天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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始まりの章3

おとなしい感じでちょっと丸顔の青年である。もう30歳は越えているはず。そういえば天地君も浮いた話は無い。結構女性職員の中でも話題なのを人づてに聞くことがある。人当たりは良く第一印象も良いのだが、自分的にはこう、ちょっとピンと張り詰めたような鋭利な感じがあって、あまり話をしたことが無かったりする。

 「課長、総務課の柾木天地君のおじいさんだそうです。何か地鎮祭に行かれているようで、ご本人さんの声は聞けませんでしたが・・・。」

 「そうか、それなら良かった。ちょっと柾木君と話してこい。」

 「わかりました。それでは二階の総務課にいますね。」

 課長の顔には「面倒なことが起こらなくて良かった」とあからさまに書いてある。自分もその通りな表情なのは隠すことも無く、自然に笑顔になる。

 「柾木君、いる?」

総務課の森元女史に声をかけてみる。柾木君柾木君、とうつむいてパソコンを操作していた男性職員に声をかけてくれる。面倒見が良い人で美人というわけでは無いが、この人は笑顔がかわいらしい。結婚されていて高校生の娘さんがいるらしい。

 「あ~、はい。福祉課の田本さん。」

 ほわっとした低い声だけども、明瞭な声である。短髪だけれども後ろ髪だけ細く束ねているのがちょっとした目印な青年である。立ち上がると170センチ後半の身長で、自分からだとちょっと目線が上向く感じ。ライトグレーの作業服の上下であるが、締まった感じの体躯が作業服越しにわかる。

 「ああ、忙しいのにごめんね。柾木勝仁さんって柾木天地君のおじいさんにあたる方かな?」

 ふっと、ほんの一瞬顔をしかめたような気がした。

 「・・・ええ、そうですけど。」

 「えっとね、今度の七月半ば過ぎに確か百歳を迎えられるんだよね?それで、町と県から祝い状とお祝い金がでるんだ。それで、本人さんに会って手渡さないといけないんだけど。」

何の問題も無いよね?みたいな笑顔で聞いてみた。

 「・・・・ああ、はい。大丈夫だと思いますけどぉ、ちょっとぉー、じっちゃん忙しい人なので実際に会うのは難しいかなぁ・・・。」

 左手でポリポリと頭をかきながら、ちょっと腰をかがめてこっちの目を見ないで言う。

どっ、と音がするくらいさっきの冷や汗が額と背中を流れ下る。机の上にある油性マジックペンで額に縦線書きたいくらいである。「年金不正受給事件&役場職員の自宅でミイラ化した祖父の遺体が!」みたいなゴシック体の見出しが、今度は頭の中でイナバウワー。

 「ああ、そ、そのようだね。さっき電話かけてみたんだけど地鎮祭に行ってるとか。」

 「そ、そうなんですよね、今日は、山田西南君ちの新築で・・・・って、電話かかったんですか???」

 「うん、柾木勝仁さんの名前で電話帳に出ていたけど?。」

 「え、でもその番号だと、じっちゃんの社務所には電話はかからないはずなんですけど。」

 「え、普通に電話出てくれたよ、最初ちょっと舌足らずで猫みたいなこという女の子?で、すぐに代わって、はきはきした声の女の人が社務所の電話番号教えてくれたんだけど。」

ひくくっと天地君の左ほほが引きつっている。

 「わ・・・、わかりました。じっちゃんには伝えておきます。」

といって、スマホを取り出してスッと人差し指でスワイプする。あれ?見慣れないスマホだなぁ。よくある長方形だけれども、木目が美しい木でできているようだ。木のケースに入ったという状態では無いように見える。人差し指が画面に沈むように見え、さらに水滴を落とした時にできる波紋がたったように見えた。

 「いちおう聞くけど、柾木勝仁さんはお元気なんだよね?。」

我ながら若干棒読み口調程度に動揺を抑えられたのは快挙といえるだろう。

 「ええ、もう元気すぎるぐらいで・・・。ごめんなさい、家にちょっと連絡しておきますね。午後三時くらいには、じっちゃん社務所に戻ると思いますから。」

天地君は、スマホを持って、通話のため外に出て行った。出て行く途中でつながったらしく、「ノイケさん、わしゅうちゃんいる?」みたいな声が聞こえてくる。とりあえず柾木勝仁さん本人と話はできるだろうことを信じて自席に戻った。

 

 それやこれやで、あっという間に午前10時を過ぎ、県への報告ものが遅れているのを県の担当者にに怒られながら、何とかメール送信して午前11時30分。介護保険の相談を受け付けて、地域包括思念センターに連絡取って話をつなげて、ほぼお昼休みの時間になった。

 いつものように、頼んでおいたワンコインお弁当を取りに行く。近くの障がい者授産施設で作られているヘルシー弁当である。野菜がそこそこ多くご飯少なめみたいなところがメタボな身にはうれしい。

 「ごはん~~、ごはん~。(^^)」

 と割り箸を取り出そうとしたところに、総務課の柾木天地君が階段を降りてくるのが見えた。この人、なんだか印象薄い感じがあってあんまり目立った記憶は無いけれど(たとえば職場内の親善ソフトボール大会で活躍するとか、飲み会で失敗したとか)、まじまじと見ると結構魅力的な雰囲気があるなぁ、ふう~~ん。とか思っていると、こっちに近づいてくる。

 「あ、田本さん、じっちゃんと連絡が取れました。ちょっと遅くて午後4時過ぎになるけれど、お話を聞きたいので、できれば社務所に寄って欲しいと言ってますが・・・。」

 お、願ったり叶ったりである。なんだか電話だと不安なので実際に会って話ができる方が好都合である。

 


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