「田本さん、田本さん。」
うう、また天地君に起こされている。まだ天地君ちのお風呂場だっけか。確か家に帰ってきたはずだけど・・・・。そういえば、今日の「柾木家の冷たいキャロットグラッセ」は、いつになく美味しかったなぁ・・・。
「田本さん・・・起きてください。」
「はにゃぁ?。・・・・・あれ、ここ天地君ちだっけ???。」
「いいえ、田本さんのおうちですけどぉ・・・。」
枕元に天地君が正座している。おお、だいぶ早いけどお迎えが来たのか・・・。
「ついにお迎えがきたのか、ま、しょうがないか。いままで不摂生しまくったし。」
「あのぉ・・・。」
「とりあえず、死因は脳梗塞、脳内出血?それとも心筋梗塞かなぁ。いちおう僕って、あの世に行ける?。地獄に落下モードぢゃないよね。」
「ええっとぉ・・・。」
「そうだ、連れて行ってもらうのは、父と母の顔を見に行ってからで良いかな。」
「だからぁ、俺は死に神でもないし、現実に今田本さんの部屋にいる柾木天地です。」
「ほ?。」
「とりあえず、急いでいたので、鷲羽ちゃんに転送してもらいました。どこも壊していたりしないので安心してください。」
と言われても、それならそれで、どう考えても怪しい登場の仕方である。
「柾木家って、怪人20面相だの、ルパンの家系とかじゃないよね。」
さすがにメンド臭くなったのか、頭を掻き掻きあきれ顔で話し始める。
「あのですね、鷲羽ちゃんの解析では、田本さんとあの子のリンクが強すぎて、夢とか妄想に引きずられちゃうそうです。なので、さっきも光の速度まで加速したいという田本さんの想いに反応して魎皇鬼ごと引きずっちゃったんですよ。下手したら太陽系に光の速度の95%ほどで突入します。」
「とりあえず、その夢をやめてもらうために俺は来ました。それともうちょっと穏便な夢を見てもらおうというお願いに。」
「はい?確か魎皇鬼ちゃんって、あの種を樹雷に届けて、コアユニットに入れる?とかして明日帰ってくるって・・・。」
「そうですよ。だから、地球まであと数光年と言うところまで帰ってきていたんです。最後の超空間ジャンプ直前だったようですけど。」
「樹雷って地球上の国ではなかったの???。」
「あそうか、言ってませんでしたね。だいたい地球から一万五千光年ほど彼方の銀河有数の軍事国家ですね。」
「詳しくはまた明日です。とにかく、魎皇鬼が帰ってくるまで、銀河横断したいとか、太陽の中ってどうなんだろうとか、大マゼラン星雲が見たいとか、無茶な夢は見ないでくださいね。それじゃ。」
と言い、スマホを操作すると、足下から天地君の姿が消えていった。
宇宙って、狭いなぁ、ご町内に自家用の恒星間航行用宇宙船持ってる人いたんだね~~。
これは夢である。まずは、精神的な安寧を選び、そう結論づけ、布団に横になる。はっきり言って眠いのだ。おっさんは。スタートレックみたいな登場を近所の役場の同僚がしても、よくわからないから眠るのだ。とりあえず、穏便な夢、ねえ・・・・。そう、一万二千年前に大西洋に沈んだアトランティス帝国、そうそう、このころに世界的大異変があったっぽいんだな、火星と木星の間の小惑星帯はその頃の異変に巻き込まれた惑星のなれの果てだってゆーし・・・・・・・(眠)。
光速の95%から何とか減速して、超空間ジャンプした魎皇鬼ちゃん、ようやく地球の見えるところまでやってきました。不可視フィールドで船体を包み、いつもの柾木家の池にある亜空間ドック入り口へ着水しようとしていましたが、今度は・・・。
「みいゃぁぁぁぁ~~~~・・・・。」
また「仮称一樹君」に引っ張られ、今度は大西洋へ。言うまでもなく誰かさんのアトランティス帝国の夢に引きずられて。
ざっぱ~~~~んと大西洋にダイブして海底近くを引きずられながら、「仮称一樹君」高精度スキャンして海底の状況を「視て」いました。
今度は、バカバカしい速度でスッ飛ぶわけでもないので怖くありません。魎皇鬼ちゃんも地球の海底は初めてなので一緒になって見ていました。
壊れた潜水艦の残骸や、大きな客船の残骸。なにやら昔の木で出来た船の残骸などが時々視界に入ってきます。青く静かな世界は二人とも、夜の森を探検するかのようなワクワク感を醸し出します。
ときどき、がばああっと大きな口を開けて顔の周りをぼんやりと光らせた深海魚に出会うと、二人してびっくりしながら、それでも進んでいきます。だって、二人ともほとんど無敵の宇宙船です。怖いものなんかあるもんですか。
とある海溝まで来たとき、二人が同時に、ぼんやりと白く光るものを海溝の奥深くに見つけました。水圧はかなりものすごいのですが、某惑星規模攻撃艦の対策ジェルを易々と突破した魎皇鬼ちゃんです。問題なく海溝深くの見えた光まで潜っていきます。近くまで行くと透明のクリスタルのようなものに包まれた、ぼんやりと白く光る樹が見えます。
「・・・何者じゃ。」
「みゃあ、みゃあ、じゃない、こんにちは、私、魎皇鬼って言います。そして、この子はまだ名前がないけど、お友達は一樹とつけようかと想っている子だよ。」
そこで、ここまで来たことをかいつまんで魎皇鬼ちゃんが話します。
「そりゃまた、難儀じゃったのぉ。さすればわしは、しばらく眠っておったことになるのか・・・。わしは、もうだいぶ前になるかのぉ、ここに大帝国があったのじゃ。元々は樹雷の辺境探査船のうちの一つだったのじゃ。・・・わしのマスターはあの大異変で死んでしもうた。」
「たくさんの、たくさんの人が亡くなったのじゃ、わしは悲しくてのぉ。町が壊れ、人が海に飲み込まれるときに意識を閉じ、コアユニット奥深くに自らを封印して眠ったのじゃ。あまりにも突然のことで、我のマスターもなすすべがなく我にメッセージを託してアストラルの海に消えていった。」
深海の海でももっと冷たくなるような波動が白く光る樹から伝わってきます。
「あのね、今は樹雷の仲間も居るし、皇家の始祖津名魅様もいるよ。一緒に行こうよ。」
魎皇鬼ちゃんと、「仮称一樹君」は何とか暖めてあげたくて、一緒に暖かくなりたくて必死に語りかけました。
「そうか、仲間もおるのか・・・。始祖の津名魅様には一度挨拶しておかんとのぉ。わしの名前は、第2世代皇家の樹、(柚樹)という。マスターは天木日亜という男であった。」
「跳べる?」
「仮称一樹君」と魎皇鬼ちゃんが一緒に聞きます。
「よっこらしょっと。」
神殿のようなものの残骸を振り落としながら、クリスタルのコアユニットは1万2千年ぶりに動き出しました。亡きマスターの意思を伝えるために。
「じゃあ、ついてきてね。そうそう、今は60億人ほど人が居るから不可視フィールドで包むよ。」
「ほおお、賑やかになったものじゃのぉ。あの大異変から良くそこまで増えたものじゃ。」
「それじゃあ、行くよ!。」
「仮称一樹君」と柚樹を連れた魎皇鬼ちゃんは、波風を立てないようにそっと太平洋を飛び立ったのでした。