ひとがいいのだか、わるいのだかわからない田本さん、これからさらに・・・。
「それじゃあ、さっそく。」
手早く天地君のパソコンの状態を把握する。なるほど、ブルーバック画面から起動しない。裏返して持ってきた道具箱から細身のねじ回しを取り出して、ハードディスクを摘出。USBタイプのボックスに入れて、今度は自分のパソコンにつなぐ。ただし、ウインドウズではなくLinuxで起動する。この辺は本屋さんで売っているLinux関連の本についてきている付録DVDでデュアルブートモードの環境を構築出来る。そんなに難しいものではない。
Linux側からハードディスクは無事認識され、必要と思われるファイルを自分のパソコンに救出して保存。
「天地君、自分の保存ファイルはだいたいどこに置いているの??。」
「はい、マイドキュメント内とあとはDドライブです。」
ふむふむとファイルを読み出し救出する。Dドライブの深いフォルダ階層に画像ファイルと動画ファイルがたくさんあるけど、これは聞かないようにしよう(笑)武士の情けってやつだな(爆)。にっと笑って天地君の顔を見ると、真っ赤っかだし(笑)。
ウインドウズの起動ファイルが壊れていると同じことになるけれど、ダメ元でクレードルタイプのハードディスクコピー機で、ボックスから取り出したハードディスクの内容を新品で容量二倍のハードディスクにコピーする。ボタン一つで機械的にコピーするものでパソコンを介さないので高速だしお手軽である。
ポチッとなとボタンを押したところで背後に嫌な気配を感じる。
「鷲羽ちゃん、どえええ~す。」
ああ、やっぱり。
「そ、そういえば天地君、この人(人差し指で背後を差す)に頼めば良かったじゃん。」
「あまりに原始的な情報機器だそーで、あたしにゃ無理と拒否られました。」
あ、そ(爆)。
「原始的な情報機器だけど、いろいろ機材を並べられるといても経ってもいられないのよね~~。宇宙一の天才科学者鷲羽ちゃんとしては。」
「左様でございますか。さて、本日は如何様でございますか、な?」
若干棒読み口調で答えているところに、お茶セットを持ったノイケさんと砂沙美ちゃん登場。
「天地兄ちゃんがお仕事出来ないんだからジャマしちゃダメだよ。鷲羽お姉ちゃん。」
「田本さん、どうぞ。」
「あ、どうもありがとうございます。」
からん、と麦茶を入れたガラスコップに氷がぶつかる。冷たい麦茶がうれしい。あらら、気がつくともう3時に近い。
ぽて、と作業している自分の隣に座って、うふふ~~、うふふ~~とうれしそうだけれど黙ってみている鷲羽ちゃん。
ハードディスクコピーマシンが古いハードディスクから新しいものに内容コピーが終わったとLEDを点灯させている。どれどれ。
こんどは、コピーし終わったであろう新しいハードディスクを天地君のパソコンに入れて起動してみる。あれ、あっけなく起動しちゃった(笑)。
「なんだ、ハードディスクがちょっとお疲れだったようだね。このまま使ってよ。」
ちょっとパーティションの大きさをささっと変更して、天地君に渡す。
「え、新しいハードディスクでしょう?」
「うん、5000円くらいかな。でも昨日お世話になったから良いよ。」
「もしかして、どうにもならなかったらいけないので代車じゃないけど代パソコンも持ってきていたんだ。」
「とりあえずちょっと使ってみて。古いハードディスクは、この箱あげるからフォーマットして外付けハードディスクで使えば良いよ。・・・あ、そうだ。」
古いハードディスクは、また箱に戻して自分が起動しているパソコンに接続、フォーマットして救出したファイルを書き戻しておいた。これくらいならちょっとパソコンに詳しい人なら誰でも出来る。
だいたい用が済んだし、な~んとなく嫌な予感を感じるので、そそくさと片付けを始める。
「田本さん、大丈夫のようです。自分宛に送ったメールも確認出来ましたし、仕事のファイルも起動出来ました。これで、明日職場に行かなくて済みます(笑)。」
「そりゃ良かった。そういえば、総務課はこの時期指導監査だねぇ。お疲れ様。」
ホッとした表情の天地君。あれ、この人こんなに良い笑顔するんだっけ。役場ではホントに目立たないのに・・・。
メッセンジャーバッグにすべて詰め終わって、
「それじゃぁ、夕方には犬の散歩も行かなきゃならないので、これで帰ります。」
しゅたっと立ち上がろうとすると、無言で鷲羽ちゃんに「がしっ」と腕を掴まれる。
「うっふっふ。わたしに会ってタダで帰れると思うのかいぃぃぃ。」
また両肩と頭に「モルモットご一行様ご案内」とのぼりが立っている。なになに??なんだか昨日と同じパターンのような・・・。
「田本殿の今後のことを考えると生体強化も必要だろうし、さらに体質に若干気になることがあったので、ご期待にお応えして、体質改善あ~~んど、生体強化モンスターねとねと君4号だわよ(はあと)。」
「何も期待しとらんわ~~~。」
手を振り払って、逃げようとしたけど時すでに遅し。黄色いスライムが廊下から雪崩を打って、僕に覆い被さる。
「うっっわぁぁぁぁ~~~~。」
ちゃぽ~~ん、かららら。
「剣士、耳の後ろまでちゃんと洗うんだぞ!」
「洗ったよー。天地兄ちゃん、今日は山の尾根の向こうまで行ったんだよ。」
「怪我しないようにしろよ、もうすぐ定めの時が来るんだから・・・。」
「わかってる。そのためにも出来るだけいろんなことを勉強しておきたいし身体も鍛えておきたいんだ。」
天地君と剣士君の声が聞こえる。あたたかい・・・。
「田本さん、・・・・田本さん。」
優しく低い声の天地君・・・。また肩を揺り起こされる。
「ううう、また風呂落ちだぁ。」
不気味な軟体動物に身体中這い回られて、あまりな感覚に、まあ適当なところで意識はシャットダウンされたらしい。
「天地兄ちゃん、あとどれくらい時間はあるのかなぁ。」
「鷲羽さんは、今度の満月の夜だって言ってたぞ。訪希深さんにいろいろ教わっているんだろ?。」
「うん、向こうのことはだいたい習ったよ・・・。身体洗ったから先に出るよ、天地兄ちゃん。」
なにやら一言、二言、天地君と剣士君の会話が聞こえて、剣士君はあっという間に風呂から出て行った。
「今日はごめんなさい、お呼び立てしといて・・・。」
「鷲羽ちゃんが隣に座った時点で、気がつかないのは我の不覚のいたすところ、お気になさるな。」
ひらひらと手を振って答える。
「まあ、なにやら僕のこと考えてくれているようだし・・・。」
と言って、隣の天地君を見ると、なんだかものすごく気の毒といった表情である。ぞわぞわと這い上る不安感に天地君に聞いてみる。
「ねえ、もしかして、もっと大変なことが起こるのかなぁ・・・?。」
もう十分に大変なことだろ!、と自己突っ込み中。
「ええ~~っと、明後日の月曜日はもしかすると休み取った方が良いかなぁ、なんて、俺は思うんだけど・・・。」
目をそらし気味に、頭を掻き掻き結構すごいことを言う。月曜日に休みを取る、というのは役場の窓口がある課では、かなりハードルが高い。月曜日と言うことで、様々なお客様が土日に済ませられなかった用事を済ませに来るからである。当然、うちのような小さな役場だと午前中は自分の席に帰れないことも多かったりする。よしんば自分の席で居られても電話対応して数時間が過ぎてしまうことなんて良くあることなのである。
ま、でも今日は土曜日。先のことを考えても何にもならない。
「そういえば、今何時?。」
「5時半くらいでしょうか?」
うわ、2時間以上経っている。あのねとねと君4号に何されたのかはわからないけど、とりあえず身体も動くし、田本さんお得意の棚上げにしよう。