天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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なんだか、いろんな人に心配してもらっています(^^;;。




広がる樹雷11

「身内を殺されかけたんだ、怒りもするさ・・・・・・。」

逆立つ赤い髪。静かに言う言葉が底知れぬ怖さを醸し出す。事態は、かなりむちゃくちゃな方向に行こうとしていた。哲学士を本気で怒らせてしまった。しかも伝説の・・・。

今度は、水穂さんの携帯端末が鳴動している。かけてきたのは、柾木アイリさんだった。目前に大きなディスプレイが出現する。

 「ああ、良かった元気そうね。大丈夫だとは思っていたけど。」

 「なんだかもの凄いことになって来つつあるんですけど・・・、とにかくアイリさん、ごめんなさい。」

 「あなたが謝ることは無いわ。しっかり水穂を守ってくれたのだもの。感謝してもしきれないわ。しっかし、それにしてもこいつら腹立つわね~~。」

うわ、こっちも怒っている。もしかして、GPもお怒り?

 「いま、守蛇怪がそっちに向かっているわ。銀河連盟からの正式な抗議文書を持ってね。西南君がうまく仲を取り持ってくれたら良いけれど、ね。」

にたりと、凶悪な爬虫類顔になって通信が切れた。もともと美しい人だけに凄惨とまで言える表情だった。

 「まあ、百歩譲って井の中の蛙だとしても、やって良いことと悪いことはあるだろう。それくらい痛い目しないとわからないのかねぇ。」

鷲羽ちゃんが、GBS以外の放送も切り替えながら見ている。GBSだけではなくて、他の局も特集して放送している。

 「あの、今日の大臣には、いちおう誓約書取ってますけど・・・。」

 「大臣の、だろ?日本のトップに立つ者の、それが必要だろうねぇ。まさかその大臣一人に責任を押しつけてオシマイとかじゃないだろうねぇ。衛星軌道からの狙撃だしねえ。」

くっくっく、と某アニメの大魔法使いでもそう言う笑顔は見せないだろうという表情・・・。

 「こんばんは~。」

からららと玄関を開ける音。鷲羽ちゃんの研究室で誰が来たのかがわかる。お、西南君じゃん。こないだのGPの制服を着ていた。続いて、天地君も帰ってきた。とにかく柾木家のリビングで作戦会議である。

 「瀬戸様の強硬手段にも驚いたけど、この国の偉い人も、また、下手を打ったね。じっちゃんが、今東京へことを納めに行っているよ。」

天地君があきれ顔で言っている。

 「遥照様まで動きますか・・・。何か申し訳ないような気がする。」

 「あなたは、身を守っただけですもの。どこにも謝ることはありませんわ。」

水穂さんはとりつく島も無い言い方だった。

 「このままだと、地球が野蛮人の星みたいなとらえ方をされそうでねぇ・・・。瀬戸様も振り上げた拳の落としどころが難しそうだし・・・。」

子どもが危険な遊びをして、一歩間違えば取り返しの出来ないことになるところだった、のなら教え諭すのも年長者の努めだろう。

 「とにかく、僕がこの銀河連盟の地球への抗議文書を持って行ってみます。表向きは、攻撃衛星のソフトウェア暴走による誤射で、何人かが、まあ責任を取ってもらうことにはなるでしょう。瀬戸様もそれで矛先を納めてくれれば、樹雷側も初期文明の惑星を本気で相手にするような小心者ではない、と懐の深いところを見せられる、ように持って行きたいです。」

 「遥照様もうまくその方向で動いてくれそうですし・・・。今度ばかりは、この地球のトップの人達もよく分かったことでしょう。」

若干冷たい言い方だが、ノイケさんも賛同してくれる。

 「う~ん、でもまだ決め手に欠けるような気もする・・・。そうだ、いちおう大臣のものだけど、誓約書も持って行く?あと、鷲羽ちゃんの怒りが収まらなかったら、調整したナノマシンで今後150年間死なない身体にして上げるとか。自殺も出来なくして、健康寿命は今まで通りとかさ・・・。老いさらばえながら寝たきりで過ごす70年間とか。」

そこまで言うと、さすがに鷲羽ちゃんが頭を掻きかき吹っ切れたような顔をする。

 「たまに、田本殿って怖いこと言うね。いいさ、今回は許して上げよう。次は無いけどね。しかし、これだけ銀河中に放送されてしまったら、地球のトップの評判は地に落ちたねぇ・・・。そのあたりも今は問題ないだろうが、将来に禍根を残すことになるだろうね。」

なるほど、数百年後恒星間航行技術が確立して、宇宙へ出るときに、か。

 「さあて、水穂さん、とりあえずどうしましょう。西南君について行っても火に油を注ぐことになりそうですし・・・。」

 「そうですわね・・・、西南君達が瀬戸様のところについて、頃合いを見て樹雷への帰還を促しましょう。振り上げた拳を納めてもらう、口実に出来るかも知れません。」

 それなら、一時間後に、水鏡の居る場所上空で、と西南君達と分かれる。水穂さんは、樹雷行きへの準備、僕は、一度自宅に帰って洗濯物を出して、下着とかを入れ替えとかないと・・・。そして、一時間後。一樹と樹沙羅儀、阿羅々樹、緑炎・赤炎・白炎の5隻で水鏡を迎えに行った。岡山県上空から堂々と大気圏内を航行し、第七聖衛艦隊に囲まれた水鏡の横に5隻を並べる。もちろん不可視フィールドは切っている。

 「瀬戸様、お迎えに上がりました。」

西南君が銀河連盟の書簡を持って現れ、全宇宙規模で恥ずべき行為だったことを知らしめ、その後、当事者である僕達が迎えに来たという作戦である。なんとか振り上げた拳を納めてもらいたいし、樹雷も本気で懲らしめる対象と言うにはあまりにも矮小だろう。籐吾さん、謙吾さん、あやめさん、茉莉さん、阿知花さんを従え、瀬戸様の足下に、全員で跪き、右手の拳を左手で包むように一礼する。

 「樹雷の宝玉たる瀬戸様には、そ、そのようなお顔は似合いませぬ。わたくしと水穂はこ、こ、このように無傷でございますれば、なにとぞお怒りを鎮めてくださいませ。」

見事に噛んだ風を装いながら、メモ用紙をポロッと落としてみる。慌ててそれを拾ってポケットに入れた。厳しい表情だった瀬戸様がふっと表情を緩めた。

 「ふふふ、もういいわ。田本殿の、下手な演技に免じて、この場は引き上げるとします。あなたがたも、自分たちがどういう立場になってしまったか、これから追々知ることになるでしょう・・・。」

平身低頭の各国元首の前から、そう言いながら瀬戸様は2歩ほど下がった。

 「・・・やっぱり、わかりました?」

ぷい、とそっぽを向く瀬戸様。ちょっとかわいらしい。僕はその前に立って、静かに話し始めた。

 「僕もちょっと言い過ぎましたが、これで良くお分かりになったでしょう。先ほどの様子は全銀河ネットで生中継されてしまいました・・・。日本の国家元首の方であれば、不平等条約の悲哀は身をもって知っているはずですよね。尊敬し合える対等な立場になるためには膨大な時間がかかると思います。一日も早く樹雷や銀河連盟に一目置かれる存在になることを願ってやみません。」

それを聞いた、瀬戸様はきびすを返し水鏡に帰っていく。いまだ厳しい表情の平田兼光さんと天木蘭さんもそれに続き、樹雷闘士や女官もそれに続く。僕達もそれに続き、それぞれの船に戻った。水鏡と第七聖衛艦隊を先頭に、我々の艦隊、そして守蛇怪は、地球圏、そして太陽系をあとにした。

 結果的には、遥照様のとりなしと、銀河連盟から地球への抗議が届いたことで、樹雷色が薄まり、大臣と官僚の一存ということで霞ヶ関の件は手打ち。攻撃衛星のレーザー発射は、パーツレベルの故障とそれによるCPUの暴走での誤射(にしては照準は合っていたけど)と言うことでなんとか納まったらしい。樹雷側は当事者の皇族が幸運にも無傷だったこと、初期文明の惑星でもあり、様々な思い違いも積み重なった結果であると言うこと、GBSや他局のテレビでも放送されてしまっていることで制裁は受けている、などで、これも今回は許すと。ただし、当初の要求項目である皇族2名の出国等は当然受け入れること。と表向きは納まった。瀬戸様は、かなりの額の制裁金を日本と、衛星兵器を発射した国からむしり取ったようだった。立木林檎様にちゃんと報告するんでしょう、たぶん。

 超空間ドライブに入って、しばらくすると瀬戸様から通信が入った。

 「久しぶりに、本気で怒ったらお腹がすいたわ。水鏡に操艦はリンクさせて、こちらへいらっしゃい。ご飯を食べましょう。」

ちょっと疲れたような瀬戸様の笑顔だった。怒ることはエネルギーを使うものである。僕もさすがに、疲労感がある。今日もいろいろあった。目を閉じ、一樹が見ている世界に視線を移す。超空間ドライブ中なので、さほど美しい光景ではないが、それよりも、水穂さんの操作で水鏡に操艦をリンクさせたとたん、樹が歌っていることに気がついた。水鏡がソロで歌い始めるとそれに呼応して一樹、阿羅々樹、樹沙羅儀、緑炎、赤炎、白炎が湧き上がるように声のようなものを発している。

 「何と美しい・・・。樹達が歌っているんですね・・・。」

足下にいた柚樹さんが姿を現し、ぴょんと膝に飛び乗る。

 「我も、樹であった頃は、このように歌えたものだが・・・。」

柚樹さんの話だと、皇家の樹が何本か集結し、協力して何かをなすときにこのように歌いながら情報のやりとりをするようである。

 「さあ、瀬戸様がお待ちかねですわ。あなた、水鏡に行きましょう。」

水鏡の亜空間固定された、陽光降り注ぐ丘の上に転送される。いつ来ても美しい。さわやかで、何かの果樹のような香りが乗った風がわずかに吹いている。こちらでございます、と水鏡の執事が案内してくれる。今日は、大きな樹を利用した邸宅に導かれた。中央大広間のようなところに、今回は、イスとテーブルではなく、高さは40cm程度のローテブルだった。必然的に床に座ることになる。すでに瀬戸様は座ってお茶を飲んでいた。西南君と四人の奥様、平田兼光さんに天木蘭さん、籐吾さんに謙吾さん、あやめさんに茉莉さん、阿知花さんも席に着いていた。ローテーブルに目を移すと、すでにたくさんの料理が並んでいた。大皿にたくさんのおにぎりもあるし、お味噌汁は大鍋でできあがっているし、お漬け物もたくさんある。ほかに刺身の盛り合わせや立派なローストビーフのような物もあった。

 「今回は、急ぎ田本殿に樹雷に来て欲しかったので、ちょっと強引な手を使ったのだけれど、まさか田本殿の命を危険にさらすことになるなんて・・・。ごめんなさいね。」

瀬戸様は珍しく意気消沈の様子だった。

 「お気遣い、ありがとうございます。もしかして、と予想していたとおりの展開でした。日本政府としては、ちょっと痛めつけて、樹雷との従順な橋渡し役か、スパイにでも使おうと思っていたんでしょうね・・・。なんかこう、想像力のあまりの貧困さと対応の稚拙さに、こちらも涙が出そうになりました。」

どよ~~んと言う空気が、水鏡の大広間に立ちこめている。

 「そうね・・・・・・。まあ、これで、田本殿も大手を振って樹雷に来ることが出来るというもの。うふふ、これから地球に帰るまでの二日間寝てる間は無いかもよ。」

にっひっひ、と爬虫類顔の瀬戸様だった。

 「ぐええ、お手柔らかに~。」

 「さあ、それじゃあ、みんなで頂きましょう!。」

いただきま~っす。と美しい塗り箸を手にとって、おにぎりやら、取り皿やら、お味噌汁のお椀やらに手を伸ばしている。ああなんだか嬉しいな、暖かいな、と思う。ほこほことした心持ちに、ニコニコとみんなを見ていると、涙がつ~っとこぼれた。

 「どうなさったの、あなた。」

水穂さんが心配そうな顔でこちらを見ていた。

 「いや、なんでもないです。こんなにみんなが大事に思ってくれてありがたいなぁ、と。」

小さな取り皿に料理を取ってもらって、一生懸命食べていた福ちゃんがとことことこと僕のところまで歩いてきて、あぐらをかいて座っている膝に乗ってきた。手を出すとスリスリと顔を擦りつけてきて、ぴょんと腕を伝って、肩に乗って顔を舐めてくれる。

 「みゃあう・・・。」

 「あはは、福ちゃんくすぐったいよ。ありがとう・・・。え、この間はありがとうって?いえいえ、どういたしまして。これから、いろいろ教えてね。」

頭を撫でると、ぺろりとその手を舐めて、安心したように、またお皿のところに戻っていった。

 「西南様、ぼ~っとしてると福ちゃん、田本様に取られちゃいますよ。」

ブルーブラックと言って良いようなウェーブのかかった長い髪の女性がちょっとあきれ顔でこちらを見ていた。リョーコさんって言ったっけ。

 「う~ん、それは困るなぁ・・・。でも、福、最近、機嫌が良いんですよね。」

あははは、とどこからともなく明るい声が上がる。

 「あなた、置いて行っちゃイヤよ。」

グッと身体を預けてくる水穂さん。反対側には竜木籐吾さん、謙吾さん。そのまた左右にあやめさんに、茉莉さんに阿知花さんが移動してきている。


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