天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

53 / 135
女の子、女の人永遠の謎かも・・・。


飛翔と束縛3

「え、水鏡からそう聞いたんですか?」

驚いたように水穂さんが聞いてくる。

 「ええ、こないだ瀬戸様がいらっしゃった折に聞こえてきました。そう言うと瀬戸様もびっくりされてましたが・・・。」

 「トップシークレットな話が・・・。」

頭を抱えているのは、水穂さんと平田兼光さん。

 「鷲羽様が今日のネタ元と言ったのがよく分かるわ。」

夕咲さんがため息をつきながら言う。

 「水穂、機密保護上これはどうあっても一緒にいなければならないな。」

勝仁さんがさっきのよぼよぼおじいちゃん状態で言いはじめて、またしゅるしゅると遥照様の姿に戻る。ちょっと、いやだいぶお茶目に見える。

 「あのときは、水鏡の他にも、霧封に、龍皇に、瑞穂に、霧鱗、鏡子、そして瑞樹に神武の樹の声が聞こえてきましたよ。」

もしかして、追い打ち?蛇足?

 「あうう、分かりましたお父様・・・。」

 「それに、私と昨日の夜、あれ、見ちゃったしねぇ。」

そういえば、昨日空間の裂け目見に行って・・・。一緒にいたんだった。

 「瞬時に15000光年を移動されると、ねえ。」

水穂さんが両手で頭を抱えている。

ポンッと音がしたのでその方向を見ると、リョーコさんのところに白毛のわんこ顔の女性がいた。

 「こ。こんど私の人間狩りに、つ、つきあってもらえませんか」

しっぽふりふり。しっぽの先のリボンがかわいい。とってこ~いとボールでも投げればわっふわっふと走ってボールを咥えて戻ってきそうである。霧恋さんが慌てて「ダメよ、リョーコに戻って。ワウはまだこの人見たことないんだから!」と小声で言っている

 「あら、ダメよ、エルマちゃん。まずは私の工房で、へっへっへっへっへ。」

柾木・アイリ・樹雷さんが、ぎらりんと言う目線で見ている。なんでこう爬虫類な目をするんだか。鷲羽ちゃんもそうだけど。

 「ダメよ、お母様、まずは私が!。」

まずは!って、そう言いながら真っ赤になる水穂さん。左腕に腕を通してグッと引きつける。

 「いいえ、わたしが!。」

今度は、希咲姫ちゃんがすすすっと歩いてきて右腕を同じようにしてグッと引きつける。頭の上でもの凄い火花が散ってるような気がする。ばちちちちっと。今度は平田兼光さんが頭を抱えている。

 鶏鍋シンフォニーから我に返った西南君も、鶏鍋シンフォニーを演奏し終わってホッと一息な天地君もひたすら気の毒そうに見ている。

 「わたしは、唇奪っちゃったし。」

珍しくうつむいて顔を赤らめる鷲羽ちゃん。視線が鷲羽ちゃんに集中している。水穂さんと希咲姫ちゃんの視線は柚樹が張っていた光應翼もかくやというようなシールドで防いでいるようだ。

 「これ以上話をややこしくしてどうすんですかっ!。ファーストキスで嬉しかったけど・・・。」

 ほとんど女性とお付き合いしたことがなかったのだ、しょうがないじゃん。

こんどは、この場にいる全員が気の毒そうな表情である。鷲羽ちゃん除いて。いつの間にか柚樹も実体化して膝の上で寝転んでるし。

 「わかった、田本殿。今度俺が女と酒をだな、マニアックなやつから清純なやつまで・・・。」

と言いだして、横の夕咲さんに殴られている。

 「男ってこんなだからね、あんた達しっかり繋いどかないとどこにふらふら行くかわかんないよ!」

 「はい!」

その場にいた女性が全員立ち上がって敬礼する。夕咲さん肝っ玉母さんぶりが凄い。そんなこんなでこの日も暮れていく。なにやら突き抜けるように楽しい。あっという間に楽しい時間は過ぎていき、西南君は、またあっちこっちぶつけながら、今日は雨音さんに担がれて帰って行き、平田兼光さんご一家は自分の船に戻るという。そろそろまたとびうお代行を呼んでもらってと思って、あ、特に必要ないんだったと気付く。

 「鷲羽ちゃん、とびうお代行をと思ったけど、不可視フィールド張って、一樹に乗せて帰ってもらえば問題ないよね。」

 「いちおう、助手席に座っておけば大丈夫さね。でも他の人に見られるんじゃないよ。」

 「そうか、うちの庭から家に入るまでか・・・。やっぱり代行呼びます。」

これなら、あのひともよくまあ飲みに行くねえ、昨日も代行で帰ってきてたよ。で終わるけど、庭に突如出現したクルマから人が降りてくれば、知らない人から見ればこれはホラーだろう。ご近所様は見ているのである。

 また柾木家のシールドを解除してもらって、とびうお運転代行を呼んだ。今日はまだ早い時間なので10分くらいで来られるという。

 「それじゃ、みなさんこれで失礼します。ごちそうさまでした。おやすみなさい。天地君、水穂さん、明日また役場で。」

と言って柾木家をおいとましようとした。希咲姫ちゃんがなんか寂しそうな、今にも泣き出しそうな顔である。

 「希咲姫ちゃん、今週末のこっちの休みにそっちに行くから・・・。また、遊んでね。」

と言うと、今度は額に青筋立てて黙りこくる。さっきの夕咲さんとよく似ている。

平田兼光さんはわからないみたいだが、夕咲さんは艶然とした笑みを浮かべている。ある意味怖い・・・。

 柾木家の玄関の戸を閉めると、一挙に静寂感が増す。逆に蛙の鳴き声がうるさい。一樹の擬態するクルマに戻って助手席を開けて、座って夜空を見る。いよいよあの星空に飛び込めるのか・・・。

 「一樹、今週末樹雷に行こうと思う。もちろん柚樹さんも一緒だよ。」

 「うんわかった。母様と一緒だしね。」

スッと実体化して足下でこちらを見上げる柚樹。

 「しかし、お前さんは本当にやっかい事を背負い込むのぉ。」

 「え、なんでです?」

 「第1世代の樹が挿し木された第2世代の樹のコアユニットなんて前代未聞じゃろう。わしがおること自体も前代未聞じゃが。しかもマスターキー無しで様々な樹と話せてしまう・・・。お主は本当に樹に愛されておるのじゃなぁ。」

 「・・・よく遊んでいたのは、神社の境内とか、山とかだったんで樹とは本当に友達のように感じていました。樹の声が聞こえると良いなとか、樹のように生きられれば良いなとか真面目に宿題の日記帳に書いていました。」

 「変わった子どもよのぉ。」

 「あ、やっぱり。」

そしてまた、夜空を見上げていた。ふわり、とキンモクセイに似た香りがするなと思うと、あの最初に柾木神社で出会った女性が立っていた。

 「・・・あなたには、こちらも謝らなければなりません。地球人としての生活や人生を奪ったも同然ですから。」

 「いいえ、それは僕が望み選んだことです。今は十分楽しいですし、これからもとても楽しそうです。父母や兄弟、親戚との別れもあるでしょうが、そのかわりに皆さんと長い年月を生きることができます。」

 「何より、光の速さを超えて遠いところまで旅ができることが嬉しいですね。でも僕もいちおう人間です。どこかで疲れることがあるかも知れません。そのときにはまたよろしくお願いします。」

 「私たちは、あなた方と共にあることを願ったもの。共にあると言うことは苦しいときも悲しいときも、楽しいときも嬉しいときも一緒と言うことですわ。」

遠くからクルマの音が聞こえてくる。

 「それでは、一樹をよろしくお願いします。」

深々とお辞儀をされて、その姿が運転代行のクルマのヘッドライトに払いのけられるように消え、とびうお運転代行が到着する。

 「それじゃあ、お願いします。」

そうして、自宅に到着し光学迷彩をかけて、頭を打たないように気をつけて自宅に入る。帰ってきたら午後10時過ぎでそこそこの時間だなぁ。ちょっとネットして寝ようとパソコンの電源を入れる。地球の通常のOSを起動して、ネットサーフィンし、メールチェックして一旦終了。その後、JuraiOSモードで起動する。たしか、タッチパネルでないパソコンだけど何か認証したような・・・。

 JuraiOS起動後たぶんデスクトップなんだろう画面に入ると、メールのアイコンが点滅している。ふううんと思ってクリックすると昨日見たままの通常のメーラーだが受信ボックスになにやら着信メールがあるらしい。受信ボックスをクリックする。

 MMDから口座開設メールとパスワード設定画面、本人認証確認メール(これは天地君ちのお風呂だな)がばささっといくつか来ていて、とりあえず手続きは終わっているらしい。また通帳を見てみると、くらくらするような桁数の数が書き込まれつつある。現実感がない。それでも、資金があると言うことは、まあそれなりに世渡り出来ると言うことだろう。でもカードか。こっちにはこのカードが使えるATMが無い。あたりまえだけど。地球のしかも日本の円に交換出来るのかよくわからない。とりあえず、しばらくはこっちの生活も大事だからこのカードや通帳は大事にしまっておこう。そうだ、一樹のブリッジに金庫でも作ってもらってそこに入れよう。ん~でもMMDって何の略だろう。

 なんやかや考えていてもしょうがないので、着替えて寝ることにする。今日もいろいろあったなぁ、と言うかいろいろありすぎだな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。