてね、とにかく時間凍結をかけて、樹雷への道を急いだんだ。」

また天木日亜の記憶がフラッシュバックする。

 「昏く寒い宇宙空間を1万数千年も・・・。本当に済まない。寂しかったろうに、つらかったろうに・・・。」

樹雷に着けば、という一縷の希望に身を託して帰ってきていたのだろう。天木日亜でなくとも、そのあまりにも遠大な道のりを想像して涙があふれる。

 「なに、みんながいたから大丈夫さ。それよりも、よく私たちを見つけられたね。私たちも眠ったようにして、最小限のエネルギー消費で航行していたからね。あんた達に見つけてもらって良かったよ、本当に。」

 「それは、たぶん一樹と柚樹という2樹がいたという点と、この者の特質だろうのぉ。」

話せば長いことながらと、始めようとして柚樹さんに先を越された。

 「樹になりたいとか言って、さっきも水穂殿に泣かれておったからのぉ。」

 「やれやれ、困った司令官殿だね。」

樹が笑っていた。さわさわと葉擦れの音がいつまでも続きそうだった。そうだ、と思いついた。エネルギーを受け取ることが出来るのなら、あげることも出来るのかなぁと。しゃがんで阿羅々樹のコアユニットに手を突き、力を込める。

 「おうおう、この子は・・・腰の痛みがひいていくなぁ。嗚呼、ありがとう、ありがとう。もう良いよ。」

樹に腰があるのかどうか知らないが、そう言う感じで答えてくれる。こっちはお婆ちゃんの肩叩きしている感覚だけど。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。