天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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妄想暴走中(自爆)。


始まりの章6

「あのう、すみません、百歳の慶祝・・・。」

勇気を振り絞って、話に割って入ろうとするが、ぎろっっって感じの視線にたじろいて押し黙ってしまう。なんなのよ、あたしゃなんもゆーとらんし、しとらんがなぁ。

 役場に怒鳴り込んでくるクレーマーへの対処は研修していても、こんな状態は想定していない。そうだ時間!ってことで腕時計を見ると4時40分過ぎ。長くなりそうだから役場に連絡しておこうっと。

 「ちょっとごめんなさい、職場にれんら・・・。」

 「今この神社はシークレットウォールかけたから、携帯は通じないよ!。」

鷲羽ちゃん(でこの際良いんでしょうねぇ)が強い口調で怒鳴る。見ると見事に圏外マーク。

 「鷲羽お姉ちゃん、来たよ。どうしたのぉ。」

 「ああ、砂沙美ちゃん、ちょっと津名魅とチェンジしてもらえる?。」

頭の左右で長い髪をおさげにした女の子が社務所の縁側に手をつき、外から声をかける。鷲羽ちゃんと呼ばれた女性が声をかけると明らかに目の色が変わる。

 「姉様。」

静かで深い声。目を伏せがちにゆっくりとした口調で話す。

 「津名魅、この種だけど。」

 「はい、船穂がこの地に根付いてから早750年、「コア・ユニット」もない中、昨年ようやく地球の環境下で生まれた樹ですわ。」

 「田本殿が選ばれたことに間違いはないんだね。」

 「姉様間違いありません。」

その一言で、喧噪は静まりかえる。

 「はいはい、お客様もいらっしゃることだし、遥照殿、この場はいったんお任せするわ。鷲羽ちゃんくれぐれも頼んだわよ。」

「女主人」のひとことででかいディスプレイは消える。

 「はて、さて、困ったことになったのぉ。」

 「遥照・・、いや勝仁殿どうしようかねぇ。」

鷲羽ちゃんと呼ばれた女性が頭を抱えている。

砂沙美ちゃんと呼ばれた少女が縁側に腰掛けてこっちを振り返って言う。

 「田本さん、鷲羽お姉ちゃんが困ってるのってすんごく珍しいことなんだよ。」

 「砂沙美ちゃんって言いましたっけ?そうなの?僕がここにいるのって場違いだよね。」

 「ううん、もう家族だから。」

にぱぱっっと天上の笑顔ってのははこういうものだろうというお手本のような笑顔で言い放つ。家族って・・・、皆さんとは初対面だけど。意味わかんないし。

 「は?。」

 「じゃあ、もう帰るね。ノイケお姉ちゃんに晩ご飯任せきりだし。」

 「ああ、悪かったね砂沙美ちゃん。今夜はひとり増えるかもしれないよ。」

 「うん、わかった!。ノイケお姉ちゃんと相談するよ。それじゃあ、田本さん、あとでねっ。」

と言い残して、てててっと駆けていく。いやいや、僕は家に帰るから・・・。

 「じっちゃん、帰ったよ。来週指導監査が来るってのに、なんだよ、もぉ。あ、こんばんは、田本さん。」

 お、助け船来訪。柾木天地君が帰宅した。そういえば、クルマの音もしなかったし、数分も経ってないけど、どうやって帰ってきたんだろう?

 「柾木君、実はまだ話が済んでないんだけど、なんだか大変らしくてねぇ。」

あ~、こまったこまったって感じで、なにやら話題の中心の種らしきものを指さして言う。

 「へえ、何があったんですか?・・・・・って、これ!。」

カッと目を見開いて、種らしきものを見たあと、ぎぎぃと音がしそうに首を回して、柾木勝仁さんと鷲羽ちゃんと呼んで、と言った女性を見る。

 「天地殿、天地殿の予想通りのものだよ。」

 「この子が選んだと、船穂が渡してしまってのぉ。」

その言葉を聞き取ると、なんだか気の毒そうにこちらを見る。

 「そ、それではですね、今日せっかくお時間を取っていただいたし、時間も遅くなってきているので百歳の慶祝訪問の説明をさせていただきたいのですが・・・。」

 「そうだね、とりあえず片付けやすいことから始めようか。」

鷲羽ちゃんと呼んでと言った女性が、こめかみを押さえながら言う。

やっと説明ができると思って、持ってきたものを柾木勝仁さんの前に置き、説明を始める。 一ヶ月後の、柾木勝仁さんのお誕生日に、県知事代表と随行員、西美那魅町長と担当である自分が祝い状と祝い金を持って訪問する旨を説明する。その折に、ほかのご家庭でも何らかのお祝いをされているが、自分たちのことは気遣い無用であること、祝い状と祝い金を手渡せば町長も用務があるためすぐに帰庁すると伝えた。

 「あと、百歳ということで、介護サービスなど必要かもしれないと思い、パンフレットなどをお持ちしましたが・・・お元気そうなので必要なさそうですね。」

 「ぷ、あはははははははっっ」

三人が、緊張の糸が切れたように爆笑を始める。

 「なにか説明が変だったでしょうか?。」

 「ああ、ごめんごめん、田本殿。一ヶ月後に偉い人とここを訪問して、実際に祝い状と祝い金を手渡したいと。そういうことだね。田本殿が一ヶ月後も役場職員だったら、だけど。」

 「そうです。」

ちょっと表情が硬かったかもしれない。

 「それはいいのじゃが、・・・わしのそんな履歴があったのかのぉ。」

と言いながら、柾木天地君の方を見る。あれ、天地君顔を背けたなぁ。

 「ええ、柾木勝仁さん、生年月日大正3年7月○日と、住民基本台帳に記載されております。」

 あれ、柾木天地君も顔を背けたけど、鷲羽ちゃんと呼んでと言った女性も天を仰いでいる。

 しかし、柾木天地君も30代に見えないし(一瞬高校生くらいにも見える)、柾木勝仁さんも百歳と言うより70歳くらいに見える。さっきから見ていると、身体の動きでどこか痛そうとか、不自由なところがあるなどということがなく、なによりもってお年寄り特有の動作の鈍さがない。

 どことなく変で怪しい気もするが本人にも会えたし、頃合いなのでおいとますることにする。時間を見ると5時半を回っていた。

 「それでは、またお誕生日の一週間前くらいにお電話します。もしも、入院等で訪問場所が変わった場合遠慮なくおっしゃってくださいね。僕はこれで失礼させていただきますね。」

ワイシャツ汗だく。汗を拭いていたハンドタオルもじっとりと冷たい。汗臭いんだろうなぁと、思う。

ふっと、三人とも夢から覚めたような表情をする。

 「ほほぉ、田本殿、このまま帰れると思う?。」

鷲羽ちゃんと呼んでと言った女性が、下からねめあげるように低い声で言う。両手と頭の上と両肩に「モルモット様いらっしゃぁ~~い」と言う小さいのぼりが立っている。

 今度は、柾木天地君と、柾木勝仁さん両方が心底気の毒そうにこちらを見ている。

 「ぴきっっ。」

小さな、それでいて耳に刺さる何かが割れるような音がした。その場にいる全員が音のした方向を見る。畳の上に置かれたままの小さな種らしきものの殻が割れ、小さなピンク色の芽らしきものが出て、反対側かららせん状の根のようなものが出ようとしている。

 「こりゃ、いかん!!。もう、発芽しようとしておる」

 「まずいね、コア・ユニットの準備を急がないと。」

 「そ、それでは、忙しそうなので僕はこれぐらいで・・・。」

誰のせいだぁ!と言わんばかりの目線が集中する。

ころころ、ころころころ、と種がこちらにゆっくりと転がってくる。あれれ、風でも吹いてるのかな?。

 ふわっと浮かび上がって、ピンク色の芽のようなものを上にす~っと上昇して、僕の目の高さまで来て、止まる。

 「いっちゃ、やだ。」

七色の光がまるでレーザー光のように僕の眉間くらいに集中したと思った瞬間、声が聞こえた。同時に爆発的な熱波がメタボな身体を吹き飛ばそうとする。

 「いかん、エネルギーバーストだ!。天地殿っ。」

柾木天地君が立ち上がり、目の前で両手をクロスさせると白とも銀ともつかない翼のようなものが三枚現れる。ふわりと種を包み込もうとする。

 「だめだぁ、なんて強い!。阿重霞さんと、西南君も呼んでください。じっちゃん、船穂の力もいる!!。」

もう三枚の翼のようなものが現れ、さらに包み込もうとする。そして社務所の上から、

 「ウオオオオンッっ。」

雄叫びのような声が聞こえるとともに、さらに三枚の翼が現れる。

 「天地様!加勢します。」

ああ、あのときの電話の声の人だ。さらにもう三枚の翼が。

 「天地ぃ、なにがあった!。」

 「魎呼さん、突っ立ってないであなたも!。」

そう呼ばれた和服を崩して着ている、灰色の長い髪の女性も両手を目の前に出し、球形の

赤い光で種を包み込もうとする。

 体中が熱い。何かのエネルギーに焼かれるようだ。太陽の近くってこんなんだろうなぁってのんきに思う。

 寂しい、一緒にいて欲しい、簡単に言うとこれだけのことだけれども、その意志を乗せた熱量は莫大で黙っていても服は溶け、皮膚は水ぶくれができ黒く焦げていく。眼鏡も吹き飛んだ。

 その強烈な想いはなぜか懐かしく切なく感じる。ここ十数年来自分の中でくすぶっていた、自分でも何かよくわからず、仕事に没頭することで忘れようとしていたものが意識に浮かび上がる。

 「何にも取り柄もない、ただのおっさんだけど、こんな僕でも良いの?。」

その意思を持つものに問いかける。

ふと、かたわらに先ほどの赤ん坊を連れて立っていた女性が現れてそっと言う。

 「この子はあなたの見る夢で育ったのです。」

 「そうですか・・・。」

 同時にこの子と一緒にいたい、飛びたいと言う思いが、こちらも爆発的に強くなる。黒焦げになりつつある手を何とか伸ばし種を両手で包み、自分の方に引き寄せる

 「ごめんね、一緒に行こう。」

 「うんっ」

 意識を持つものが喜びの意思を伝えた瞬間、その爆発的なエネルギーの放射はやんだ。

そして、身体中を痛みが襲う。

 「あだだだだだだ!。」

見ると、黒焦げだったはずの手も、身体も逆回しのフィルムを見るように修復されていく。

 痛みが我慢できるものになった頃に、周りを見ると柾木天地君も、女性二人も肩で息をしていた。社務所のサッシガラスは吹き飛び、アルミの枠はよく見ると少し溶けかかっている。

 「あ~あ、何かものすごい気配を感じてきてみれば・・・。また阿重霞お姉ちゃんと魎呼お姉ちゃんとのケンカ?。派手に吹き飛ばしたねぇ。直すのは俺なんだから。気をつけてよね、ホント。」

 町の資料館で見たような、草や蔓で編んだ縄文バッグを肩に袈裟懸けにした、半袖半ズボンの13,4歳の少年が立っていた。いつものこと、のように社務所裏に駆けていって、ブルーシートを担いで出してきてアルミサッシに養生を始める。


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