天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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さて、日本の中心と対決?です。




※ボーイズラブ表現があります。嫌いな人は読まないでくださいね。


広がる樹雷9

「ううう、なんだかごめんね~~。」

そう言うと、どっと笑いが出る。そうやって、東京(?)の夜は更けていった。今度の日亜様はいじられキャラなのね~~とか言われながら。壁ドン良いなぁとか思っていたけど、あれだけの人数に一度にされると、怖いのだ凄く。結局、僕はいろいろいじられながら、12時過ぎまでみんなと飲んで、一旦そこでお開きになった。みんな船に帰って、所定位置で待機してくれるという。

 今日は樹沙羅儀と話してくると言って、謙吾さんの船に行かせてもらったんだけど。謙吾さんらしく、あまり大きな機体ではなく、樹雷の戦艦としては比較的小柄らしい。他のものに比べて金属外装も多め。形でうまく被弾を防ぐと言わんばかりの、曲線が多用された美しい艦だった。その代わり武器・兵装は満艦飾。その気なら、ハリネズミ状態で敵を迎え撃てるようである。転送された場所は、ブリッジだった。

 「もしかして、戦艦並みの火力で駆逐艦並みの機動性と思って良いのかな。」

我が意を得たりと言わんばかりの立木謙吾さんだった。

 「わたしの樹は第3世代です。どうしても力は世代が上の樹に劣ります。ならば、軽く小さく作るべきだと思ったんですよ。」

先の大戦で活躍した、日本の戦闘機の設計思想と似ている。

 「ほほお。もしかして、補機とか積んでる?。」

 「ええ、もちろん。今実験中ですが、縮退炉に波動理論を応用したものです。ゆくゆくは皇家の樹とのエネルギー融合を考えています。一昨日はちょうど鷲羽様に、いろいろ教えを請うておりました。」

肩組んで、二人で例のマッドサイエンティスト笑いをする。足下で柚樹さんが、2mほど引いてジト目でこっちを見ている。

 「いいじゃん、柚樹さん、そんなに引かんでも。」

はい、今日はいぢめられてちょっと酔ってます。

 「今度一樹と、本当に我らの選択は正しかったのか、ちゃんと議論しようと思っておってな・・・。」

柚樹さんの片方だけヒゲがひくひくしている。二本の尾は床を掃くように動いていた。

 「くすん、一樹と柚樹さんがいないと、超銀河団を見に行けないじゃん・・・。」

樹沙羅儀の隅っこに行っていじけてみる。

 「ま、亜空間生命体の片割れが、おるから腐れ縁ぢゃの。」

背中にスリスリしている柚樹さんを捕まえて、ぎゅっと抱きしめた。そのまま、ひょいと視線が上に上がる。ベルトのところを持たれて、荷物か、大型のペットよろしく謙吾さんに運ばれていた。

 「はいはい、樹沙羅儀はこっちですよ!。」

 「み~み~。」

 「ほんとに・・・、かわいく言ったつもりでしょうが、大型の獣みたいな人なんだから・・・。みんなに言われてるでしょう?勝手にどっか行かないでくださいって。首輪付けちゃいますよ。」

 僕の体重と柚樹の重さをまったく感じさせず、すたすたと歩く立木謙吾さんだった。樹雷の闘士というのはさすがに凄い。程なく転送ポートに着き、樹沙羅儀のコアユニットに到着する。大きくもなく小さくもない樹があった。七色の神経光が乱舞している。その一本が僕の眉間に当たる。

 「この間は、力を分けて頂いてありがとうございます。」

ちょっと、たどたどしい言葉で、ううん、だいじょうぶ。と帰ってくる。世代を重ねた樹は、柚樹や一樹と比べると意思というものが希薄に感じる。あ、でも惑星規模艦のときにリフレクター光應翼にも分けてもらっているんだった。

 「ねえ、謙吾さん、こないだから惑星規模艦と、その後、籐吾さんの時にも力を分けてもらったけど、樹沙羅儀に負担はかかっていないかな?」

 「そうですね~。特に弱った感じはしません。たぶん、その樹なりにできるだけ、と言う形で分け与えてくれたのではないでしょうか。」

ならいいんだけれど。無理はしないでね、とお願いした。ふわり柔らかく暖かい波動のようなものを感じた。やはり樹はかわいらしい・・・。

 「謙吾さんに似た、賢くて優しい樹だね。」

一瞬火でも付いたかと思うように、真っ赤になる謙吾さん。

 「そう言えば、謙吾さんは、武術は何が得意なんですか?」

 「俺、あんまり武術系は、そんなに得意というのではないんですけど、体術と棒術なら、まあそれなりかな。」

まあ、それなりと言っても、身体は嘘をつかない。強靱でしなやかな筋肉に全身包まれている。細身で無駄な筋肉はないような印象・・・。

 「籐吾さんといい、謙吾さんといい、ふたりともイケメンなのに・・・。僕は嬉しいけどさ・・・。こんなややこしいおっさんに付いてこなくても・・・。」

 「それは言いっこなしです。俺も籐吾さんも、自分の意思でここにいます。」

そう言いながら、口を唇でふさがれる。涼しげなうなじと、広い肩幅。厚い肩から胸背中の筋肉。美しい・・・・・・。

 樹沙羅儀から一樹に転送され帰ってきたのは、午前1時前・・・。水穂さん怒って寝てるんだろうなぁ・・・。と寝室をそっと開け、ベッドで寝ている水穂さんの横に潜り込んだ。

 「・・・悔しいの。でも、わたしは・・・あなたが、わたしの元に返ってきてくれると信じています。」

 「ごめんなさい、水穂さん。なんか、いろいろ申し訳ない。」

熱く湿った身体が愛おしい。静かな東京の夜は、さらに更けていった。

 

 

 明けて、金曜日、結構早く目が覚める。ざっとシャワーを浴びて、元のホテルの部屋に一樹に転送してもらった。入り口のトラップを解除して、部屋から出る。もちろん、泊まったような顔をして。実は、ホテルの朝ご飯というのが、僕は好きだったりするのだ。前日に一階のレストランで朝食バイキングがあることを確認していてチケットも購入してあった。。一樹の邸宅でのご飯の方が美味しいだろうが、それはそれ、せっかく出てきているのだし、と。

 「またごめんなさいだけど、朝食付き合わせてしまって。一樹の方が落ち着いたかもしれませんね。」

 「あら、気にしていませんわ。こう言うのも、なんだか楽しいですわ。」

そう言って、お盆の上にお皿を置いて、皿に盛られたおかずやら、パンやら、味噌汁とか、取っている。最後に、スイーツにも手を出すのが女性らしいなとか思ったりする。静かに弦楽四重奏曲あたりが流れているけれども、ホテルのレストラン、朝にしては雰囲気が微妙に固い。ほおお、とあっちこっちで声まで上がっている。なるほど、水穂さんだな。自分も当事者でなかったら、何度も見直した末に、失礼を承知でじっと見つめていたかも知れない。控えめに言っても、かなりの美人であろう。女優と言っても誰も疑わないかもわからない。しかも、順路で歩いて料理を取っているのに、その皿は、今まさに運ばれようとしている、フランス料理のごとく盛りつけられている。こういう、気遣いというか所作動作が皇族だよなぁ、と感心して、自分のを見てがっくりきたりする。

 「美女と野獣?美女と豚さんよねぇ・・・。周りから見ると・・・。」

ぼそっと言ってみたりする。

 「ほら、堂々としていなさいって。昨日、謙吾さんに懇々と言われたでしょう。」

そりゃそうですけどね~。

 「水穂さん、皇族オーラ、バリバリだし。カッコいいし綺麗だし・・・。」

 「何にも出ませんわよ。早く食べて、早めに行きましょう。」

結構愛想がない。でもちょっと頬が赤い。こんな顔、僕のためだけにしてくれているのかな・・・。まあ、でもそう思い込むことにする。幸せは、気付かないところに潜んでいて、気がつくと泡のように消えてなくなり、なくなって始めてそれが幸せだったと気がつく・・・。誰かが言っていたことを思い出した。40分ほど、そのレストランにいて、部屋に帰る。何となくテレビでニュースとか見て、午前9時前に荷物を持ってホテルをチェックアウト。ゆっくり歩いて総務省に到着した。受付で、昨日町長からもらった、本日10時に総務課に来て欲しい旨の書類を見せ、アポイントメントを取ってもらう。ほどなく総務課職員を名乗る男性がロビーに来た。急なお呼び立てで申し訳ありません、それではこちらへ、と総務課へ通される。

 「大臣からのトップダウンの通達なので、正直、私たちも驚いています。それでは先に旅費等の精算手続きをお願いします。」

 総務課職員は、ネクタイを締め、眼鏡の中肉中背。特にこれと言って目立つところのない人だった。動作も、特に印象に残るところはない。ワイシャツや、スラックスはさすがにそれなりに上等なものだった。歩き方が、少し足を引きずる感じがある。この人は腰が悪いのかも知れない。こちらでございます、と総務課の別室に通され、お茶が出て、書類を書くよう促された。冷たい麦茶のようだった。そんなに華美でもなく、静かな別室である。その職員が言うように押印したり、領収書を出したりしているうちに9時半を回った時間になった。書類も特に契約書の類いはなく、誓約書もなかった。隣を見ると、水穂さんは目を伏せがちにじっと座っていた。また、それはそれでとても美しい・・・。

 「それでは、帰りの運賃等の領収書は、別途、昨日お話ししました推薦状といっしょにこちらに送ってください。」

ここまでの書類は旅費関連のものばかりだった。不思議に思ったので、聞いてみる。

 「ええっと、役場に来ていた書類では、一度雇用し直して云々とあったんですけど、その類いの書類はないんでしょうか?」

 「それなんですが、大臣が直々にお話ししたいと申しております。午前10時からと言うことで、もう、しばらくここでお待ちください。」

記入した書類を持って、その職員は退出していった。お茶ねえ・・・。

 「水穂さん、これ・・・。」

 「ええ、そうですわね。」

 「柚樹さん、付いてきてる?このお茶、変な成分は・・・。」

 「うむ、地球で言うところの、睡眠導入剤が含まれておるの。まあ、飲んだところで、お前さんも、水穂殿もナノマシンが数秒で分解するだろうな。」

足下から柚樹さんの声が聞こえる。ふうん、なるほど。何らかの意図があると。向こうの出方を見たい。ええい、暑いので飲んじゃえ!。ガラスコップの周りに汗をかいている麦茶を一気に飲み干す。こんなところに来たこともない、田舎の役場職員を演じよう。水穂さんも、左手でコップを持って、右手をコップの底に添えて楚々と飲んでいる。あ、これ、ペットボトルの麦茶だ。コンビニで普通に売っているあれだな。今時、煮出したものを冷やしたりしないか。

 そのお茶を飲んだのを見ていたかのように、ノックの音がして、扉が開き、水穂さんに勝るとも劣らない美人女性が部屋に入ってくる。手に書類ケースを持っていた。ふうん、歩き方が普通の人と違う。しかも前後左右に視線をやり、間断なく周囲の状況を把握している。ノイケさんの歩き方と似ているな。と言うことは、自衛隊関係者だろうな。着ているものは、仕立ての良さそうなブルーグレーのレディススーツ。そして、低めのヒール。足首とふくらはぎが締まっている。髪は短くしていてショートヘアよりも短く見える。あまり詳しくないけど。

 「お待たせしました。大臣がお待ちですわ。」

 


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