天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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春はやはり忙しい・・・。

でも、ぽわぽわすると、浮き世を忘れられる。

がんばりまっす。


遠くにある樹雷14

「船長。メインリアクター全力運転に入ります。・・・お手数をおかけしますが、こちらにお立ちください。」

あ~はいはい。エネルギーバックアップね。とフロアが光り、指定された場所に立った。

 「本来、私は生命創世をすれば、役目を終え、システムを封印するように設計されています。その星で眠るわけですが、私は・・・・・・もう、眠るのはいやです。どうかあなたと共に生かしてください。」

なんか、どこかで聞いたような・・・。まあいいのだ。どうせ、いっぱいいろんなモノを背負っちゃってるし。なんとなく背後の視線が怖いけれど。

 「わかったよ。僕で良ければ一緒に行こう。どうすればいい?・・・あ、はい。」

後ろで、あ、という何人かの小さな声がした。ポンポンとまた背中を叩かれる。そこには、アルゼルのアマナック最高評議委員長が立っていた。一度鷲羽ちゃんの方を見て、まっすぐに僕の目を見て口を開く。

 「・・・白眉鷲羽殿、突然失礼するよ。・・・田本殿、いや、柾木・一樹・樹雷殿・・・。おまえさんは不思議な男じゃの。この船を起動するには、凄まじいエネルギーが必要だったじゃろうに・・・。」

不思議なことに、さっきほど、迫力を感じない。とても柔らかな、嬉しそうな意思が感じられた。

 「・・・すみません、いろいろご迷惑をおかけして・・・。そうらしいんですけど、どうせ、この宝玉が暴走したことですし。」

と言って、ニッと笑った。

 「・・・そうか・・・、聞けば、アルゼルの子ども達がこの船に捕らえられていたという。記録によると確かに、3521年前に海賊に人質に取られた一家があったようじゃ。それでも我らは、この船の秘密を明かすわけにはいかなかった・・・。天昇皇の想いも大事なら、あまりにも大きな力を開放して、せっかく宇宙に満ちた命を無に帰すわけにはいかなかったのだ。」

苦渋に満ちたアマナック評議委員長の表情だった。

 「非常に難しい決断だったことがよくわかりました。でも・・・と、僕は煮え切らない感情があるのも確かです。」

 「そう、じゃの・・・。それが例え、わしの家族であったとしても、わしは考えを変えなんだ。鬼と言われようと、なんと言われようと、お前さんに渡したキーをあいつらに渡すわけには行かなかったのだ。」

一言一言を区切り、まるで、身体のどこかを切り落とされたかのような、痛みに耐えるように言うアマナック委員長だった。

 「だから、わしは、その子達に謝ることもできん。見殺しにしたのだから。それでも、孫はかわいい、おめおめとその顔を見に来た爺を笑ってくれ・・・」

そう言って、膝をつくアマナック委員長。大粒の涙がうつむいて膝においた拳の上に落ちていた。三千年あまり自分を責め続けて、正気でいられる精神力とはどのようなものか・・・。その想いを我がことと思えば、本当にいたたまれなくなった。

 「ごめんなさい・・・、アマナック委員長。僕はそう言うしか出来ません。」

涙で濡れた、拳にそっと手を添えた。

 「もう良いじゃないか・・・。アマナック殿。こうやって縁があって、また孫達に会えるのだから。」

鷲羽ちゃんが、優しい笑顔でそう言った。本当にこの人千変万化する。今は聖母様と言って良いと僕は思った。蒼い球体と赤い球体が、そっとアマナック委員長のそばに寄っていく。僕には、無邪気に喜んで跳ね回っているように聞こえてきた。

 「エレメント合成完了、続いて生命核を創出します。全エネルギーを合成槽へ充填。」

七色の激しい放電があちらこちらで起こる。この船はまさに無から有を生み出せるのか・・・。シードと一言に言うけれども、たどり着いた星に合わせて生命を創造する、それがこの船の目的なのか・・・。

 「ラノ・ヴォイス3、これが終わっても一緒に跳ぼう。梅皇さん、また封印を一時的に解いてくれますか?」

ほんとに、人が良いのもほどがあるわよ。わたしも、一樹も柚樹もバックアップでいるから、思いっきりおやりなさい!。と少し蓮っ葉な言い方だけど、決して嫌じゃないと言った感じで話してくれた。

 「司令官殿、阿羅々樹も、緑炎・赤炎・白炎も一緒にやりたいと申しております。」

籐吾さんが、そう声をかけてくれる。うん、ありがとう、と伝えてくれと言った。

 「アマナック委員長、優しい皇家の樹達が手伝ってくれるそうです。」

一度委員長の拳を上から握り、立ち上がってコンソール上に手を置いた。大きなスパークが起き、左腕にかろうじて絡みついていた、溶けてぺらぺらになったワイシャツの残骸が飛び散る。同時に、自分の乗った自転車が大きな坂道に掛かり、グッと踏み出すような抵抗感を左手から感じた。ピラミッド状にそびえ立つ合成槽の上部に小さな光が集中している。たくさんのホタルが飛び交うように。

 「生命核の創出まであと180秒。同時にアミノ酸の合成に入ります。」

 「そろそろ私の出番だね。」

ニタリと、舌なめずりをせんばかりの鷲羽ちゃんだった。鷲羽ちゃんの目の前には、いつものように半透明の端末がたくさん開いている。2段、3段になっているような鍵盤を叩きダイナミックに演奏するように端末を操作する。皇家の樹をしのぐほどのエネルギーを発するメインリアクターが、轟然と全力運転に入っていた。そして僕の左手も、かなり熱い。でもなぜか嬉しい。共に行こうと誓った仲間達が力を僕に分けてくれている。熱を越えた光がエネルギー規模の大きさを表していた。頭上にある球状の合成槽に光が集中し、そこを中心にひときわ大きなスパークが起こったと思った瞬間、球状の合成槽中心に赤い血のような丸い物体が出来ていた。時々脈打っている。

 「・・・生命核創出完了。アミノ酸も充分量が確保できました。」

 「よ~し、良い具合だよ。アストラルを投射するよ。リルル殿、メルル殿ちょっとだけがまんしておくれ。」

二つの球体がするすると昇っていく。その球体に青白い光が集中し、球状の合成槽に吸い込まれていった。ほどなく、目の前に整然と並んでいる、楕円形の水槽2つに、小さな点のようなモノが見えた。見ているうちに、小さな魚のようなモノから尻尾が消え、手足が見え、目がまぶたに覆われ、ほとんど十数秒で赤ん坊になった。それから、3,4歳くらいの男の子と女の子の姿になるまでまた十数秒・・・。どっかの軍需産業のお偉いさんなんかが見たらよだれを垂らしてるかもしれない。この技術を使えば、優秀な兵士を大量生産できるだろう。アマナック最高評議委員長が断固として拒否する気持ちもよくわかる。

 水槽の水がゆっくり抜かれた。髪の毛が額に張り付き、顔が水面から出ると、2人とも咳をしながら培養液を吐き出していた。すぐに培養槽は開き、四つん這いになって2人は出てきた。もちろん裸ん坊である。

 「あっ、気がつかなかったわ。一樹ちゃん、メイドさんにたのんで、バスタオルを転送してもらって!。」

水穂さんが、慌ててそう言った。真っ白で大きなバスタオルが2つ、ふわりと転送されてきた。水穂さんと阿知花さんが、すかさずバスタオルで2人を包んだ。リルルは水穂さんが、メルルは阿知花さんがゴシゴシと水分をぬぐっている。その拭き取る作業の手を逃れるように、2人はアマナック委員長に抱きついた。

 「おじいちゃん!。」

あのアマナック委員長が、くしゃくしゃに崩れた笑顔をしていた。地球の歌謡曲に孫を題材にした歌謡曲があったが、あの歌詞のとおり、宝物なんだろう。目に入れても痛くないと言う例えは本当なんだという、えびす顔だった。

 「・・・すまない。ほんとうにすまない。じいちゃんを許しておくれ」

どうにかそれだけ、泣きながら言葉に出来たようだった。2人の孫を抱きしめて、男泣きに泣いていた。

 「ふむ、生命核はまだ残ってるね。この船は・・・、だめだ、システムが閉じられようとしている・・・。」

その言葉に反応して、鷲羽ちゃんになんとか頼もうと思った。

 「鷲羽ちゃん、この船と一緒に跳ぶと言ったんです。どうにか、何とかなりませんか・・・。」

共に行こうと言ってしまった。僕にはたくさん船はあるけれど、明確な未来のビジョンをしっかりと胸に秘めた遠い過去からやってきた船はこれだけである。だいぶ欲張りかも知れないが。

 「だめだね、もともと、その星に着いたら、生命創造をして自分を封印してしまうように設計されているようだ。わたしにも根本的なところには、手が出ないよ・・・。でも・・・。」

しずかに、システムダウンしていくこの船。鷲羽ちゃんは、まだあきらめていなかった。

 「カズキ殿、もう一回エネルギー供給できるかい?」

 「わかりました・・・。」

鷲羽ちゃんの目の光はあきらめていない。ならば、と左手に力を込める。一瞬明るく宝玉が光る。目の前の合成槽の1つの扉が再び閉まり、液体が充填される。

 「生体構築ゾーンを一時的にメインシステムから切り離すよ。そうしておいてだ・・・。」

鷲羽ちゃんの舌が、ぺろりと上唇を舐めている。うわ、色っぽい。

 「ちょっと雑念が感じられるね。」

ニヤリとこっちもエッチな笑みだった。

 「な~んでもないっすよ。」

背後から無茶苦茶キツイ視線を3組ほど感じた。背中が痛い・・・。

 合成槽では、また生体の構築が始まっていた。赤ん坊からこども・・・。女の子か・・・。数分で小学校低学年くらいの髪の長い女の子になった。

 「そして投射するアストラルは・・・。」

鷲羽ちゃんが左手を挙げると、そこに小さな正方形の光が出来た。それが、カシャカシャと回転して変形、さらに小さな球体になる。鷲羽ちゃんの端末から一本の七色レーザー光が、その小さな球体にあたり、内側に炎のようなモノが出現する。

 「ふふふ、良い塩梅だ。投射!。」

球体は、す~っと女の子の生体に吸い込まれていく。合成槽の中の女の子がぱちりと目を開ける。同時に液体が抜かれ、上から順に合成槽の光も消えていった。

 「ふ~~、なんとか間に合ったかな・・・。ラノ・ヴォイス3殿、私たちがわかるかい?」

 「は?」

目が点になった。え~っと、僕は船のシステムダウンを回避して欲しかったんだけど。

 「わたしはラノ・ヴォイス3。・・・鷲羽様、どうもありがとうございます。」

水がしたたり落ちている、そのままで頭を下げる、その女の子だった。水穂さんが、つかつかつか、と歩いてきて、新しいバスタオルを差し出した。ちょっと怒っているように見える。その女の子が、おずおずと手を出して、タオルを受け取るが、なんだか使い方がよくわからないようだった。広げてしげしげと見ている。

 「あ~、もお。阿知花さん手伝って。」

たたっと、阿知花さんが駆けてきて、水穂さんと一緒にラノ・ヴォイス3を名乗る女の子を拭き上げる。2人の良くできたお姉さんが、妹の世話をしているようで微笑ましい。

 「システムが封印される前に、この船の意思を逆にこちらに写し取ったのさ。どうせ、あんたの新しい船の水先案内人には必要だろうからねぇ。」

うんうん、と腕組みしてうなづく鷲羽ちゃん。・・・あり、なんかふらふらする・・・。

 「は、腹減った・・・。」

鷲羽ちゃんはじめ、水穂さんやあやめさん達が、ズルッとこけてくれる。さっき天地君ちでいただいたけど、猛烈な空腹感だった。さすがにこの宝玉も暴走モードは脱したと見えた。

 


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