天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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この章は、難産かも・・・。

仕事が忙しかったのもあるのですが、かなり苦労しました。




晴れ時々樹雷2

「分かりました。でも、見に行ったときに、殺されそうになったりしていたら助けに行くよ。光應翼も張っちゃうよ?」

 「ええ、でも、そうならないように、そうなっても切り抜けられるように、剣士はこの15年間訓練してきました。」

その言葉を口から出すことが、とても辛いことのように天地君は頭を振りながら、自分自身に言い聞かせるようにゆっくりしゃべる。小さな子には、その小さな子を見守る目には、耐えがたいときもたくさんあったに違いない。

 「いまのところ、田本さんだけしか、自由自在に次元間を行き来することができません。どうか剣士を見守ってやってください。」

ふたりして、頭を下げる。

 「そうでないと、俺自身が剣士をそんな知らない世界にやることができない・・・。」

そうか、この天地君自身が一番辛いのだろう。頭を下げて、そう言いきった言葉の語尾は涙声になっていた。

 「頭を上げてください・・・。柾木家には本当にお世話になっていますし、僕で良ければ時々見に行きます。何せ、亜空間転移をすると、あそこに行かないとたいへんなことになります。その状態で、僕たちが近づくと、あの世界のエネルギーシステムに大きな影響を与えるので、あまり近づけませんし・・・。」

二人が顔を上げる。かなり安心した、そんな表情だった。

 「そうだ、あっちの世界に行ったときに、剣士君を見分けるというか、見つける手段は何かありますか?」

ほとんど地球と同じような世界だったと思うし、そんな広大な世界から、たったひとりを見つけるのには何らかの目印がいる。

 「それならこのペンダントを目印にしてください。」

剣士君が、胸元の茶褐色に見える結晶を持って見せる。

 「一樹、柚樹さん、この結晶で見つけられるかな?」

 「うん大丈夫だよ(だぞ)。鷲羽様の作った結晶体だから、そんじょそこらにあるものじゃないしね。」

一樹は、サーチライトのようなモノでさっと結晶体を読み取ったようだった。

 「それで、行きはどうするの?何なら送っていこうか?」

 「いえ、鷲羽ちゃんの装置で送り出し、向こうの世界の受信機というか、そういうもので受けないと契約が成り立たないようです。」

 「そりゃまた、難儀な・・・。」

 「田本殿に言われたかないと思うけどねぇ・・・。こら、あんたはまだ出てきちゃいけないよ。まだ、バラすわけにはいかないんだから・・・。ええい、静かにおしってば。」

う、この声、この気配は・・・。

 「鷲羽ちゃん、どえええす。」

砂利がある地面に、漆黒の穴のようなものが出現し、そこから、じんわりと何かモノが生えるように現れたのは、赤い髪を後ろで束ねた鷲羽ちゃんだった。ほっぺになぜかバッテン絆創膏が貼ってある。いつもの服装とちょっと違って見える。ちょっと高貴な感じのロングドレス風だった。体格は、いつもの小学校低学年くらいの大きさだった。

 「また不思議なところから出てこられますね・・・。鷲羽ちゃんこそ、次元間移動なんか簡単じゃないかと思うけども・・・。それに、今こっちに出てくるときに、何かもめてましたけど・・・?」

 「ま、いろんな都合というモノがあるのさ。私が動くと、その影響が大きすぎてねぇ。なんにせよ、剣士殿の行く末を頼みたいのさ、私としてもね。」

 「それは別にかまいませんけど・・・。それに、剣士君、いつかはこっちに還ってこられるんでしょう?」

 「それが、分からないとしか答えようがないのさ。剣士殿が自ら答えを探しださないといけない・・・・・・。」

珍しく、鷲羽ちゃんが苦渋に満ちたと言う風な重い表情をする。某アニメで少年はいつか旅立つときが来る、とか言っていたシーンが頭の中でフラッシュバックする。それでもやはりいろいろお世話になった柾木家だ。そう思い直す。

 「いつも見ていると、絶対手を出さずにはいられません。本当にときどきで良いのですか?」

その場にいる全員がゆっくりと頷いた。柾木神社の木々の間を真夏の熱い風が吹き渡っていった。水分を多く含んだ風がよりその場の雰囲気を重くする。

 「それでは、僕の都合であっちの世界に行った時に、なるべく手を出さないように見守ります。剣士君、それで良いんだね。」

剣士君は毅然とした表情で頷いた。キッと引き結んだ口元は、堅い決意を感じさせるモノだった。そうか、15歳か・・・。旅立つのには良い時期かも知れないな・・・。

 「あさって、水曜日の夜、いつもの午後8時に俺の家に来ていただいて、どうか剣士の旅立ちに立ち会ってください。鷲羽ちゃんの研究室から送り出します。」

 「まあ、毎日お邪魔していますから・・・。でも、寂しくなりますね・・・。」

あまり表情を変えなかった遥照様の目にキラリと光るモノがある。寂しいだろうし、こう、無念というか簡単に割り切れないものがあるだろうと思う。自分の家族が死とは別の意味で離ればなれになるのだから。しかも会えない、向こうの様子も分からないとなれば、それは大きな不安であり、悲しみだろう。静かに遥照様は社務所に向けて歩み去った。天地君は剣士君の肩をポンポンと叩いて、まるで自分を納得させるかのように剣士君の横顔を見ていた。剣士君は、複雑な表情である。希望と寂しさが同居しているように見える。でも、様々な試練に耐えてきているのだろうし、柾木の男の子ならどこでだって生きていけるだろう。それに、未知の世界で、自分の力がどこまで通じるのか試してみたい、そう思うだろう男の子なら。ふとそんな思いを抱いていた自分も、昔、居たことを思い出した。また、そんな希望が自分にも訪れているのではないか。そう言う不思議な力が、剣士君を見ていると湧いてきた。

 ならば、僕は、忠実なリポーターになろう。この子がどう生きていくのか、つぶさに見て、柾木家に伝えたい、そうも思えてくる。一樹と一緒に見に行っても良いけれど、ときどき見に行くには一樹は大げさだし、大きいよなぁ、そうだ鷲羽ちゃんからもらったあのメカはどうだろう?横を見ると、鷲羽ちゃんは目を閉じて考え込んでいた。この人も黙ってると綺麗なんだけどな~。

 「そうだ、鷲羽ちゃん、いただいちゃった多目的研究施設兼、恒星間連絡艇ですが・・・。言ってて、えらいもんもらったなとは思いますけど・・・。マニュアルだとか、操縦方法だとか、そういうモノはどーすれば良いんでしょう?今までみたいに、一樹に乗ってあの次元世界に行っても良いんですが、一樹は本来でかい宇宙船だから、一樹は小さなままでいてもらって、あのメカで行ってみたいなぁって。」

そう、あの溶けちゃった軽自動車のなれの果て。いちおう一樹に収納しているけど、まだ何も触っていない。好奇心一杯の表情をして聞いてみる。

 「ほとんど直感的に操縦したり、操作したりできるように作ったけど、そうさね、ちょっと待っておくれな。」

左手をあげて、一振りすると柾木家でよく見る鷲羽ちゃんだった。

 「それじゃあ、乗ってみるかい?」

僕を見上げて、腰に手を当てて人差し指を振る鷲羽ちゃん。いつものポップな色使いの服装だったが、どことなく今日は雰囲気が違う。いつもの少女のような好奇心旺盛な女の子と言った感じではない。透徹した、高位とも言うべき雰囲気がある。高貴な、というのでもない。どこかこの世界にいるようでいない、遠いところを見るような、深みのある目の色をしていた。

 「ねえ、鷲羽ちゃん、今日はどうしたんですか?」

すっと、膝を折って鷲羽ちゃんの両手を取って目を合わせて聞いてみる。

 「・・・、田本殿に分かるようじゃ、私もまだまだだね・・・。この次元に肩入れしすぎてしまったかねぇ・・・。天地殿は私たちの待ち望んだ存在だけれど、それとは別に、剣士殿がこの世界から出て行ってしまうことがこんなに悲しいなんてね・・・。」

まだ、何かよくわからないことを言う鷲羽ちゃんだけど、鷲羽ちゃんも寂しいのかも知れない。この人も想像以上にショックは大きいのかも知れないな。

 「鷲羽ちゃん、でもね、剣士君の目を見てください。あの子は、まだ見ぬ世界にワクワクしているみたいですよ。男の子はそういうモノかもしれません。」

そう言った僕を剣士君は、まっすぐ見ていた。澄んだ瞳は生きていこうとする意思そのものだった。ふと、この子をあの悲しんでいた、天木辣按様の樹に引き合わせてみたい、そう思ってしまう。あの樹に、想いが伝わりそうな、そんな気がしてきた。

 「そうだね、柾木の子だ。きっと大丈夫だろうね。」


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