天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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静かな日常そして未来。普通の地球人なら四十を越えると考えますよね。
そう言う人生の終わりが、田本さんには結局来ないかも(^^;;;;。


日常への帰還7

「いいえぜんっぜん。だって、本当に静かにこの地で、父母を看取って、妹にだから結婚しないからよ!とか言われながら慣れない農業して、ヘルパーさんのお尻触って怒られながら・・・っていう生活を想像していましたから。」

そう、たぶん当たり前の独身者の生活。一人で居ると言うことは最後の瞬間までたぶん一人であろうと言うこと。近所のおばちゃんが育てた野菜をもらって、もらうばかりでいけないので自分でも作って、近所の方にあげる。時々役場の行事に呼ばれたり、台風の襲来を気に病んだり。静かに人生の落日を見据えながら時間を過ごしていく。言い換えれば太陽と共に過ごす日常。春先に善き風が吹くことがことのほか嬉しかったり。

 夜間照明が照らす神社の境内で、神社の縁側や置いてある石に腰掛けて思い思いに足を伸ばして休んでいる。

 「そういえば、勝仁さんも、この地というかこの星が好きになられて、そのままいらっしゃるのではないですか?」

 「そうじゃの。そう言えば言っておらなんだの。実は、この星には魎呼を追ってきたのだよ。」

眼鏡を直す仕草をすると、30代くらいの若い神官といった雰囲気になる。皆さんが言っている遥照様ならこの格好だろう。

 「約750年前、樹雷が神我人に操られた魎呼によって攻撃されたのだ。それを追って戦闘をしているうちに、あまりの凄まじいエネルギー量に空間がゆがみ次元転移をしてこの星にたどり着いたのだ。」

 「今まで聞いた知識では、確か銀河有数の軍事国家で、しかも皇家の樹があるのでほぼ無敵だと・・・。」

 「そうだ、魎呼が襲来するまでは誰もそれを疑ってはなかった。」

と言いつつ鷲羽ちゃんを見る遥照様。

 「いやね、その魎呼は神我人ってのに操られていたんだけども、神我人は、実はわたしの友達だった朱螺凪耶のクローンで、魎呼はわたしの娘なんだけど、わたしもちょっとミスっちゃって神我人に閉じ込められてたりしてね、魎呼は良いように使われてたんだよ。」

なははは、とバツが悪そうに目を細めて笑う鷲羽ちゃん。

 「ま、そんなこんなで地球に来て、魎呼と復活する前の魎皇鬼とほぼ相打ち状態で不時着したのだよ。で、皇家の樹船穂は、真砂希様の樹のようにこの地に根付かせて、今はこの神社のご神木だ。」

 第1世代の樹船穂と、相打ちする魎皇鬼ですか。そういえば一日くらいで樹雷星まで往復して、海底1万mぐらいの水圧ではびくともせず、な性能でしたなぁ。

 「うふふ、呼んだぁ。」

ぶん、と鼓膜を圧迫するような音共にあの魎呼さんが現れた。ビクッとしたが、まあそういうモノと受け入れている自分が怖い。

 「やっぱり突然は心臓に悪いですぅ。」

あはは、とその場が笑いに包まれる。

 「ちなみに、この地に鬼伝説があるのはご存知かな?」

 「ええ、たしか西美那魅町の町史で忠魂碑の調べ物していたときに、見つけて読みふけりました。何でも突然現れて、田畑を破壊する悪逆非道を繰り返した鬼をひとりの若い侍が征伐したとか言う・・・。」

 「あ、それ、わ・た・し。」

 「で、その侍がこの私だ。」

 「えええええ!。」

おお、今解き明かされる古代の秘められた歴史!。むっちゃワクワクしてしまう。魎呼さんは、ふわりと飛んで天地君の横に座る。そのまなざしは、なぜだろう母のまなざしに近い。

 「征伐して、その上の岩戸に封印したのだが、20年前くらいに天地が封印を解いてしまってなぁ。倉敷でドンパチやらかして瀬戸大橋は崩壊させるわ、某高校は大破させるわ大変だった・・・。」

天地君がバツが悪そうに、人差し指で頭を掻いている。

 「え、瀬戸大橋って崩壊していましたっけ?確か倉敷の高校は火事がどうとか。」

 「まあ、実は表向きは何も壊れていないことになっているが。」

おおお、黒服の「がたい」のいい男二人が訪ねてきて情報操作するというあれですか。

 「そう言えば、一昨日のお酒の場で、船穂様ににくどくどとお説教されていたのは・・・。」

 「船穂母様が来るたびに毎回言われているのだが、皇位継承をどう考えておるのかと。」

 「あなたは、樹雷をこれ幸いと出奔して、この地に船穂を根付かせて、皇位継承を拒否したつもりでしょうけど、私たちはあきらめてはいませんからね!」

 暗がりから、境内の砂利を踏む音と船穂様の口まねをして現れたのは、阿重霞さんだった。

 「・・・、阿重霞こそ心臓に悪いぞ。このごろ美沙樹母様よりも船穂母様に似てきてからに。」

ちょっと嫌みっぽく言う遥照様。

 「あら、もう20年も繰り返されたことを再現するのは簡単ですわ。」

夜間照明で明るさが暗がりに負けそうなところで見る阿重霞さんは、なかなか別嬪さんであった。本当にこの一族の皆様、もの凄く深いものがおありのご様子。

 「私だって、お父様、お母様のお立場と、瀬戸様関連の風評被害に辟易してるんですからね。」

薄手のカーディガンをはおった水穂さんが転送されてきた。カジュアルな夜着の水穂さんも、また昼間と違って美しい。

 「は?お父様・・・・・・?」

そういえば、なし崩し的に子どもの顔が見たいとかどうとか樹雷皇がのたまっていたような・・・。

 「おお、水穂はわしの娘だが。」

さっきと打って変わって、小難しい表情で口をへの字にする遥照様。水穂さんの顔を見て、遥照様の顔を見て、もう一度水穂さん見て、さらにもう一回遥照様見て、

 「・・・お気の毒様です。」

 「どういう意味だぁ!、どういう意味よ!」

 「お母様という方にまだお目にかかっておりませんが、たぶん、瀬戸様に負けず劣らずの方だと思うし、その環境下でにこやかに過ごされていること自体が何となくお疲れ様というかお気の毒かなぁ、と思えました・・・。」

周りの皆さんは、うんうんと頷いているが、お二人はちょっとご機嫌斜めなご様子。

 「さあ、後半戦始めますか。」

天地君の声かけで、稽古がまた始まった。木刀が当たる音、つばぜり合いの音が境内に響き渡る。鷲羽ちゃんのぬるぬる君は嫌だけど、効果は確実にあって身体が速くしかも力も付いているようである。「ありがとうございました」の声かけで終わったのはそれから30分くらい後だった。お疲れ様と声をかけて神社を辞する。

 さあて、今日は早く帰ってネットして寝よと思いながら、クルマに帰ろうとした。時間は午後9時を過ぎたところである。

 「田本殿、ちょっと待っておくれ。」

 「はい、なんでしょう?」

珍しく、鷲羽ちゃんが呼び止める。珍しくもないか。またぬるぬる君か?と身構えてしまう。

 「いやね、ちょっとこの太陽系外縁部に不思議な空間の裂け目を感知してたんでね、ちょっと見に連れて行って欲しいのさ。なに、一樹ならそうさなぁ、1時間もあれば行って帰ってこれるね。」

腕組みして右手人差し指をあごに当てて言う鷲羽ちゃん。

 ちょっと見に行く事ができる太陽系の縁って・・・。そうか造作なくできるんだ、一樹がいるし。

 「・・・、はい分かりました。でもいきなりだとちょっと・・・。」

 「水穂殿も一緒に来ておくれ。田本殿が宇宙に一樹と出る練習航海になるだろうから。」

ああ、それなら大丈夫かも。「わかりました」と水穂さんがちょっと照れたように言う。

 「魎皇鬼でも良いんだけれど、魎皇鬼はおねむらしくてね。」

ちょっと済まなさそうに言う、鷲羽ちゃん。

 「わかりました、ではどうぞ。」

三人と一匹(?)が僕の軽自動車に乗り込み、車内から即座に一樹のブリッジに転送される。そう言えばブリッジに行くのは初めてだ。転送されたところは、7,8名分の各種コンソールがある、情報処理室のように見えた。

 「宇宙空間に出るのは初めてなので、どうしましょうか?」

 「まず、一樹と、このコアブロックを起こしておくれ。」

ニッと笑って言う鷲羽ちゃん。起こすって・・・。ええい、よく分からないけど。一樹、太陽系の縁まで行くそうだ。この部屋のシステムを起動してくれ、と天木日亜さんが言っていたように呼びかけてみる。

 一樹から喜び、嬉しいとの波動が伝わり、瞬時に各種コンソールに灯が入った。同時に、自分にも一樹のシステム内を流れる情報が俯瞰的に分かるようになる。自分の意志が皇家の樹の意志と寄り添う。地球で言うところのナビゲーションシステムをもの凄く高精度に仕立て直して、三次元および超空間に対して展開させたように「見え」た。

 「・・・、一樹とのリンク完了しました。すごい、これから行くべきところが手に取るように見えます。これが一樹が見ている星々なんだ・・・。」

見ようと思えば、太陽系の隅々まで見ることができ、さらに「視覚」を広げると、手近の恒星系、そして樹雷の制宙圏、銀河アカデミー、銀河連合の制宙圏、簾座連合の制宙圏まで把握出来る。気づくと、一樹コアブロックのブリッジの構造が変化していた。一樹のホログラフィが中央にあって、それを丸く囲むようにコンソールが配置されている。コンソールと言っても地球のような無粋なコンピューター端末ではなく、鷲羽ちゃんが時々出しているような半透明のキーボードなどが必要に応じて出現するシステムらしい。

 「やれやれ、マスターキー無しでもそこまで見えるんだね、田本殿だと。」

 あきれ顔の鷲羽ちゃんと、水穂さん。

コンピューターのマザーボード基板とかオーディオ機器の電子基板とか見慣れている自分にとっては、そんな風にも見えた。まさに極彩色の広大なナビ空間のように思えた。

 一樹が伝えてくる。各星系の重力勾配や超空間突入可能ポイント、最新ジャンププログラムも皇家の樹のネットワークからダウンロード済みらしい。

 水穂さんが、手近なコンソールに座って手慣れたようにシステムを起動し、情報把握をしている。

 「いちおう、樹雷にも通信を入れておきますね。」

 「そうだね。そうしておくれ。あとでややこしいことになってもいけないし。良いよね田本殿。」

 「はい、お願いします。」

水穂さんが操作すると、通信回線が開き、手近の中継基地を経由して超空間通信ネットワークに接続、樹雷本星に繋がった。あらら、瀬戸様手を振っている。

 「こんばんは、この間は失礼しました。神木・瀬戸・樹雷様。ちょっと鷲羽ちゃんの用事で太陽系外縁部に行ってきます。」

 でかい通信ディスプレイが開くと同時に、口走ってしまう。また、鷲羽ちゃんと水穂さんが驚いた表情をする。

 「もしかして、通信回線がつながったようすまで・・・。」

 「ええ、がっちり分かりました。瀬戸様が手を振っていたもので、つい・・・。」

 「あら、守蛇怪に似たブリッジねぇ。田本殿こんばんは。この間は楽しかったわ。それじゃあ水穂ちゃん、田本殿を頼むわよ。」

 「瀬戸様ぁ~。田本さんと、一樹ちゃんのリンク強すぎで私の仕事ないっすぅ~。」

 「あらあら。まあ、それは凄いわね。」

真顔の瀬戸様、やっぱりちょっと、じゃなくてだいぶ怖い。

 「え、でも一緒にいてくれるだけで心強いですよ。」

ぽ、と顔を赤らめる水穂さんに、扇子を広げて口元に当て、にんまり笑う瀬戸様。

 「うふ、いいわ。行ってらっしゃい。」

何となく色香が暴発して見えるのは気のせいだろう。う、鷲羽ちゃん、ひくひくと口元が引きつっている。

 


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