天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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やっかい事ホイホイな田本さん、だんだんエラいことになってます。

今頃サンタクロースは、どの辺配っているのだろう(爆)。


晴れ時々樹雷3

「そうだね、柾木の子だ。きっと大丈夫だろうね。」

真夏の夜、のはずだけれど、一瞬白い吹雪か、花びらのようなものが鷲羽ちゃんの周りを舞ったような気がする。目を閉じてもう一度見ると、やはりあの蒸し暑い瀬戸内の風が吹いている柾木神社だった。柚樹は姿を現して、顔を洗っている。

 「一樹、いろいろなものに邪魔にならないところまで上昇して、元の大きさに戻って、カーゴスペースに入れたメカを出してくれるかな。」

わかった!と元気よく返事して、す~っと空高く上がっていく。するすると元の大きさに戻りながら不可視フィールドを張っているようだ。柾木神社上空に巨大な威圧感ができたときに、見慣れた軽自動車が境内に入ってくる道の入り口に転送されてきた。

 「あなた、どこにいかれるんですか?」

社務所前に転送されてきたのは水穂さん。と、立木謙吾さん・・・?

 「水穂さんは良いんですけど、立木謙吾さんは、樹雷に帰ったのでは・・・?」

水穂さんは、清楚な感じのワンピースだし、立木謙吾さんは、シンプルにTシャツにジーンズである。このまま倉敷市内のショッピングセンターにいてもまったく違和感がないし、もしかすると東京あたりで歩いていると芸能界あたりのオファーも来そうである。さらに何となく悔しいけれど、恋人同士と言っても過言ではない。

 「ふふふ、水穂さんと共に、田本さんの監視者の役目を樹雷王阿主沙様から頂きました。さらに、田本さんの艦隊の機関長および技術部門を任されました。」

に~っこりと例の関わってはいけない系の笑顔をしている立木謙吾さん。

 「へ~、そりゃ大変ですね~。昨日の辞令ってそれだったんですか・・・・・・、って、艦隊って何のことよ?」

あの、昨日の嫌な予感は、さらに現実味を増して、背中を這い上る。

 「・・・あなた、傷ついた樹雷の、しかも皇家の樹の艦隊を助け出しておいて、私たちの樹雷が、しらんぷりとか、他人事のように振る舞えると思います?しかも自らの命の危険を冒してまで・・・・・・。」

水穂さんは、涙目で半分笑顔、半分泣き顔でそう言った。左手を挙げて涙をぬぐう。

 「は?あの日、僕は疲れて眠っていたんじゃ・・・」

 「あのね、田本殿、昨日帰ってくる途中で、あんた大変だったんだよ。」

鷲羽ちゃんが、バカな子だね~と言わんばかりの表情で言うには、樹雷星系外縁部に一樹を入れて5隻で実体化後、一樹も柚樹も意識不明。なんとか僕はベッドに倒れ込んだけど、その後、心肺停止一歩手前まで行ったらしい。守蛇怪で作った、腕時計型携帯端末が持ち主の異常を感知、自動起動して、ナノマシン治療モードに移行、そのままベッドから医療ポッドに移送されて、2倍の加速空間内で2時間の治療を受け、何とか持ち直して実時間で2時間後の目覚めに至る、そう言うことらしかった。しかも急造した補機システムは一度起動に失敗。深刻なソフト的なダメージを負ったらしい。急遽、鷲羽ちゃんのOSをインストールしてなんとか帰還出来たようである。ちなみに、今回の軽自動車擬態の惑星探査機は同様のOSが入っている、兄弟システムを乗せているのだそうだ。

 「ほんっとにバカな子だね~。剣士殿の方がよっぽど良い子だよ。」

鷲羽ちゃんに褒められて、えへへと表情を崩す剣士君。

 「こう言うときには、おろおろしちゃって、駄目ですね、やっぱり男って。」

立木謙吾さんが肩を落として言う。この人も涙声だった。

 「あなたが目覚めて、地球の某サービスエリアで一緒に買い物した時、本当にホッとしてしみじみと幸せを感じましたのよ。」

バカとか、カスとか罵倒されて、詰められる方がよっぽどマシだった。ぽっとほほを赤らめる水穂さんと立木謙吾さんに、本当にありがたく思うと同時にごめんなさいと心の底から思う。

 「う、ごめんなさい。そしてありがとうございます。」

 「もうあんな思いはイヤですわよ(よ)。」

二人の声がハモる。柔らかい言葉だけれど、強い意志を感じる、その裏返しは・・・。

 「・・・ええと、あのお~、それでさっき、艦隊がどうとか言ってませんでしたっけ?」

かららと社務所のアルミサッシが開く音がする。

 「おおい、まあみんな、こっちゃ来い。社務所で話せばええ。」

柾木勝仁さんに戻った、遥照様が手招きしている。一樹は元の大きさに戻って、僕の肩にとまっている。そう、わずか10日ほど前に、この社務所で、一樹のエネルギーバーストを受けたんだった。ようやくアルミサッシにガラスが入っていた。すでにあのバーストの跡形もない。感慨深げに、アルミサッシを撫でていると、大きな手でポンポンと二回、背中を叩かれた。ふわりと天木日亜の記憶が甦る。とっさに腕時計を木刀に変化させ、振り返りざま、後方からの一撃を受け止める。柾木神社の境内に、堅く乾いた木同士の当たる音が響き渡る。

 「日亜殿、さすがだ。鈍ってはおりませんな。お久しぶりでございます。」

180cmくらいの樹雷の闘士が木刀を持って立っていた。頬が少しこけているが、鼻筋の通った美形と言って良い男である。右手に持っていた木刀は、しゅるんと左腕の腕輪に変わる。

 「竜木・・・籐吾か、無事だったのか!」

 「私たちもいるわよ!」

竜木籐吾の背後から、三人の女の子が現れる。三人とも竜木籐吾と同じくらいの長さの八角棒を持って立っていた。身長はそれぞれ170cmくらいだろうか。三人ともグラマーで美人と言って良い。

 「神木あやめ、茉莉、阿知花か!」

にっと歯を見せて笑うあやめ、眼鏡をついっと持ち上げる茉莉、顔を赤らめてもじもじする阿知花だった。昨日の日付が変わってすぐに樹雷の迎えに引き渡したよな、と言う田本一樹の記憶と、1万数千年前の、あの時空振直前の天木日亜の記憶が錯綜する。クラクラとしためまいに襲われ、膝を折って頭を抱え、すわりこんでしまった。

 「・・・そう、今は田本一樹様でしたね。しかしながらあの太刀筋は、紛れもなく天木日亜殿でございました・・・。」

そう言って、竜木籐吾は、手をさしのべた。その手を握ると、三人の女の子が後ろに回って抱え起こそうとしてくれる。めまいは一瞬で、すぐ立ち上がれた。三人の女の子の厚意は、ごめんねと言って、断って立ち上がる。

 「すみません、我ながら、むちゃくちゃ、ややこしい状態なので・・・。」

 「・・・おもしろいやつではあってのぉ。お前達もそれで来たのだろう?」

顔を洗っていた柚樹さんがしゃべりだすと、さすがに4人は引いた顔をする。

 「実は、天木日亜さんの第二世代皇家の樹、柚樹だったりします。このネコ。」

社務所に上がりながらそう言って紹介する。

 「さらに、この肩の鳥みたいなフィギュアは、僕の第二世代皇家の樹、一樹だったりもします。遥照様の船穂の挿し樹付きです。」

さらに四人とも引いている。ドン引きだろうな。

 「僕は鳥じゃないもん!。」

そう言って、パタパタとその辺をぐるりと飛んで、また僕の肩に留まる一樹。社務所、奥の北側左手に水穂さん、右手に立木謙吾さんという配置で僕はその真ん中に座った。

 奥の南側は柾木勝仁=遥照様で、その右隣に天地君と剣士君、鷲羽ちゃんは左側に座る。鷲羽ちゃんから一人分ぐらい開けて、竜木籐吾殿、神木あやめ、茉莉、阿知花と座った。

今日は、遥照様と勝仁様と姿を変えるのがめまぐるしいけども、今は、見ようによっては30代前半に見える遥照様だった。そして、その遥照様の背後に、半透明のディスプレイが二つ出現し、一方に樹雷皇阿主沙様、もう一方に神木・瀬戸・樹雷様が現れる。神木・瀬戸・樹雷様は、現れると同時に投げキッスである。もちろん僕に。ピンク色というか、紅色の粘っこいエネルギー弾が顔に当たるがごとくである。べちょっと・・・。樹雷皇阿主沙様が手で受けて、ナプキンで拭いた気持ちがよくわかる。

 「・・・あのお・・・ええ~っと、何か凄いことになっていませんか・・・?」

突然出現した、張り詰めた空気とそのプレッシャーに逃げ腰になった。しかも両端は水穂さんと立木謙吾さんに阻まれている。逃げられない。一瞬空間を渡って逃げようかと本気で考える。

 「あら、だめよ。外と空間繋いで逃げようなんて思っちゃ。私もできることなら、水穂ちゃんとの間に割り込みたいのだけれど・・・。」

瀬戸様の上気した顔が本気で怖い。樹雷皇阿主沙様が、心底気の毒そうな顔になっていた。すぐに気を取り直したようで、軽い咳払いをして樹雷皇阿主沙様が言葉をつむぎ始めた。

 「天木日亜殿の記憶を受け継ぐ、田本一樹よ、このたびの働きは見事であった。樹雷にとって皇家の樹は血族、いや親兄弟同然。またそのマスターならなおのこと。その皇家の樹とそのマスター四名を無限の宇宙の牢獄から救い出したる功績は、我が樹雷が報いても報いきれぬものがある。しかも命を賭して救い出したと言うではないか・・・。と言うわけで、今週末は樹雷に来てくれ。式典を執り行わねばならん。また飲もうぞ!遥照よ後は頼んだぞ。」

樹雷皇の言葉の後半は、ニッといたずらっ子のように笑って言っている。そして、忙しいのだろうすぐさま接続は切られた。こちらが何か言う暇もない。

 「そういうことよ。田本殿。阿主沙ちゃんと話し合ったのだけれど、あなたは、あなたの船を核として、竜木籐吾殿、私の養女になった、神木あやめちゃんと茉莉ちゃん、阿知花ちゃんを従える艦隊の長官になってもらいたいと思っているの。」

扇子をあごのところにあてて、有無を言わせぬ口調の瀬戸様だった。

 「えええええ~~~~!地球のおっさんには無理ですって。無理無理無理~~。」

だって、そうでしょう。10日ほど前までただの地方公務員のおっさんだったし。

 「あら?守蛇怪の時の詳細な報告を私は聞いているわよ。惑星規模艦三艦の挟撃を受けて、そのうちの一隻を周辺にいた敵艦隊もろとも消滅させた手腕は見事だったわ。いちおう公的には守蛇怪が消滅させたことになっているけどね。」

ほう、とこの場にいる全員が、僕を見ている。いやいや、そんな大層なものでは・・・。

 「それに、今、樹雷では田本殿は時のスターなの。あなた酔っていたから覚えてないかも知れないけれど、樹雷から帰るときに、宇宙港に見送りに来ていた人は、10万人を超えていたそうよ。さらに鷲羽ちゃん監修のあなたと私のフィギュアと、水穂ちゃんとのフィギュア、初代樹雷総帥とのフィギュアや、そんなもろもろのグッズは飛ぶように売れているのよ。」

 「さらに、私のファンクラブ(鬼姫の会)から嫉妬やら、感謝やら、絶望やら、そんな投書がこんなに届いているわよ。」

そう言って、瀬戸様が指差した先は、執務室の机一杯にうずたかく積まれ、さらにそこから床に落ちているファンレターの図があった。


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