天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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例のおねーさん、ようやく出したら、筆が暴走してしまいました(^^;;。やっぱり梶島キャラは強烈だなぁと再認識・・・。




遠くにある樹雷18

 明けて水曜日。そう、柾木勝仁さんの100歳慶祝訪問の日だった。昨日は、水穂さん激しかったのだ・・・。まだぼ~っとしていたりする。歯を磨きながら鏡を見た。なんかほんと、いろいろあったよなぁ、と左手の甲に張り付いている、巨大な赤い宝玉を見る。そして、両手首の封印。怪しい鷲羽ちゃん印の腕時計をして、田本さんに戻って、スーツを着込む。明るめの色のネクタイも忘れない。めでたい慶祝訪問なのだ。世間一般的には。野次馬根性丸出しのお義母様やら、そこのアカデミーの校長先生も兼務し、樹雷に拮抗する軍事力を誇る、世仁我の重鎮やら・・・。そう言った人達にいじられるのは午後からだろう・・・。さすがに今日は、朝ご飯は父母と僕だけだろうな。水穂さんとラノちゃんは一樹でご飯を食べるだろうと思う。その一樹も、おとなしく肩に乗っているし、柚樹さんも足下にいる気配がある。この上、ラノちゃんをうちの父母に見せたら卒倒しそうだし、第一、説明が面倒である。また時間のあるときに水穂さんにでも言ってもらおう。

 「って、座ってるし・・・。」

母は、ちっちゃなイスを出してきて、きっちり自分の横にラノちゃんを座らせている。水穂さんも台所に立ってお漬け物を刻んでるし・・・。なんの不思議も無いじゃないか的な光景だった。

 「・・・孫が、急に出来るのも嬉しいものだわね・・・。」

しみじみという母の言葉がグサリと胸に突き刺さる。ええ、ええ。甲斐性はありませんでしたよ。

お箸は、ね、こう持つの。そうそう、賢いわね~。とか違和感なくやってたりする。

 「あのさ、この子、第一世代の皇家の樹をも越えようかという力の宇宙船だったんだけど・・・。」

ご説明申し上げようとしたが、うちの父母ともまったく聞いちゃいない。ラノちゃんもニコニコしながら朝ご飯を食べている。昨日のうちに、長く伸びた髪も切りそろえられていて、可愛らしい少女になっていた。樹雷風の、日本の和服に似た着物もよく似合ってる。白から、淡い桃色、そしてオレンジ色にグラデーションしている。パステルカラーと言えばそうだが、イメージはもっと上品だったりする。

 「アマナックさんとこのお孫さんも今度連れていらっしゃい。みんなでご飯食べましょ。」

はあ、アマナックさんとこ、ですか。

 「水穂さん、ラノちゃんの服って作ったんですか?」

昨日の今日である。まさか採寸して・・・。まあ、樹雷の科学力なら問題ないだろうけど、と自己完結しようとしたところで、水穂さんが振り向いた。

 「立木林檎ちゃんところの、妹さん達のお下がりを戴いたんですのよ。立木家はたくさん兄弟姉妹がいらっしゃるんですって。」

そういえば、一度恨めしそうに謙吾さんが通信してきたとき、たくさん家族がいたなぁ。個人的には大家族の経験もないのでなかなか壮観な眺めだった覚えがある。食卓について、いただきますと小声で言って、黙々と朝食を食べ始めると、

 「柾木・一樹・樹雷様、食事というのは、暖かくなれる、そんな気がします。」

ラノちゃんの、まだ言葉の抑揚が乏しい言い方で言われて、味噌汁を吹きそうになる。ちょっと気管に入って咳き込んでしまう。

 「あらあら、このおじさんを呼ぶときは、そんなに改まらなくても良いわよ。カズキさんでいいんだから。」

 「はい、それでは、通常はそう呼ばせていただきます。ライブラリに登録しました。」

父母が顔を見合わせている。

 「え~っと、ラノちゃん、今日はたくさんの人が来るから、おめかししましょうね。」

さすがの水穂さんも、ちょっと慌てている。

 「ゆっくりといろいろ覚えると良いよ。そして、一緒に跳ぼうね。」

げほんげほんと咳き込みながら、ラノちゃんの頭を撫でる。本当に見た目は小学校低学年の女の子である。出勤時間が来たので、ラノちゃんは水穂さんと父母に頼んで、青い軽自動車に乗り込んだ。別に足で走って行っても良いのだが、さすがに、みんな出勤しているところに息も切らせず、高速で走り込むわけにはいかない。そう言えば、天地君はどうやってるんだろうか。

 10分ほどクルマを運転して、普通に西美那魅町役場に到着する。駐車場の定位置に駐め、タイムカードを押して自席に座った。課長に水穂さんは今日1日、僕も午後から休むことを伝えた。課長は、ちょっとにんまりした。

 「・・・結婚式場とかの準備だな。」

 「あ、まあ、そんなところです・・・。今日は午前10時に柾木勝仁さん宅に慶祝訪問します。なんかあったら携帯に電話ください。」

そう言いながら、休暇申請簿に自分の分と、水穂さんの分を書き込んで課長に決済をもらった。とても、銀河系外航行用宇宙船が届いたとか、言えるわけがない。

 「そういや、田本、いつもいじっていたスマホが見えないようだが・・・。」

もうちょっとで、いえ、ここにありますけど。と腕時計をスマホに変えて見せるところだった・・・。危ない危ない。

 「あ、クルマの中に忘れてきたようです。持って出ますからご心配なく。」

ボロが出ないうちに、パソコン起動して、メールをチェックした。この時期は比較的補助金系の書類もあまりない。社会福祉協議会からのメールを一件処理して、掛かってきた電話に対応して、そろそろ後任への引き継ぎ書類を作らないと、と考えていると9時半になろうとしていた。ちょっと早いが昨日準備しておいた、祝い状と祝い金、そして100歳到達記念品を持って出ようとした。あ、そうだ、いちおう確認しておこう。

 「あ、総務課ですか?、町長秘書の井川さんをお願いします。」

内線で総務課を呼び出す。すぐに井川さんに繋いでくれた。町長は、小学校の夏休みイベントで挨拶して、すぐに柾木勝仁さん宅に向かうそうである。町長車の運転係には地図を用意して渡してあった。

 「それでは行ってきます。」

ちょっとネクタイを直して、課長に挨拶して、公用車のキーを定位置から取り出して、庁舎を出た。ふう、呼び止められずに無事に出られた。こう言うときに限って、何かの相談とかがあったりする。白い軽箱バンの公用車に乗り込み、リアシートに祝い状やら記念品を積み込んだ。そうそう、柾木家を包むフィールドがあるんだっけか。さっそく鷲羽ちゃんに連絡取って、町長車と、県の公用車、僕の乗った公用車が今から向かうのでフィールドを解除して入れてくれるように頼んだ。

 「うんわかったよ。し~かしぃ、まだ、あれから2週間あまりだけど、いろいろあったねぇ~。」

 「ええ、ほんとに。銀河殲滅戦が出来るような戦力を持った町役場職員になってしまいました・・・。」

ぶううん、と光学迷彩で隠しているはずの左手の宝玉が赤く光る。こいつ、今日は暴走しないだろうなぁ・・・。

 「あはははは、ちがいないね。町長車と、あんた達の公用車は登録済みだから問題なく柾木家の庭には入れるよ。・・・うんうん、わかってるよ。それじゃ、あとでね。」

いつものように、明るく笑い飛ばす鷲羽ちゃんだった。鷲羽ちゃんの後ろの方から食器の音とか、砂沙美様、大皿に盛りましょうか、うん、そうして、ノイケお姉ちゃん。とかの声が切れ切れに聞こえてきた。

 町長車が来るまでには到着しておかないと、何となく面倒なことが起こりそうな予感がする。そんな考え事をしているうちに、柾木家に到着した。柾木家の裏手にクルマを駐めて、先に荷物を持って降り、玄関で声をかけながら引き戸を開けた。

 「・・・おはようございます。今日はよろしくお願いします。」

どたたたた、と魎皇鬼ちゃんが駆けてきた。ノイケさんが手を拭き拭き、その後を歩いてくる。

 「魎皇鬼ちゃん、これ、祝い状と記念品なんだ、リビングの隅にでも置いといてくれる?あとで勝仁様に町長から手渡すから。ノイケさん、外で町長を待ってますからよろしくお願いします。」

魎皇鬼ちゃんに祝い状を入れた紙袋と記念品を手渡すと、ちょっと残念そうな表情をしている。ノイケさんが軽くうなづいて、魎皇鬼ちゃんをうながしてリビングに入っていった。

 公用車の軽箱バンの横で町長車を待っていると数分で、黒塗りの中型乗用車が軽箱バンに並んで止まった。

 「町長、今日はお世話になります。大川運転手さん、30分程度ですのでお待ちいただけますか?」

さすがに、大臣のようにドアを開けるような真似はしないけど、後部ドアを開けて西美那魅町長が出てきた。今年で65歳。高齢者の仲間入りだなぁとか言っていた。そうは言っても細身の体つきで、スーツも上等、着こなしもうまく、よく似合っている。こう言うところを見習わないと、とか思ってしまう。そこに立つだけで,オーラがあるのがやはりスゴイ。

 「100歳の祝い状を読み上げて、この祝い金と一緒に手渡してください。たぶん親戚がたくさんいらっしゃってると思います。柾木天地君の家です。県民局の部長もそろそろ到着のはずですが・・・。」

そう言いながら懐から,上等な装丁の祝い袋を取りだした。ほどなく、岡山県備中県民局

の文字が入った公用車が到着した。うちの町長と比べると、迫力の点ではいまいちな県民局部長が担当者といっしょにこちらに歩いてくる。

 「そうか、総務の柾木君の家か・・・。これは、ご丁寧に。こちらこそお世話になっております。」

今年備中県民局部長は人事異動で替わったので、町長と名刺交換している。担当者は昨年と変わらないので僕は顔見知りである。この担当者も同じように、祝い状と祝い金を持っていた。

 「それでは、こちらです。」

そう言って、先頭に立って玄関まで歩き、玄関を開けた。

 「ぐ・・・・・・!!」

叫び声を上げそうになるのをすんでの所で押さえた。阿重霞さんとアイリさんが正座してかしこまり、三つ指突いてお出迎えしてくれている。

 「ようこそ柾木家へ。よくぞおいで下さいました。」

魎呼さんとケンカしているときの声音と全く違って、上品で消え入るような声だった。ぶ~~っと、もうちょっとで吹き出しそうになる。しかも派手な色合いだが、上品で、しかも阿重霞さんにとても似合っている、上等な樹雷の服を着こなしていた。

 「柾木一族にとっては、長寿をお祝い戴けるなどと言うことは、本当に喜ばしきこと。ささ、お入り戴き、祖父の勝仁に会ってやってくださいませ。」

若干、微妙に噛みながらアイリさんが口上を述べる。僕は目の下を引きつらせながら必死に笑いをかみ殺していた。そして二人して上げた顔が、真っ白におしろいを塗って、頬紅を赤く丸く書いて、しかも眉間に黒い丸2つ。さらににっこり笑って、口から覗く歯は、お歯黒が塗ってあった。ひいき目に見ても某コメディアンのお殿様メイクそのものだった。

 「・・・これはこれはご丁寧に。ちょっとエキセントリックなお出迎えですね。」

さすが町長である。笑顔ではあるが、その表情に嘲笑の欠片は無い。県の担当者は、後ろに向いて肩をふるわせていた。県民局部長に肘鉄されてたしなめられている。その部長も表情は固まってるし。

 「こちら、妹・・・じゃない、姪の阿重霞さんと、奥さん・・・でもなくて孫のアイリさんです。」

 「ほお、名前まで聞いているとは。田本家とは関係ないんだろう?」

あ、いえ、こないだ養子縁組したんで義理の息子です、と、もう少しで言いそうになる。アイリさんが慌てる僕の顔を見て、にやりと口の端を持ち上げる。そこから真っ黒な歯が見えて、またも吹き出しそうになった。

 「あ、ええ、うちとは関係ないんですが、天地君に今日来る人を前もって聞いていたモノで・・・。」

何とか言いつくろえた。正座の状態から和装の教科書を見るような所作で2人とも楚々と立ち上がり、こちらでございます。とリビングに案内してくれた。

 いつもの、リビングへ入る引き戸を開くと、天地君はスーツを着て戸口で待っていてくれた。ちょっと済まなさそうな、微妙な表情の天地君である。引き戸の横に、さっきの祝い状と記念品が置いてあり、それを取る。リビング奥の池が見える大型ガラスサッシの手前に100歳のおじいちゃん!という扮装の柾木勝仁さん=遥照様がイスに座っていた。赤いチャンチャンコと赤い大きな頭巾も付けている。なんかちょっとずれてる気がする。まあ、でもお祝いの雰囲気は出ているし、100歳お誕生日おめでとう、と言うプレートも貼ってくれている・・・・・・って、宙に浮いてぴかぴか光ってるんですけど・・・。天地君に慌てて小声言った。

 「・・・天地君、あの誕生日プレートまずいって・・・。」

 「え?なんか変ですか?昨日みんなで寄せ書き風に作ったんですよ。」

さらによく見ると、漢字を使った日本語の他に、目だたないけど横書きで銀河標準語でも書いてあったりする。日本人の目からはお誕生日おめでとうを縁取ってる絵柄のように見えてるけど・・・。その文字が鮮やかにグラデーションしている。

 「普通、こういうプレートは宙に浮いてないし、自動的にグラデーションもしないんだけどね・・・。」

あ!と気付いたみたいだった。慌てて鷲羽ちゃんにぼそそっとお願いしている。鷲羽ちゃんが指を一振りすると、ちょっと光線の加減で見えにくかったんですぅ、的にピアノ線のような天井梁からの線が出現して、上から吊っているように見えるようになった。同時に、板に紙を貼って寄せ書きしました風におめでとうプレートは変わった。最初からそうしてくださいよ・・・。

 


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