鶏鍋イベント(?)だし、水穂さんの同僚だし(瀬戸の盾と剣でしたっけ?)。
すいません、暴走しています。
「あ、西南くうん、こんどナーシスにみんなでいらっしゃい。いろいろ終わったし貸し切りにして飲みましょ。」
「それも良いんですけど、ほら真ん中の人が・・・。」
ああ、意識が飛ぶ。生胸が~~~。
「あ、忘れてた・・・。」
ひょいと誰かに背負われて、お湯から出してもらう。むっちりとした肩から背中への筋肉と広い背中、太い首が、それはそれで刺激的。
「あ、あの、とりあえず涼しいところで座らせてもらえば・・・。」
「今日は熱があったんだろう?おとなしく寝ていないから、みんなにいじられるんだぞ、田本殿・・・。」
黒髪と言うより、少し茶色がかった髪である。顔の周りは短く刈り込んでいるが、後ろは束ねて長くしている男だった。通った鼻筋が精悍さを増加させている。ニッと笑うととても魅力的な男だった。
「危ないところを助けて頂きありがとうございます。僕は田本一樹です。あなたは?」
「おお、本当に危ないところだったなぁ。俺は平田兼光。ま、水穂の同僚だな。」
わっはっはっは、と笑う顔は包容力もあって、立派な生活のバックグラウンドを感じさせる。結婚しているぞたぶん。
「お父様~、お母様が早く出てらっしゃいって呼んでます、わ・・・・・・。」
からら、と脱衣所の戸を開けて10歳くらいの女の子が顔を出す。
「きゃあああああああああっっっ!不潔ですわ~~~~~お父様ぁ!」
ぴしゃん、と脱衣所のとをたたきつけるように閉めて女の子は走って行った。
「あのぉ、なにやらとてもややこしいことになりそうですが・・・。」
といいながら平田兼光さんの顔を見ると、見事に青ざめている。ついでにブルーバックで固まってるPCよろしく凍り付いている。
「よ、よし、とりあえず慌てて身体洗って風呂を出るぞ!、田本殿。」
「わ、わかりましたっ。」
もう一度慌てて風呂に戻ると西南君が身体を洗っていて、僕たちも隣に座って身体を洗う。柚樹は女性陣に捕まっているようだ。
「どうしたんですか?お二人とも。」
「いや、なんだかややこしいことになりそうで・・・。」
西南君に今あったことを説明する。10歳くらいの女の子で、兼光さんをお父様と呼んでいたこと。悲鳴を上げて走っていったこと。
「兼光さん、もしかして、希咲姫ちゃんですか?」
西南君が、見知ってるようでちゃん付けで呼んでいる。
「水穂をけしかけた手前、自分でも相手を見ておかないと思って、夕咲といっしょに旅行がてら来てみたんだ。遥照の顔も見ておきたかったし・・・。」
頭から風呂桶に溜めた湯をかぶりながらそう言う平田兼光さん。
「さっき、脱衣所で田本殿と裸で話しているところを見られてなぁ・・・・・・。」
さあて、思春期前の女の子思考回路がどうなってるのかは、あたしゃしりませぬ。
「ちょうど平田兼光さんに、湯船から助け出されたところでしたし・・・。とりあえず、身体洗って出ましょ。奥様と娘様に申し開きをしないと。」
「そ、そうだな。」
ざばば、ばしゃばしゃとかけ湯して、石鹸洗い落として脱衣所へ。やっぱり完璧なノイケさん、僕が着ていたジャージとTシャツは洗われてきちんとたたまれて置いてある。平田兼光さんは、樹雷の服だろうか地球の作務衣に似ているが、もう少し身体に密着した衣服である。
ばたばたと、服を着て柾木家のお風呂を出る。柾木家の玄関を開けるとそこには、ちょっとボーイッシュで、目鼻立ちのくっきりした女性と、その後ろに隠れるようにさっきの女の子が立っていた。女性は腕組んで、こめかみに若干青筋が立っているような・・・。
「あなたの好みがどうあろうと私は関知しませんけれど、娘を巻き込むのはどうかと思いますわよ!」
うわ、怒ってる。
「いえ、あの、のぼせそうになった僕をちょうど脱衣所に運んでくれたところだったんですよ。」
いちおう弁明。広い背中ガッシリした肩、それと太い首にドキドキしたのは伏せておこう。若干目線が合わせられないのは許して欲しい。
「そ、そうだぞ。こいつがアイリ様や鷲羽様にいじられて今にも湯に沈みそうだったんだ。」
身振り手振りで、必死に言う平田兼光さん。奥様には弱いのかな。
「まあ、いいでしょ。そういうことにしておきます。あと、1時間ほどで夕ご飯ですからね。」
玄関の靴箱の上には、僕の財布とクルマのキーとスマホが置いてある。
「ええっと、すみません。これ僕の何ですけど、持って行って良いですか?」
あとで無いと大騒ぎになってもいけないし。
「ノイケ様、砂沙美様、ここのお財布とかは・・・。」
「ああ、田本様のだからお渡しして良いですよ~。」
台所から二人の声が聞こえてくる。なにやら準備で忙しいらしい。僕を今見ているのは、平田兼光夫妻とそのお子様。ふっふっふ、逃げるなら今だ!
「それでは、ちょっと用があるのでこれで失礼します。それぢゃ!」
二の句を言わせないように、しゅばっと右手を挙げてご挨拶して失礼しようとする。
「夕咲殿、そいつを逃がしちゃダメだ!今夜のネタ元だよ!」
なにやら背後から殺気が吹き寄せる。うなりを上げた何かが背後に迫る。背後に「空間のずれ」作成。一撃目は躱せた。お、一樹が擬態した僕のクルマが置いてある。もう少し!と思った瞬間、お腹に細い紐状のものが、くるくるくるっと巻き付く。そのまま豪腕でたぐり寄せられてしまう。ついでにくるくるとまわりながら、
「あ~~れ~~。」
平田兼光さんに両腕を羽交い締めにされた。がしっ。
「くっくっく、バカな子だねぇ。この私から逃げられるとお思いかい。」
出たな砂かけおババ、ともう少しで言いそうになる。
「あら~、でも悔しいですわ。一撃目を躱されるなんて。」
鞭のようなものを巻いてしまいながら、夕咲と言われた女性はとても悔しそうに言う。
「あの一撃目を躱すとはなぁ。田本殿は本当に地球の人か?」
「う、最近人間離れしてきているのをひしひしと感じます・・・。」
うるうるとほほを涙が伝う。
「わかりました、逃げませんから、ご飯までおとなしくいますから、勝仁様のところに行きませんか?」
いつまでも羽交い締めされているわけには行かない。でも二の腕の筋肉のむちむち感がちょっとすごい。
「おお、遥照のところか。行こう行こう。」
「あ~~、私も行く~。遥照くん~(はあと)」
たしかGP理事長、柾木・アイリ・樹雷と言ったっけ。ということは勝仁さんの奥様?天地君のお婆さま?
「そのうち天地殿や、水穂殿も帰ってくるからいっといで。でもくれぐれもその田本殿を逃がしちゃダメだよ。兼光殿。」
「鷲羽様、了解しました!」
びしっと敬礼して答える。あたしゃ犯罪容疑者ですか。
福ちゃん抱いた西南君に、アイリさんに、兼光さんと夕咲さんと希咲姫ちゃん。柚樹はとことこと僕の後ろを付いてくる。希咲姫ちゃんが、てててと駆けてきて僕の手を握る。
「お父様、この人を逃がしてはいけないんですよね。」
「わははは、そうだ逃がすなよ!。」
うー、これはキツイ。キッとまなじり厳しくこちらを見上げる希咲姫ちゃん。控えめに言ってもこれから綺麗になるだろう顔立ちである。こんなかわいい子の手を振り払って逃げられない。
「参ったなぁ。」
頭を掻き掻き、柾木神社までの石段を登る。息が乱れることも無ければ足が重くなることもない。今の自分が信じられないし、だんだん以前の自分の記憶も昔のことになりつつある。そうだ家に電話入れておこう。役場の知り合いに会って飲み会に誘われたから今日はご飯いらないよ。遅くなるからね、と。
「あら、真面目だわね。お父様とお母様はお元気なの?」
GP理事長、柾木・アイリ・樹雷と言われた女性が声をかけてくれる。
「ええ、年齢なりに元気ですね。身体壊されるといけないんで、あんまり無理はするなと言ってるんですけどねぇ・・・。」
「息子がこんなところで拉致られてることは?」
「もちろん言ってませんよ。それに家に帰るときや、役場に仕事に行くときは、この格好です。」
柚樹が、光学迷彩をかけてくれる。ついでに運転免許証も取り出して見せる。希咲姫ちゃんがびっくりしている。あとの人達は何とも言えないあきれ顔というのが正解だろう。
「こりゃ、本当に西南君の向こうを張れそうだわ。」
回し見の終わった免許証を返してくれながらアイリさんが顔を引きつらせている。
「おかげ様で、俺はこれから仕事に没頭出来そうです。」
何となくホッとする顔の西南君になぜか嫉妬してしまう。
「まあ、いいんです。役場勤めの公務員のままだったら、皆さんとこうしてお話もできませんでしたし。制限はあるようですが、どこまでも行ける可能性も手に入れることができましたし。遥照様の樹の船穂やその子の一樹、柚樹さんには感謝してもしきれません。」
「そう、本当にどこまでも行きたいですよね。行けるところまで。」
西南君が夕方の空を見上げながら言う。
「ええ、本当に。」
石段を登る足を止め、いっしょに空を見上げる。夕日に照らされてうっすらとオレンジ色の入道雲が見えた。
第四章「日常への帰還」終わり
長くなってしまいそうなので、ここで第四章終わりにしました。