天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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この国の人達は、基本的にあまり堅苦しい場は嫌いだろうなぁと(^^;;;。

こう言うの書く前に、実は樹雷の政治形態とか、組織とか梶島さんに聞いてみたいなぁと思ったりしていました。


離れていく日常5

「それでは、皆の者、杯は行き渡ったかな?今日は、第2世代皇家の樹2樹を友とする、樹雷への帰属を決意した強き者の披露目の場である。樹雷皇の名の下に今日は無礼講で行こう!。乾杯!。」

スッと立ち上がった樹雷王阿主沙様が、さっさと無礼講を宣言し乾杯してしまった。会場は、ほとんど怒号に近いような歓声に包まれる。あっちこっちで杯を打ちつけ合い、ほとんど一気飲み的な勢いで酒を飲んでいる。テーブルの料理は、さすがに手づかみとまでは行かないが、ほとんど奪い合うように食べている。さっきまでの取り澄ました雰囲気はものの見事に吹き飛んでしまった。びっくりして目が点になる。

 「樹雷は、元は宇宙海賊の集まりから始まった星なのです。この現在でも堅苦しく取り澄ました場は、苦手な人も多いのですわ。」

 水穂さんが木製ビアグラスを持って、呆然と杯を持っていた僕に話してくれ、コンっと杯を打ってくいっと空けてしまった。反射的に、木製ティーポットからお酒を注ぐ。

 「さあ、飲まないと損ですわよ。」

ん~、いつまでも目を点にしていても始まらない。郷に入れば郷に従え、か。うっしゃ~、飲むぞぉお。改めて水穂さんの杯と打ちつけて、グッと飲み干した。うん、うまい。食道から胃のあたりが暖かくなる。周りを見ると、周りの誰かに注いでもらっている人もいるが、手酌で飲む人も多かった。

 そう言えば、いつも、気がつくとみんなの真ん中に居るイメージの瀬戸様がおとなしい。横を見ると、神木・内海・樹雷様と静かに談笑されていた。この様子だけ見ると、良妻賢母を絵に描いたように見えるだが。水穂さんも袖を少し気にしながら料理を取っている。そう言う仕草が色っぽいよなぁって、しばらくは、何も役柄を割り当てられていないので見るとも無しに見ていた。周りは、結構エネルギッシュに飲んでいる。自分的には、会場のず~~っと後ろの方でわーわー言ってる皆さんに混ざりたいなぁとか思う。皇家か・・・。そう思っていると、ふわっと姿を現す柚樹ネコ。

 「どうしたのかの、おとなしいではないか。」

 「ええ、まあ。瞬間芸で挨拶などはこなせたんですけど、やっぱり皇家らしい立ち居振る舞いだよなぁと隣に座られている方々を見て、そう思っていました。」

 「それはそうだろう、あの方々はもう数百年以上生きていらっしゃるのだから。中には5000年以上存命の方もおると聞くぞ。」

 そう言われて気がつくというか、そんな皆さんの中で恥ずかしげもなく挨拶したのか、と今更ながら顔が熱くなった。

 「いやあ、今更ながら柚樹さんとここに来て良かった・・・。」

経験と時間はやはり圧倒的にその人の立ち居振る舞いに影響する。

 「樹雷皇が、無礼講を宣言しただろう?そろそろ面白いことが起こると思うぞ。」

柚樹ネコがウインクする。時々思うけど、この柚樹さん、ネコだか人だか、皇家の樹だか分からなくなるときが時々ある。

 「そうそう、歳のことは言いっこなしですよ。田本さんだって、地球では中堅どころでしょう?それに樹に選ばれて、まだ10日も経っていないではありませんか。」

取り皿に料理を取ってくれながら水穂さんがフォローしてくれる。

 「そうですねぇ。先週の金曜日の夕方からですから、まだ8日ですか・・・。頭の中で地球の歌謡曲がリフレインしています。」

 じんせい~いろいろ~~ってやつである。まだ宴会は続くのなら、胃に何か入れておいて、先に酔った方が勝ちかも知れない。そう思って、また木製ビアグラスをくいっと空ける。神寿の酒ほど香りが立ったり癖が無いわけではないが、この酒も上等な酒である。どちらかというと地球の純米大吟醸に近いと思う。米の香りが昇華した果実の香りに近い香りと、口に含むと一瞬甘く感じるけど、実は淡麗なアルコールの辛みが、のどごしを充実感のあるものに変えてくれる。料理も掛け値無しに美味であるが、自分自身、若干アウェイな雰囲気を感じているので、なかなか楽しめていない。

 そう感じながら、お酒を頂いたりしていると、背後に強力な気配を感じた。びっくりして振り向くと、樹雷王阿主沙様が立っていらっしゃった。慌てて立ち上がる。

 「本日の朝に西南殿の報告を聞いた。それによると昨夜は初代樹雷総帥パーソナルと剣術を練習していたそうではないか。田本殿、余興ということで一つ見せてくれぬか。」

ニッと笑うその顔は、柾木家で見たあの表情だった。ちょっと嬉しくなったので二つ返事で首肯した。

 「わかりました・・・。柚樹さん、お願いしますね。」

 「おう。」

柚樹さんは、すでに初代樹雷総帥の姿をしていた。例の腕時計を木刀モードに。右手で持ち、一振りする。す~っと気が引き締まってくる。ほんの一週間前まで、まったくこう言う物は持ったこともなかったのに・・・。自嘲的にであるが、自分自身が感慨深い。水穂さんの席の後ろを歩き、樹雷皇の前で初代樹雷総帥の姿をした柚樹と相対する。すぐにフィールドが形成され、僕たち二人は、ステージをそこに持ってきたように1m程度浮かび上がる。半径20m程度の即席の剣道場が形成された。見守っていたテレビクルーが、カメラごとそのフィールドの外に浮かび様々な角度から僕たちの画を撮ろうと狙っていた。初代樹雷総帥の姿をした柚樹に樹雷皇が木刀を投げてよこす。それがまるで自分自身の分身であるかのように初代樹雷総帥は受け止める。二人相対した状態で一礼した。

 「はじめっ!」

樹雷王阿主沙様の号令がかかる。初代樹雷総帥は、低い位置から凄まじい速さで一撃、二撃と切り込んでくる。受け止めながら跳んで避ける。上へ跳ぶと見せかけて、横に走り背後を取ろうとするが、お見通しだと言わんばかりに強烈な突きの一撃を食らいそうになる。身体を横にして突きを逃げつつ、下から初代樹雷総帥の木刀を奪おうとするが、その切っ先は空を切る。初代樹雷総帥は後ろに跳んでいた。ならばこちらから。一撃、二撃と今度はこちらから攻める。昼食会会場に、数万年前の、あの天樹の一郭での試合のように響き渡る堅い木の響き。身体は自然に動き、忘我の状態であった。そして最後の一撃・・・、またも寸止めで終わる。こちらの切っ先は初代樹雷総帥の眉間。初代樹雷総帥の切っ先は、僕の喉である。

 「そこまで!。」

樹雷皇の号令が飛ぶ。また天木日亜さんの膨大な記憶がフラッシュバックする。ゆらりと一瞬ふらつく。

 「日亜よ、まだまだだな。」

そう言いながら、初代樹雷総帥は、人の悪い笑顔して、喉を狙ったその切っ先で僕の頬をペタペタと叩いた。そう、いつもの、あのときの練習試合のあとのように。

 「主皇よ、いまだ、我はあなたにかないませぬ・・・。アストラルの海より、今一度舞い戻り我に教えを賜りたい・・・。」

強烈な郷愁の念に、涙があふれて止まらない。片膝を突き木刀を置く。ふうわりと意識が飛びそうになり、床が近くなっていく。

 「だめ、逝っては駄目です。私が・・・、私が許しません!。」

そう言って、蒼白な表情の水穂さんが初代樹雷総帥のパーソナルを押しのけ、僕を抱きしめる。暖かいからだと手に、天木日亜の記憶はゆっくりと脳裏に沈んでいった。柚樹もネコの姿に戻り、顔を舐めてくれている。ステージはゆっくりと下降し消えた。顔を上げると樹雷皇が済まなさそうな表情で言う。

 「田本殿、すまぬ、お主のかかえているものを甘く見すぎていたようだ。」

 「樹雷王阿主沙様、もう、大丈夫でございます。天木日亜の霊も浮かばれようというものです。」

ちょっとふらつくが、なんとか自分に戻れた。柚樹に貸してもらった木刀を両手で捧げるように樹雷王に返す。樹雷王はその木刀を受け取り、瞬時に、美しい装飾の腕輪に変えた。

 「くっ、また、水穂ちゃんに先を越されたわ。」

その一言に、会場から割れんばかりの笑い声がする。そうだった、昼食会だった・・・。かぁっと顔から耳にかけて熱くなる。

 樹雷皇の前で一礼し、席に戻ろうとすると、あらゆる角度に散っていたテレビクルーが口々に、

 「良い画が撮れました。ありがとうございます。」

にこやかにそう言ってくれる。ふと不安になって聞いてみた。

 「あのぉ、もしかして、これ生放送ですか?」

 「ええ、そうですよ。全銀河ネットで生放送です。ちなみに抱き合ったときには瞬間視聴率50%を越えましたよ。」

ナントカ放送賞は、うちがいただきだな、とか、テレビクルーの前に現れたでかいディスプレイでは、映画化のオファーがどうとか偉そうな人がわめいていた・・・。

 「ぜ、全銀河ネットって・・・。水穂さん、知ってました?」

 「生放送は知っていたんですけど・・・。」

そう言ってまた顔を赤くする。

 「さあ、みんなまだまだ酒も料理もあるわよ!。飲んで食べて、そして、また飲みまくるのよっっ」

瀬戸様が、イスに乗って、足をどんとテーブルに叩き付けるように置いて朗々とした声で言い放った。またも傲然と会場が沸く。水穂さんの端末が鳴っている。ディスプレイモードで起動すると、アイリ・アンドロイドならぬ、眼鏡をかけて山積み書類に囲まれた柾木・アイリ・樹雷様がサブマシンガン状態で言葉を並べる。

 「水穂、あなた・・・。まあいいわ、認めてあげる。でもね、事後報告はむぐむーむー。」

後ろから猿ぐつわをされて、しゅるしゅるとガムテープみたいなモノでがんじがらめにされた。ちょっと褐色の肌の恰幅の良い女性がガムテープでアイリ様を巻きながら引きつった笑顔で言う。

 「水穂さんごめんなさいね。良い雰囲気なのに邪魔しちゃダメよね。ちゃんとこっちで仕事させてますから、ごゆっくり。」

どうしてこう、みんなこう言う関わってはいけない系の笑顔ばっかりなんだろ。

 「お母さん・・・。もお、美守様ってば・・・。」

うつむいているけど、嬉しそうな水穂さんにこっちもホッとする。

 「カズキ、カズキっ!」

血相変えた声音の人が、まだ他に居たのかなぁとか、のほほんと思っていると、目の前に木製の鳥のような物が飛んできた。僕の目の前1m位でピタッと止まる。

 「一瞬、生命反応が消えかけたから、びっくりして飛んできたんだ!。」

 「一樹君、まだ艤装が終わっていないんだよ。まだ飛んじゃダメじゃないか・・・。」

バタバタとその木製の鳥を追いかけて、駆け込んできたのは、立木謙吾技術部主任・・・。ってことは・・・。

一度周りに散りかけたテレビクルーが、また僕の周りに集まり始める。

 「もしかして、一樹かい?」

 「そうだよ!。本当にびっくりしたんだからっ!」

前部分に付いている木製の円環二つをバタバタ羽ばたくようにして、一生懸命しゃべっている。おおお、手乗り皇家の船、できたんだ。

 「いちおう、その子は樹雷の新型戦艦扱いなんだけどねー・・・。」

さすがの瀬戸様も顔に縦線書きたいくらい引きつっている。

 「あああ、瀬戸様ごめんなさい。ほら、一樹も。僕はもう大丈夫だから。」

必死に説得すると、立木謙吾さんと共に、なんとか納得した様子の一樹がドックに帰って行った。もしかして、今のは田本様の皇家の船ですか?どうしてあんなに小さいのですか?今までの皇家の船とは違うようですが、と周りから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

 「ごめんなさい、内緒です。」

ちょっと皆さんの笑顔を真似して答える。


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