天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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ついにまた樹雷に着きました。

こんな式典、いままで式典開催側には、いたかもしれないけど、当事者にはなったことがない田本さんです。




広がる樹雷15

「あら、失礼ね。みんなを怖がらせちゃ駄目だと思ったのよ。それに、あなたの力を見せるのは悪いことじゃないわ。ちなみに、まだブリッジの様子は投影されているわよ。」

うわうわ、と慌ててまたポーズを取る。とったところで、まあ結局、格好つけても僕は僕だし、と。左手で水穂さんを抱き寄せ、大きく手を振ることにする。その状態で、樹雷本星衛星軌道に到達した。管制官とのやりとりと、衛星軌道ステーションのナノマシン洗浄を受け、樹雷本星宇宙港に着岸する。全システムがオフになり、一樹のブリッジも最小限の物を残し、順番に光が消えていった。

 「あ~~、ようやく着いた。」

なんか長かったのだ。たどり着いたという感慨の方が強かったりする。

 「さあ、まだたくさん式典や祝賀会があるわよぉ~。目を覚まして付いてらっしゃいね。」

瀬戸様、もの凄く元気なのだ。とはいえ、着岸から上陸までまだ15分ほどあるらしい。ならば・・・。

 「ごめん、顔洗って、歯磨いてくるわ!。」

なにを今更、と言う顔をするブリッジのみんな。

 「さきほど、3人で着替えをしたときに終わってますわ。」

ぬおお、これもナノマシンか。

 「じゃ、トイレ。」

さすがにこれは、なにもみんな言わなかった。そんなこんなで、あっという間に上陸の時間である。水穂さんが、携帯端末をタブレットに変え、式典リストを読み上げてくれる。またも、分刻みのてんこ盛りの予定だった。

 「まずは、樹雷皇阿主沙様ほか、神木家、竜木家、天木家がそろってお出迎えくださいます。その後、天蓋の無い式典用浮上車に樹雷皇阿主沙様とお乗りください。私たちは、たぶんあとのクルマに乗っていきます。」

 「やっぱりここでもパレード?」

ねえ、帰ろうようって言いそうなお子ちゃま目線で言ってみるが、プッと笑った水穂さんは、恐ろしいことをさらに言った。

 「ええ、しかも樹雷始まって以来の破格の、ですわ。樹雷皇阿主沙様、直々のお出迎えなんて、いまだかつてあった試しがありません。」

え~~~、やだやだってやってる僕を、イヤな笑顔を浮かべた謙吾さんと籐吾さんが、首根っこをつかんでズルズルと一樹エアロックまで引きずっていく。いつも転送で一樹に乗り込んでいたけど、あったんだ、エアロック。もうさすがにしょうがないので、観念してエアロック前で身支度、衣装を整え、パンパンと両ほほを叩いて、エアロック前に立った。シュッと圧縮空気の吹き出すような音とともに、2m四方程度の扉が開く。まずは、地響きのような歓声に、とても驚いた。空気が揺らめくような迫力がある。後ろにいた謙吾さんと籐吾さんに、トンと背中を押され歩き始めた。なんだか捕縛された囚人みたいなんですけど・・・。歩くタラップは十数m程度。一体、何人この場にいるのだろう・・・。そして樹雷皇阿主沙様、船穂様、美沙樹様の立つ場所は、一段高く、赤いフィールドが形成されている。歩いて行くと、2m程度手前で白いラインが浮かび上がる。なるほど、ここで一礼せよと。左足を前にひざまづき、右手の拳を左手で包むように一礼する。

 「樹雷皇阿主沙様、船穂様、美沙樹様。田本一樹、ただいま帰りました。」

 「遠路、大儀であった。また、このたびの我らの力の源泉、皇家の樹四樹とそのマスターを救いし働き、万謝至極である。頭をあげい!」

樹雷皇阿主沙様の朗々とした太い声が響いた。顔を上げると、先週お目にかかった樹雷王阿主沙様と、船穂様、美沙樹様がそこに立っている。なんか美沙樹様は、何かに耐えているように目を伏せ、肩をふるわせている。船穂様は、ときどきそれをちら、ちらと見ながら険しい表情だったりした。一体どうしたんだろう?

 「我らが英雄をいざ、天樹に迎えん!」

樹雷皇阿主沙様が高らかに宣言する。それを聞いた護衛闘士が一斉に動く。動きに一切無駄が無い。ザッと一挙に、彼方に見える天樹に向かって闘士が並ぶ道が出来る。

 正装した闘士だろう、専任の操縦士が操縦するクルマが上空から、しずかに目の前に着陸した。木目を活かした見事な仕上げの浮上車である。その浮上車の前に左右に分かれた護衛闘士が並んでいく。2m半程度の棒を持っているが、配置につくと、三度地面に打ちつけ、くるくると器用に回して、左右から屋根のように上で交差させ、打ちつけ、音を出す。護衛闘士の間から、樹雷の音楽隊だろう、楽器のような物を抱えたり持ったりした男性・女性合わせて百数十人がクルマの前に並んだ。さらにその前には、馬に似た動物に跨がる闘士が四人並ぶ。先導役だろう。

 浮上車も非常に大柄なクルマで、大柄の樹雷の人間が横に1列目は4人並んで座れ、それが2列目は3人、3列目も3人だった。操縦士は前方にひとり座り、透明なついたてで分かれている。地球で言うリムジンであろう。

 ほどなく、曲名は分からないが、勇壮な曲が始まる。マニアな僕としては、ハイレゾ・ポータブル録音機あたりと、大型一眼レフ持って追っかけしたいところである。って、自分が当事者か・・・。その辺考えることは皆同じのようで、護衛闘士の後ろから脚立に乗って、各テレビ局やらアマチュアやらが僕らをねらっている。

 樹雷皇阿主沙様が船穂様、美沙樹様を伴って、なんと一番後ろの3人掛けに座った。真ん中に樹雷皇、その右側に船穂様、左側に美沙樹様である。そして、会場の端に控えていた式典の責任者は、僕を1番前の真ん中右側に座らせ、その右側に水穂さん、僕の左側に竜木籐吾さん、その左側に立木謙吾さんを座らせた。真ん中の席の3人は、神木あやめ、茉莉、阿知花さんであった。もしかして、このためにこのクルマはあつらえられた物?それとも今回の式典専用車?それはそれで凄いことである。

 ふわりと、30cmくらい浮かび上がり、先導役、音楽隊と共に、まさに歩くような速度で進み始めた。こんなにVIP扱いで歓迎されることなんか、まったく初めてのことなので、さっきの鷲羽ちゃんの石化ビジュアルよろしく固まっていた。ほとんど顔なんか青くなっていたかも知れない。ちらと見た、後方は何台も同じような木製のクルマが連なっていた。しかし、そっちは屋根が付いている。こっちのオープンカーは、左右に大型ディスプレイが派手に展開し、車内の様子を大写ししていた。そんなガチガチに固まった、おっさん映してもしょうが無いだろう。あ、でもイケメンの籐吾さんや謙吾さんならファンも多いんだろうな。水穂さんも目が大きく綺麗な美人だし。あやめさんに茉莉さんに阿知花さんも、それぞれ美人である。

 「ほら、あなた、そんなに固まってては・・・。」

 「そうですよ、なんとか笑顔を作ってください。この行進もあと20分もガマンすれば天樹に着きますから・・・。」

水穂さんと籐吾さんが声をかけてくれても、マジで凍結の魔法がかかった状態である。ホントあまりの緊張で、吐きそうだったりする。しかも樹雷皇阿主沙様が後方に乗っていらっしゃるってことは大まじめに僕が主賓と言うことだろう。うう、めまいまでしてきた。

 「う~、マジにめまいと吐き気が・・・。」

 「星を生き返らせた男が、何を言ってるんですか。」

ニカッと笑う謙吾さんの笑顔が少しだけ救いだったりする。

 「ありゃ、余剰エネルギー捨てただけだってば・・・。」

 「先週、堂々と挨拶したのにのぉ。本当におもしろいやつじゃ。」

柚樹さんが銀ネコの姿を現して、操縦士との間のパーティションの前に座って二本の尻尾を器用に揺らしている。とん、と肩に何か乗ったような気がする。見えないけど、一樹も小さくなってきてくれたんだね。

 「今度は僕も連れてってね!。」

 「だから、あれは、このジェネレーターが暴走して・・・。」

それでも、一樹と柚樹がそばに居るし、何かやるわけでもない、と思うと少し気が楽になった。余裕が少し出てきたので周りを見ると、紙吹雪に、何か反射材のような物が塗ってあって、レーザー光が綺麗に乱反射して、一種、昼間の花火のようだった。樹雷の闘士や音楽隊は特徴的に歩を進めていく。片足をあげ一瞬止めて、大股に前におろし一歩一歩歩いて行く。鍛え上げられた大柄な闘士が、美麗に行進していく。その様は独特の迫力があった。

 樹雷の象徴、巨大な樹の天樹に近づいていく。近づけば近づくほど、天樹はその名の通り、大きな樹だった。なにやら駅のようなものもあって、列車が出ているようだった。何もしていないけど、もの凄く疲れたところで、ようやく天樹に着いたようでクルマが止まった。僕達が先に降り、樹雷皇阿主沙様と船穂様、美沙樹様が続いて降りる。阿主沙様が水穂さんと僕を呼び、肩に手を置いて、ポーズする。周りからフラッシュの雨嵐。僕らの乗ってきたクルマが走り去ると、あとから付いてきていたクルマが止まるたびにVIPが降りる。見たことのある皇家の方々も乗っていた。最後のクルマに西南君とそのお嫁さん達、福ちゃんも抱かれて降りてきた。僕の目から見ても、樹雷関係の皇族が勢揃いしているように見える。

 「水穂さん、今更ながらですけど、皇家の樹というのは・・・。」

たまたまもらった一樹の種、そして一樹の連れてきた柚樹。結構簡単に身近にあるものだったりしたけれど・・・。

 「そうです。樹雷にとっては肉親以上のもの。力の源泉です。ようやくお分かりになったのね。4人のマスターとその樹を救った意味が・・・。だいたい、第2世代の樹を賜ることも珍しいことなのですよ。」

樹を賜る、ですか・・・。そうか、第2世代以上の樹は、自らの意志でマスターを選ぶんだっけか・・・。本当に今更を連発だけど、こんなおっさん、一樹も柚樹も良く選んでくれたよな~と思う。

 「もしかして、その赤い玉のエネルギージェネレーターもお前さんを選んだのかも知れないぞ。」

マジ?意思は感じられないけど・・・。

 


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