この天木日亜さんも巻き込まれ体質のようで(爆)。
しまったと言う表情を浮かべる天木日亜である。しかもここで押し問答をしている時間も無い。
「わかりました。自分と一緒に来てください。ただし、他言無用でお願いしますよ。」
左目でウインクしながら、柚樹と交信し、シャトル代わりのエアカーをビル屋上まで呼び寄せる。誰も乗っていないエアカーが屋上に到着し、ドアを開ける。リンクウと呼ばれた若者はびっくりした表情でエアカーと天木日亜を見比べていた。運転席に天木日亜が乗り込み、助手席に若者を乗せる。ドアを閉めようとしたときに、階段から二人の男が息を切らせながら上ってきて声をかけてきた。
「リンクウ様、お怪我はありませんか?」
「カガミとスゴウか。怪我は無い。この方に助けていただいた。この方と共にあやつらを懲らしめに行くから家に帰っていてくれ。」
「お待ちください、リンクウ様!」
バムとドアを閉め、リンクウと呼ばれた若者は、天木日亜をみる。
「いいのですか?あとでいろいろ大変なことになるのでは無いですか?」
「いつものことですから。」
なら、話が早いとエアカーのダッシュボード右側隠しボタンを押す。数字キーがせり出し、それにパスワードを打ち込むと、この惑星では一般的なこういった乗り物の操作パネルが引き込まれ、フロントガラスに様々な情報が映し出される。
「柚樹、操縦は任せる。最短で収容してくれ。それとお客様がいるから、ブリッジに直接転送してくれ。」
「了解、日亜様。」
ガラスを叩く二人の男を無視して、エアカーは地を蹴る。わずかに加速Gを感じるが、慣性制御もうまく効いているようだ。1分ほどで厚い雲の層を抜け、成層圏、そして衛星軌道上の柚樹が見えた。柚樹は、白色のコアユニットに樹雷産の木材を硬化加工した外装を装着している。それをベースに前部および左右に一部金属外装もあり、それには砲塔もいくつか並んでいた。
「木・・・?、船・・・ですか?」
驚きを噛みつぶしたように、声を出してリンクウと呼ばれた若者が問いかける。
「我らは数十年前、事故でこの星に流れ着きました。故郷の星には帰ることができないのでこの星で生活をしていたのです。この星の文明に干渉することは本意では無く、こういう形で知られたくは無かったのですが・・・。」
シャトル収納ゲートが開き、誘導ビーコンに乗ってシャトルドックに進入する。ドック内の空気加圧を示すグリーンのランプがともり、二人がドアを開けドックに立つと、足下から白い光と共に転送された。
天木日亜にとっては、日常そのものの柚樹のブリッジである。柚樹コアユニット内部になり、背後には一部銀葉化した柚樹が立っている。すでに大きなディスプレイ上には第四惑星軌道上に展開する敵艦隊が映し出されていた。
「リンクウ殿、後ろに席を用意しています。席についていてください。」
ちょうどすべてが俯瞰出来る位置に木製のイスができている。
「・・・はい。」
「これから起こることは本当に他言無用でお願いします。と言っても、信じてくれる人が居るかどうか分かりませんけどね。」
にっと歯を出して笑って見せた。真砂希姫の影響は大きいなぁとちょっと反省する。
「柚樹、状況は?」
「日亜様、本船は、現在第三惑星衛星軌道上に位置しています。敵艦隊は第四惑星軌道上に展開。大型ビーム砲発射準備中のようです。」
「わかった。第三惑星と敵旗艦大型ビーム砲の軸線上へ移動し待機せよ。この惑星の盾になるのだ。」
「了解しました。」
ほんのわずかな加速感とともに、柚樹は起動する。ほどなく敵との軸線上に移動完了した。
「日亜様、報告が遅くなりましたが、私の葉が銀葉化してから光應翼の特性に若干変化があります。」
「なに?先ほどのシャンクギルドとの手合わせには特に違いは感じなかったが・・・。どのような変化だ。」
「はい。光應翼は三次元空間においてほぼ万能なシールドになりますが、その特性に反射鏡のような特性が加わりました。」
「ほお、と言うことはただ弾くだけでは無いと。」
天木日亜はちょっと考えて、柚樹に問う。
「反射率は?」
「ほぼ100%です。エネルギーそのものをほとんど損失無く反射出来ます。」
「柚樹、光應翼を最大展開。おまえの言う反射鏡属性で頼む。凹面鏡のように展開し、その焦点は敵艦隊中心へ。シャンクギルドに自分のビームをお返ししてやれ。」
「了解しました。反射鏡モードで展開します。」
柚樹は、自分の前方に白とも銀色ともつかない半透明の翼を大きく展開した。さっきのビル屋上でリンクウと呼ばれた若者を包み込んだ翼である。しかし比べものにならないほど大きく広い。しかも今回はわずかに銀色に煌めいている。直後に、ブリッジに警報が鳴り響く。リンクウと呼ばれる若者はびくっと首をすくめた。
「敵艦隊から高エネルギー反応。」
3分程度あとにディスプレイ上の敵艦隊が光る。ズンと柚樹に重いショックが伝わり、各種ディスプレイが乱れる。天木日亜は腕組みしたまま微動だにしない。果たして、勝負はその3分後にはついていた。
「敵旗艦大破。敵艦隊はほぼ消滅状態です。背後の第三惑星に影響はありません。大破した敵旗艦はほぼ操縦不能のようです。」
ディスプレイに映る敵旗艦は、哀れに焼けただれていた。シールドを張ったが間に合わなかったのだろう。姿勢制御もままならないらしく、艦首をあげて縦に回転を始める。突然、虹色の光に包まれディスプレイから消滅した。
「日亜様、敵旗艦超空間ジャンプしました。」
「なに?何と無茶な。それとも、機関の暴走か?」
「敵旗艦ジャンプアウト。第6巨大ガス惑星近傍です。大破した旗艦は第6惑星の重力場に捕まり落下しています。」
ディスプレイの映像が切り替わり、巨大なガス惑星が大写しになる。その一部、目玉のように見える部分に敵旗艦は落下していく。
「そうか、海賊の哀れな末路だな。残念ながら本船もここからだと遠すぎて救助には迎えない。」
しばらくして、その目のような部分に飲み込まれ、そこが明るく光った。
「敵旗艦の爆発を確認。」
「脱出ポッドや救助ビーコンは?」
「どれも反応ありません。」
「では、帰還する。第三惑星衛星軌道で私たちを降ろしてくれ。リンクウ殿をお送りする。その後はいつもの定位置で不可視フィールドを張って待機していてくれ。」
天木日亜は振り返り、つとめて笑顔でリンクウに問うた。
「お怪我はありませんか?」
「・・・はい。終わったのですか?想像を超えた世界にめまいがします。」
「それでは帰りましょう」
エアカー兼シャトルに乗り込み、さっき大立ち回りを演じたビルを避け、都市郊外に不可視フィールドを張りつつ降下した。郊外のショッピングモールの目立たない場所に入ってフィールドを解く。もちろん車内もダッシュボードなどは、普通に走っている個人移動用機体と何ら変わらないモノに擬態している。
「さて、リンクウ殿、どこへお送りしましょうか?」
リンクウはさすがに顔色が悪いようだった。
「・・・ちょっと、いろいろなことが起こりすぎて、酔っちゃいました。」