だーっしゅだーっしゅだんだんだだん!
すくらんぶるぅ~。
「ごめんなさい、内緒です。」
ちょっと皆さんの笑顔を真似して答える。落胆を絵に描いたような表情の皆様。
「そうね、田本殿が帰るときに見えるかもね。」
人差し指をあごに当てて、素知らぬ顔で言う瀬戸様。ぬ~、また何か良からぬことを考えていそうな・・・。今度は瀬戸様がテレビクルーに囲まれて質問攻めになっていた。
あれ、向こうから歩いてくるのは、平田兼光夫妻・・・。
「田本殿、いきなり銀河デビューだな!。」
「おいちゃん、この変化についていけそうにないっすぅ。」
「わははは・・・。」
ちょっと明後日の方を向いて、汗を一筋かきながら平田兼光さんが乾いた笑い声を発する。後ろから夕咲さんが脇腹をつんつんと突いている。
「・・・う~、分かってるよ、でもなあ、こう言うのは男親から言いにくくてなぁ・・・。」
頭を掻きながら、困った表情の平田兼光さん。夕咲さんがあきれた表情で話し始める。
「しょうがないわねぇ・・・。あのね、田本さん、・・・あ、皇家に入ったから田本様かな。田本様、うちの希咲姫がねえ・・・。」
夕咲さんがもう一度、平田兼光さんを見上げながら困ったように言う。
「こないだの、柾木家鶏鍋の日から元気がなかったんだな。で、夕咲が話を聞いたら、田本殿を、その・・・、気に入ってしまったらしくてなぁ・・・。それで、実はさっきの放送から、私らの携帯に、怒り狂った希咲姫のメールが入りまくってるのだよ。」
ものすご~く言いにくそうに、個人端末画面を二人して見せてくれる。ちらっとみても「き~~~っ!」って感じで怒っているというか,パニクっている様子が見て取れた。ぎ~~っと音がするように頭を巡らせて隣を見ると、水穂さんが、アイリアンドロイドのように目をギラギラさせながら額の青筋もクッキリと、しかも背後のオーラもめらめらさせながら立っていた。
「・・・こ、この田舎のおっさんにどうしろと・・・。」
仁王立ちの水穂さんにおびえながら、自分でも分かるほどうわずった声で聞いてみる。
「あら、もう田本殿は田舎のおっさんではなくってよ。皇家の樹の悲しみを受け止めた、優しき美しき男。それはこの銀河が認めたようなもの。妻を二人以上娶るのも皇家の者の力を示す良い機会です。」
うわ、瀬戸様再登場。しかも酔ってるし。これ以上ややこしいことにしてどーしますねん!。ちらと美沙希様を見るとがんばってね~、と船穂様とにこやかに手を振っているし、内海様は頼んだぞ!と言わんばかりの熱い目線でこちらを見ている。それでは、天木日亜モード再起動で。とりあえず、希咲姫ちゃんのことは棚に上げてと。スッとひざまずき瀬戸様の手を取る。異変に感づいた(?)照明スタッフが、スポットライトを当ててくれる。
「瀬戸様、あなた様とは、身分の差がありすぎます。私どもは先ほどから、本当に恐縮して身が縮む思いでございました。」
そう言いながら、取った手に軽くキスをする。
「わたくしは、この間、そんな物は一向にかまわない、そう言ったはずですわ。」
そう言いながら後ろに身体をねじり、顔を隠す瀬戸様。色っぽいんだけどなー。
「それでは、わたくしのお願いも聞いて頂きたく存じます。旦那様の前でございますが真夏の太陽が見せた夢。見せて頂くわけにはいきませんか。」
立ち上がり、僕は左手を目の前くらいに上げる。腕時計をスマホモードに。脳波コントロールを駆使して、スマホの中にダウンロードしておいたある曲を掛ける。スマホをタブレットに変えてカラオケモードにすると曲名が出て、字幕が出る。音が出始めると、例のマイクが飛んできて音を拾い始める。
「瀬戸様、ゆっくりで良いので合わせて踊って頂けますか。」
こっくりと頷く瀬戸様。しょうがないので、おっさん芸である。また樹雷皇の前くらいまで歩いて行くとステージが自然にできた。地球ではかなり有名なデュエット曲だ。瀬戸様を見つめ瀬戸様の腰を抱き、浮かんでるタブレットを見つつ、一曲歌い始める。
「こ~ころのぉ、そこまで~しびれる、ような~♪」
お酒が入っていないとぜったいできない芸だった。
「じゅ~らいでひ~とつぅ・・・。」
さびの部分で腰を抱きながらくるりと回る。
「ほ~んとの、こ~いの、ものが~たりぃ~♪」
我ながら恥ずかしげもなく歌ってしまった。皇族の皆様の前で。そしてとどめに、瀬戸様を抱きしめ、スッと離しておでこにキスをしてしまった。
「・・・お許しください、瀬戸様。私どものささやかな想いでございますれば・・・。さあ、今しばらくは、世知辛くも悲しいこの世にとどまり、あの星まで歩いて行きましょうぞ!」
例によって、虚空を指差す。クサイ、死ぬほどクサイ。どっとここで笑いでも出てくれたら僕は救われるのだが、会場内は静まり返っている。タブレットを腕時計に戻し、手を引いて、瀬戸様を席に座らせ、今度は水穂さんの手を取り、携帯を見せて固まっている兼光夫妻の手もつかんで。
「それでは、ごめんなさい。皆様ごゆっくりお楽しみください。ありがとうございましたぁ!。」
と叫んで脱兎のごとく逃げ出す。
「なんで私たち(俺たち)までぇ~~~。」
「呉越同舟ですぅ。希咲姫ちゃん問題も解決していませんし。さあ、中央突破です。」
堂々と、会場真ん中を最大戦速で駆け抜ける。背後で、逃げたわよ!みんな捕まえるのよ!。と言う瀬戸様の声が聞こえる。阿主沙様や内海様達は腹を抱えて笑っていらっしゃるようだった。
「水穂さん、適当な転送ポッドで希咲姫ちゃんの学校まで!。」
「わかりましたわっ!」
四人で走りながら、転送ポッドに飛び込むと、会場出口からあふれ出す樹雷高官が見えた。その先頭は瀬戸様である。は、速い!。あと十数mと言うところで転送がかかる。
転送された先は、小学校らしき建物でその校門の前だった。ちょうど希咲姫ちゃんは校門にもたれて、見慣れない男の子が何か話しているようだった。お、もしかして希咲姫ちゃんが好きなんだな。
「夕咲さん、あの男の子は?」
「ええっと、近所の立木さんちの息子さんだわ。希咲姫と一緒に学校行ってくれてるのよ。」
「じゃあ、二人も連れて行きましょう!。」
「は、はい、ええええっっ!」
こんどは、希咲姫ちゃんを平田兼光さんが小脇に抱えて、夕咲さんが、ごめんね~とか言いながらその男の子の手を引いて走る。
「水穂さん、次は、一樹のいるドックへ、というか立木謙吾さんがいるところへ!。」
「は、はい!。」
また100mほど走ると、ちょうど校門前に瀬戸様の追跡部隊が雪崩を打って出てきたところだった。ぎゅっとみんなで転送ポッドに収まって、バイバイ~と手を振りながら、また転送がかかる。この~~、逃がさないわよ~~と言う声が聞こえてくる。
転送ポッドからこぼれ落ちるようにして出ると、そこは一樹のいるドックだった。ちょうど立木謙吾さんが、難しい顔をしてディプレイをにらんでいるところだった。
「立木謙吾さん、お約束通りご飯食べに行きましょう!。」
「ああ、そうですね。まだ食べてないんですよ。さっきは失礼しまし・・・。うわああ。」
そう言っている立木謙吾さんを夕咲さんが鞭で絡め取って、一緒に走り出す。
「ちょ、ちょっと、どうしたんですかぁっっ。」
「瀬戸様に追われてます。立木謙吾さん、さっきの会場近くで裏通りにあるような居酒屋兼定食屋さんで、この人数が入れて、奥の間があって店の人に顔が利くようなところありませんかっ!。」
「ええと、は、はい。樹の宿という店があります。」
「水穂さん、そこに行く前に、郊外の方向へ一度転送してください。」
「分かりました!。」
また全員でぎゅっと転送ポッドに収まると、ちょうど、隣の転送ポッドか瀬戸様を先頭に追跡部隊が出てくる。くっっ逃がさないわよ~~。と言ってる瀬戸様を尻目に、転送がかかる。転送された先は、郊外の巨大なショッピングセンターだった。
「柚樹さん、ついてきてる?」
「おお、おるぞ。お主もやるのぉ。」
見回すと、すぐ近くに地球で言うガソリンスタンドみたいな施設がある。木の外装で個人移動手段のクルマのような物や運送トラックのような物がエネルギーチャージを受けている。
「あのトラックの陰に皆さん身を潜めてください。柚樹さん、光学迷彩を僕にかけてください。姿は地球の田本さんで、服装はあそこの店員さんにしてくれますか。」
一瞬にして、お腹の出た田本さんになり眼鏡もできる。ちょうど、何かのキャンペーンらしく旗を持って振っている人が数人いた。帽子を目深にかぶったように調節してもらう。
「お疲れ様で~す。交代の時間で~す。」
「あれ?見慣れない顔だけど・・・。」
いぶかしげに見る店員さん。そこは人当たりの良さそうな顔に、さらに笑顔を浮かべて押し切る。視界の端で、水穂さん達が駐車しているトラックの陰に入るのを見届ける。転送ポッドはほんの5m先だ。僕の位置からは20mほど。
「すみません、先ほどメーカーから派遣されてきました。旗振り代わりますね。」
「そ、そうですか。それでは休んできます。」
僕は、役場に入る前にこう言うところで結構長い間アルバイトしていたのだ。それにこういうキャンペーンの時はだいたい販売元メーカーから応援に来たりする。
「いらっしゃいませ~~。」
明るい声を出してお客様を迎える。ちょうどそのとき、店舗前の転送ポッドから雪崩を打って瀬戸様の追跡部隊が出てきた。
「瀬戸様、転送軌跡はここで途絶えています。この周辺に潜んでいると思われます。」
「分かったわ、このショッピングセンターをみんなで探すのよ。連れ戻して、ぐてんぐてんになるまで飲ませて、水鏡に連れ込むんだから!」