天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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お酒と言えば、阿重霞さん(謎)。

酔った女性って、綺麗だと思いますね(自爆)。


始まりの章10

小さなお盆に、燗の通ったお酒が入ったとっくりを3本のせ、食卓の話が弾んでいるところに、一本ずつ投下した。自分の席に戻って、コップ酒に口を付けると、これがまた美味しい。結構岡山の地酒には詳しいのだけれども、ちょっと違う味わいである。大手酒造メーカーのアルコール臭いたぐいの酒でもない。美味しかったので、ぐ~~っと半分くらいまで開けた。胃の中がふわっと暖かくなるのが心地良い。

 「天地君、これどこのお酒?。」

 「え~~っと。」

ふと鷲羽ちゃんの方を見て、目配せし合い、

 「な・い・しょ(はあと。)」

 くっっ、ちょっと悔しいけど、内緒なのかぁ。小さな酒蔵だと、近くの大事に売ってくれる酒屋しか卸さなかったりするし。その中でも良いものだと知り合いにしか出さなかったりもする。

 「そういえば、西南殿、今回霧恋殿たちは?。」

鷲羽ちゃんが思い出したように尋ねる。

 「ええ、一件片付いた案件があったんで、休暇をいただいてうちに4人とも帰ってきています。さっき緊急だったので。声かけずに出てきました。あとの人たちは・・・。」

すっと、手を上げて言葉を制する鷲羽ちゃん。

 「ここの家も複雑さ~ね。」

 「そ、そうですね。」

 へええ、仕事柄、聞いてはいけないことに聞き耳たてる愚かさは知っているつもり。何となく結構な大人数で暮らしてらっしゃるんだなぁと思うだけ。ああ、西南君のお茶がなくなっている。砂沙美ちゃんの近くに行って、冷蔵庫を開けても良いかと聞いてみる。

 「あ、ごめんなさい田本さん。砂沙美取ってくるね。」

う、さっきからくるくるよく働いてて、自分が動けるならと思ったけど・・・。

 「そうだ、霧恋殿だけでも呼んだら?偏りも多少修正出来るし、何より保護者だし。」

 「もう、鷲羽さん、保護者はやめてください。でも、うちのスーパー手伝ってくれてるし・・・。ちょっと聞いてみます。」

スッと取り出すスマホのような個人端末。ひらっと手を払うような仕草と、「霧恋さんへ」と言う低い声で耳に当てて話し始める。お、ジェスチャーコントロールと音声認識かぁ。いいなぁ。

 「ちょうど、お店が終わってお風呂入ったところで、すぐ出られますって。」

 「ほぉ、霧恋ちゃんも来るのかのぉ。さっきの地鎮祭でおうただけで、話をするのはかれこれ5年ぶりかのぉ。」

柾木勝仁さんも会うのは久しぶりらしい。

 「例の方の計画で、仕込みが長かったですし、さらにその前は、ちょっと遠いところまで行ってましたから。」

 「ああ、なるほど。わしも、久しぶりに里帰り出来たんじゃった。」

ピンポーンと鳴るドアホン。ノイケさんが出て行く。ちょっと早くない?

 「皆さん、こんばんは、いつもお世話になっております。」

カラカラと開けた引き戸から登場は、黒髪も美しい日本女性。深々とお辞儀すると、さらさらと髪が水のように流れ下る。

 「こんばんは。初めまして。田本一樹と申します。近くの役場福祉課に勤務しています。どうぞよろしくお願いします。」

なんだかこう、学校の先生が来たような感じがして、反射的に立ち上がってしまった。

 「あ、さっきの方ですね・・・。これからもよろしくお願いします。・・・、あ、もう西南ちゃんダメじゃない・・・。」

と勝手知ったる他人の家状態で、台所へスッと走り台拭きを持って西南君の横に座る。西南君は、ちょうど、お茶のコップを倒したところだった。

 「霧恋さん、ありがとうございます。」

あぐらをかいて座っている西南君の膝をポンポンとお茶を吸い取るように優しく拭く霧恋さん。目と目が合って・・・。なるほど、そういうことか(笑)。こういうときに、自分も変わっているなぁと思うのは、人が幸せそうだと、一緒になってうれしくなって、いつもうらやましいとか思わないこと。甲斐性のある男だと、俺も結婚してあんな幸せな家庭を、とか思うんだろうけど、自分の場合そういう想いは希薄だったりする。

 何となく微笑ましくて、コップ持ってにこにこしていると、

 「あら、ダメじゃありませんか、杯が空ではありませんか。」

とっくりから手酌していた阿重霞さんが、すすす、と音もなく傍らに座ってお酒をコップに注いでくれる。ふわっと香る香木のような香りが酔いの気持ちよさを助長する。和服に似た着物で、帯の様子からもかなりグラマラスな体型であることがわかる。

 「あ、申し訳ありません。あんまりにもお幸せそうで。」

 「そうですわねぇ。紆余曲折ありましたわね。」

おお、今度は二人して真っ赤に。

 「ねえ、霧恋、今度はいつまでいられるの?。」

ノイケさんナイスフォロー。呼び捨てだからお友達なんだ。

 「そうねえ、何もなければ来週いっぱいはお休みをいただいているわ。出来れば棟上げくらいまで見ていきたいんだけれど。」

 「そう。それじゃ、はいこれ。」

ポンと手渡すコップ。とくとくとく、とお酒が注がれる。

 「じゃあ、三人で小さくかんぱ~~い。」

あ~~ずるいぞ~~、ノイケぇ~と魎呼さん赤ら顔でさらに注ぐ。鷲羽ちゃん、柾木勝仁さんとお話中。天地君も黙って飲みながらにこにことしている。砂沙美ちゃん何となくうれしそうに天地君の横にいる。

 「阿重霞さんもお酒がないじゃありませんか。コップいただいてきましょうか?。」

 「まずは、あなたのコップを空けてくださいな。」

 目が据わっている(笑)。ほほぉ、やるじゃんおねーさん。おらと勝負するつもり?。おっさん、こう見えてもお酒強いんだじぇ(爆)。つつっとコップ酒飲んでしまって、飲み口をティッシュで拭き取り、差し出す。阿重霞さん両手で受け取る。

 とくとくとく。

左手でコップをつかみ右手をコップの底に添えて、つつ~~っと飲み干してしまう。

 「お、お姉ちゃん・・・。飲み過ぎだよぉ。」

 懐から取り出した和紙のようなもので、ついっと飲み口を拭き取り、こっちへ差し出す。拭き取った紙に口紅が乗り、コップにわずかに口紅が残る。うわ、ちょっと色っぽい。

 とくとくとく。

こちらもさすがに一口では飲めないが、二口、三口くらいで飲み干す。か~~、美味い。

また拭き取って、阿重霞さんに手渡す。

 とくとくとく。

また左手で持って右手を底に添えて、するすると飲む。あれ、両目からはらはらと涙がほおを伝ってる・・・。

 「う、う、この地に着いて、はや15年。探し続けたお兄様にはお会い出来ましたけれど、私が眠っている間にもう何人も妻を娶っていらしたなんて・・・。それにそれに、天地様も未だにはっきりしてくださらないわ・・・。ああ私はどうしたら・・・。」

コップをテーブルにコトンと置き、左手を畳について右手で着物の裾をたぐって、よよよ、と泣き崩れている。

 ふと天地君が横にいないのに気づき、見回すと砂沙美ちゃんと安全地帯に避難している。

がんばってね~~みたいに二人してひらひらと手を振っている。

 さ~て、どないしよう?古風な美人が泣き崩れている図、というのもなかなか見られるものではない。カラオケボックスのド演歌ビデオの1シーンのようである。黙ってしばらく見ていることにした(笑)。

 「もお、うら若き乙女が泣き崩れているって言うのに、無言で見ているなんてひどいですわっっ」

あ、今度は怒った。又コップをつかんで差し出す。はいはいお酒飲みましょう、お酒。一升瓶を右手で持って、また、

 とくとくとく。

 今度は少し口を付けて、どん、と傍らのテーブルに置く。

 「わたくし、本当に苦労してこの地にやってきましたの。恐ろしい目に遭ったことも一度や二度ではありませんわ。そして長い眠りから覚めたときに、天地様のお顔を間近でみてしまって、この方しかいない!そう思っておりますのに・・・。」

ちら、と柾木天地君の方を見て、

 「ああ、それなのに、天地様は、天地様はぁ~~~・・・。」

僕の膝に突っ伏して、泣き崩れる美人のおねーさん。あらら、この人泣き上戸?。

どーしましょう??と周りを見ると、何となく見て見ぬふり状態。この人いつものことなのよね~~、みたいな雰囲気。気がつくと、すーすー寝息を立てて寝てらっしゃる。

 「天地君、どうしようか??。」

右手で下向き矢印作って、手信号(笑)。それに気づいたノイケさんが苦笑しながら、

 「お二階にお部屋があるのですが・・・。」

 「わかりました。」

よっと、お姫様だっこして、膝をたてて入れて、足の力を使って立ち上がる。ちょっとふらつくけど米二袋よりは軽い。兼業農家な田舎のおっさんは結構強いのだ。

 ノイケさんの歩くとおりについていき、自室と言われた部屋についてベッドに寝かせた。

 「どうもすみません。阿重霞様、飲み過ぎてしまったようですわ。」

ささっとベッドメイクを済ませ、上布団をかぶせる。ホントこの人ただ者ではない。

 

 


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