天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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暴走が暴走を呼び、超光速で広がる風呂敷はとめどない・・・。


晴れ時々樹雷12

内部も機能優先の飾り気のない船である。腕時計をタブレットに変え、一樹と柚樹に頼んで、反応のあったところを外部からスキャンした、サルベージ船の映像に重ねてもらった画像を送ってもらう。二カ所から怪電波が出ているという。一カ所は主機関室、もう一カ所は・・・、配線が集中しているところから見て、これ、メインコンピュータールームか。何かあれば破壊してしまえばたぶん証拠隠滅と言うことだろう。

 一カ所目の機関室が近い。籐吾さんに作業員さんを任せて、適当なことを聞き取ってもらう。その間、謙吾さんと機関室内に入る。主機関の反応炉制御パネルに妙な丸い力場体が見える。つまんでその場所から空間ごと引き抜く。さて、これをどうしようと思っていたら、

 「田本様、こちらに入れてください。」

謙吾さんが、腰に付けていた小さなボックスからさらに小さな箱を取り出す。

 「簡単な耐爆発物ボックスです。核爆弾程度なら封じ込められます。電波遮蔽能力はありませんけど。」

 「この場合、その方がありがたいです。それではよろしくお願いします。」

作業員を遠ざけてくれている籐吾さんはひきつづきそのままに、今度はもう一カ所の反応が出た場所、コクピットに近いコンピュータールームに二人で音を立てず、走って行く。同じように仕掛けられていた物を空間ごと引き抜き、防爆ボックスへ。再び一樹と柚樹さんに頼んでスキャンをかけてもらう。謙吾さんの持つボックス以外には反応がないことを確認した。すぐに籐吾さんが聞き取ってくれている場所に戻った。この間、約1分程度。

 その後さらっと、作業員さんに船内を案内してもらって、密かにもう一回姿を消した柚樹さんにスキャンしながら付いてきてもらう。やはり他にはないようだ。とりあえず、一度夕食会場に帰り、作業員は元の席に座った。背後の黒い影もそのままである。先ほどの部屋に戻り、瀬戸様に報告する。

 「瀬戸様、サルベージ船内にも同様の物が2個ありました。一樹、柚樹スキャンと実際に船内を歩いての柚樹スキャンでもこれ以上見つかっていません。」

謙吾さんに預けてある防爆ボックスを取りだしてもらう。

 「作業員の一名に、ベテラン事務員と同じ黒い影が見えました。何者かが潜んでいるのか、どうなのか現時点では分かりません。」

困ったわね、と腕組みして考える瀬戸様。

 「シャンクギルドのやりそうな念の入ったやり方だわね・・・。」

あ、そうだ、とここに来る前にあった出来事を一樹、柚樹の記録を見せて説明する。これがあったので、今回この作業船も発見出来たことも報告する。

 「鷲羽ちゃんには説明していますが、そう言えば瀬戸様にはまだでしたね。」

報告を聞きながら、映像データを見ていた瀬戸様が、まっすぐこちらを見る。

 「もしかして、田本殿、今回の亜空間の隙間と言うべき場所に固定されていた、この爆弾らしき物、あなたは引きずり出せたのよね。ということは、その二名に付く黒い影もこちらの方へ引きずり出せるかしら?」

 「たぶん大丈夫でしょう。ただ、2名という点と、人質と言えるべき人物の背後に付き従ってること、この爆弾の起爆装置を握っている可能性が高いこと、が、僕でも思いつくことで、この三点が難しい点だと思っています。」

一名を引きずり出しているところで、もう一名に気付かれて、爆弾を起爆もしくは付いている人を殺傷する可能性がある。それなら爆弾らしきものをどこかに遺棄すれば、とも思うが、ある程度距離が離れると気付かれて、これも人質を殺傷する可能性がある・・・。だとすると・・・。

 「そう言えば、瀬戸様、いま船長さんと、航海士さん、事務員さんは時間凍結フィールドで囲まれた部屋にいるんですよね。」

 「そうね。三人は時間が止まった状態よ。」

 「瀬戸様、対人爆弾が爆発しても大丈夫な部屋、みたいなところはありますか?もしあれば、ベテラン事務員さんと作業員さんをそこに誘導しておいて、ふたりに気づかれないように、その陰に見える者の空間に、逆に、こいつを埋め込んでやろうかと。先に作業員に潜む方をひっぱりだし、ついで事務員という順番はどうでしょうか。先の二つは爆発物としても対人用でしょうからそう強力ではないのではないかと思います。あとの二つは引きずり出したと同時に安全な場所へ船外投棄と。」

そう言って、一樹の光應翼に包まれたモノを指差す。自らの近くで起爆する可能性はかなり低いと思う。自爆するなら別だけど。

 「そうね・・・。先に作業員の方を引きずり出したいという根拠は?。」

さすがに瀬戸様が腕組みしている。じっと鋭い視線をこちらに向けてくる。

 「どっちがどうという違いは一瞥しても特にないんですが、最近このサルベージ会社に入った新人である、というところが怪しく思うだけですね。実際のところ。それに、この作業員以外すべて帽子か、ヘルメットをかぶっていたようなのに、ターゲットの作業員は何かをかぶっていた様子がないようにみえます。」

水穂さんを見ると、何か言いたそうに、とても不安そうな顔だった・・・。心の中でごめん、と謝る。しばらく無言の状態が続く。籐吾さんも謙吾さんも何か言いたそうにしている。

 「ふむ、危険だけれど、ここは田本殿に任せてみましょう。多人数でかかっても、いまは敵が見えているのは田本殿だけだし・・・。」

 「ええ、敵が見えるか、そうでなくても気配でもあれば皆さん一騎当千の人ばかりだと思うんですが、今の状態だと他の皆さんがいると、どうしても逆に危害が及ぶように思います。」

籐吾さんは、血が出んばかりに唇を噛んでいる。謙吾さんは、手の爪の色が白くなるほど握りしめている。その握り拳が細かく震えていた。確かに部下になったんだろうけど、今回は、みすみす命の危険があるのに付き従わせるわけにはいかない。さらに、瀬戸様にたたみかけた。

 「先ほどもそうでしたけど、光應翼を刃に沿わした木刀で、切断することもできましたし、最悪、柚樹と一樹の光應翼で僕を守ってもらうこともできるでしょう。また、空間をつなげて避けることもできます。」

もういちど、横目で水穂さんを見ると、不安そうな表情である。そこに小さく電子音が鳴った。天木蘭さん宛の通信のようだ。

 「瀬戸様、樹雷の諜報部隊からの報告です。たった今、サルベージ船に関わる行方不明だった者の救出に成功したそうです。薬物中毒や怪我等はあるようですが、命に別状はなく、治療可能な状態だそうです。」

わずかに瀬戸様の口の端が持ち上がり、そして頷いた。美しい細工の腕輪をタブレット形状に変え、水鏡の内部周辺地図を呼び出し、テーブル上に開いた半透明のディスプレイに転送して、瀬戸様はゆっくりと説明を始めた。

 「田本殿、それでは、さっきの夕食場所のとなりに、小ホールがあるの。ここならシールドも張りやすいし、戦っても手頃な広さだわ。亜空間固定された水鏡の居住空間だからそんじょそこらの爆弾が破裂しても問題はないわよ。」

細く美しい指が指し示し、ぎらりと眼光は鋭い。

 「わかりました。籐吾さんと謙吾さんは、さっきの作業員とベテラン事務員さんを小ホールに連れてきてください。そのあとは小ホールの外で待機してくださいね。」

二人とも納得しかねる顔で、何か言いたそうに口を開きかけるが、渋々承諾してくれた。

さらにまた電子音が鳴る。今度は瀬戸様が話し始めた。

 「・・・ええ、わかったわ。入れて上げてちょうだい。・・・田本殿、一樹ちゃんが一緒に付いていたいって。そう言えばあの子は小さくなれるんだったわよね。」

あ、そうだった。と思うと同時に、部屋のドアが開いて、一樹が飛んできた。肩に乗って姿を消す。謙吾さんがちょっと表情を緩める。

 「わしも、もちろん行くぞ。」

銀ネコが一瞬、姿を現し、また消える。

 「それでは、二人をもう一度聞き取りたいということで、その小ホールにお願いします。僕は先に行って待っています。」

 はたして、小ホールに先に行って、待っていると謙吾さんと籐吾さんに連れられて、ベテラン事務員と作業員がやってきた。二人とも背後の陰もそのままだった。ポケットには光應翼に包まれた、さっきの力場体が入っている。すみませんねぇ。もう一度お話をお聞かせください、と言いながら若い作業員の正面に行く。籐吾さんと謙吾さんは、それを察して、ベテラン事務員がこちらを見えないようにうまく壁になってくれた。どうも外に出て待機などは、二人ともしたくないようだった。

 「あれ、肩にホコリが・・・。」

とぼけてそう言って、若い作業員の肩に手をやるふりをして、背後の黒い影の横の空間に、右手で力場体を埋め込む。微妙にその影は揺らぐように見えた。しかし、よほど自分の力量に自信があるのだろう。そのままそこにとどまっている。埋め込んだ右手で作業員の肩口をつかんで、左手を作業員の背後の空間に入れてそれぞれ逆方向に、腕を開くように陰をつかみ引きはがした。勢い余って、作業員は2,3mほど飛んで肩から落ちている。

 「くそう!なぜわかったぁ!」

黒い影は、実体化して人の姿になり、殴りかかってこようとするが、一瞬速く一樹の光應翼で球状に包まれ拘束される。謙吾さんと籐吾さんが、常人だと目にみえないような速さで、ベテラン事務員の左右に立ち、硬直している事務員の両手を拘束する。しかし、敵が一歩速い。間に合わない!黒い影は籐吾さんの背後に移動したと同時に、籐吾さんの口から血があふれる。前にゆらりと倒れる籐吾さんをかわしつつ、右手に持った力場体を影の空間に埋め込む。同時に怒りと渾身の力を込め黒い影を引きずり出し、光應翼を刃にした木刀をその者に突き立てていた。どう、と倒れる黒い影。同様に光應翼で包み込んでもらう。

 「・・・良かった、田本様、お怪我は、あ、ありませんか?」

抱きとめた籐吾さんがむせ、ごぼりと、また血が口からあふれる。背後から深く一突きされている。場所から言って大動脈が傷ついている可能性があった。傷口からの出血も多く止まらない。くっそぉっ、絶対に死なせはしない!。

 「謙吾、救急隊を呼んでくれ。」

 


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