天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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間に合わなかったのですけど・・・。

生命創造の神秘。無から有だとどのくらいのエネルギーが必要なのでしょう・・・。


遠くにある樹雷13

「そうそう、あんた達の婚姻の儀、決まったからね。場所は、西南殿の時の設備も残ってるから月の裏側でやるわよ。そっちの暦で8月に入ってすぐよ。準備は私たちがやるから。それと、田本、いえカズキ殿は、さきほど柾木家と養子縁組終わったから。」

そこまでまくし立てると、忙しいのか瀬戸様は、じゃあねぇ~と縦に瞳が細い爬虫類顔をして手を振りながら、さっさと通信を切った。

 「と、ともかく、遅くなったけどあの子ども達を救おう!。コア部分はラノ・ヴォイス3号らしいけど、後端部分は通常機関部分で、前端部が怪しい。乗り込むぞ!」

恥ずかしさに紛れながら、そこまで言った。プッと吹き出す籐吾さん達。耳が熱いから、僕は顔が真っ赤かも知れない。その時、視界の端に魎呼さんが空間から現れて、ふわりと降り立った。ちょっとうつむいている。

 「魎呼さん、もしかして・・・。」

 「ああ、内部を見てきたよ・・・。間に合わなかった・・・。」

驚いて、発掘宇宙船の前端構造物にあったエアロックのようなものをこじ開けようとする。もちろん人の力では開かない。鷲羽ちゃんが内部システムをハッキングし、電子錠を開けた。エアロックが開き、通路を早足で歩いて籐吾さんと二手に分かれ、僕は前方部分を目指す。水穂さんと阿知花さんが付いてきてくれている。内部は、墜落時のショックか、様々なモノが通路に落ちているし、壁からは電線のようなモノで、何とか釣られた電子部品が垂れ下がっていて歩きづらい。ブリッジらしきところに入ると、亡くなってミイラ化している人物がいた。服装と、髪からして女性のようだった。腹部に前から飛び出してきている構造材が突き刺さっていた。状況からして即死か、生きていても長くは持たなかったろう。いくつかのメーターに電源が入っているが、ほとんどのモノは割れて消えている。何かのスイッチが入り、ゆっくりと声が流れ始めた。

 「私は名も無い海賊・・・。この星に降りた理由をここにとどめる。ボスは、誇り高き民族、惑星アルゼルの子ども達を人質にし、代わりにこの船の封印解除コードを欲した。解除コードさえ手に入れれば、子ども達の命など、何とも思っていなかったのは今までの行動が示している。私は、この子達を不憫に思い、船と共に逃げた。ランダムジャンプを繰り返し、長い時間をかけ、この恒星系にたどり着いた。上空から私たちに似たヒューマノイドがたくさん住んでいるのが見えた。他の星系に行くには、航行エネルギーも尽きてしまっている。機関部も損傷がひどい。・・・ねがわくば、あの子達がこの星で幸せをつかんで、末永く生きんことを・・・。」

そこから先は雑音が入り、すぐに途切れた。こんな大きなモノをお腹に受けて苦しかったろうに・・・。シートを寝かせようとすると、身体が崩れてしまった。自然に敬礼してしまう。水穂さんも阿知花さんも一歩下がって黙祷してくれた。

 「・・・カズキ様、こちらに来てください・・・。」

籐吾さん達が呼びに来る。ブリッジの様子をすぐに察し、敬礼し黙祷してくれる。いずれ、この女性は手厚く弔わねばならないだろう。籐吾さんを先頭に、また廊下を戻り、奥まったカーゴスペースのような場所に着いた。ちいさな冷凍睡眠ポッドだろうか上部が半透明の細い楕円形をしたものがいくつか並んでいた。ほとんどのものが上部の半透明の部分が割れていたり、形そのものが、落下物によってつぶれてしまっている。奥の2台だけ閉まっていた。ゆっくりのぞき込むと、内部には干からびたちいさな人影が見えた・・・。

 「かなり昔に、生命維持装置も止まったようですね・・・。」

あやめさんが、顔を伏せてそう言った。すぐに後ろを向いてしまう。僕も涙で視界がぼやけてしまっている。重い落胆の感情が覆い被さってくる。しゃがみ込んで、その小さな冷凍睡眠ポッドを撫でる。

 「どうしようもないとは言え、寂しい結果だね・・・。でも、だとすると、あの蒼い球体と赤い球体は何だったんだろう・・・。」

 「柾木・一樹・樹雷様、私は、ラノ・ヴォイス3。私の、話を聞いていただけますか。」

さきほどの、無機質なコンピューター音声がこの格納庫に響いた。今さら何を話すというのだろう。

 「・・・この船は、墜落時に地中深く埋まってしまいました。子ども達を海賊から守った女性の遺志をなんとかして、かなえてあげたかったのですが、自力で脱出することももはやかなわず、この星の原住民に、子ども達を託すことも出来ませんでした。そのため、エネルギー消費を最小に押さえ、この星の時間で3000年ほど地中で耐えていました。しかし、それでもエネルギーの尽きるときはやってきます。最後の選択を・・・とても辛い選択の時が来ました・・・。私は、様々なシミュレーションを行い、最善と思われる方法を採りました。私の巨大な電脳空間に、この子達のアストラルや記憶をコピーすることにしたのです。それでも、ぎりぎりまで冷凍睡眠ポッドを駆動しましたが、エネルギーは尽き、あなた方が見たとおりの結果となりました。それがほぼ500年前のこと・・・。きっと未来には誰かと会える、そう思って眠り続け、先ほどの雷で私は覚醒し、近くにあなた方がいることを察知し、この子達を向かわせたのです。」

先ほどの薄く蒼く光る球体と、同じように赤く光る球体が現れた。

 「リルルとメルルだっけ?怖かったね。寂しかったね。」

両手を伸ばして、球体を撫でる。ちょっとビクッとして、それでもじっとしていた。手のひらにはわずかな反発力のようなモノを感じる。

 「・・・しかし、私の封印は解かれました。この子達の遺伝子情報は、すでに蓄積されております。柾木・一樹・樹雷様、この子達の生体としての身体を再構築してもよろしいでしょうか?」

 「え?できるの?」

思わず声の主を探すように、キョロキョロしてしまう。

 「私は、莫大な距離を渡ってきた、生命の種子を蒔く使命を持った船です。命の種子ということで、到達した星の状態により、炭素系生命体の単細胞生物から、同じ系統のあなた方のような高等生命体まで船内で構築することが可能です。もちろんケイ素系生命体も対応可能です。わたくし自身、本当にこのときを一日千秋の思いで待ちわびておりました・・・。未来のいつか、私の封印が解かれ、この子達が走り回れる日のことを。」

おっちゃん、こういう話には弱いのだ。涙があふれてきて止まらない。

 「・・・ああ、ああ・・・・・・。出来るならもちろん、そうしてくれないか。アルゼルに家族がいるかどうかわからないが、なんとか還してあげたいんだ。」

右手で、顔をぬぐう。左手の熱で溶けかかって、溶けかかり、固くなったワイシャツが痛い。それもまた良かったという思いのひとつのように感じられた。ポンポンと肩を叩かれる。後ろには鷲羽ちゃんがいた。

 「アストラルコピーと新しい身体の融合は、デリケートなところがあるからね。私もお手伝いするよ。・・・いい男がそんなに泣くもんじゃないよ・・・、かわいいけどさ。」

しゃがんでいる僕の頭を撫でてくれる。なんだか遠い昔に母に撫でられた記憶が思い出される。

 「鷲羽ちゃんって・・・、いや、いいです。・・・どうか、この子達が自分の足で走り回れるようにしてやってください。柚樹さんを抱いたり、一樹に跨がって遊んだり出来るようにしてやってください・・・。」

鷲羽ちゃんに大きく頭を下げた。

 「ラノ・ヴォイス3、こちらの方は、銀河アカデミー随一の哲学士、白眉鷲羽様だ。どうか協力してこの子達に大地を踏みしめる足を、風の香りを感じられる肌を再び与えてやって欲しい。よろしく頼みます。」

 「それでは、さっそく作業にかかります。播種生体構築関連エリアを開放します。白眉鷲羽様、こちらへどうぞ。」

奥のほうへ、床のガイド照明が点いていく。鷲羽ちゃんは、それに従って奥の方へ歩いて行った。船が喜んでいるような、そんな機械音が高まっていっている。ふとこちらを振り向く鷲羽ちゃん。

 「田本殿、いや、カズキ殿も来ておくれ、命を繋ぎ、再生させることには想像を絶するエネルギーが必要だからね。あんたの想いとエネルギーにも手伝ってもらうよ。」

ニッと笑う鷲羽ちゃんだった。

 「ええっとぉ、・・・危険は無いんですよね・・・。」

いろいろ心配されると、おっさんでも学習するのだ。心配そうな水穂さん他の視線が、さっきからすごく気になっている。

 「ああ、わかった、わかった。みんな付いておいで。」

なんだか二つの球体も嬉しそうに、くるりくるりと目の前で遊びながら奥の間へ歩いて行く、その後ろをゾロゾロとみんな付いてくる。廊下だろうか、そう見える場所も結構広い。歩いて行くと、シュッとリニアモーター的な音がして横開きのドアが開き、様々な直径1m程度の透明なガラス管、いや、地球ならアクリルなんかで作る、今一番進んだ水族館のような施設に入った。すべてに液体が満たされていて、グリーンや青の各種ランプがあちこちで瞬いている。見た目、準備万端ということだろう。

 「先ほど、この炭素系生物生体構築ゾーンは整備完了しました。白眉鷲羽様、このエリアのアドミニストレーター権限をお渡しします。」

鷲羽ちゃんの前に、いつも鷲羽ちゃんが起動する画面が自動で開き明滅する。一瞬驚いた表情をした。

 「お、いいのかい?柾木・一樹・樹雷殿。」

そう言う鷲羽ちゃんは、これ以上はないと言うくらい、嬉しそうな顔だった。一目でこの船のテクノロジーを理解したのかも知れない。

 「さっき、勢いで僕が船長になってしまいましたが、この船は、本来生きとし生けるものを生み出す船でしょう。ならば、それなりに知識のある方が実際に運用されることが良いと思います。どうせ、何にも言わなくてもシステムに介入したくて、うずうずしてるんでしょ?」

うんっと元気よく頷く鷲羽ちゃん。ああやっぱり、と周りのみんなも引きつった笑いで応えてくれている。

 「ラノ・ヴォイス3、お前の判断で白眉鷲羽様には、アクセスおよび研究権限を付与してくれていい。・・・このだだっ広い三次元宇宙に命の火を満たして欲しい。」

なにか、力がこの部屋に満ちたように感じた。

 「・・・遠い遠い昔、起源の星を飛び立つ我々に、天昇皇がかけてくださった言葉が思い起こされます・・・。力尽きた私に、再び力を戴きありがとうございます。・・・それでは、白眉鷲羽様、この星のエレメントを外部空間から取り込みます。よろしいですか?」

 「わかったよ。亜空間ドックに外部エリアと接続する部分を作るから。この船の真上でいいかい?」

 「了解しました。エレメント合成後生命核を創出、その後炭素系生命体に必須アミノ酸類を合成、アミノ酸がヒューマノイドを構築する充分量に達して後、アストラルを投射します。」

 「おお、そこから始めるのかい。凄いよ、本当に凄い船だよ。カズキ殿。」

あ~、おらにはわからないや、と思いながらラノ・ヴォイス3とやりとりしている鷲羽ちゃんを見た。今にも大笑いしそうな顔だった。若干怖い・・・。

 「船長。メインリアクター全力運転に入ります。・・・お手数をおかけしますが、こちらにお立ちください。」

あ~はいはい。エネルギーバックアップね。とフロアが光り、指定された場所に立った。


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