天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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完調では無い柚樹にできることは・・・。


柚樹との対話8

青ざめた顔でキヌエラが問う。

 「この火の玉を破壊することはできないのですか?」

 「わたくしが完調であれば可能かも知れませんが、現在のこの船の火力では無理です。第一世代艦であればたやすいでしょうが・・・。」

 「光應翼で衝突軌道をそらすか、減速させることは可能か?。」

 「それならば多少の軌道の操作は可能です。ただ、問題があります。まず減速させた場合のシミュレーションです。」

 光應翼を最大展開させて、火球を可能な限り減速した場合のシミュレーションが動画として映し出される。その結果は目を覆うばかりのモノだった。

 「このように、私の持てる力を使って減速すると火球は第一惑星と第二惑星に最大接近し、潮汐力により両方を粉砕することでしょう。」

「この場合、第三惑星は第二惑星の残骸をもろに浴び、生命が住めない星になると思われます。」

 「それでは、軌道をそらすことは?」

 「速度を落とさずに、軌道をそらすことはある程度は可能です。ただ、残念ながら非常に運の悪い時期と言えます。」

最適と思われるタイミングで光應翼を展開、軌道をそらすシミュレーションをして、火球の軌道を柚樹は描く。ほとんどの軌道は第四惑星との衝突コースであり、減速案と同様に惑星残骸が降り、生命が住めない星になった。ほとんど唯一と思われる展開タイミングだと、今度は第三惑星の衛星が火球のごく近傍を通過するモノだった。

 「残念ながら、この展開タイミングしか、他の星に影響を与えないものはありません。しかしながら、この第三惑星の衛星が大きな影響を受けます。破壊はされないまでも表層は氷で内部は熱水のこの衛星の場合、潮汐力により表層が割れ、内部の熱水が第三惑星に大量に降り注ぎます。」

 「ならば、光應翼を張り、後ろから押して加速し、星系外に押し出すようなことは?」

 「それも無理です。堅い構造の惑星なら可能ですが、この火球は未だ表層も固まっておらず、無理に押しても突き抜けるか、分裂するだけです。」

三人は押し黙った。取り得る案はたった一つ。それも大量の熱水が泥と共に降り注ぎ、この星は一時的にもすべてが水に覆われてしまう案であった。

 「・・・柚樹、この星が水に覆われてしまうまでどのくらいの時間が残されている?」

 「現在の火球の速度から計算して、約2年半ほどだと思われます。」

 「・・・。この結果をムーにも連絡してちょうだい。」

キヌエラが苦渋に満ちた表情でそう言った。

 

それから半年は、柚樹の提供したデータを両国とも検討したが、結果は同じ物でしかなかった。同時に、第三惑星脱出計画と、隣の第四惑星移住計画が検討されたが、これも衛星までの航行技術さえ無い、今のアトランティスとムーにはとうてい無理な物と思われた。

 電力無線伝送システムもこの第三惑星表層でしか使えない。しかも未曾有の大災害となれば、電力も途絶えることが目に見えている。

 柚樹の亜空間固定能力をフルに使っても、第三惑星に住む人類をすべて乗せることはとうてい無理である。しかも光應翼を最大出力展開するので亜空間固定に割けるエネルギーはない。

 逃げ出すのは無理、とどまっても生き残る可能性は低いと、意見が煮詰まっていたアトランティス・ムーの統一評議会に一つの案が提出された。それは、大型船を建造し、人々や動物、その食料、そして植物の種、などを乗せ水が引くまで待つという案である。

 「大型船の構造や資材はどうする?」

 これも様々な案が提案されてはふるいにかけられた。これに関しては、樹雷の木材加工技術をこの星の木材に適用すれば、鉄やアルミ以上の強固な構造が取れることが判明し、各国ともこの方法で決定した。天木日亜の指示により柚樹より木材に関しての加工および強化技術が供与された。

 船の仕様は、もっとも海上で安定度が高く、材料の強度、剛性計算の結果、長さ134m、幅23m、たかさ13mの箱形を取ることが決定。動力航行はしない前提なので船首も四角くし、最大容積効率を取ることにする。さらに海上よりは海中を漂う方がさらに安全であろうと言う意見もあり、船底および船の周りに石のバラストを積むことが決定された。大荒れに荒れるだろう海上よりも2,30m下を航行する作戦である。

 この作戦は、発案者の名前を採って「ノアの箱舟作戦」と呼ばれた。人的資源は良いが知識などはどうするのか?そういった意見も出された。

 様々な材料で記述されている知識であるが、どのメディアも数十年で読み取れなくなる可能性が大きい。紙も湿気のない環境であれば良いが、やはり水に弱い。安定度の高い材料で作って地中に保管すると言う案が最多となり、土を主原料とする粘土板に水を吸わないコーティングを施し、光学多重構造文字で書き込んで、専用リーダーで読み出す方法が取られた。

 保管場所は、地質学的にかなり永続性が高いとされた例の巨大四角錐構造物(重力圧電発電所)の周辺地に深く穴を掘って埋めることにした。もちろん、現在使われているメモリやその他ストレージ類もバックアップとして耐水耐圧ケースに入れ同様の場所に保管することになった。

 さて、そこまで決まるまでに約1年と半年かかっている。あと1年ほどしか時間が無い。

すでに第五惑星は数ヶ月前、火球が近くを通過したことにより潮汐力により粉々になってしまっている。いくつか大きな隕石としてその残骸が第三惑星軌道に進入してきたが、すべて柚樹が撃破していた。しかしながら第四惑星はその影響をもろに受け、第五惑星の大量の隕石と土砂が降り注ぎ、表面は遠目には、赤く見えるようにまで覆われてしまった。火球の引力によりわずかにあった水や大気も吹き飛ばされ、大量に酸素や水が必要な高等生命体はもはや住めない星になり果てた。

 二国では、続々と箱船が建造されていた。どの船が生き残っても子孫や文明を残せるように、若い夫婦やつがいの動物、植物の種は優先されて積み込まれる。恒温巨大動物は残念ながらその巨体故、船に乗せることができなかった。

 また、箱船に乗ることを拒否し、最期は自分の生まれ育った土地で迎えたいと願う、主に高齢者を中心とするグループもあり、あくまでも個人の意思が尊重された。ただ、なるべく高所に移動する、シェルターを利用するなど生き残るための方策は最大限採られている。

 箱船の内部は、どの船も標準構造を取っていた。充分な強度と剛性を確保した船体は、石のバラストおよび水のバラストを船底部に集中させ、万が一ひっくり返っても復帰するような構造とされた。船の上層に動物や人間、下層に土と共に植物を植え、簡易循環システムとする。水は高機能イオン交換膜でもって真水を作る。船内には希元素を原料とする高性能バッテリーが積み込まれ、ぎりぎりまで無線送電システムから充電を受ける。それが循環システムおよび光源、そして船底を下とする人工重力の要となる予定である。船体さえ破損しなければ、半年間程度の航行が可能なように周到に準備設計された。

 

そして時は過ぎ、ついにそのときが来た。


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