熱い抱擁から、温かい手をむつみ合う頃になったとき、突然、警報が鳴り響いた。二人して慌てて衣服を着け、タブレット端末を操作して、守蛇怪ブリッジに転送を命じる。しかし、戦闘中と出て転送不可と出た。
「水穂さん、一樹に行きましょう。」
「そうですわね、それなら守蛇怪クルーの皆さんにご迷惑も掛けませんし。そこから通信しましょう。」
一樹に呼びかけると瞬時に一樹のブリッジに転送された。柚樹さんも足下にいる。
「一樹、状況は?」
一樹と瞬時にリンク、あの極彩色の世界が見える。今は通常空間である。何と大艦隊に囲まれている。
「数分前に、守蛇怪は超空間航路乗り換えのため、通常空間に復帰。同時に待ち構えていたかのように攻撃を受けているよ。」
ブリッジの巨大なディスプレイにその様子が映し出される。水穂さんが端末を叩きながら様々な情報収集をしている。
「西南君達とつながりました。」
守蛇怪ブリッジは戦場だった。ほとんど集中砲火を受けている。光應翼と強力なシールドで防いでいるが、反撃のチャンスがうまくつかめないようだった。しかも惑星のような大きな戦闘艦も三方から守蛇怪を挟撃してくる。
「守蛇怪後方の惑星規模艦は主砲の発射態勢に入ったようです。」
主砲の射線上にいる敵艦は待避している。そうだ、天木日亜さんの手を使おう。柚樹を見ると足下で座ってみている。
「柚樹さん、光應翼のあのリフレクションモード使える?」
「おお、使えるぞ。あの反射モードじゃな?。」
「ええ。パラボラアンテナなような凹面鏡状に光應翼を張って、焦点はあの惑星規模艦の主砲で。」
よし、使える。一樹のエネルギーも柚樹とリンクさせよう。
「カズキOKだよ。柚樹さんにエネルギーをリンクするね。」
「おお、ありがたい。」
柚樹さんは、莫大なエネルギーを受け止めるためか、九尾の狐のような姿に変化している。
「西南君、後方の惑星規模艦は任せてもらえるかな。」
「ありがたいです。まさかここまでの総攻撃を受けるとは・・・・・・。」
凄まじい攻撃に映像が乱れる。
「よし、柚樹さん、リフレクション光應翼展開。一樹とのエネルギーリンクモードで。焦点は敵惑星規模艦主砲発射口。」
「敵惑星規模艦主砲発射しました。」
水穂さんが鋭く状況を告げる。柚樹がまばゆく銀光に包まれる。守蛇怪後方に巨大な光應翼が展開された。一樹とのリンクである。しかも最大展開モードだ。バカバカしいエネルギー量の主砲であってもなんとかなるはず。
気が遠くなるほどのエネルギー量だろう。空間にあるわずかな原子もプラズマ化するような光が画面をホワイトアウトする。すぐに大きなショックが来た。カーゴスペースにいるはずの一樹まで揺れる。
「成功です。こちらのダメージはありません。敵惑星規模艦の主砲を受け止め弾き返しました。」
ホワイトアウトした画面とは別のアングルの映像に切り替わる。さらにっと。
「西南君、ごめんね。」
そう言って、一樹からの星図を見ながら、ここから一光年ほど樹雷に近い地点を確認する。亜空間生命体の目線で空間を把握して、一樹と柚樹からエネルギーを少しもらって、例によって空間をつまんで、今回は守蛇怪ごと・・・。
「よっと。」
周りには何もない空間に瞬間転移した。水穂さんは、硬直ぎみにこちらを見ている。結構どかっと疲れというか脱力感が来る。
「水穂さん、敵惑星規模艦はどうなりましたか?」
「は、はい。後方から攻撃してきていた惑星規模艦は・・・・・・。自らの主砲エネルギーをメイン反応炉に直撃され、周辺の敵艦隊を道連れに爆発四散したようです。」
「超空間航行プログラムロード、このスキに樹雷へ向かいます。」
守蛇怪クルーは、一瞬惚けたような表情をしていたが、さすが西南君、すぐに号令を掛ける。リョーコさんが端末を操作し、超空間プログラムをロードする。
「超空間航行プログラムロード完了。新上位超空間航行に移行します。」
リョーコさんの指が端末のエンターキーを押すと同時に暗緑色の空間にショック無しに入った。
「一樹、柚樹さんご苦労様。ちょっと疲れたけどうまくいったね。」
「うむ、上出来じゃろう。相手も自分の攻撃をただ受けただけじゃしな。」
そう言いながら、妖怪九尾の狐から、ポンと柚樹ネコに変わる。
「カズキ、ちょっとやばかったけど、みんなの身が守れて良かった。母様も助けてくれたんだよ。」
「お、そうか船穂さんも挿し木されていたんだっけ。そうだ、西南君、そろそろそっち行っても良いかな?」
「あ、戦闘体制解除します。いつでもどうぞ。」
一樹のブリッジシステムをオフし、守蛇怪の端末を操作して守蛇怪のブリッジに行く。当たり前だが、西南君他全員そろっていた。
「西南君、ものすごい攻撃だったねぇ。」
「ここ最近、海賊も減っていて、ここまでの総攻撃になることも少なかったんですけどねぇ・・・。」
「やはり、情報が漏れているのでしょうか・・・?」
水穂さんが、心配そうに霧恋さんに尋ねている。
「実は、先ほどの攻撃、船影の確認も取れなかったんです。外観は海賊艦のようでしたけれど。」
霧恋さんが言葉を選びながら慎重に事実を告げる。
「惑星規模艦を三隻も投入すること自体がちょっと信じられませんわ。たかが守蛇怪一隻に。しかもタイミングを合わせて、反撃の機会を与えず、一気に叩こうとする戦法のようでしたし。」
リョーコさんも、同様に言葉を選びながら事実を確認している。
「それだけ今まで、大戦果を挙げてきているということではないんですか?」
「そう言われれば、そうなんですけど・・・。」
西南君をはじめクルー全員に、納得しかねるといった空気が漂う。
「いかん、忘れるところだった。田本さん、あの光應翼は何ですか?」
お、西南君鋭い。
「あれは、柚樹さんのお話を聞いていたときに、柚樹さんが天木日亜さんに言ったリフレクションモードですよ。天木日亜さんがアトランティスの王を海賊から守った手です。元々の柚樹さんの銀の葉の原因だったのが、結局のところ亜空間生命体の寄生だったんですけど。その名残で今も柚樹さんは銀色の毛なんですけどね。」
と言いながら、自分の前髪の銀毛も触る。
「その髪の毛、おしゃれで染めていたのではないんですか?」
「ふふふ、内緒です。そうですよね、水穂さん。」
「え、ええ・・・・・・。」
「そ、れ、に。あの、瞬間転移は何ですかねぇ・・・?」
ジトッと粘っこい視線がクルー全員から僕に集まる。
「それも内緒です。ですよね~、水穂さん。」
「おほほほほほ。」
水穂さんの笑顔が盛大に引きつっている。
「ごめんなさい、もの凄く疲れたので一度寝ます。」
「そりゃそうでしょうねぇ~。水穂様、肌つやがとても良いようですし。」
雨音さんがにんまり笑ってそう言う。これっ、雨音、ダメじゃないの、と霧恋さんがたしなめる。そう言う霧恋さんの顔も赤い。ネージュさんも真っ赤になってうつむいてしまっている。リョーコさんは上気した目で西南君を見ている。今日はリョーコさんの番かい?
「ま、西南君頑張れと謎の言葉を残して、寝室に戻ります。それじゃあ、済みませんけど着いたら起こしてください。」
そう言って端末操作する。え?俺?と、自分を指さす西南君を尻目にあの部屋に転送、すぐにベッドに潜り込む。本当に立っているのも辛かったのだ。すぐあとに水穂さんもベッドに入ってくる。
「・・・どこかに行っちゃいやよ。」
「うん。」
胸に回してきた細い手を握る。頷くのが精一杯だった・・・。
樹雷到着の館内放送が流れていた。傍らの水穂さんはもう起きて準備をしているようである。そこそこ体調は良くなっていた。
「お目覚めになりましたか?守蛇怪は無事、樹雷星軌道上に到着したようです。」
「結構よく寝た感があるんですけど・・・。」
うん、かなり体力も回復した。
「かなりお疲れのようだったので、シークレットウォールを張って、加速空間にしました。守蛇怪の到着まで2時間半程度でしたが、ベッド上では6時間程度経っている計算です。」
「さすが水穂さん。助かります。」
「軌道上で船全体の洗浄をして検疫を済ませたあと、樹雷皇家専用ドックに着水します。それまで1時間程度ありますわ。とりあえず、地球の格好で良いので支度してください。シャワーでしたら、わたくし終わりましたので、どうぞお使いください。」
「その後の予定はどうなりますか?」
テキパキと必要事項を告げてくれる。
「昨夜お作りになった、その腕時計に転送しておきました。シャワーのあとでもご覧ください。」
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