天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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乗って帰るはずの、田本さんのクルマ・・・。

そして、なにやらもう一つの梶島ワールドともくっつきそうになっちゃった・・・。

水樹尋さんあたりにもお説教くらいそうな気がしてきた・・・。


晴れ時々樹雷5

またもや、ぶちゅっと投げキッス。なんだか、べっちょりと粘液質なものが、あごから垂れ落ちているような錯覚があった。こんどこそ、静かな社務所に戻る。時計を見るとほとんど11時になろうかという時間だった。

 「もうこんな時間・・・。鷲羽ちゃん、あのメカの操縦方法、教えてもらおうと思っていたんですが、また明日お願いします。さすがに遅いので帰ります。明日は仕事だし・・・。」

周りの視線が集まる。艦隊司令官なのは、そうかもしれないが、いちおう地球での仕事もある。と言うか地球での仕事と思う時点で、すでに染まっている気がしてきた。

 「分かったよ、田本殿。しかし、真面目だねぇ。あのメカは、クルマの状態の時は普通に運転してもらってかまわないよ。なにせ、田本殿の偽装も兼ねているから。」

やれやれ、と言った表情の鷲羽ちゃんちゃんだった。そう言われても、目の前の仕事がある。樹雷の仕事は・・・・・・、考えるのはやめておこう。なにせ、今の日常からかけ離れすぎている・・・。

 「ところで、皆さんどうされます?」

せっかく地球に来てもらっているのだけれど・・・。

 「田本殿の仕事ぶりを見せてもらっても良いのですけど、私たちは、この時代に目覚めて間もないので、立木謙吾殿といっしょに樹雷に帰ります。樹雷での住民登録処理など済ませておかなければならないことがたくさんあります。数日後に、樹雷でお目にかかりましょう。」

そりゃそうだろうな。眠っているうちに、一万数千年後の未来に来てしまったのだ。様々な手続きやら、知識の獲得などやるべきことは多いだろう。

 「まあ、僕も突然、皇家の樹のマスターになった者ですから、ある意味皆さんと立場はよく似ています。いろいろ教えてください。」

そう言って、柾木神社をあとにする。僕の軽自動車は、柾木神社の入り口に止まったままだった。鷲羽ちゃんに一樹と柚樹を託し、柚樹さんには光学迷彩をかけてもらって、クルマに乗り込む。このクルマも修理工場から直ってきたと言わなければならない。久しぶりに、柚樹さんとか一樹と一緒で無い状態だった。バックミラーに写る顔は、役場職員の田本一樹である。さっきまでの出来事だとかは、本当に夢の中の出来事と思い込めそうな、ごく普通のものが目に入っている。このクルマのキーは、もう一台のクルマのキーと自宅の鍵をキーホルダーでまとめている。そのキーを差し込む穴まで再現されている。

 「鷲羽ちゃん、普通に運転して良いって言ったなぁ。」

普通に樹を差し込んで回すと、キュキュキュとエンジンをクランキングする音がして、ぶるんとエンジンがかかった。直列三気筒のこのクルマの音だった。慣れ親しんでいる音に聞こえる。縮退炉がどうとか、まったくそう言う気配はない。いや、気配があると困るのだけれど・・・。ちょっと複雑な思いのまま、ギアを入れて踏み込んでいたクラッチを上げざまアクセルと踏み込む。ごくごく普通に発進する。ううむ、あの鷲羽ちゃんがこんな普通さを許すはずがない・・・。べれれれ、という聞き慣れた三気筒ガソリンエンジンの音そのままだった。そうだ、さすがにガソリンの給油口はどうだろう?そう思って路肩に駐めて、運転席シート下の給油口リリースノブを引っ張る。

 「カコン。」

そう言う音と共に、左後方の1部が開く。左のバックミラーで開いたのが見えた。腕時計を携帯モードにして、ライトを付けクルマの左後方に回ると、確かに給油口がある。開けて覗くと、給油口の穴はなかった。ちょっとホッとする。と言うことはこのクルマ、地球の整備工場には預けることができないのだろうな。とりあえず、ほぼ完璧に地球のクルマに擬態していることはわかった。今日のところは、もうさすがに驚かされることもないだろう。艦隊司令官がどうとかと言っても、明日からと言うわけでもないだろうし。

 このクルマは、うちの庭に置いているので、邪魔なときは父が動かすときもある。そう言うわけでこれぐらい擬態していないと、マジでバレてしまう。さて、汗をかいてしまった。コンビニ寄って帰ろう。ぱくんと給油口のふたを閉じて、乗り込んでウインカーを出してほとんど車の通らなくなっている県道に出た。1速全開で引っ張って2速全開にして引っ張る。タコメーターがない車種なので回転数は分からない。高回転で苦しがる様子までそっくりである。80kmを越えたところで3速、そして4速飛ばして5速ギアにシフトして、アクセルを戻して60kmぐらいで巡航する。本当に何の変哲もない古い軽自動車だった。

 「なあんだ、恒星間探査艇だって言うから構えていたけど・・・。」

独り言をつぶやいたその瞬間、

 「田本一樹様、生体認証パスしました。本人の意向により、恒星間探査モードに移行します。また、同時に光学迷彩および不可視フィールド展開。補機対消滅反応炉起動します。」

はあ?と思っている間もなく、自分の言葉に反応して、変形を開始する僕のクルマ。女性の人工音声らしい声とともに、見慣れたダッシュボードは、回転して超近代的な操縦システムに変わる。ハンドルは半分に割れて、自分の座っているイスの両端に移動して、半球形の光るものに変わった。自然とそこに両方の手のひらを置く格好になる。

 「地球の道路上から、安全のために地上1000m程度まで上昇します。補機対消滅反応炉臨界突破、通常使用領域に入りました。続いて主機大型縮退炉起動。」

なにやらSF好きにはたまらない、音やら振動やらが、もうすでに、運転席という言葉よりもコクピットと言った方が良い空間に静かに響いている。ピココッと言う電子音がして通信がつながった。

 「ありゃりゃ、起動しちゃったようだねえ。」

いつもの少女のような鷲羽ちゃんだった。さっきの不思議な雰囲気はもう感じられない。

 「済みません、鷲羽ちゃん。独り言言ったら起動しちゃいました。このあとどうすれば良いですか?」

 「基本的に、今、田本殿が触っている二つの半球形で、この機体は田本殿の意思を読み取るよ。それと音声認識だね。ちょうど良いから、そのまま火星軌道くらいまで行っておいでな・・・。お、そうかい?立木謙吾殿が樹沙羅儀でサポートするって。」

鷲羽ちゃんの横から、あ、じゃあ俺行きます、の声。

 「とりあえず分かりました。習熟飛行と言うことでお願いします。」

タービン音のような、もう少し低い音だろうか、少しずつ高まってくる音があった。

 「補機出力103%。主機大型縮退炉、起動成功。臨界を間もなく突破します。全兵装使用可能になりました。いつでも最大出力で回せます。研究設備および居住設備使用可能になりました。」

ぬおおお、テンション上がるのだ。むっちゃカッコいいのだ。皇家の樹も凄いけど、こっちのメカメカしい雰囲気は、やっぱりたまらんものがある。

 「周辺の地図というか、マップは表示出来ますか。」

自分の胸のあたりに、ホログラムで地図表示される。上昇、そして月衛星軌道に行くように指示する。そう言えば・・・。そう思って通信回線を開く。

 「鷲羽ちゃん、確か大型常温縮退炉とセットで、皇家の樹を模した、新型ニューロコンピューターを積んであるんですよね。もしかして、意思があったり、話ができたりします?」

真っ赤な髪を後ろで束ねた鷲羽ちゃんが通信に出た。

 「そうだねぇ。以前に西南殿の先代守蛇怪のコンピューターがその域まで行った記録はあるけれど、そのあと先代守蛇怪は大破しちゃってねぇ・・・。そのデータをベースに今があるから可能性はあると思うけどね~。」

鷲羽ちゃんは、自分の技術でないと比較的冷淡なような気がする。そんな交信をしていると、すでに外は成層圏。地球が青く球形に眼下に広がっている。何と足下は透明に透けている。このまま月軌道に行き、火星を目的地に設定っと。今は、ちょうど結構近い位置に火星はいるようである。とはいえ通常速度で飛んでいたら寝る時間がなくなるので、超空間ジャンプすることにする。コンピューター任せで超空間ジャンプ可能位置を割り出して、プログラムロード後、ジャンプを掛けることにする。

 「超空間ジャンプ・プログラムロード。ジャンプ可能軌道まで達したら、ジャンプし火星軌道へ。」

それに女性の人工音声が答える。

 「了解しました。超空間ジャンプかかります。」

数秒間の見慣れた暗緑色の空間がみえたあと、ネットやテレビで見慣れている、と思っていた火星が眼前に広がる。やはり自分の目で見るとちがう。火星の球形を形作るエッジは薄青く見え大気の存在を感じさせる。ここまで来たらやはりSF&トンデモ本好きの血が騒ぐ。確か市街地の跡だの、顔面ピラミッドがあったはず・・・。宇宙船みたいな光がしばらく見えていたとか、そう言う実生活にまったく関係ない知識がわさわさ出てくる。

 「そう言えばこの機体、探査機って鷲羽ちゃん言っていたなぁ・・・。ちょっと火星に降下してみようっと。」

広域探査モードで人工物らしきものをピックアップしてもらう。岩石だの地形のようなものは除外・・・。お、割と簡単に候補地が・・・、うわ、こんなにたくさん・・・。適当に一つ選んで降りることにする。上から見ると、確かに町らしきものの跡のように見えるものだった。高度が低くなるにつれ、高さ十数m程度の高層建築と数m程度の建物の組み合わせと、道路のように見える物だった。僕の記憶では町にしか見えない。

 確か天木日亜の記憶では、この火星、木星の大赤班から吐き出された、惑星大の火球が第5惑星の軌道を横切るときに、その潮汐力で第5惑星が破壊され、その大小無数の破片を大量に浴びたはず。アトランティスとムーの時代でも惑星間航行技術はなかったようだから、何か文明があったとしても交流はないと思われる。

 その町の跡らしきところに降下し、道のようなところに惑星探査車に変形して降りる。クローラーに動力が伝達されて、ぐおろろろ、ゆさらゆさらとゆっくり進み始める。探査プローブとかあるのかな?

 「探査プローブとかあるかな?」

そう言うと、その候補が前面ディスプレイに出てくる。エネルギー鉱石とか原料鉱石とかを探すのではないので、ひとまず光学&生命探査プローブあたりを選ぶ。すると十数個のプローブが打ち出された。とりあえず、この探査車はここで停止させた。ピココッとまた通信が入る。

 「どうっすか、結構楽しんでらっしゃいますね。」

立木謙吾さんだった。ということは、皇家の船「樹沙羅儀」が上空に到着していると言うことだろう。

 「いやあ、楽しいねぇ。この火星って結構いろいろ遺跡とかあるようだし。」


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