天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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あー、またややこしいものを・・・。

どこに行くのか、地球のおっさん。


離れていく日常10

そうやって、樹雷の夜は更けていった。そして樹雷からお別れする時間が来る。夜の十時頃だろうか。いい加減、泥酔に近い状態で水穂さんと立木謙吾さんに両肩を抱えられて原寸大に戻った一樹に乗る。時々記憶が飛んでいた。盛大に樹雷の皆さんが見送りに来てくれていたのはかろうじて覚えている。ぶわんぶわん手を振ってお別れしたのもかろうじて記憶が残っている。水穂さんが出航準備を整えてくれたようで、僕はそのまま寝室に、妖狐に化けた柚樹さんの背中に乗せて、立木謙吾さんがそれについて運ばれていったらしい。後で聞いた話と記憶を合わせた話であるが。

 気がついたのは、それから4時間ほど経ったあとらしい。割れ鐘のように頭が痛い。見事に二日酔いだろう。とりあえず、水が欲しい。

 「お目覚めですか?」

聞いたことのない女性の声である。え?まだ樹雷か?と思って隣を見ると水穂さんが寝ている。

 「驚かせてすみません。わたくしはこの館に仕えております、バイオロイドのメイドでございます。立木謙吾様から田本一樹様の様子を見るように仰せつかっております。」

ふんわりと間接照明が照らす豪華なベッドサイドに、その女性は立っていた。

 「ごめんね、バイオロイドというと、人工タンパク質なんかでできたアンドロイドみたいなものですか?」

我ながら、二日酔いでもSFファン。

 「ちょっと違いますが、概ねそういうモノですわ。この館には、田本様ご夫妻が快適に過ごせるよう十数名の同様のものが配置されております。」

 「とりあえず、トイレの場所を教えてもらって、そのあと水が欲しいな。」

 「かしこまりました。こちらへどうぞ。二日酔い用のお薬も用意してございます。」

ありがたい。トイレに行って、大きなキッチンに連れて行ってもらう。水を一杯もらい、その二日酔い用の薬ももらう。10分ほどで胃の不快感と頭痛はだいぶ治まってくる。

 「ありがとう。だいぶ良くなったよ。」

バイオロイドのメイドは一礼して姿を消す。完全に黒子なんだな。そう言えば今どこなんだろう。一樹に聞いてみる。

 「今は、樹雷を出て4時間と21分経ったところで、地球まであと1万2千光年ほどだよ。特に問題なく超空間航行中だね。」

この静けさはそうだろうな。ごめん、よろしく頼むよ一樹というと、いつもの元気の良い返事が返ってくる。

 「柚樹さん、いる?」

銀毛の柚樹ネコが姿を現し、膝の上に飛び乗ってくる。

 「お主が、あそこまで酔ったのは初めて見たが、結構面白かったぞ。」

泥酔した僕は、瀬戸様とキスしながら踊りまくったらしい。聞くと恥ずかしさで穴があったら入りたくなる。瀬戸様も内海様に抱きかかえられて帰って行ったらしい。

 「すんません、僕たまにバカやるんです。お世話になりました。」

そう言えば、立木謙吾さんはどうしたのだろう?

今サブブリッジでセットアップしてくれているよ、と一樹が答えてくれる。顔や頭がべたつく。まだ樹雷の服のままだし。そうだシャワーを浴びよう。そう思って立ち上がると、その気配を察したのかさっきのメイドさんが姿を現す。

 「あの、シャワーを浴びたいんだけど。」

こちらでございます、と案内してくれたところも、またこれが豪華な風呂場、というか大浴場・・・、というよりプールのようにでかい風呂だった。ううう、もの凄く贅沢だ。この大量の水どうするんだろう?と思っていると、そうかなにやら、立木謙吾さんが閉鎖空間でリサイクル設備も稼働中と言っていたことを思い出す。ホッとしてお湯に浸かっているとカララと引き戸を開けて誰かが入ってくる。湯煙でうまく見えない。

 「大虎でしたねえ、田本様。」

そう言って入ってきたのは、立木謙吾さん。隣に座る。

 「いやぁ、面目ない。でも最後は楽しいお酒でした。立木謙吾さん、申し訳ないですね。瀬戸様のだしに使って。」

 「いえ、俺は嬉しかったですけど。」

ほほを赤らめる立木謙吾さん。むっちりした筋肉の腕が僕の腕に触っている。

 「そう・・・、僕も嬉しいな。」

手と手が触れあい・・・。立木謙吾さんの腰を引き寄せる。ふふふ、ここから先は想像にお任せしよう。しばらくして身体を洗って出ると、昨夜付けていた下着やジャージなどが洗濯されて置かれていた。立木謙吾さんは、セットアップは終了したとのことで、もう少し調整があるらしい。自分の寝所は確保してあるそうなので、風呂場で分かれる。

 ようやくさっぱりしたところで、また自分のベッドに戻った。

 「一樹、前もあったけど、今のところ敵の襲撃はないかな?」

 「うん、超空間航行中だし・・・。攻撃は受けていないよ。もしも何かあったら、起こすし、柚樹さんもいるから何とかなるだろうし。」

銀毛の柚樹ネコも現れる。

 「うむ、今のところその気配はないな。」

二人?によろしく頼んで休むことにした。今日一日で、何とか地球に帰り着かないといけない。いまだ、樹雷皇家のことは地球では偽装中なのだから。

 「おや?何かの信号かな?樹のネットワークの信号だよ。」

一樹が、不思議とか、何かを感じたという意味の反応で話しかけてきた。

 「うむ。何かを感じたな。古いSOS信号に似ている気がする。遠くてわかりにくいがな・・・。」

僕のそばにいる.柚樹さんもそう言った。

 「わかった、調査してみようか。水穂さんと、立木謙吾さんも呼んでくれるかい。超空間航行ジャンプアウト。ブリッジに転送してくれ。」

了解と、一樹が返す。皇家の樹のネットワークで感じる、何らかの信号を受信したらしい。SOSであればことは急を要するだろう。ブリッジに転送されると、程なくして立木謙吾さん、水穂さんも転送されてきた。柚樹はさっきから銀色のネコの姿で足下にいる。

 「・・・あなた、起きてらっしゃったのね。」

さすがに眠そうな水穂さんだった。それでも最低限の身支度は整えている。

 「いやぁ、水も欲しかったし、何より汗が気持ち悪かったからねぇ・・・。」

まだ、水穂さんに面と向かって「あなた」と言われるのに慣れない。綺麗で大きな瞳がちょっと恥ずかしい。さすが立木謙吾さんは、見事にポーカーフェイスだ。

 「たった今ジャンプアウトしたよ。」

ブリッジのディスプレイには、暗い宇宙が映し出されている。こういう光景を見ると、やはり、ここは、宇宙なんだと言う感慨が深くなる。すぐに水穂さんがブリッジの通信・情報コントロール席につき、立木謙吾さんは、とりあえず機関系や基幹システムの情報把握に努めているようだ。僕も空いている席に座った。

 「一樹、広域探査のようなことはできるかい?柚樹さんも何か感じますか?」

 「前方1時の方向から、不可視フィールドを張った、艦隊らしきものが接近してきます。相対速度は光の速度の80%程度、亜光速です。距離は、まだ1光年ほど離れています。」

一樹の広域探査結果を水穂さんが読み上げてくれる。

 「基幹システムおよび、補機システムとも異常はありません。さきほど武器管制系の整備も終わりました。光應翼での防御、攻撃の他、縮退弾を利用したレールガン、重力波動理論応用のビーム兵器、大型および、小型の縮退ミサイル、超空間魚雷等使用可能です。」

立木謙吾さんに任せきりだったけれど、本気でこのまま銀河支配ができそうな武器のラインナップだった。何かワクワクする僕だった。

 「敵味方の識別はできますか?」

 「はい、古い不可視フィールドです・・・。が、かなり頑強なフィールドですね。樹雷のフィールドに似ていますが・・・。」

敵味方の識別信号みたいなものもあるだろうし。

 「うむ、さっき感じたのはあの艦隊だろう。樹のネットワークでは、古いSOSをはっきりと発信している。たぶん、樹雷以外の者の助けは必要ないか、邪魔と考えているのかも知れないのぉ。」

 「・・・となると、通常通信では反応はないと思うべきだろうな。一樹、柚樹、樹のネットワーク経由で呼びかけてみてくれるかい?」

水穂さんも、立木謙吾さんも頷いている。あと・・・、そうだ。

 「一樹、このあたりの星図と樹雷と地球間の星図を表示してくれ。」

眼前に半透明で星図が現れる。樹雷まで3千光年あまり。地球まで1万2千光年程度。樹雷まで、超空間ジャンプ航行で4時間程度。上位超空間でも2時間はかかる。しかも、今回から樹雷の戦艦として一樹は銀河連盟に登録されたらしい。航行はすべて銀河連盟に申請しないと、銀河連盟登録の他の星系に変なプレッシャーや思惑を呼んでしまうとレクチャーを受けている。つまり、常に航路やその速度は管理されると言うことだろう。

 「うん、反応があったよ。向こうの艦隊は・・・。」

一樹がそう言い始めたところで、柚樹が驚いた表情で答える。

 「これは・・・・・・。真砂希姫が率いた、あの辺境探査艦隊の残存艦隊ではないか?」

 「えっ!、と言うことは、1万数千年前の時空振で離ればなれになり、行方不明の竜木籐吾殿の艦隊ですか?」

柚樹がまだ樹だったときに、鷲羽ちゃんのドックで話を聞いた、超空間内の突発時空振の事故で行方不明だった艦隊なのだろうか。

 「・・・そのようだ。竜木籐五殿の樹、第二世代(阿羅々樹)の反応だ・・・。その周りに、第三世代戦艦(緑炎、赤炎、白炎)の三隻の反応もある。」

その船の名前を聞くと、天木日亜の記憶が甦ってきた。初代樹雷総帥他皇家の見送りを受け辺境探査の旅に旅立ったあの日。数十の星系を探査しただろうか、時には海賊との戦闘もあったし、探査しようとする星系からの言われなき攻撃もあった。竜木籐吾の阿羅々樹と柚樹、緑炎、赤炎、白炎との連携で、海賊の大艦隊を高速度で各個撃破したこともあった。特にこの緑炎、赤炎、白炎の三隻は三位一体攻撃が得意で、戦力としては第二世代戦艦に匹敵するものがあった。竜木籐吾の笑顔や、緑炎、赤炎、白炎の樹のマスターの三姉妹の顔が浮かぶ。

 「向こうの艦隊は、超空間航行ができないみたいだよ。あと、それぞれの樹の損傷も大きいし、樹のマスターも大怪我をしていて、時間凍結モードのコールドスリープで運んでいたみたい。」

一樹の現状説明にハッと我に返る。

 




ここのところ死ぬほど忙しい状態が続いていました。

なんとか最新話が書けましたね・・・。


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