天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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田本さんの日常に戻った、かのように見えますが・・・。


日常への帰還1(第4章)

~妄想シミュレーション四章~

日常への帰還

 

 目が覚めたのは、午前六時過ぎだった。眼鏡を探して時計を見る。気づくと眼鏡なしでもよく見えている。さらに横に銀色のネコが寝ていた。ここで目が一瞬にして覚める。そうだ、金曜日から日曜日までで急転直下の大激動があったんだった。

 とりあえず、家からたたき出されてもいけないので、柚樹を起こして光学迷彩をかけてもらう。それでも結局は光学迷彩なので、不用意に歩くと天井や入り口で頭をぶつけてしまう。幸か不幸か、昨日は話題が重くて、結局深酒にならなかったので体調は良かった。

 「難儀じゃのぉ。人間は。」

 「しょうがないでしょう。いちおう、まだこっちの日常も破綻なく続けないといけませんから。しばらく頼みますよ。」

 「そう言えば柚樹さんは、何食べるんですか?」

 「そうじゃのぉ。特に食べなくても良いな。水さえ飲んで、光に当たっておれば問題ない。」

 「一樹は?どうなの?」

 「僕も一緒だよ。光が当たって、水があれば問題ないよ。」

そうか、その辺は「樹」なんだ。

 「何か欲しいモノがあれば言ってくださいね、二人とも。」

 「そうだ、光学迷彩は、どのくらい離れると消えますか?」

 「力はほぼ地球上であれば問題なく届くから、距離的には問題ない。わしと一樹がおれば力を経由する事もできるから、距離的なことはほぼ問題はないだろう。ただ、光学と言われるくらいだから、水を大量にかぶるとか、細かい粒子が舞う砂嵐のようなものに出会うとかすればバレてしまうから気をつけてくれ。」

 そうだ、今度の休みに、とびきり美味しい水を取りに行こう。山の岩肌から大量に染み出てくる美味い水がある場所が山深くにある。

 それじゃあ、シャワー浴びて仕事に行かなくては、と柚樹と一緒に風呂場に行く。途中、廊下で母に会ったが、「あら、今日は早いじゃん」と言って特に何事もなく通り過ぎていった。さすが樹雷の力。柚樹はすでに姿を消している。

 風呂場に行って、シャワーを浴びながら鏡を見る。光学迷彩を張っている限り田本さんだけど、光学迷彩を切ると、見事に柚樹さんが話してくれた天木日亜さんである。阿重霞さんが樹雷の警護の方?と見間違うほどに逆三角形の体つき。

 ん~、この身体維持しないと結構樹雷に行って、馬鹿にされるかもとも思う。昨日から身体を動かしたくてうずうずしている。ほとんど焦燥感に近い。以前の田本さんであれば全くそんな気持ちにはならなかったけれど・・・。今日はなるべく早めに仕事を切り上げて、天地君に相談してみよう。

 普通に朝ご飯、歯を磨いて、トイレ行って・・・。でもあちこち頭をぶつけたり、逆に今までの服が合わないことに気がついて、焦ったり。上に着るワイシャツは、以前は腹回りがパツパツだったけど、今度は肩だの胸だの、首がきつい。ズボンはウエストが緩く短い・・・。裾上げしているのをこっそりほどいたりした。

 そんなこんなであっという間に出勤時間。とりあえず、柚樹さんには付いてきてもらうことにした。何が起こるか分からないし。もちろん、一樹が融合しているクルマで出勤する。キーを挿してエンジンをかけると、今までと変わらない田本さん所有の軽自動車である。庭から出して、普通に運転する。

 「一樹、ここにいるの?」

あまりにも普通なので、問いかけてみる。

 「いるよ。でも鷲羽ちゃんが、田本さんが仕事に行くときには、表に出ちゃダメだよって言われているんだ。」

 「そうか。わかったよ。今度の土日、ちょっと出てみようか、宇宙に。」

 「うん。柚樹さんも一緒にね。」

 「もちろん!、いろいろ見て回ろう。」

助手席で丸まっている銀毛のネコが一瞬現れ、消える。

 職場の西美那魅町役場に着き、所定の位置にクルマを駐める。なんだか、すごい時間を過ごしてきたような錯覚を感じる。まあ、それでも自分はここの職員だから、今日も一日頑張らなければ。

 タイムレコーダーを押して、自分の席に向かう。おはようございますと、すれ違う人、早くから用があって役場を訪れている人に声をかける。まずは挨拶があれば怒っている人も少し間を置いてくれるものである。

 おはようございます、と言いながら席に着く。課長に、金曜日はありがとうございましたと声をかける。

 「おはよう・・・・・・、田本だよな。」

 「ええそうですけど?何か変ですか?」

 「いや、なんだか大きくなってないか?」

 「あははは、横にですかね。また太っちゃいました?」

と答えてみた。光学迷彩効いてるよな、と思いながらお腹を触る。うんうん、前に突き出たお腹が見えている。ちょっと不審そうに見る課長。でもあきらめたようにパソコンに目を戻している。

 さっそく、パソコンのディスプレイに、様々な付せんが張り付いている。どこそこから電話がありました、地域包括支援センターに電話してください、等々。

 とりあえず、優先順位をつけて順に電話を入れる。だいたいこんな感じである。

 「おはようございます。西美那魅町役場福祉課の田本です。金曜日にお電話頂いていたようですが・・・。」

 「おはようございます。包括支援センターの河東です。ちょっとお知らせしておきたいことがあって、電話したんですけど、ちょうどいらっしゃらなくて・・・。この間、ケース会議した山○地区の○西さんなんですが、介護保険の申請を出したんですけど、その後認知症状がひどくなって、入院したそうなんです。」

 「ああ、あの病院にだけはかからないと、強烈に拒否していたお婆ちゃんですね。家族の方が無理にでも連れて行ったんですか?」

 「いいえ、夜中にトイレの場所が分からなくて、屋内を徘徊していて、転倒してしまわれたようです。」

認知症を患っている方だと、夜間不穏になる人もいる。

 「そうなんですか。それはお気の毒に。骨折とかはなかったんでしょうか。とくに股関節とか。」

 「それが、やはり股関節の骨頭部分を骨折してしまわれたようで、人工関節を検討しているそうです。」

 「そうですか・・・・・・。良くなって欲しいですが、お年がお年ですしちょっと難しいかも知れませんね・・・。」

 「一度介護保険の申請は取り下げましょうか?身体の状態が大きく変わりましたし。」

身体の状態が大きく変わったのくだりで、ちょっとびっくりする。

 「え、ええ、そうですね。リハビリがうまくいって退院の目処が立った時点で申請することにしましょう。ご家族とご本人には了解してもらってくださいね。」

 「そうします。そうそう、8月○日の地域包括ケア会議、よろしくお願いします。」

 「わかりました。またよろしくお願いします。」

 次はこの緑色の付せんっと。

 「おはようございます。西美那魅町役場の田本です。山中民生委員さんのお宅でしょうか?」

 「おお、おはよう。実は、近所の○山さんから相談されたんだが、○山さんの隣の人が、どうも、さいきん外に出たがらないし、物を盗られたとかいうことが増えたそうだ。」

 「○山さんの隣というと、△川さんですね。」

 「そうだよ。旦那さんが亡くなって、ちょっと気を落としているところもあるようだ。」

 「う~ん、そうですね、近々包括支援センターの者と訪問してみましょうか?」

 「うん頼むよ。時々娘が帰ってきて世話はしているようだが・・・。」

 「わかりました、また何かあったら教えてください。ありがとうございました。」

訪問して、介護保険の申請を勧めてみたり、少し話を聞いてみようと思う。


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