「今日のは、こいつだ!この人ですっ。田本さんだよ!。」
と三人がびしぃっっとこちらを指さす。
「はいはい(にっこり)。・・・・・、ってこの人誰?。」
と言われて、気づいた。ほとんど裸になっている。かろうじてズボンが下半身に半ズボンみたく張り付いている。
「あああああっっごめんなさいぃいぃぃぃぃ。」
とりあえず謝った。なんか知らないけど謝っておこうと思った。あの種は、ほのかな光を放ちながら胸の前で浮かび、くるり、くるりと回っていた。
「こりゃ、ものすごい力だったねぇ。」
鷲羽ちゃん、でいいか(笑)と言う女性は、頭の上にでかい絆創膏を×印に貼って、勝仁さんにも同じように貼っている。
「天地先輩、エネルギー場の縮小を確認しました。何があったんですか?。」
今度は神社の境内に、ずずん、と人型のでかい物体が降り、2本の足で立つ。胸のあたりから声がする。
「アニメだ、アニメの世界だ・・・・・・。」
くらあ~~~っと目の前が暗くなるけど、なんだか興味の方が勝つ。
「西南君、不可視フィールド張って。まだこの人には・・・。」
「え、皇家の人じゃないんですか?。」
「そう、GPでもなければ、海賊ギルドでもない。もっと言うと駆駒殿のお仲間でもない。」鷲羽ちゃんが腕組みしながら言った。頭のでかい×印がなんだかお茶目。
うわぁ、なんだかよくわからない展開と言葉が飛び交う。その間に13,4歳の少年はさっさとブルーシートの養生を終わり、暗くなった部屋に照明を点ける。
「うわ、ちょっと待ってください。」
ふっと、グレーを基調にした西洋甲冑に似た人型ロボットのようなものが視界から消える。その後、ふわっと境内に耳の長い猫か、そんな動物のようなものを抱いた短髪の若者が降り立つ。年の頃は二十歳くらいで半袖ワイシャツに黒礼服のスラックスを履いている。さっきの変なディスプレイに映った若者だった。
「まあ、まあ、とりあえずみんな社務所にお入り。話はそれからだ。」
「じゃ、僕はこれで・・・。」
「このまま帰れると思うのかい・・・?。」
地の底から響いてくるような声で、勝仁さんと鷲羽ちゃんが言う。
舌なめずりしそうな勢いで、面白そうなおもちゃをみ~~つけたっ。これはわたしのものよん。みたいな目で見ている。
「あの、ええと、とりあえず服を貸してもらって・・・。」って見渡しても僕のサイズに合いそうな人がいない・・・。と見慣れたでかい腹を見ようと下を向くと、あれ足の指が楽に見える。お腹を触ると、あのしつこいたっぷんたっぷん脂肪がない。とりあえず、視線を鷲羽ちゃんに向けると、
「ああ、さっきの修復の時に身体の組織を使ったんだねぇ。良かったねぇ太ってて。」
四つん這いでこっちに近づいてきて人差し指で胸のあたりを触ろうとする。
「あいたっっ。」
ばしぃっっと電撃みたいなものを種が放つ。
「はいはい、あんたを守ろうとしているんだねぇ。」
「家に帰りたいのわかるんだけどさ、さっきのことやらなにやら知りたいと思わないのかい?」と、鷲羽ちゃん興味の本質を突く。
「う、知りたいです。」
「田本さん、なんだか僕のサイズと合いそうになったようですから服はお貸ししますよ。」
「ありがとう。そうだ、連絡しないと!。」
耐熱ガラスのはずの腕時計は割れて亀裂が走っていた。時刻は、6時10分を回っている。報告・連絡・相談は公務員の三種の神器(謎)と。かろうじて残っているズボンのポケットからスマホを取り出すと、こっちは外装が溶けかかり、表面ガラスには亀裂が入ってしまっている。電源は、かろうじて入る・・・。
「ああ、福祉課長には僕から言っておきました。」
「柾木君、重ね重ねありがとう。」
「はい。慣れてますから。」
にっこり笑ってはいるが、何となく関わってはいけない系の雰囲気が・・・。
「それじゃ、話も決まったところで、精密スキャンモンスター3号ぬるぬる君出動!」
漆黒のスライムみたいなものが社務所の押し入れから出てきた。積まれて入っていた座布団が、ばさささっと雪崩を起こして畳に散らばる。
「ひっ。」
「とりあえず、田本殿のパーソナルを取らしてもらうわ。そのあとお風呂に転送するから。」
視界が黒く閉ざされる前に、柾木天地君と西南君と呼ばれた青年は、あーあ、と言った表情でこっちを気の毒そうに見ているし、阿重霞さんと言われた女性と魎呼さんと言われた女性はなんか口げんか始めてるし。13,4歳の少年は黙々と作業を進めている。柾木勝仁さんはどこからか出してきたお茶セットでお茶を入れてすすっている。
「うわぁぁぁぁぁあぁぁ。」
「田本さん、田本さん・・・。」
う、なんか水の音がする。暖かいなぁ。肩をつかんでやさしく揺すられる。
「あれ、ここはどこ?」
「うちの風呂です。」
柾木天地君が心配そうにのぞき込む。頭を風呂の縁に引っかけて寝ていたのか。うちの風呂でも良くやるんだよな。1時間くらい気づかなかったりして。「死んどるかと思ったわ!」と怒られたことも何度もあって・・・。
「って、なんか変なものに襲われて。うわ~~~。」
「大丈夫ですって、もうあれはいません。田本さん、しっかりしてください。」
「う~~、なんかスゴイ感触が全身に残っているんだけど・・・。」
ねばねばべっとり・・・、そのあとは、毛穴やら何やらの穴という穴から何かが入ってくるような・・・。ううう、思い出すとさぶいぼが全身に出てくる。
「天地先輩、いきなり鷲羽ちゃんはまずいですって。」
十数m向こうに若い男が前にかがみながら、がしがし頭を洗っている。シャワーに手を伸ばして、つかむ。がシャンプーで滑ったのかシャワーヘッドが頭を直撃している。
「あーあ、西南君大丈夫?。」
「だいじょうぶです。ちょっと痛いけど。」
今度は、洗い終わって、立ち上がろうとすると滑って転んで、風呂のイスに後頭部をしたたかに打ちつけている。
「あいたたたた。」
「西南兄ちゃん、運が悪いから・・・。」
柾木天地君の後ろから、声変わりしたばかりみたいな声がする。さっきの13,4歳の少年だった。
「剣士君、それは言わない約束だろ?。」
見た感じ、男が自分入れて四人風呂に入っている。でもまだまだ広い風呂の向こう側は湯煙で見えない。
「田本さん、いろいろあったけど、大丈夫ですか?。」
「うん、なんとか。」
「俺がわかりますか?。」
「柾木天地君だろ。」
「ああ、良かった。とりあえず紹介します。向こうで滑って転んだのが、山田西南君で、こっちは弟の柾木剣士です。」
「二人とも社務所で会ったね。」
え~~っと、三時50分にここの神社に来て、なんか種みたいなのが爆発して、なんだかたくさんの人の顔を見て、それでお腹がへこんで・・・。
「とにかく、どっと疲れた。」
目を閉じて湯につかる。優しいお湯で、身体の芯から温まるような、また明日からがんばろうと思えるような感じ。ほっとする。ぱしゃぱしゃと音がしてかららら、と戸を開ける音。
「それじゃあ、お先に失礼します。」
二人が風呂場から出て行く気配。
しばらく湯に浸かっているとだんだん落ち着いてきた。
「さあ、身体洗って、風呂出ましょうか。ご飯出来てますから。」
「悪いねぇ。でもいいのかい?」
「うちは大家族ですから。」
にっこり笑う役場で見る笑顔だが、なんかまた含みのある一言。
「天地様、着替えここに置いときますから。」
風呂の入り口から、はきはきした女性の声が聞こえる。あのときの電話の声の主だ。
頭と身体を洗って、一度湯に浸かって脱衣所へ出る。用意してくれていた、バスタオルで自分の身体を拭く段になって、ようやく気がついた。身体中の脂肪がなくなっている。皮膚にたるみもない。脂肪吸引ではなさそうだ(自爆)。
「俺の服は着られましたか?。」
「ああ、不思議なことに入った。僕ってこんなにスリムになったんだ。」
「それだけ、さっきのダメージがでかかったことですよ。」