天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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やっぱり、ほわほわしたい・・・。
天木日亜もほわほわさせたいので、もうちょっとおつきあいください。


柚樹との対話3

超空間航行ができないとはいえ、コールドスリープをセットして、亜光速まで加速、通常空間航行で救助ビーコンを発しながら救援を待つと言う方法も無くはなかった。だが、目の前の第三惑星は樹雷に帰ると言う目的と選択よりも魅力的であったことも事実である。

 この地に降りたって数十年の時間が経過している。天木日亜はつとめてこの星の住人と関係を持つことは避けてきた。樹雷王への想いを絶ちがたかったことも事実ではあるが、真砂希姫ほど社交的では無い性格のせいでもあった。

 考えがループし始めたので頭を振って、まずは自分の船に戻ろうとシャトルを駐めておいた駐機スペースに足を向ける。樹雷王にお許しを得て、樹雷王パーソナルをいただいており、そのパーソナルを相手に剣技のトレーニングの時間であった。これからのことはまたゆっくり考えれば良い。時間だけはたっぷりとある。

 ふと、背中につららを入れられるような、強烈な殺気を感じた。この地に降りたって初めてである。そう思ったときには身体が動いていた。周りに誰も居ないことを確認し、駐機スペースの地を蹴り、殺気の方向へ飛ぶ。ほんの百mほど向こうのビルの屋上に5人ほど人影が見える。

 「日亜様、高エネルギー反応確認。この星系の第5惑星軌道上に数隻の戦闘艦の反応があります。」

柚樹が反応し通信を送ってくる。

 「樹雷の重巡洋艦クラス1、ミサイル艦2、駆逐艦クラス2の構成です。重巡洋艦に大型ビーム砲を確認。船影はシャンクギルドの可能性が85%。」

 「まさか?、海賊が?」

銀河連盟からすれば辺境だが、美しい星である。海賊が見つければ手に入れようとするだろう。

 「柚樹、通常シールドを張っておけ。不可視フィールドは解除。相手の出方を見る。」

 「日亜様の向かおうとしてるビル上に5人の人影を確認。4人はガーディアンを装備しているようです。」

 天木日亜は、ビルの外階段を駆け上がる。ほとんど踊り場に向け飛んでいる。屋上に着くと、内階段からの建屋でちょうど天木日亜は死角になっている。気配を消し、ゆっくりと対象に近づき様子を探る。軽戦闘バトルスーツ+ガーディアン装備が4人、その四人が取り囲み、内階段建屋出口前で、両手を膝について肩で大きく息をしている若者が居た。

 「さて、リンクウ様、そろそろご観念くだされば幸いです。」

慇懃無礼な声がバトルスーツ装備の一人から聞こえる。若者は肩で息をしているが、りんとした声で問い返した。

 「おまえら、何者だ?。」

 「リンクウ様、我らはこの星を頂きたく思います。つきましては、あなたは人質様と言うことになりますね。おとなしくしていれば命まで取ろうとは言いませんよ。」

バトルスーツの一人が、腕を無造作に振る。屋上の内階段建屋の角がすっぱり切れて土煙と共に屋上床に落ちる。

 「わたくしどもは、あなたが生きていないと意味がありませんからね。このような真似はこれ限りにさせていただきたいモノです。」

良くしゃべるバトルスーツの男は輝くような銀色の髪をしている。頭部プロテクターの類いはつけていない。

 若者は、この惑星の住民の中で年相応の平均的な服装である。4人に見えないようにスッと懐に手を入れ、5cm四方くらいの黒く四角い板を2枚とりだす。右手のひらに隠し、顔を上げた。

 「おまえらなどに、捕まるわけにはいかない。」

2枚の板を若者は自分の前にいたバトルスーツに一枚ずつ投げつける。板が、張り付いたと見えた瞬間、バトルスーツ姿の男二人は、あたかも頭上から巨石でも落ちてきたかのように這いつくばり、その後熟し柿のようにつぶれる。同時に屋上床も球形の重いものが落ちてきたようにその形にめり込む。

 「グラビティ・ボム(重力爆弾)か!」

 若者はその間を走り抜けようとする。しかし一瞬早く、先ほどしゃべっていたバトルスーツが、左手を張り手のように払う。半透明で緑色の巨大な手に、若者は元の位置にはね飛ばされ背中からぶつかろうとする。

 「くっっ。」

背中からぶつかるよりも一瞬早く、白とも銀色とも取れる半透明の翼が若者を支えた。そのままふわりと、若者を包み込む。しゃべっていたバトルスーツと、その反対側にいたバトルスーツが緑色の半透明の巨大な手で、押しつぶそうとするが、背後の壁が球形にめり込むだけで白い翼は形さえも変えない。腰から下げていた、レーザーガンで撃つが綺麗に弾き返される。

 「なにいっっ、まさか、光應翼かっっ?。」

 「そうだとしたら?。」

天木日亜は、右手に同じ白い翼を今度は剣の形のように装着し、手近のバトルスーツに斬りかかる。ちょうど良くしゃべる銀髪の男とは反対側である。緑色の巨大な手で防ごうとするが、ガーディアンはあっさりと切り裂かれ消滅し、右腕は肘から先バトルスーツごと地面に落ちる。

 「・・・・・!」

声にならない悲鳴を上げながらバトルスーツの男はその場に這いつくばる。

 「おのれっ、皇家の者かっっ」

 「海賊ならば、特にシャンクギルドなら捕縛命令では無いことは承知しているな?」

一瞬で間合いを詰め、若者と銀髪の良くしゃべる男の間に割って入る。右腕の白い翼を喉元に突きつけながら天木日亜は言う。

 「くそっ」

銀髪の男は、左腕の隠し銃を乱射しながら後退する。もちろん、白い翼がすべての銃弾を無効化する。腕を切られた男と共に、ビル屋上から飛び降り待機していた飛行艇に飛び乗る。

 「おのれ、我が旗艦デスパイアのプラズマブラスターでこの惑星ごと消えて無くなるが良い!」

捨て台詞を残し、飛行艇は一気に上昇しつつ光学迷彩を張る。視界から消えるが、柚樹はきっちりトレースしていた。

 「日亜様、海賊の飛行艇は衛星軌道上まで上昇し、敵母艦の転送ビームにより敵母艦に収容されたようです。」

 天木日亜は背後に目を向けた。半透明の白とも銀色ともつかない翼に丸く包まれた若者は中で暴れている。とりあえず、怪我などはないようである。天木日亜は、光應翼を消し声をかけた。

 「怪我はありませんか?」

 「とりあえず助けていただいたようで、ありがとうございます。」

背は、天木日亜より10cm位低いだろうか。天木日亜はもともと185cm程度あり、樹雷では平均的な体格である。大きめで意志にあふれた目はどことなく樹雷王の若い頃の目と似ていた。

 「この場の後始末は、私どもで処理します。母に会っていただけませんか?お礼が言いたいそうです。」

何かとても場慣れしているような言動である。普通の若者ではない。しかし、天木日亜は、海賊の捨て台詞が気になっていた。海賊が消えた空の一点をみながら柚樹に連絡をする。

 「海賊の動きはどうだ?」

若者がきょろきょろと周りを見る。自分たち以外誰も居ない。

 「そうか、第四惑星軌道まで来たか。おそらく惑星破壊兵器で攻撃してくるだろう。柚樹、不可視フィールドを張り、俺の上空まで移動してきてくれ。」

「リンクウ殿と言われたか。私は、天木日亜と申す者です。先ほどの者どもは、この星の者ではありません。これから迎撃に参りますゆえ、安全な場所にお逃げください。」

リンクウと呼ばれた若者は、ちょっと考えて困ったような笑顔で答えた。

 「先ほどのならず者は、この惑星ごと、と言っておりました。とすると、安全な場所はどこにも無いことになりますが・・・。」


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