天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

106 / 135

やっぱり何かあるとお酒!

食べてみたい瀬戸様のお料理!




広がる樹雷12

 「う~ん、それは困るなぁ・・・。でも、福、最近、機嫌が良いんですよね。」

あははは、とどこからともなく明るい声が上がる。

 「あなた、置いて行っちゃイヤよ。」

グッと身体を預けてくる水穂さん。反対側には竜木籐吾さん、謙吾さん。そのまた左右にあやめさんに、茉莉さんに阿知花さんが移動してきている。

 「狭いんだけど・・・。なんか嬉しいな。」

顔や耳がむちゃくちゃ熱い。何も言わなくても、取り皿におにぎり二個ともう一枚の取り皿に様々な料理がのっかっていった。

 「みんな、ありがとう。」

 「いえ、今晩も頑張ってもらわないと・・・。」

水穂さんと、籐吾さんと謙吾さんの声がユニゾンしている。いったいなんだそりわ。

 「今夜も、って・・・。」

西南君ところの四人と瀬戸様、天木蘭さん、平田兼光さんが、今度はユニゾン。

 「あの、その、あの夜から水穂さんとは毎晩、籐吾さんと謙吾さんとも、その・・・。」

 「わ、わたしだって、待っていたのに・・・。」

そう言いながら、阿知花さんは真っ赤な顔をしてうつむく。あれ、籐吾さんの腕を持っているのはあやめさんで、謙吾さんは茉莉さんに腕を絡められている。ふううん、ま、いいけど。

 「あの夜は、水穂さんと、まあその、3時間くらい休み無しで・・・。」

まあ!、聞きました奥様?、羨ましいですわね。うちのなんか、ねえ。最近ちょっとご無沙汰なのよ~。って、天木蘭さんと、瀬戸様が団地妻している。

 「よお~し、田本殿、今度良いところを紹介するぞ。行くか?」

平田兼光さんは、にかっと白い歯を見せて笑っている。

 「ええ、もちろん!と言いたいところですが、水穂さん泣かせると、怖いお母さんやらお婆さまやらいらっしゃるので、ちょっとぉ・・・。二日前に面と向かって怒られたところだし・・・。それに、兼光様も、また希咲姫ちゃんに怒られますよ。」

西南君が、ご愁傷様です、と言わんばかりの気の毒そうな顔をしてこっちを見た。

 「・・・このあいだ夕咲に、土下座していたのを見たわよ。」

瀬戸様が、たくあんを良い音させながら食べてそう言う。とたんに兼光さんが憮然とした表情になってそっぽを向いた。

 西南君とそのお嫁さん達四人が、そろって真っ赤な顔してうつむいている。なあ、西南と言って雨音さんが肘をつんつんしているし、なによ雨音、今夜は、その・・・。とさらに赤くなって黙りこくる霧恋さんだし。西南様、わたくしは一生付いていく決心はいささかも崩れておりません、とリョーコさんが右手をグッと握って決意っぽく言って、雨音さんと霧恋さんに睨まれていた。福ちゃん、おばちゃん達はほっといて、ニンジン食べましょうね~、とネージュちゃんは福ちゃんをだっこしていた。ぎりり、とあとの3人が青筋を額に浮かべている。なんだかこの人達もキャラ変わらないなぁ、とか思う。

 そして、例によって美味しいおにぎりと、お味噌汁。黙々と口に運んで、ホッとした顔をしていたら。瀬戸様が珍しく真っ赤な顔をしている。ある意味これほど似合わない絵も無いだろう。さっきの「くわっ」と怒り狂った鬼姫モードが瀬戸様の固定イメージである。

ちょっとカマ掛けてみよう。ちょっと不埒なとか言われそうだけど。

 「やっぱり塩結びは、お母さんの手で握られるから美味しいんだよね。」

うんうん、と籐吾さんが口いっぱいに頬張っている。また目が赤い。瀬戸様が、顔を見られないように向こうを向いてしまう。

 「わたし、お料理頑張る。阿知花、今度特訓して!。」

あ、わたしも、と小さな声で言って、茉莉さんがちっちゃく手を上げている。

 「男は、胃袋を捕まえられると、絶対に逃げられないですよね、瀬戸様。」

ちょっとビクッと肩を揺らす瀬戸様。

 「・・・ねえ、今日のお味噌汁美味しい?。」

タマネギやわかめ、豆腐はたぶん樹雷の特選素材だろうし、出汁もそんじょそこらのものではないだろう。しかし、この味噌は・・・。なにか誰かが作って、それをお金で購入したものではない、そんな甘さと香りがあるような気がした。

 「ねえ、どうなの?・・・。」

 「麹や豆や麦から、瀬戸様が手で作られたのではありませんか?量産臭がまったくありません。とても温かく薫り高い。それでいながら自然な甘み。本当に美味しゅうございます。」

 「ほんとう?嬉しいわ・・・。お漬け物も食べてみて。」

まずいわけはない、と思って食べる。ほのかな塩味と酸味が絶妙である。塩味が薄く、素材の味が出ている、と言うことは、ぬか床は毎日厳重に管理されている、と言うことだろう。そうでないと、あっという間に酸っぱくなったり、塩が少なめだと、ぬか床が腐ってしまう。

 「瀬戸様、毎日ぬか床は混ぜていらっしゃるんですね。良くこの塩味で管理出来ていると思います。これも美味しいです。」

すす、とさっきこの場所まで案内してくれた執事の男性が、近くまで来て瀬戸様の代わりに答えてくれる。

 「私どもが混ぜるのでは駄目だと、手をぬかだらけになさって、毎日混ぜていらっしゃいます。味噌や醤油は、本当に手作りなんですよ。」

 「そうでしょうねぇ。神寿の酒も美味しいのですが、この胃袋をわしづかみにされる優しい味わいは・・・。これで涙しない男はいないでしょう。」

横の籐吾さんと、謙吾さん二人とも涙しながら食べている。平田兼光さんもそっぽを向いているが頬にキラリと光るものが見えた。と、突然食卓テーブルの横に、どんと木の樽が転送されてきた。西南君と雨音さんは驚いたらしく、喉につかえさせて、胸を叩いている。

 「あら、まあ。神寿の酒って言うから、水鏡が対抗意識燃やしているのね。今年の新酒よ、それ。」

新酒よ、それ、って言われても・・・。じゃあって手が出せないじゃん。

 「あ、そうだ、昨日あんまりみんな飲まなかったから、僕も出します。阿羅々樹、転送してくれるかい?」

またも、どんと木の樽が転送されてきた。籐吾さんが思い出して転送してくれたのだ。こっちは神寿の酒の古酒である。

 「ある意味、超高級な宴会ですね・・・。お金・・・、に換算出来ませんよね?。うちの姉なら暗算でいくらですわ、とか言いそうだけど。」

謙吾さんが引きつった笑顔でそう言った。林檎様ならそうでしょうねぇ、と霧恋さんが何とも言えない複雑な表情で言葉を絞り出すように言う。音を立てずにお味噌汁をすすって瀬戸様が言った。

 「最近、林檎ちゃん、神がかってきてね、経理のネットワークじゃないけど、お金が動いた形跡をたどって追いかけてくるの・・・。本気で怖いわ。」

執事の人と、メイドさんが奥から、これも美しい装飾の酒器を持って出てくる。2種類の杯だった。青の色が多く樹とガラスの器に水鏡の新酒、赤の色が多く、樹と磁器のような器に阿羅々樹の古酒をついで、みんなに配っていった。

 「霧恋さん、うちも出しましょう。」

ええそうね、とにっこり笑う霧恋さん。え~、出しちゃうのぉ?って顔は雨音さん。

 「樹雷王阿主沙様から頂いていた神寿の酒があるんですよ、福、阿羅々樹の樽の横に転送してくれるかな?」

みゃ!と福ちゃんが手を上げると、また、どん、と木の樽が・・・。

 「なんちゅ~、恐ろしい宴会なんだろう・・・。」

平田兼光さんが、珍しく動揺している。また器が運ばれる。今度は飴色に磨き上げられた木の器だった。一人ひとりの前に、3種類の器が並ぶ。これだけで、惑星がいくつ買えるのかって値段らしい。それでは、と僕はまず、水鏡の新酒から口に含んでみた。キン、と鋭いけれども荒くはない、そして勢いのある炭酸系を思わせる発泡感。そして神寿の酒独特の透明感。ああ、もう旨さ炸裂!。頭の上にでかい金だらいが落ちるがごとし。ほおお、と周りから感嘆のため息が出ている。水穂さんは、つい~~っと一杯開けてしまっている。

 「鮮烈で、たまんないっす。」

じゃあ、こんどはこっち、と古酒を口に含む。深くて甘い。静かな泉のような深々とした旨さ。時間を味方にすると、やはり凄い。うん、昨日はいぢめられたから、微妙によく分からなかったけど、透明感に、一種ウイスキーとかブランデーのような香りが加わっている。甘露甘露と呵々大笑してしまいそうになった・・・。

 「深みと甘みが・・・、言葉になりません。」

そして、樹雷王阿主沙様の神寿の酒。樹が違うと、さらにコクが出るようだ。こちらもうまい。なんだかワンランク違うような上質感・・・。

 「また違った味わいですが、コクが深いですね。」

 「そうね、霧封は第一世代艦だし・・・。」

つ~っと瀬戸様は阿羅々樹の古酒を飲み干す。あんまり見たことないようなとろけるような笑顔だった。みんな、はああ~、とほんのり桜色の頬になっていた。幸せ感が半端ではない。そうやって水鏡の夕食会は、お金では買えない宴会に化け、全員で三つの樽が空いてしまうまで飲んでしまった。しこたま飲んだ、と言える量だが、良い酒は酔うと言うより感覚が研ぎ澄まされるような感じである。でも酔ってはいるんだけど。瀬戸様ごちそうさまでしたと言って、みんな自分たちの船に帰っていく。僕も、水穂さんとふたりで支え合いながら一樹に帰った。今日は水穂さんも、ふらふらしている。ばふっとベッドに二人して子どもみたいに倒れ込んだ。

 「・・・幸せすぎて、今が夢だったりしたら、しばらく立ち直れません・・・。」

お酒で息が早い水穂さんが、こちらに身体を向けて、じっと僕の目を見る。

 「それじゃ、夢じゃないか、確かめましょ!」

あーあ、やっぱりいつものこと、なのね。本当に嬉し恥ずかしな時間が過ぎていく。明日には、樹雷に到着しているだろう。今度ばかりは、これだけの皇家の船を襲う海賊も居ないだろうし・・・・・・。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。