天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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さて、ちょっと仕事が忙しいので更新間隔があきます。


日常への帰還6

「地球の水だけど美味しいかい?」

柚樹も黙って水を飲んでいる。水はすべての源。水が美味ければだいたい何でも美味しい。そういえば、僕もここに家を建てなければならないという。う~ん樹雷では住宅ローン組めるんだろうか・・・?。でもここはある意味自然の理想郷。皇家の樹で完璧に調整された大自然である。あ、もしかして、いろんな農産物も作れるのかな。

 「大丈夫だよ。専用ロボットやアンドロイド、バイオボーグなんかもあるし。」

 「皇家の皆さんは、絹や麻、綿なんかも作っているのぉ。」

もしかして、ちょっとした惑星じゃん。売れるじゃん!。

 「まさに。そう言う繊維の縫製工場や、畑でなくとも野菜生産工場、畜産、何でも思い通りじゃよ。」

 「田本さんも正式に皇家入りしたら、それ相応の立場もできるし収入もあるはずだよ。」

 「うわ、でも面倒くさそうだよねぇ。」

 どこかからお金をもらうと言うことは、そこのシステムに組み込まれると言うこと。公務員になれば公務員の規約に反しないような行動を求められるし、会社員もその会社の労働規約なりがあるだろう。生活保護だって、そう言う意味では同じである。歳が若ければ就労活動や相談への参加を求められるし、ケースワーカーの訪問も月に1,2回は受けなければならない。近隣の目もあるだろう。

 「様々なしきたりや礼式。公式式典への参加、皇家の樹を使った特殊作戦への参加。まあいろいろあるだろうのぉ。」

 「まあ、そうでしょうねぇ。でも時間はあるみたいだし。水穂さんはそのために来ているようだし。」

 「さて、寝ないと明日も仕事だ。」

お休み、一樹と声をかけて自室に戻る。

 パソコンをとりあえずは地球用のOSで起動する。やっぱり大量にメールが来ている。ほとんど全部いらないメールだった。適当にネットを徘徊して、一旦シャットダウンして、JYURAI_OSモードで起動する。

 メールアイコンが点滅している。メアド設定してないんだけどな・・・?

マウスポイントしてクリックすると、アニメな二頭身キャラの鷲羽ちゃんが出て、画面を土煙のアニメを上げながら「どどど」って感じで走ったあと、そこに一つのウインドウが現れる。アニメの鷲羽ちゃんは左手を強調して大きくしたり小さくしたりしながらその白いウインドウを触れと言っているように見えた。

 このパソコンは特にタッチパネルでもないし。もともとタッチパネルな機能は欲しくなかったので一つ前のOSにダウングレード済みのパソコンを購入している。まあ、いいかと左手全体で画面を触る。今度は、右手を強調して同じアニメである。右手全体で画面を触った。画面一杯に設定終了と出て消えた。

 メールのアイコンをクリックしても、よく見るメールソフトである。受信箱に送信箱、迷惑メール箱にゴミ箱そんなアイコンが左に並びビューアが右にある。受信ボタン押しても何も起こらない。まあそうだわな。どことも契約していないし。パソコンを終了して、さて、と寝ましょうと。今日もいろいろあった。布団引いて照明消して、横になった。

 

 静まり返った田本家の寝室。カーテンの向こうからは街灯の明かりもわずかに漏れてくる。真の暗闇ではない。閉じたはずのノートパソコンが誰が触れたわけでもないのにゆっくりと開き画面が白く輝き出す。部屋の外から漏れてくる光が減じ、昏い星々の光さえない宇宙のような空間に変わる。田本や柚樹は気づかない。そして三つの巨大な陰が現れた。

 「姉様、やはりこの次元はおもしろいですね。」

 「そうね、今度は津名魅のエリアからのイレギュラーな可能性だよ。」

 「天地殿のような存在にはならないだろうが、・・・いや、わからないか。」

 「無限の思考錯誤の結果ですから。」

 「訪希深は剣士の方を頼むよ。」

 「分かりました姉様。あの子も十分に成長してどこに出しても生きていけるでしょう。可能性としては天地殿と変わりませぬ。」

 「我らよりも長く生き、無限の向こう側を覗くことができる存在。永く、本当に永く待ちました。」

 「我らも、我らの上位生命体の実験体ではないかという可能性。ただ、全知全能であることが否定はしているのだが・・・。」

 「今まで待ったのですもの。ゆっくりと楽しませてもらいましょう。」

 「答えがどう出るか、本当に楽しみだね。」

 「ええ。」

 「ええ。」

パソコンの光がゆっくりと暗くなる。同時にもとのカーテン越しの街灯の光に戻った。

 

 また朝が来た。光学迷彩をかけての出勤。昨日買ったワイシャツとスラックスを着けて出勤する。日常とは言えないような事例がまたたくさん起こり、それでも時間は過ぎ終業時刻となった。午後7時くらいまで残業して自宅に戻って食事して着替えて、また柾木神社へ剣術の稽古に行く。先週までの田本さんはこんなにアクティブではなかったんだけど。

 「ほお、今日は全然動きが違うのぉ。速いぞ。」

不思議に昨日は付いていけなかった剣士君の動きにもついて行ける。おかしい、いくら天木日亜さんのアストラルと融合しているとしても、さすがに昨日今日で変わるものではないだろう。昨日のぬるぬる君4号のせいだろうか。そういえば、愛用している四菱のボールペン折っちゃったし。それも何の気なしに。

 「説明しよう!」

またもや背後に鷲羽ちゃん。頭にはでかいバッテン絆創膏。さすがにダメージでかかったんだな。

 「実は、昨日のぬるぬる君4号で生体強化が二段階進んでるよ。瀬戸様のご厚意で樹雷からのデータ提供を受けているから、今回は特にナノマシン系への耐性強化に薬品への耐性強化、そして樹雷独特の生体強化方法も加味している。本当は、2週間程度身体の完熟訓練が必要だけれど精神的なリミッターを組み込むことによってそれを不要にしている。」

 「すみません、わかんないです。あ、でも今日ボールペン折っちゃいました。」

 「まあ、力の使い方を気をつけて加減しておくれということさ。田本殿だとケンカするようなことはないだろうけど、他の地球人だと一発で死んじゃうかも知れないからそのつもりでいておくれ。まあそのための精神リミッターなんだけどね。」

 うんうん、と分かったような分からないような説明が終わる。とにかく、日常生活に注意が必要になっていることだけは分かった。だって、今日プラスティックのボールペン、握りつぶしてしまったのだ。ちょうど誰も見てなかったから良いけれど。どんどん普通の人間離れしているのは気のせいだろうか・・・。なぜ、こんな不思議な思いをしなければならないのかという、ちょっとした違和感というか納得いかないものはある。しかし今は楽しさの方が大きく上回っている。まるで20代のウキウキのような感じである。

 ならば行けるところまで行こう。可能性は自らの手の中にある。この世の中に超光速で行き交う宇宙船やそういった文明圏があるのだ。

 「いたたっ」

 「スキあり!」

ニッと笑う天地君に木刀を持つ手を叩かれ、落としてしまった。

 「うん、何かこんな生活不思議だけど、楽しくてね。考え事しちゃってた。」

 「そうですね、ちょっと休憩しましょう。」

神社の境内広場から社務所に移って、思い思いの位置にみんな座る。う、アルミサッシが直っていない・・・。

 「そうか、あれからまだ五日目ですか・・・。普通に、仕事で百歳の慶祝訪問の説明に来ただけだったんだけどなぁ・・・。」

 「後悔していますか?」

 「いいえぜんっぜん。だって、本当に静かにこの地で、父母を看取って、妹にだから結婚しないからよ!とか言われながら慣れない農業して、ヘルパーさんのお尻触って怒られながら・・・っていう生活を想像していましたから。」

 


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