自動車一台廃車するとなると、軽自動車はまだマシだけど、リサイクル券ってのが最近できていたのに気付きました(爆)。
いよいよ次話で樹雷に、いけるといいな(^^;;;。
「水穂殿、田本殿と、剣士殿がアイリ殿に偽装した戦闘用アンドロイドに襲われてねぇ、しかも田本殿の一樹もすんでの所でコアユニットごと破壊されるところだったよ。」
「・・・これで、かなりの情報が海賊側に漏れたと考えなければなりませんわね。」
水穂さんは、急いで瀬戸様に通信を入れている。
「さて、溶けてしまったクルマだけどねぇ・・・。」
「古いクルマだから、良いと言えば良いんですが、何とか偽装しないと・・・。」
自動車も陸運局に登録されている。車検証やナンバープレートも溶けてしまった今、廃車もできない。軽自動車税もかかりっぱなしになってしまう。最悪車検証やナンバープーレートもなくても廃車作業はできると聞くが、そのクルマの詳細を知る者が陸運局を訪ねて、説明し書類を残さなければならないという。まさかナノマシンで跡形もなく溶けましたとは言えない。
「とりあえず、自動車としての機能はないけれど、写真や画像データから構造体としては作ることができるよ。」
なるほどいま地球でもはやりつつある3Dプリンターのようなものか。そう聞くと、鷲羽ちゃんは肯定して頷く。
「車検証とナンバープレートとその中に入れていたリサイクル券も再構築出来ますかね?材質も良く似たもので。確か車検証とリサイクル券はダッシュボードに入れていたと思うんですけど・・・。」
「それはお安いご用だ。寸分違わないモノができるだろう。」
「ちょっと知り合いの車屋さんにそれとなく聞いてみますが、たぶん車検証とリサイクル券、ナンバープレートがあれば廃車ができます。今夜は、いつものようにその構築されたクルマに乗って帰ったようにして、明日ちょっと時間作って、知り合いの車屋さんに頼み込んで、自爆事故して走行不能とか適当に理由付けて廃車手続きします。前が壊れて崩れたような写真があればなお良いですね。」
「田本殿には迷惑をかけてしまった。このとおりだ。」
なんと遥照様や天地君、鷲羽ちゃんまでもが頭を下げてくれる。
「頭を上げてください、僕が選んだことですし、さらにそう言う立場であることがよくわかりましたし・・・。」
皇族であること、それは危険と隣り合わせ。様々な戦いに巻き込まれると言うこと。今回のことで恐怖と共に思い知らされた。天木日亜さんの記憶からも、うすうす分かってはいたが平凡で平和な地球人の自分にはあまり身近なこととして捉えられない。エクササイズのつもりで剣術を習っていたが、それどころではない。自分の身を守らないと。
「田本様、瀬戸様とお話ししたんですが、明日やはり樹雷に来てください。西南君達には特別指令が出て、私たちを護送してもらうことになっています。そして、田本一樹様を含め、この近辺の警備ランクが最高ランクに引き上げられます。」
「そうですね、とりあえず、今のところここ以外の人達に怪しく思われるのは極力避けたいので、日曜日の夜8時くらいまでに帰ってくるプランでなんとか行きましょう。警備については、やはり父母やこの村の人々にご迷惑をかけるわけにも行かないのでよろしくお願いします。」
すでに鷲羽ちゃんの工房では、3D画像から構造体が構築されている。さすがに宇宙の技術である。ほとんど紙に印刷するがごとくできあがっていく。別に車検証とリサイクル券、ナンバープレートも二枚できあがる。程なく完成を知らせるブザーが鳴った。
「鷲羽ちゃん、ありがとうございます。明日一日庭に置いておくんですが、調子が悪いから乗らないでと父母には言っておきます。」
「田本殿、ちょっと提案なんだけど。」
端末を操作しながら、鷲羽ちゃんが言う。向こう側にある研究室のフィールドを見ているので顔は見えない。
「今日は天地殿に頼んで、うちの作業用の軽トラックで帰ってくれないかい?」
「はあ、またどうしてですか?」
「正木の村にも、地球の個人用移動体である自動車を商売にしている人も居てね。処理は任せてくれないかい?」
「あ、それは願ってもないことです。外の自動車屋さんだと、この構造体を持って行って廃車してって言ったら絶対怪しまれますからねえ・・・。今ちょっと悩んでいたんですよ。」
「とりあえず、ちょっと調子悪くなったから、車屋さんに預けてきた、役場の同僚の天地殿に乗せて帰ってもらった、と言うことにして欲しいのさ。」
「あ、良いですね。その案頂きます。」
さすが、鷲羽ちゃん。ぬるぬる君だけじゃないんだ。
「じゃあ、俺、クルマ取ってきます。」
ふっと気配が消える。自分の知覚では、天地君は研究室から出て、玄関の戸を開け、地を蹴って闇夜に紛れてジャンプしたと感じられるけど、普通の人から見るとその場から一瞬にして消えたように見えるだろう。
数分後、ごく普通の軽トラックを思わせる音がして玄関先で止まる気配がする。しかし、変だ。
「鷲羽ちゃん、あのクルマ、内燃機関じゃないですね。」
そう、これも普通の人なら別に気にせず聞き流す音であった。しかし、下手の横好きクルママニアからすると結構噴飯物のエンジン音である。国内で生産されている軽自動車のエンジンは直列3気筒で低速型にしつらえられたモノがほとんどである。一つのメーカーだけが直列4気筒エンジンを採用しているが、このメーカーは生産をやめて他のメーカーから相手先ブランド供給を受けてもう数年になる。しかしこの柾木家で使っているという軽トラックは、そのような内燃機関独特の荒い燃焼音がしていない。
「やっぱりわかった?地球の自動車のエンジン音を模した音を出しているけど、超小型反陽子反応炉を搭載しているんだよ。」
といいながら、作業中の操作をしながら別ウインドウを開いて、こちら側に見せる位置に展開してくれる。反陽子反応炉そのものは直径1cmくらいのピンポン球に似たモノだけれどその冷却システムやら様々な補機類で、そう、だいたい軽トラックのエンジンベイに入る大きさに収まっている。冷却システムは、普通のラジエーターで間に合うらしい。そう接続されている。
「これ、燃料補給なんかは?」
帰ってくる答えはだいたい予想出来ているけど・・・。
「まず、このクルマの寿命内は必要ないね。」
「最大出力は?」
「たいしたことなくてね。惑星間連絡船くらいかな。」
ちょっと頭痛がしてきた。そんなものをクルマに積んでどうするつもりなんだろ?天地君がクルマから降りて研究室に入ってきた。
「天地君、乗ってきた軽トラックって、何に使っているの?」
「ええっと、スーパー山田への買い出しやら、農作物の出荷や運搬、滅多にないけど、じっちゃんの送迎くらいかな」
「鷲羽ちゃん、使用用途からして、地球のガソリンエンジンで全く問題ないように思うけど。」
「うん、そうなんだけどね。ほら、わたしって宇宙一の天才科学者じゃない?環境汚染するような未熟なもの見ていると許せなくてね。これでも、わたしが持っているエンジンに類するモノの中では一番小さいモノでね。」
そんな、部品箱から拾ってきたように言わなくても。
「そう言えば天地君、役場行くときはどうしているの?」
これも何となく答えが予想出来る。さっきの軽トラックに乗っていっているのではなさそうだ。
「え、山伝いに走って行っていますけど?」
さも当たり前のように言う。はあ、そうでしょうとも。あなたの体力と運動能力ならクルマは必要ないですねと。ちなみに、ここから西美那魅町役場まで10kmほどあったりする。
「水穂さんは?」
「わたしは、走って行っても良いんですけど、目立ちますので、適当な場所に転送してもらっています。」
と、ここまで会話していて、そういえば自分も苦もなくそう言うことができることに気付き、そして自分自身にあきれた。
「どうしました?」
「いえ、天地君達ってすごいなぁという結論よりも、そう言えば全く問題なく、そういうことを自分もできてしまうことに、今更ながら驚きとあきれていたりします。」
「なんなら、わしが乗せていってやっても良いぞ。」
と柚樹が、姿を現し、ライオンやヒョウより一回り大きなネコ科の動物に変化する。ちょっと思いついて、柚樹に頼んでみる。
「柚樹さん、その大きさのまま色を黒くして、地球のヒョウのような外見で、両肩に二本の触手はやしてみて。」
ぽんっとその姿に変わる柚樹さん。
「うわ、クァールだ!」
一人で喜ぶ僕の横であきれた顔の二人。すでに勝仁さんは神社に戻っているのでいない。
「へえ、田本殿よく知ってたねぇ。この動物は確か絶滅しかかっているけど最後の数頭がまだいたはずだね。」
「は?、実在の動物なんですか?」
う、宇宙は広いな大きいな。
「まあ、今日のところは偽装も兼ねてその軽トラックに乗せて帰ってもらいな。」
鷲羽ちゃんもさすがに面倒になったのかぞんざいな口調である。いいじゃん、マニアなんだから・・・。柚樹は、変身を解いて姿を消す。でも足下にいる気配がある。
「分かりました、とりあえずそうします。ちなみに、その軽トラック運転してみたいんですけど、操作は地球のクルマと変わりませんか?」
「いいですけど、アクセル操作は慎重にお願いします。踏み込みすぎるとタイヤが無くなっちゃうんで・・・。」
天地君が困惑を絵に描いたような表情をする。
「それじゃあ、鷲羽ちゃん、済みませんがクルマの件はよろしくお願いします。水穂さんお休みなさい。」
そういって、鷲羽ちゃんの研究室をあとにする。何かに没頭しているようで、鷲羽ちゃんは口数が少ない。バイバイと手だけ振っている。