天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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なんかこう、ややこしくなる傾向が・・・。

あうあう、どーしましょ~(^^;;;



晴れ時々樹雷11

ぽつりぽつり、という感じで話し始める。さっき、助けてください、と話していたのもこの人だ。うつむいたままで、こちらの目を見ない。短く刈り上げた髪で見た目は50歳台のように見える。まあ、この世界年齢は関係ないようだけど・・・。

 「船長さんの職場は、あの船なんですか?腕一本で仕事されている感じがしますが・・・。」

 「ええ、事務所は銀河アカデミーにあります。作業船とさっきの作業員が私たちのすべてです。」

やっと顔を上げる。実直でそれなりに仕事をこなしてきた人かなと思う。

 「宇宙船のサルベージをされていると聞きましたが、中には暴走し始めているような反応炉なんてあるんでしょうに・・・。それに、今回みたいな超重力の惑星から引き上げるなんて仕事もあるでしょうね・・・、大変なお仕事ですね。」

そんな世間話から始める。そうなんですよと、某星系の某所では、反応炉の無効化に手を焼きましてとか、最近では重力場無効化フィールド発生装置も高くなりましてね、と言う感じである。はあ、そうですか、なるほど、苦労されたんですね。と言う返事をしながら、いちおうまた亜空間生命体目線でも見てみる。話している雰囲気に違和感はない。ただ、首筋に何か丸く力場のような物が見えた。ここだけがおかしい。

 「何とも頭が下がる思いです。これで聞き取りは終わりです。ありがとうございました。おや、ごめんなさい、襟元にゴミが。ちょっと取って良いですか?」

ああ、すみませんそう言って、中腰になって、襟元を僕の手に近づけてくれる。指先の空間を同じイメージにしてさらっと首筋を探る。うん、やはり何かあった。スッと指を引き抜き手の中に隠す。

 「ごめんなさい、僕の目の錯覚でした。お疲れ様でした。」

 航海士も同じような話をした。航海士さんには船長と同じ首筋に丸い力場があった。様々な機器に精通すると言った感じだが、割と専門バカ風な感じも聞き取れた。同様に襟元から何かの装置らしき物を空間から抜き出す。人物と重なる空間そのものに固定するようになっているようだった。航海士が出て行ったあと、密かに柚樹と一樹にそれぞれを小さく光應翼で包んでもらう。

 次のベテラン事務員には丸い力場は見当たらない。見た目少し小太りでぽっちゃり体型。わたしがこんなことに巻き込まれるなんて。わたしの妻も帰ってきていません助けてください、と訴えている。その姿形の奥にもう一つの姿も見えた。何か重なって見える。光学迷彩とか何かのフィールドとかではない。空間が重なった、そんな感じ。

 「もう、奥様はどのくらい帰ってきていないのですか?」

 「もう10日になるでしょうか。突然居なくなってしまって。何も思い当たることもなくて、あとは仕事がらみとしか・・・。」

 「そうですか、大変でしたね。それでは、これで聞き取りは終わります。ありがとうございました。」

ホッとした様子のベテラン事務員。カタリとイスを引いて立ち上がる。ドアが開き、外の樹雷の闘士に連れられ控え室に行った。

 「水穂さん、瀬戸様を。」

水穂さんが頷くと同時に、瀬戸様につながり、こちらに来るとのこと。ポケットへしまっていた首筋から取りだした物をだしておく。一樹と柚樹の光應翼で包まれている。瀬戸様と平田兼光さん、天木欄さんの三人がすぐに現れた。目の前の席にかけてもらう。

 「うふふ、田本殿、何か見つけたようね。」

微妙に爬虫類顔の瀬戸様。あーあ、という気の毒な表情の平田兼光さん、天木欄さんはお名前のとおり、爛々とした目をしている。

 「ええ、これをご覧ください。いちおう、危険があってはいけませんので一樹と柚樹の光應翼で包んでいます。」

お話の前に、と言うことでこの部屋をシークレットウォールで天木欄さんが包んでくれた。

同時に、新しいお茶が転送されてきた。

 「この何らかのユニットは、船長さんと、航海士さんの首筋に付いていました。身体の含まれる空間そのものに固定された状態でした。うまくその空間ごと引き抜いた状態です。僕には、この物体がどういう働きをするのかよくわかりませんが、首筋という場所から言って・・・。」

そこまで言うと、三人とも頷く。

 「さて、懸念される起爆装置ですが、僕の言葉を信じて頂くならと言うことになりますが、小太りのベテラン事務員さんに何者かの陰が重なって見えました。これも事務員さんの占める空間に潜んでいるように見えます。今までにない亜空間フィールドと言うこともあって、いちおう作業員さん全員を見たいと思います。さらに作業船も。」

 「分かった手配しよう。ベテラン事務員の方はどうする?」

平田兼光さんが、頷きながら部下に指示を飛ばしている。

 「う~ん、どうしましょう。人質もまだ何人か帰ってこられていない人がいらっしゃるんですよね。」

 「ほほほ、樹雷の諜報員を甘く見てもらっては困るわ。間もなく報告が来るはずよ。それまであの三人は、時間凍結フィールド内で居てもらいましょう。水鏡ちゃんも、あの事務員から妙な信号が発せられていて、船長と航海士が受信していると言っているし。」

艶然と微笑む瀬戸様。そして、このドヤ顔の迫力。某歌謡曲の「魅せられて」あたりが頭の中に響く。

 「皇家の樹はその信号が分かるんですね。それならば、一樹と柚樹にその信号を教えてもらうことは可能ですか?」

 「うふ、そう言うと思って、すでに一樹ちゃんも柚樹ちゃんもその準備は整っているわ。すでに二人で作業船をサーチしているようよ。」

一樹と柚樹から、今、水鏡から教えてもらった信号をサーチしているとの報告が瀬戸様の言葉と同時にあった。

 「あ~、しまった・・・。作業船のメカとかわかんないし。もう一人誰か居てくれると助かるけど水穂さんは・・・、ここに居ていろいろ通信とか連絡とかしてもらいたいし・・・。帰っちゃったよなぁ、謙吾さんと籐吾さん。」

さっき樹雷に帰るからと言って、この宙域を出た気がするし。

 「お呼びでしょうか、田本様。」

ヴンと空気が振動する音共に二人が転送されてきた。しかも、膝を折って傅(かしづ)いてくれている。とてもカッコいいのだ。数秒間見とれてしまう。

 「すんません、あまりにもタイムリーで、むっちゃカッコいいって思ってしまいました。」

そう言うと、微笑んで顔を上げるのは、籐吾さん。ニカッと笑ってVサインなのは謙吾さんだったりする。

 「あら、田本殿はすでに艦隊司令なのよ。部下が馳せ参じるのは当たり前じゃない。」

例の扇子をパンッと開いて口を隠してそう言う瀬戸様。地球の踊りの1シーンのようだった。ひとつひとつの所作が決まっている。

 「ええと、おとといか昨日そう言われたような気がしますけど・・・。何かいまだに、ちょっと・・・。この人達、いっぱしの樹雷闘士だし・・・。」

ぐしっと、また水穂さんに軽い肘鉄食らう。ぐええ、痛いんですけど。

 「もお、あなただって、そうじゃないの。さあさあ、二人連れて、行ってきてくださいな。あの作業船と作業員さんを見てくるんでしょう?」

 「は!。了解しました。瀬戸様似の水穂様!。」

スチャっと立ち上がって、敬礼して二人を連れてダッシュする。一拍遅れて、「な、なんですってぇ。」と怒声を上げる水穂さんをその部屋に残し、まずは作業員さん、と言うことで先ほどの夕食会場に居たはず。

 果たして、作業員さんはみんな不安そうな面持ちで夕食会場に座っていた。

 「皆さん、お疲れのところ申し訳ありませんが、船長さん達の聞き取りは終わったんですけど、もうちょっとお待ちください。」

 そう言いながら、10名ほどの作業員を亜空間生命体目線で見渡す。空になった皿が並ぶテーブルの周りをぐるっと歩きながら一人ずつ確認していった。謙吾さんと籐吾さんは入り口で、手を後ろに回し立っている。うん、ひとりだけ事務員さんのように何かが重なった人が居る。油が所々付いて汚れてはいるけど清潔にしている感じの作業服で、見た感じ20代~30代くらいに見える男だ。髪も帽子をかぶったような跡がなくふわっと後ろに流している。あとの作業員は、さっきまで帽子をかぶっていたようなそんな髪型だった。

 テーブルを回り終わった頃に、一樹と柚樹から怪電波の発生場所が特定出来たと連絡が来る。さすが皇皇家の樹2樹である。柚樹から、内部に2カ所。一樹から外部にはないとの連絡だった。かなり微弱な電波のようである。実際、地球で言う電波かどうかもわからない。ちなみに柚樹さんはいつものように姿を消して足下にいる。

 「すみません、サルベージ船の中を捜査の必要上、一通り見て確認したいと思います。申し訳ないんですが、誰か一人・・・そうですね、そこのお若く見える方、ええ、そう、あなたです。」

 「そいつ、この間うちに入ったばかりで仕事のことはあまり知らないよ。」

年長と思える男がそう言う。

 「いやぁ、サルベージ船の中を案内してもらうだけですから。部屋の場所とか、わかるんですよね?」

ああ、それなら大丈夫です。そう答える若手で髪を流した男。その男を案内に、僕と謙吾さん、籐吾さんはサルベージ作業船に向け歩いて行く。水鏡のエアロックというか扉を抜け、すぐそこは宇宙!。数人用のカゴのような乗り物がある。100mくらいだろうか、水鏡に係留されているサルベージ船のエアロックまで飛び石のように、光る四角い板状のモノが続いている。

 「ええと、籐吾さん、これ宇宙服とかは・・・?」

作業員さんと僕以外の二人が、ちょっとニヤリとする。だって知らないし。

 「必要ないですよ。チューブ状のフィールドで覆われていて空気もありますよ。このイオノクラフトは自分が操作しましょう。」

二歩くらい前に出て、その乗り物を操作する籐吾さん。ちょうどその後ろに立つ作業員、自分はその斜め後方、謙吾さんはその斜め後方だった。すぐに音もなく滑るように、光る飛び石をサルベージ船まで移動を始める。ずっと作業員を見ているが、やはり黒っぽい陰がずっと重なっている。たぶん、樹雷のセンサーにもうまく引っかかっていないのだろう。特に何か動く感じではない。

 サルベージ船に到着して内部を歩いて行く。全長150mほどの宇宙船だった。作業用の伸縮自在なクレーン、引き上げた物が固定出来るなら、それを固定するような荷台。そのような物理的な引き上げ機器と、大砲を思わせるトラクタービーム発生機や、フィールド展開システムなどさしずめ巨大なトラックにも見える。


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