天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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おっさん、なし崩し的に、話が決まりそうです。

今回はモバイル更新してみました(^^;;;。






広がる樹雷4

「ほっほっほ。若いってことは良いのぉ。」

いやいや、あなた、数百年生きてらっしゃるけれど、樹雷の技術で年取っていないでしょ、と心の中で突っ込む。本当にこの人達の歳は分からない。僕たちも社務所を出て、縁側に座って鷲羽ちゃんの連絡を待つ。遥照様は社務所の奥へ行き、天地君は、お休みなさいと神社の階段を降りていった。今日は少し涼しい。柾木家よりも標高が高い位置にある柾木神社だから、気持ちの良い風が吹いていた。遠くを走る高速道路の低い音。さわさわと木々の葉擦れの音。二人で縁側に腰掛けていると本当にホッとする。

 「なんだか、ホッとしますね。ちょっと年寄り臭いけど・・・。」

 「いいえ、一昨日あたりから比べると本当に嘘のよう・・・。」

水穂さんが頭を預けてくる。

 「僕は反対側に、籐吾さんや、謙吾さんがいてくれても良いのだけれど。」

また脇腹を小突かれた。痛いのだ。

 「せっかく、今はわたしだけのものなのに・・・。もっと空気を読んでくれても良いじゃない!」

ぷくうっと両ほほを膨らませる。

 「あう、ごめんなさい。」

そう言いながら、ほほを人差し指でつんつんしてみる。この人こんなかわいいところあったんだと思いながら。

 「そう言えば本当になし崩し的でしたけど、本当に僕なんかで良いんですか?。樹雷だともっと凄い人がいらっしゃるでしょうに。」

皇家の船、第二世代艦水鏡の副官である。しかも平田兼光さんと、同僚だったりもする。どうひいき目に見ても優秀でないわけがない。

 「瀬戸様あたりがいろいろセッティングしてくれたり、船穂様も美沙樹様もいろいろお世話くださいましたが、瀬戸様の副官と分かった時点で、全部断られました。」

 「・・・それはまた、とても気の毒なお話ですけど、柾木・水穂・樹雷を名乗るあなたには、どう考えても、僕は不釣り合いのような・・・。」

僕の両手をそっと取り、その大きな瞳で僕の顔を見据えてしっかりとした口調で言う。

 「もう、あなたが辺境の公務員という人は誰もいません。皇家の樹2樹のマスターでもあり、樹雷の皇家の樹とそのマスターを4人も救い、死の淵から闘士を救った・・・。さらに海賊の大艦隊を相手に正々堂々戦い、辺境の惑星を守り切っています。控えめに言っても今樹雷は上を下への大騒ぎの真っ最中ですわ。そして、わたしは・・・。あなたとどこまでも行きたい・・・だからおいていかないで・・・。」

あー、だめだこりゃ。僕にはもったいない人だけれども、ありがとう。水穂さんを抱き寄せて、その汗ばむ、熱いからだが幸せだとしみじみ思う。左手で、水穂さんの頭から、しっとりした美しい髪を撫でる。

 「とりあえず、週末は樹雷、ですね。」

 「ええ、きっともみくちゃにされますわ・・・。」

 「皇家の樹のネットワークでも伝わってきているが、何か考えているそうだぞ。」

珍しく、柚樹さんが口を挟む。姿を現して、水穂さんと反対側に座っている柚樹さんを抱き上げ、膝の上に載せる。つやつやとした銀毛、喉をかくとごろごろと喉を鳴らす柚樹さん。ちょっと変わったネコにしか見えない。

 「もしかして、皇家の樹の皆さんに怒られるのかなぁ。」

 「いや、阿羅々樹と、赤炎、緑炎、白炎を無事連れて帰ってきてくれて嬉しいそうだ。それに、あれぐらいで良ければ、いつでも力を貸すと言っておる。」

 「う~~、それは良いんですけど、何か自力で光應翼張れるようになってるし、光学迷彩要らなくなってるし・・・。なんか、いろんな人に怒られたし。水穂さんには泣かれるし。無茶はやめようと思いました。」

 「お前さんは、ほとんど我らの仲間と言っても良いのかも知れないのぉ。」

 「じゃあ、水穂さんはカズキのマスターだね。」

はらはらと涙を流し始める水穂さんだった。なにか気に触ること言ったかな・・・。

 「そんな、樹になる、なんて言わないで。あなたは、ヒトのままでいて欲しいの・・・。」

気がつくと、階段のところに阿重霞さんに魎呼さんに、魎皇鬼ちゃんに砂沙美ちゃん、ノイケさんまでハンカチ持って顔だけ出して見ている。ちょうどその上に、でかいディスプレイが二つ出来ていて、瀬戸様と天木蘭さんがこっちを見て、ハンカチ持って泣いていた。しかも、上半身光学迷彩を解いてハンディカムみたいな物を持った鷲羽ちゃんまで見ている。

 「うむ、良い画が撮れたよ。題して、「水穂さんの憂鬱」だ。GBSに高値で売れるよ。」

もう、鷲羽様!と阿重霞さん達に、タコ殴りに遭っている。頭にでかい絆創膏をバッテンに貼って懐から一樹を出した。

 「・・・やれやれ、うるさい子達だよ。・・・一樹と惑星探査機の改造は終わったよ。」

ありがとうございます、鷲羽ちゃん、と頭を下げる。

 「で、田本殿、わたしがどこの洋館の主人だってぇ?。」

デビル・イヤーは地獄耳。いや、鬼姫の耳か。

 「あ~、瀬戸様はいつもお美しいなぁって。」

 「そんな棒読みじゃい・や・よ。」

 「じゃあ、瀬戸様の塩結びと、お漬け物、そしてわかめとタマネギのお味噌汁が飲みたいです。」

だって、美味かったのだ。籐吾さんが泣きながら食べるのがよくわかるのだ。

ぽっとほほを赤らめる瀬戸様。

 「あげませんよ、瀬戸様、蘭ちゃん。」

ぎゅっと僕の腕に自分の腕を絡めた水穂さんが、べ~っとかわいく舌を出している。

 「ノイケお姉ちゃん、頑張ろうね。」

 「ええ、砂沙美ちゃん。」

階段から顔だけ出して、ふたりして腕をクロスさせて誓い合ってる。だから何のために頑張るのよ・・・。ああ、なるほど、天地君か。

 「魎呼さん、私たちも負けてられませんわ!。」

 「お、おう・・・。」

さすがに魎呼さんは、その勢いに引いている。魎皇鬼ちゃんは、いまいちよくわかんない、みたいにみゃあ?と言っていた。

 「ホントに今日は失礼します。瀬戸様、天木蘭さん、今週末はお世話になります。あ、そうだ、竜木籐吾さんの具合はどうですか?」

 「ああ、大丈夫、元気なモノよ。時々思い出して顔を赤らめているけれど。あの子もかわいいわぁ。あとね、軽率な行動を自分自身取ったことを責めているみたいなの。その辺のフォローはお願いね。」

ええ、もちろん。と言うと、微妙に水穂さんの機嫌が悪い。そんなこんなで、みんなに見送られ柾木家をあとにした。

 「ただいま~。」

鍵を開けて、家に入り、キッチンの引き戸を開ける。うちは日本家屋なのだ。まあ平たく言えば土間があってガラスの引き戸を開ければキッチンというか台所。ここで食事をして、各自自分の部屋に行く生活パターンである。昨日は水穂さんがここに座っていて本当に驚かされたのだ。その結果、今日は水穂さんと一緒だったりする。堂々と入り口から帰ってきたりもする。あの数日間は何だったんだろう。電灯は消えていて、奥の部屋が明るい。今夜は二人とも32インチの液晶テレビのある奥のリビングにいるのだろう。時計を見ると、22時過ぎだった。

 「ただいま、お酒喜んで頂いたみたいだよ。それと、今週末、また樹雷に行ってくるから。」

 父母とも、韓ドラに見入っていたようである。そう言うと、今更ながらびっくりした顔をされる。扇風機が空々しく風を送っている。部屋の入り口に、水穂さんと二人して座る。母が慌てて座布団を出して、台所に行き、麦茶ポットと氷を入れたグラスを四つとちょっと深い皿に入れた水をもってきた。柚樹さんが水を喜んで飲んでいる。あの山の水だろう。

 「水穂さんがいるから大丈夫だと思うけど、本当に失礼の無いようにね。皇家なんてほんっっと~~に私たちに縁の無い世界だったんだから。でも、またなんでいくの?」

 「先週こちらに帰ってくるときに、行方不明だった皇家の船の艦隊を発見して樹雷に送り届けた祝賀会と、その艦隊の司令官になったお披露目、皇家の闘士を一人救ったお礼も兼ねてと言うところですわ・・・。」

 と、指折り数えて水穂さんが説明してくれる。

 「あんた本当に、わたしが産んだ子だろうね。先週樹雷の居酒屋であんたを見たとき心臓が止まるかと思ったよ。」

ごもっともでございます。だから隠していたんだけど・・・。

 「樹雷皇阿主沙様にも、船穂様、美沙樹様、神木・瀬戸・樹雷様にも本当に良くして頂いてるよ。」

まあ、本当にその通りなのだ。

 「あ~、本当にあんたの口から樹雷皇阿主沙様や船穂様、美沙樹様なんて言う言葉が出てくることがしんじらんないわ。ねえ、お父さん。」

 「まさかと思って、久しぶりにアイリ理事長に問い合わせたら、うちの娘がお世話になっています、なんて言われてたまげるやら、絶句するやら・・・。」

こんなことも出来るよって、光應翼張った日にゃあ、たぶん卒倒するな二人とも・・・。

 「わしも、一樹もついとるからまず大丈夫だろうて、のお、一樹。」

 「うん、だいじょうぶだよ。昨日も海賊の大艦隊を撃退したんだ!」

まずっ・・・、と思ったが遅かった。さああ~~っと血の気が引く音が聞こえるように二人の顔色が青ざめる。

 「それに、先週も、昨日も敵のアンドロイドやら、兵士と戦っておるしな。」

あ~あ、バレちゃった。ちっちゃい皇家の船がしゃべったり、柚樹さんがしゃべったりするのにも驚いている。

 「この地に帰ってきたときに、そんな話とは無縁の生活が始まると喜んだんだが・・・。」

 「じいちゃんの血が流れてるんだねぇ・・・。」

二人が少し涙ぐみながら、自分に言い聞かせるように言葉を紡いでいた。

 「まだ自分にも、その自覚があまりないんだけど、どうも樹雷の闘士の一人として認めてくれている、ようなんだよね・・・。」

 「お父様、お母様、カズキさんはもう立派な樹雷の闘士ですよ。」

ほんの数秒、じっと僕の目を父母二人が見つめていた。

 「あんたがその格好していても、目はあんたの目だからさ、親には分かっているけれど・・・。」

会話が途切れる。母はティッシュペーパーを取って目頭を拭いている。ちょうどその時、ピンポーンと会話の内容とまったく関係なく、平和な玄関チャイムが鳴った。こんな遅くに?田舎ではまず9時過ぎて人が尋ねてくることはない。それどころか、夕方、日が落ちてから他人宅へ訪問することはないと言って良い。母が立って玄関に行こうとするのを制して、僕が行くことにする。一樹と柚樹を見ると・・・、ニッと笑っている。危険は無いと言うことだろう。

 


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